データ・デザインの地平[27]ITエンジニアが介護に直面するとき/薬師寺 聖

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今回は、筆者が突発性難聴の再発のためにPCに集中して向かうことができないので、抽象的な話ではなく、生活上の具体的な問題について取り上げます。

●誰にでも可能性のある介護離職

昨今、介護離職が問題になりつつあります。親と同居しているシングルがそのまま介護を担って離職するケースもあれば、仕事に生きがいを見出している人が親の介護認定をきっかけに帰省するケースもあるでしょう。少子高齢化により、いまや介護は、多くの人が直面する問題です。

健康と病気、生と死はグラデーションのように連続しています。健康か要介護か、生きているか亡くなっているか、といった二つの状態を、きっちり線引きできるものではありません。

突発的な病気や事故で寝たきりになるのでない限り、持病から要看護状態になり、要支援、要介護のように遷移していきます。

いまは若くて健康な人も、年を重ねれば、遅かれ早かれ、要看護状態から要介護状態になります。人によってその期間や支援の程度が異なるだけです。




●共倒れを防ぐポイントは、睡眠、収入、生きがい

介護を担うようになったとき、要介護者の症状の程度や期間によっては、介護休暇を利用できるでしょう。が、昨今では、病気や怪我を抱えていても、入院ではなく、在宅療養となることがままあります。要介護認定にいたらない、要看護や要支援の段階から、多くの時間を支援のために使う必要があります。そして、その状態は何年続くか分かりません。

少々の介護休暇や在宅勤務制度では、焼け石に水です。離職してフリーエンジニアとして働きながら介護をする人も、ますます増えていくでしょう。

どのような選択をするにしても、重要なのは、自分の人生と親孝行のバランスです。いずれか一方に偏ってしまっては、共倒れになりかねません。常にバランスを考えながら、次の三つの問題をクリアする必要があります。

(1)睡眠時間の確保

最大の問題は「睡眠時間の確保」です。

介護を始めると、想像以上に忙しくなります。まず、介護認定が要支援以上になると、いろいろな事務手続きが生じます。

年に数回、介護認定の再確認や、ケアプランの検討、ホームヘルプサービス会社との契約などの事務手続きが行われます。保証人の理解と署名と捺印が必要なので、仕事を中断して対応する必要があります。

介護作業をラクにするために電化製品を導入して要介護者に操作を教えたり、官公庁からの文書を読んで説明したりといった、生活上のこまごました支援も必要になります。

遠距離介護では、要介護者からの度重なる電話への対応も必要です。高齢者は、淋しさと不安から、心配ごとや体調不良を並べる電話を、しばしばかけてくるものです。

急な病状悪化、突然の入院も考えられます。微小脳梗塞、白内障手術、転倒骨折などによる入院準備と付き添いは、まず間違いなく必要になります。高齢者は、複数の病院に通っていることがあるので、入院した場合は、別の病院でもらっている常備薬の受け取りなども必要になります。

その上に、療養食の調理や配膳、排せつや入浴の介助、見守りといった実作業が、介護の程度によって必要になります。

家事、育児、育夫(!?)を担っている人の場合、その上に介護が追加されるのですから、一日24時間では足りません。睡眠時間を削りがちになって当然です。が、それはやってはいけないことです。削るなら、健康な家族に協力を訴え、家事の手間を減らして、睡眠時間を確保すべきです(なかなかむずかしいことですが)。

睡眠が不足すると、免疫力が低下して病気になりやすくなりますし、事故のリスクも高まります。ショート・スリープが頻繁になると、外出時や入浴時に一瞬眠ることが増えてしまい、非常に危険です(そのような状態で車の運転をしてはいけません)。

また、質の良い睡眠がとれていなければ、思考がまとまらなくなり、悲観的になりやすいものです。歌手の清水由貴子さんの自殺は記憶に新しいところですが、彼女を追い詰めたものは、睡眠の質ではなかったのかと筆者は推測します。

しばしば介護者による虐待事件をmsnニュースで知りますが、最初に虐待されているのは、要介護者ではなく介護者のほうではないでしょうか。あまりにも早く少子高齢化が進んだために構築が追い付いていない介護システムが、介護者に対して、睡眠妨害という虐待をしているのではないでしょうか。

介護を通しての成長や、親子の絆の再確認といった美談は、あてはまる家庭もあれば、あてはまらない家庭もあります。それは、すべてのケースにおいて在宅介護を正当化するための口実のように思われます。

虐待を断ち切るには、一対一の介護ではなく、我が国の技術の粋を結集して、複数の要介護者を一台で世話するロボットを開発し、そのロボットを一人の職員が制御する方法しかありません。

とくに夜間の作業は完全自動化して、介護者の睡眠を確保する必要があります(そうしなければ、この国の人間は、介護者か要介護者のいずれかに分類されるようになり、介護者が睡眠不足に倒れた暁には、労働人口が激減してしまいかねません)。

介護ロボットはヒトの動きを真似るタイプでなくてもよいのです。排せつ介助にしても、介護者をお手洗いに運ぶのではなく、お手洗いの方が療養ベッドに近づいてきて、処理後、自走式でお手洗いに戻って処理するというものでもよいのです。新しい視点のロボットが必要です。

