[3445] 1000年後という「将来」

投稿:  著者:  読了時間:15分(本文:約7,400文字)


《先っぽの凸凹部分がなんとも記号的な美しさである》

■わが逃走[122]
 どうでもいいものコレクション の巻
 齋藤 浩

■私症説[46]
 1000年後という「将来」
 永吉克之




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■わが逃走[122]
どうでもいいものコレクション の巻

齋藤 浩
< http://bn.dgcr.com/archives/20130321140200.html >
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部屋を片付けていて思ったのだが、オレにはどうやら収集癖があるようだ。金銭的価値のあるものというよりも、比較的どうでもいいものに妙な思い入れを感じ、つい捨てられなくなってしまう。たとえば......。

【1】
壊れた家電製品を捨てる際、暇だったのでつい分解してみたところ、中に入っていた部品がなんともイイ。何に使うものかはわからないが、虫眼鏡でながめると、外国の給水塔のような情緒を感じるではないか!
< http://bn.dgcr.com/archives/2013/03/21/images/001.jpg >

片目を閉じてしたから仰ぎ見るだけで、ベッヒャーの世界が脳内に構築される。うーむ、これはイイ。

【2】
中古屋でジャンクカメラが100円で売ってたりすると、つい買ってしまう。で、分解してみると歯車やら接眼レンズやら、美しい部品が沢山出てくるのだ。その中のひとつ、一眼レフのペンタプリズム。
< http://bn.dgcr.com/archives/2013/03/21/images/002.jpg >

子供のオレがこんなものを見つけた日にゃあ、狂喜乱舞したのではなかろうか。ひとつの面を覗くと、青空だったり地面だったりがいっぺんに見える五角形の立体。きっと「いいモノ見せてあげる〜」とか言って自慢用品として活用したことであろう。うむ、これもイイ。

【3】
オレの部屋には作りかけのプラモの箱がけっこう積んであるのだが、その中に中2の頃からコツコツと作り続けているも、30年経っても完成しないというサグラダファミリアみたいなモノがある。箱の中には当時の接着剤がひとつ。イイ。実にイイ。
< http://bn.dgcr.com/archives/2013/03/21/images/003.jpg >

オレが子供の頃、プラモには必ず接着剤がついていたものだ。鉛のチューブに入っていて、先端部に画鋲で穴を開けて使う。最近のお子様はガンダムすら作らないらしいし、作ったとしてもハメコミ式だからこういうものの存在は知らないだろうと思う。

古道具屋に行くと、昔の目薬の瓶とかをありがたいお値段で売っていたりするが、そのうち接着剤も高値で取引されるようになるのではないか。そう思うと、タミヤのラベル付きのものや、2000円のガンダムの箱に入っていた旧バンダイロゴ入り大容量チューブなどが無償に欲しくなってきた。困ったものだね。

【4】
この歯車は、とある木工職人からいただいたもの。
< http://bn.dgcr.com/archives/2013/03/21/images/004.jpg >

大きさといい重さといいサビの具合といい、文句なしの逸品(オレ基準)だ。時計に入っているような小さな歯車も好きだが、やはり持ってみて手にしっくりと馴染むくらいの大きさがベストであろう。

力という目に見えないものを、それを伝える構造によって実感することができる。まさに機能美。

【5】
今住んでる集合住宅が建築中のときに出土したもの。もともとはエディターのS氏が掘り起こしたものだが、駄々をこねて譲り受けた。子供の頃からほしかったんだよなー、矢印。
< http://bn.dgcr.com/archives/2013/03/21/images/005.jpg >

道ばたで何度もみつけるも、そのすべてが地面と完璧にくっついていて(当たり前だ)拾って帰ることは叶わぬ夢と諦めていたものだ。ほんと、長生きするといいことあるね。

【6】
先日仕事で某研究機関のドクターN(仮名)を訪ねたところ、研究室は大掃除の真最中だった。積み上げられた不燃物の山の中にふと目をやると、素敵な鍵束が大量にあるではないか。

