わが逃走[120]野郎3人カメラ旅の巻 その2の2/齋藤 浩

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片岡氏、マニュエル君、そしてオレの3人で歩いた昨年11月の尾道カメラ旅はとても充実した素晴らしい時間であったが、帰って現像してみたらマニュエルにだけ真っ白のネガが届いたという悲劇的な結末を迎えていた。

災いのもととなった彼のニコンFもオーバーホールから戻り、いざリベンジ! ってことで師走の尾道に再び降り立った野郎3人。

初日の撮影も盛り上がり、いよいよ二日目に突入したのであった。
※第116回『野郎3人カメラ旅の巻』、
 第119回『野郎3人カメラ旅の巻 その2』参照のこと
< http://bn.dgcr.com/archives/20121129140300.html >
< http://bn.dgcr.com/archives/20130207140300.html >

その日も見事に晴れた。荷物をホテルのフロントに預け、瀬戸内の光を浴びつつ出発だ。岸壁から見える向島の浮きドックがシルエットとなって美しい。
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一同、クレーンをカメラに収めたところで、今回はまず町の西側にある西願寺をめざした。尾道といえば坂の町だが、海に近いあたりは平坦な町並みが続く。しかし、それが平凡な風景かといえばさにあらず。

おそらく戦前のものと思われるコンクリート建築や、煉瓦づくりの倉庫などが点在する、なんとも散歩しがいのある地域だ。屋根付きの駐車場があったのでちょっとのぞいてみた。ナイスな骨格!
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芸術的ともいえる『瀬戸内』の文字。いとあはれなり。パソコンに向かってフォントをいじってもこうはならない。
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横断歩道も妙にドラマチック。
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錆びた看板やらアスファルトに落ちる電線の影やら、そんなモノばかりきゃっきゃと撮り歩く、およそ観光客らしからぬ行動をとる3人。

川に沿ってあるき、ひょいと路地に入ると一気に上り坂だ。ひと山越えて、つぎの山のてっぺんを目指す。途中でみつけた土蔵。赤塚不二夫先生の描くイヤミに見えるのはオレだけか。
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西願寺からの眺め。前の日に歩いた路地は、あの山の、その奥の山だ。
「うわー、昨日はあんな遠くを歩いたんですネー」
マニュエルが感慨深げに言う。
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思うに、尾道の観光コースといえば寺社めぐりが定番だが、やはり神髄は道程にあり! だなあ。西願寺をめざして歩いたにもかかわらず、寺の写真を一枚も撮ってなかったことに気づくオレなのであった。

さて、こんどは違う道を通って駅前〜千光寺方面へと向かう。

ゆっくり歩いていると、ちょっとした板塀とか街灯の土台とか、なんでもないモノ達がここぞとばかりに主張してくる。

おお、なんとセクシィな節穴! そしてこのコンクリートの力強いマッス! といった具合に、それらがホントに芸術に見えてくるのだ。というか、実際ホントに美しいと思うんだよね。

なので、その『詠み人知らずの造形』の美しさを伝えるためにも、オレはいい写真を撮らねばならん。毎度のことながら使命感に駆り立てられるぜ。

と、思ってるのはふたりも同様らしく、カメラを構えつつ石垣から伸びた配水管やら、空き地に転がったブリキのバケツなんかを、真剣なまなざしで見つめている。

が、それにしても遅い。ふたりはさっきからずーっとバケツの前から動かない。そんなにそのバケツがイイのか。そこまでか??

オレは案内役とはいえ、世話役じゃないので先に行ってるぜ。と、細い道をうねうねと登ってゆく。そして振り向くと、まあ見事な3次曲面を描く路面であることよ!
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そっと路面をなでてみる。うん、曲面だ。ハァ〜。美しいなあ。地元の人にしてみれば日常の風景の一部にすぎない狭い道、その表面を眺めて微動だにしないオレ。ふと我に帰る。まあ似た者同士か。

彼らはまだ来ない。なのでまたちょっと登ってみる。すると、なんとも美しくカットされた地形。これって最初は山だったところを巨大なナイフで切り取ったのかな。

この地形が正だとして、負の形を想像してみる。うーん、イイなあ。こんど粘土で模型を作ってみよう。
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そうこうしているとふたりがやっと追いついてきた。どうやら良い写真が撮れたらしい。満面の笑みである。

急な坂道を下って、ちょっとコワイ橋を渡ると、
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区画整理されたっぽい区域に出た。地形と人々の暮らしとの結果生まれた、迷路のような場所をさまよっていたせいか、まっすぐの道が直角に交わる景色がとても不自然に見えてくる。きっとここも昔は迷路だったのだろうけど、今ではその姿を想像するこはできない。

町並みは財産だ。前にも語ったと思うが、おじいちゃんと孫が同じ土地に住んでいながら、同じ風景を共有できないことがどれほどの損失を生むか気づいてほしいと思う。どうか、目先の利益だけに惑わされない、広い視野をもった町づくりをお願いします。

さて、レンズを変えて気持ちをリセット。商店街から山の手の路地を切り取る。墨絵のような瓦と壁。
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階段には手すりの影。
南側の斜面は楽しいグラフィックパターンの宝庫だ。
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水平・垂直・45度!
画角が狭いと抽象画がたくさん生まれる。
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というところで腹がへってきた。4時間近く坂道を歩きっぱなしだし、当然か。昼食は商店街にある寿司屋のランチにしてみた。初めて入ったのだが、スゲー旨かった。にぎりはもちろん、箱寿司系のモノが繊細かつ華やかな味わいで、にもかかわらず気取ってない。

オレごときがエラそうに語ってしまい申し訳ないが、こんど来るときもランチはここにして、さらに折り詰めを作ってもらって帰りの新幹線で食べるのだ! もう決めたぞ。店の名前は忘れちゃったけど。

さて、気がつけば2時をまわっていた。山の手が暖色系に染まり、きりりとした表情がやわらかくなる。

5時前には尾道を発たねばならんので、ちょいと先を急ぐかね。ということで我々はそのままロープウェイ乗り場へ直行、千光寺展望台から尾道水道を臨む。寒い。

だが! 前回も良かったけど、今日はまた最高の眺めだ! しかし寒い。日向とはいえ12月だしな。でも見事な見晴らしゆえ許す!

向島の先の先の先の先の先の先までくっきり見える。嗚呼、瀬戸内海。海の幸旨かったな。
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隣を見ると、マニュエルがソフトクリーム食ってる! 君、この寒いのによくそんなモノ食べられるね。

「前回も良かったけど、今回もまた素晴らしかったね。次回は一週間くらい滞在したいなあ」
「こんど日本に来るときも、尾道には必ず帰ってきマス!」
ふたりともそこまで気に入ってくれたか、嬉しいぜ。

ゆっくりと沈んでいく陽の光をあびて、屋根瓦も土塀も、我々の顔もバキバキのコントラストだ。時折シャッターを切りつつ、細い階段道をとぼとぼと名残惜しげに歩く野郎3人。

「そうだ! 記念写真撮りましょうヨ」

マニュエルの提案により、初めて観光客らしい行動に出た。しかし、バックはあえて石垣。この写真の右側に尾道の大パノラマが広がっていたなーと思い出しつつ、今回のご報告は以上。
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【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。