(2)定収入の確保

介護が長期におよぶということは、それだけ家族が長生きしてくれるということですから、うれしいことでしょう。が、勤務先にとっては、介護の長期化は望ましいことではないでしょう。企業側に利用しやすい制度がなければ、離職せざるをえなくなります。

離職後、当座の生活費は、介護者の退職金と、要介護者の年金と、貯金の切り崩しで賄うことができるかもしれません。しかし、資産家でない限り、それだけでは心もとないと思います。介護に専念して、いっさいの仕事をやめることを、筆者はお勧めしません。

要介護状態では、支出が増えます。介護用品や医療用品が必要になります。バリアフリーへの住宅改築費用も必要になるかもしれません。また、介護度が進んでホーム入居を検討する場合、年金だけでは不足する場合がままあります。安価なホームは順番待ちですが、費用のかかるホームにはしばしば空きがあるのです。

離職に際しては、自分と親の資産や、毎月の生活費を細かく調べ、Excelで試算して将来設計を行い、離陸(新しい仕事で収入を得られるようになること)の時期を決めておくべきです。

試算時には、交通費、介護用品(車いす、療養ベッド、杖など)、ヘルパー代なども調べて検討材料とします。各市町村で補助される用具や、おむつなどのように控除対象になる介護用品や医療品もありますから、市町村やメーカーのWebサイトを調べて、できるだけ出費を抑えるように工夫しましょう。

現在の日本では、賃貸物件を借りるなど多くの局面で、まとまった額の貯金があるよりも、少なくても定収入のある方が世の中を渡っていきやすいと思います。また、仕事が好きで、それがストレス解消になる人は、細々とでも仕事を続けられる方法を、ケアマネージャーに相談して検討すべきです。

(3)生きがいの持続

ストレスを軽減するには、なにかひとつ生きがいになるものを持っておくことが大切です。それはライフワークと呼べるような大それたものでなくても、たとえば、フィギュア収集のような趣味であってもよいのです。

なにしろ、介護にもっとも適していないのは、ITエンジニアでしょうから、生きがいになるものがなければ、潰れてしまいます。

というのも、日進月歩の世界で働くエンジニアの時間の流れと、年金生活の高齢者の時間の流れには、大きな差があるからです。

介護以前に、高齢者の時間の流れに合わせる生活そのものがストレスになることでしょう。通院の付き添いでも、1時間以上待つことは、ままあります(筆者は付き添い時に、IS12Tを持参して触っていますが、これからは Microsoft Surfaceにしようと思います)

また、電化製品を導入して介護負担を軽減しようにも、操作を教える相手は後輩のエンジニアではありません。見守り用のカメラを設置することについて、相手が理解できるように説明することは難しいでしょう。

独居でガスコンロの使用が危険になってきたからといって、簡単にIHクッキングヒーターに切り替えることもできないでしょう。高齢になると、もの忘れも増えて、論理的な話は通じにくくなります。そもそも高齢女性には、メカニックなものが苦手な人が多いように見受けられます。

そしてなにより、「良心との戦い」に押しつぶされそうになるでしょう。

いかに介護と仕事を両立して頑張っていようと、第三者から「仕事はほどほどにして親御さんを大切にしたら?」とか「毎日子供が訪問しなかったために、親が倒れていることに誰も気付かなかった」といった話を聞かされることが増えます。

真面目に取り組んでいる人ほど、この程度のことしかしていない自分は冷たい人間なのだろうか、と、自分を責めがちになります。そして、頑張りすぎると、共倒れになります。自分の人生を後回しにすることは避けましょう。

●親が要介護になる前に

親が要介護状態になる前に、身内でしっかり将来設計について話し合い、対策を講じておかなければ、看護や介護が必要になってから検討を開始したのでは手遅れです。

もし、遠距離介護になる可能性があるなら、近所づきあいは必要です。水道のパッキンの交換、電球交換、室内の備品の移動、重い買い物、外注依頼するほどではない面積の除草作業、布団干しやシーツ交換など、健康な人なら普段意識することのない作業が、要介護者には困難です。

配食サービスや買い物サービス、スーパーの配達サービスを利用するとしても、それらはドアの前までのサービスです。

入浴や食事の介助などの定期的なサービスは居宅介護事業者に依頼できますが、突発的な小さな作業は、システムの隙間にあります。

要介護者の近所の人々が、こまごました軽作業を気軽に手伝ってくれる状況になければ、遠距離介護は厳しいと思われます。

介護者に兄弟がいる場合は、親が健康なときから、話し合って金額を決めて、毎月介護のための積み立てをしておくとよいでしょう。その方が、いざというとき、費用分担に悩むことがありません。

いずれか一方が、介護費用を考慮することなく人生設計を立て、大きな金額の買い物をしてしまうと、ローンを抱えて介護費用を捻出できなくなってしまいます。そうなると、もう一方に負担がかかりすぎます。