ずいぶん前にすべての扉が電磁キーに置き換わったため不要になったらしい。さらに、建物自体も今年度いっぱいで取壊しとなるそうな。だったらもういらないよね。なのでオレにください。ということで、いまここにある訳だ。それにしても昔の鍵はイイ。
< http://bn.dgcr.com/archives/2013/03/21/images/006.jpg >
< http://bn.dgcr.com/archives/2013/03/21/images/007.jpg >

先っぽの凸凹部分がなんとも記号的な美しさである。オス型をメス型に突っ込んで廻すと扉が開くという構造が、視覚的に理解できるところが心地よい。

また鍵穴から部屋の中をこっそり覗く少年探偵団を想像するのも楽しいし、虫眼鏡で拡大ながら、時代小説に出てくる金蔵の鍵をイメージしてみるのも楽しい。カードキーじゃこうはいかないよ。実に文学的な工業製品と言えましょう。

「ドラえもん」の何巻だったか忘れたけど、のび太が部屋を片付けようとしたものの、捨てるものが何もない。穴のあいたグラスは何も飲みたくないときに使えるし、切れた電球は停電のときに使えるという。

もっともな意見である。なんて納得したまま30年以上経ってしまった。のび太の部屋はなんだかんだで布団を敷くスペースがあるし、押し入れの中もドラえもんが寝るスペースが確保されている。立派なものである。見習わねばならんと本気で思うアラフォーの春。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/ >

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■私症説[46]
1000年後という「将来」

永吉克之
< http://bn.dgcr.com/archives/20130321140100.html >
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われわれの多くがぼんやりと考える「将来」の範囲は、自分自身が死ぬ時までだろう。あるいは子や孫の将来まで含める人もいるかもしれないが、せいぜいそのあたり。その先では、すべての輪郭を曖昧にする「未来」という大気が、われわれの関心を希釈してしまうのである。

だから、政治への要望も、みな自分が生きている間に実現しなきゃイヤなのだ。50年後の2063年度より消費税を撤廃します、と宣言したマニフェストを見て、その政党に投票するのは幼児か赤ん坊くらいのものだ。

南鳥島周辺の海底にレアアースが眠っているらしい。またすでに日本近海でメタンハイドレートの掘削に着手しているらしい。それを聞いてほとんどの人が、一刻も早く、自分の生きているうちに日本が資源輸出国となって、この大不況からグランドスラム的に脱却できればいいのにと思ったはずだ。私とて、何かと入り用があるので、できれば今月中に資源大国としての日本の地位を確立し、爆発的に雇用を拡大してもらいたい。

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これまで政治家は「ただちに影響のない」問題は解決を先送りにしてきた。自己の存在しない世界、あるいは自分の責任が問われない世界で誰かが何らかの決着をつけてくれるだろうと考えた。尖閣諸島や原発がいい例だ。時限爆弾の先送り。

今でもあるのかどうか知らないが、子供の頃、アメリカのアニメに出てくるような、真っ黒の球体で導火線のついた爆弾の形をした玩具があった。タイマーがついていて、セットするといつ「爆発」するかわからない。それを数人で手から手に渡すのだが、いずれ誰かのところで爆発するわけだ。それと似たようなことが行われているような気がする。

政治家も国民も、せめて1000年くらい先までは「将来」に含めて、我が事として真剣に考えるべきである。

確かに1000年後のことを想像するのは非常に難しい。まだ安倍総理が自民党の総裁の地位にいるかどうかすら見当もつかない。ひょっとしたら、幸福実現党が与党になっているかもしれない。まさに想像を絶する世界だ。

1000年後には北朝鮮が核弾頭を搭載したミサイルの開発に成功している可能性もあるから、それまでには何としても中断している6カ国協議を再開させなければならない。1000年後も彼の国の権力委譲は相変わらず世襲で、金正恩の息子が最高指導者の地位に就いて、瀬戸際外交を継承することもあり得る。

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では、1000年前の政治家はどうだったのだろう。1013年。日本史年表を見てみる。日本は平安時代。「な供養ぐ椅子平安京」から「飯く煮繕う鎌倉幕府」までの約390年のうちで、この年に起こったことは......とくにない。「覚助」という天台宗の僧が生まれているが、ウチは浄土真宗なので、どなた様かは知らない。