さらに、介護にいたる前に、看護のための準備もしておくほうがよいでしょう。

ひとつは、入院準備です。入院準備品の多くは災害対策非常用品と重複します。そこで、非常用品リュックと入院用品用バッグの2つを準備しておきます。

入院用品用バッグは、病人でも扱いやすく、ベッド横カウンターに収納できる、軽量で形状の変えられる素材のバッグが良いでしょう。家庭で洗濯できる、キャンバス地やデニム地のものがお勧めです。

非常用品リュックの中のものを選択して、入院用品バッグに移し、何点か追加すれば入院道具になるようにしておくと便利です。何を選択し、何を追加するかというリストを作成して2枚印刷し、両方のバッグに入れておくと万全です。

もうひとつは、預金通帳や証書などの貴重品の扱いです。本人が思考可能な間に、話し合って合意を得ておきましょう。遠距離介護の場合は、入院中の貴重品の置き場所も決めておく必要があります。介護者が預かるのでなければ、銀行の貸金庫などを検討してもよいかもしれません。

居住地域の介護事業所の情報もあらかじめ収集しておくとよいでしょう。市町村のWebサイトと、介護情報のポータルサイトをチェックして、介護認定の申請方法や、公的機関の利用可能なサービス、介護事業者のサービス内容を調べておきます。

警備保障会社などの緊急通報サービスも検討しましょう。何かあったときに駆けつけてくれるので、遠距離介護や、外出や出張の際にも安心です。

もし、介護に際して転居するなら、医療機関が近く、通院時の交通の便を確保できる場所に住むと、日常の負担を軽減できます。

●泣く泣く離職より、積極的離職

では、看護や介護により離職する場合、ITエンジニアはどのようにして自分の口を糊していけばよいでしょうか。

筆者の経験をもとに、難しい順番にリストアップすると、次のようになります(動画サイトに技術情報を投稿して広告収入を得る方法は、まだ試していないので含まれていません)。

ケースバイケースではありますが、(6)〜(10)は、比較的負担も少なく実行できると思います。

(1)技術セミナー講師
(2)短期受託開発案件
(3)技術雑誌の連載(週1、月1など)
(4)新技術を紹介する書籍
(5)オンライン記事連載
(6)普遍的技術についての書籍
(7)長期受託開発案件
(8)出来高業務(データ入力、編集)
(9)電子本の独自出版
(10)アプリの独自開発と公開

(1)のように、時間や場所の変更ができず代理のいない仕事や、(2)のようにクライアントからいつ連絡があるかも分からず、常に臨戦態勢を強いられる作業は、できなくはありませんが、精神的には厳しいものがあります。

(3)のように締切に追われる作業は、長年継続することは難しいものです。突発的な入院付き添いなどで穴をあけないためには、常に前倒しに作業を進めておかなければなりません。筆者はずっと、締め切りの2〜3日前には原稿を完成させる方法で、連載を落としたことは一度もありませんが、さすがに10年以上続けると疲れてしまい、現在息切れ休養中です。

書籍は、雑誌連載と異なり執筆期間に余裕があるので、連載よりは容易です。が、(4)の新技術に特化した書籍では、校正中に開発環境や動作環境のバージョンアップがあって全体を見直すなどの事態がしばしば起こります。そのような時に、介護作業が重なることがあります。(5)も同様です。

筆者は徹夜も昼夜逆転も大丈夫ですが、時差ボケになりやすい人には厳しいと思います。

一方、(6)のような普遍的な基幹技術についての書籍ならば、環境の影響を受ける部分が少ないので、看護や介護と両立しやすいと思います。

(7)の長期受託業務では、介護者が企画立案してスケジュールを立案できる立場にあれば、じゅうぶんに可能です。ただし、他の技術者が立案したスケジュールに従って実作業を行う立場では、難しいものがあるかもしれません。

(8)は、空き時間に行うことができますが、単価によっては、それで生活をしていくことは難しいかもしれません。

(9)と(10)のように、自ら企画、開発して、独自発信する仕事なら、確実に看護や介護と両立できます。

マーケットプレイスを利用して、海外に発信できるアプリを開発し、そのノウハウを電子本に仕立てて販売するといったことです。

それで口を糊していけるだけの売上を確保することは、容易なことではないでしょう。しかし、挑戦してみる価値はあるのではないでしょうか。

泣く泣く離職より、積極的離職です!! 介護離職を、自分の開発したアプリや執筆した本を世界に向けて販売するきっかけと捉えて、希望をもって精進していきませんか。

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< http://www.microsoft.com/Surface/en-US/surface-with-windows-8-pro/home >


【薬師寺聖/個人事業所 セイザインデザイン】
個人事業所 < http://www.seindesign.net/ >
< infosei@seindesign.net >

絵・音・詩・文・コードを扱うフリーのクリエイター、思索家。エンジニアリング会社を経てデザイン事務所に勤務後、XML1.0勧告翌月に退職して開業。科学技術や医療・福祉分野のXML案件を手がけながら、書籍や記事を多数執筆(PROJECT KySS名義)。現在は、受託業務から独自開発にシフト中。
Microsoft MVP for Development Platforms - Client App Dev (Oct 2003-Sep 2013)