細かいことはどうでもいい。ともかく藤原道長の時代である。朝廷をも牛耳るほどの権力を恣(ほしいまま)にしていた道長、《この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば》などという傲り高ぶった歌を詠んだ道長のことだから、1000年先を見据えて国難に備えるという無私の視点がなかった。領土をめぐって中国との確執が深刻化したのも、尖閣諸島の帰属問題を放置していた道長のせいだ。大震災も津波も、それに続く原発事故もみーんな道長の怠慢のせいなのだ。

私は、道長と権力争いをしていた甥の藤原伊周(これちか)が実権を握っていれば、震災も尖閣も竹島も天保の飢饉も元寇も東大寺大仏殿建立も遣隋使も起きなかったと考えている。

伊周は若死で、しかも容姿端麗だったらしい。若死(36歳くらい)で容姿が淡麗グリーンラベル(発泡酒・アルコール5.5%)ならもう何でもできたはずなのだ。空も飛べるはずだった。雑菌にも強いから用足しをした後に手を洗わずに食事もできたはずだ。

目玉が六つ、鼻の穴が耳元まで裂け、舌が15mもあって、その先端からしたたる唾液は全ての物を金に変えたというから、権力者としての資質は道長を遥かに凌駕していたと考えられるが、いまさら言っても詮無いことじゃ。もうやめよ。その話は聞きとうない。

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それはともかく、われわれの世代なんかもうどうなってもいいではないか。絶滅してもいい。私が許す。時限爆弾は誰にも回さずわれわれのところで爆発させよう。われわれが捨て石となって、将来の世代のために幸福の先送りをしよう。この際、原発とか尖閣諸島とかTPPとかいった眼の前の問題はうっちゃっといて、1000年後の日本に眼を向けようではないか。

当然、愚かで利己的な大衆は抵抗する。1000年も先の日本人なんて、どこの馬の骨かわからない連中の幸せのために税金を投入するとは What The F...! と怒りの声を上げ、《いま生きている日本人のための政治を!》書かれた横断幕を先頭に、デモ隊が大阪府堺市の旧26号線を1時間にわたって練り歩き、石津川あたりで解散し、酔虎伝の石津川店になだれ込んで、今年のタイガースはAクラスに復帰できるだろうかという、北朝鮮の核ミサイルよりも切実な問題で熱い議論を交わすことになるだろう。

                 ■

私は教育こそが要だと考えている。眼の前の自分の利益より、1000年後の日本の利益に資する人間を育てることが日本を千年王国にするのである。そのためには、1000年後に視点を据える教育を、子供がまだ幼いうちから家庭でするべきである。

「1000年先のこと想像してみ」

「うーん。うちゅうじんがいっぱいちきゅうにきてね......」

「宇宙人なんかおらへんねん。あれは前頭葉を病んだ連中がでっち上げたもんなんや。宇宙人が地球に来てるて何10年も前からゆうとるけど、ほんまにおるんやったら、そろそろテレビに出せっちゅうねん。さあ、1000年後はどうなってるんやろ?」

「えーと、せんそうがなくなってへいわに......」

「戦争は絶対になくならへん。人間がエゴイズムを克服せん限りなくならん。国や民族のエゴは個人のエゴを拡張したもんやからな。それにエゴイズムは競争社会の原動力やから克服することはでけん。さあ、1000年後はどんな世界になってるんやろう」

「びょうきがなくなって......」

「風邪を治す特効薬を発明したらノーベル賞もんや、ってよう言われてんねん。病気と医療はイタチごっこで、いっつも病気の勝ちや。病気にノーベル賞やりたいくらいや。病気はなくならん。どや、1000年後は」

「みんながおかねもちに......」

「カネはな、一部の人間に集まるようにできてんねん。もってる奴はどんどん金持ちになって不必要なほど財産を作るのに、もってへん奴はますます貧乏になって必要なもんまで失うような仕組みになっとる。正味の話が」

「......」

「そういうもんやねん、世の中。1000年経っても10000年経っても変わらへんねんて。なんでかゆうと人間はみんな孤独やからや。自分の痛みは他人にはわからへん、ほんで他人の痛みは自分にはわからへん。そやのに自分の痛みを他人がわかってくれへんゆうて怒りよる」

「......」

「そやけど、救いがないわけやない。その鍵はジャイアンツや。昨シーズン、タイガースがBクラスに落ちたその痛みを原監督が理解して、目障りな主砲の阿部をパリーグに放出したら、千年王国のへの第一歩になるがな」

「もう、きみとはやってられんわ」

ありがとうございました〜

(なんばグランド花月にて収録)

【ながよしのかつゆき/永吉流家元】thereisaship@yahoo.co.jp
ここでのテキストは、ブログにも、ほぼ同時掲載しています。
無名芸人< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz >


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編集後記(03/21)

●山本弘「UFOはもう来ない」を読む(PHP、2012)。現代日本に本物の異星人が降りてきたら、という設定で、「E.T」のようであり「幼年期の終り」のようでもある、ファーストコンタクトテーマの本格SFなのに娯楽小説。タイトルの意味は読み終えれば理解できる。また、何度も出て来て気になって仕方がない、異星人同士の会話の「女の子を食べる」の意味も最後でわかる。

主な登場人物はインチキなテレビ番組のディレクターと美人UFO研究家(ナイスなペア)、UFOカルト教団DSIの教祖(じつは天才的詐欺師)、京都の山中で異星人を確保した3人の少年、地球に不時着し取り残されたリップリング・ペイルブルー(異星人、女性、形状はタコ:登場"人物"ではないか?)など。ペアとその仲間、そして子供たちはDSIに拉致された異星人を奪還し、無事に宇宙に還すことができるのか。

科学的な記述は難解だけど、ストーリーはわかりやすく、スリリングで、お笑いで、少年たちはレトロな少年探偵団。筆者は「本当に異星人がいたとしたら、地球人の放送しているデタラメなUFO番組を観てどう思うだろうか──それがこの小説の発想の原点です」と語る。やらせ番組の仕組みや放送事情などの裏話や、豊富なUFO知識の展開はとてもおもしろい。終幕の、人類代表のペアと異星人との会見内容は感動的だ。

巻末に9ページにわたり小さな文字横組で「スターファインダーの生態と文明」という解説がついている。純粋に想像上の存在だが、知的生命体としてありうるように、可能な限り科学的に設定したという。科学的根拠をここまで示すSFも珍しい。ちゃんとは読まなかったけど。573ページもの長編だが、ストーリー展開はジュブナイル級で楽々読み進められる。面白かったなー。(柴田)

< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4569809146/dgcrcom-22/ >
山本弘「UFOはもう来ない」


●宝塚歌劇。『モンテ・クリスト伯』はチラシやポスターを見て、期待できなさそうだなぁと。悲劇や暗い話は心に残るけど、帰り道が楽しくないの。が、見ながら、夏休みにやれば良かったのに、ああそうか春休みなんだと思った。

収監されるところから始まり、少し遡って幸せの絶頂期と裏切り。そこに出てくるのが現代の高校生ら。演劇部に所属し、モンテより他のがやりたい〜と言っていたら顧問の先生から説明を受ける。ここは賛否両論だろうし、私も最初はどうかと思ったのだけれど、暗くなりすぎる舞台を明るく、あらすじの整理があって、これはこれでアリだなと。敵味方(罠)を訛りで分けたり、わかりやすい舞台になっていた。

最初の復讐をした後に「気分は晴れましたか(すっきりしましたか、爽快ですか、みたいなの)」という台詞を問いかけられるところが好きだ。原作読んでなかったから読みたくなった。(hammer.mule)

< http://ja.wikipedia.org/wiki/モンテ・クリスト伯 >
ってこれ巌窟王ですがな! 巌窟王は読んだぞ、子供文庫的なので。
< http://kageki.hankyu.co.jp/revue/correlation/j324.html >
公演案内
< http://ja.wikipedia.org/wiki/銀色の髪の亜里沙 >
少女版『岩窟王』? あ、なるほど
< http://www.tohostage.com/montecristo/index.html >
ワイルドホーン音楽のを宝塚でやると最初思ってた。花總まりは見たい