私症説[46]1000年後という「将来」/永吉克之

投稿:  著者:  読了時間:7分(本文:約3,100文字)


われわれの多くがぼんやりと考える「将来」の範囲は、自分自身が死ぬ時までだろう。あるいは子や孫の将来まで含める人もいるかもしれないが、せいぜいそのあたり。その先では、すべての輪郭を曖昧にする「未来」という大気が、われわれの関心を希釈してしまうのである。

だから、政治への要望も、みな自分が生きている間に実現しなきゃイヤなのだ。50年後の2063年度より消費税を撤廃します、と宣言したマニフェストを見て、その政党に投票するのは幼児か赤ん坊くらいのものだ。

南鳥島周辺の海底にレアアースが眠っているらしい。またすでに日本近海でメタンハイドレートの掘削に着手しているらしい。それを聞いてほとんどの人が、一刻も早く、自分の生きているうちに日本が資源輸出国となって、この大不況からグランドスラム的に脱却できればいいのにと思ったはずだ。私とて、何かと入り用があるので、できれば今月中に資源大国としての日本の地位を確立し、爆発的に雇用を拡大してもらいたい。




                 ■

これまで政治家は「ただちに影響のない」問題は解決を先送りにしてきた。自己の存在しない世界、あるいは自分の責任が問われない世界で誰かが何らかの決着をつけてくれるだろうと考えた。尖閣諸島や原発がいい例だ。時限爆弾の先送り。

今でもあるのかどうか知らないが、子供の頃、アメリカのアニメに出てくるような、真っ黒の球体で導火線のついた爆弾の形をした玩具があった。タイマーがついていて、セットするといつ「爆発」するかわからない。それを数人で手から手に渡すのだが、いずれ誰かのところで爆発するわけだ。それと似たようなことが行われているような気がする。

政治家も国民も、せめて1000年くらい先までは「将来」に含めて、我が事として真剣に考えるべきである。

確かに1000年後のことを想像するのは非常に難しい。まだ安倍総理が自民党の総裁の地位にいるかどうかすら見当もつかない。ひょっとしたら、幸福実現党が与党になっているかもしれない。まさに想像を絶する世界だ。

1000年後には北朝鮮が核弾頭を搭載したミサイルの開発に成功している可能性もあるから、それまでには何としても中断している6カ国協議を再開させなければならない。1000年後も彼の国の権力委譲は相変わらず世襲で、金正恩の息子が最高指導者の地位に就いて、瀬戸際外交を継承することもあり得る。

                 ■

では、1000年前の政治家はどうだったのだろう。1013年。日本史年表を見てみる。日本は平安時代。「な供養ぐ椅子平安京」から「飯く煮繕う鎌倉幕府」までの約390年のうちで、この年に起こったことは......とくにない。「覚助」という天台宗の僧が生まれているが、ウチは浄土真宗なので、どなた様かは知らない。

細かいことはどうでもいい。ともかく藤原道長の時代である。朝廷をも牛耳るほどの権力を恣(ほしいまま)にしていた道長、《この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば》などという傲り高ぶった歌を詠んだ道長のことだから、1000年先を見据えて国難に備えるという無私の視点がなかった。領土をめぐって中国との確執が深刻化したのも、尖閣諸島の帰属問題を放置していた道長のせいだ。大震災も津波も、それに続く原発事故もみーんな道長の怠慢のせいなのだ。

私は、道長と権力争いをしていた甥の藤原伊周(これちか)が実権を握っていれば、震災も尖閣も竹島も天保の飢饉も元寇も東大寺大仏殿建立も遣隋使も起きなかったと考えている。

伊周は若死で、しかも容姿端麗だったらしい。若死(36歳くらい)で容姿が淡麗グリーンラベル(発泡酒・アルコール5.5%)ならもう何でもできたはずなのだ。空も飛べるはずだった。雑菌にも強いから用足しをした後に手を洗わずに食事もできたはずだ。

目玉が六つ、鼻の穴が耳元まで裂け、舌が15mもあって、その先端からしたたる唾液は全ての物を金に変えたというから、権力者としての資質は道長を遥かに凌駕していたと考えられるが、いまさら言っても詮無いことじゃ。もうやめよ。その話は聞きとうない。

                 ■

それはともかく、われわれの世代なんかもうどうなってもいいではないか。絶滅してもいい。私が許す。時限爆弾は誰にも回さずわれわれのところで爆発させよう。われわれが捨て石となって、将来の世代のために幸福の先送りをしよう。この際、原発とか尖閣諸島とかTPPとかいった眼の前の問題はうっちゃっといて、1000年後の日本に眼を向けようではないか。

当然、愚かで利己的な大衆は抵抗する。1000年も先の日本人なんて、どこの馬の骨かわからない連中の幸せのために税金を投入するとは What The F...! と怒りの声を上げ、《いま生きている日本人のための政治を!》書かれた横断幕を先頭に、デモ隊が大阪府堺市の旧26号線を1時間にわたって練り歩き、石津川あたりで解散し、酔虎伝の石津川店になだれ込んで、今年のタイガースはAクラスに復帰できるだろうかという、北朝鮮の核ミサイルよりも切実な問題で熱い議論を交わすことになるだろう。

                 ■

私は教育こそが要だと考えている。眼の前の自分の利益より、1000年後の日本の利益に資する人間を育てることが日本を千年王国にするのである。そのためには、1000年後に視点を据える教育を、子供がまだ幼いうちから家庭でするべきである。

「1000年先のこと想像してみ」

「うーん。うちゅうじんがいっぱいちきゅうにきてね......」

「宇宙人なんかおらへんねん。あれは前頭葉を病んだ連中がでっち上げたもんなんや。宇宙人が地球に来てるて何10年も前からゆうとるけど、ほんまにおるんやったら、そろそろテレビに出せっちゅうねん。さあ、1000年後はどうなってるんやろ?」

「えーと、せんそうがなくなってへいわに......」

「戦争は絶対になくならへん。人間がエゴイズムを克服せん限りなくならん。国や民族のエゴは個人のエゴを拡張したもんやからな。それにエゴイズムは競争社会の原動力やから克服することはでけん。さあ、1000年後はどんな世界になってるんやろう」

「びょうきがなくなって......」

「風邪を治す特効薬を発明したらノーベル賞もんや、ってよう言われてんねん。病気と医療はイタチごっこで、いっつも病気の勝ちや。病気にノーベル賞やりたいくらいや。病気はなくならん。どや、1000年後は」

「みんながおかねもちに......」

「カネはな、一部の人間に集まるようにできてんねん。もってる奴はどんどん金持ちになって不必要なほど財産を作るのに、もってへん奴はますます貧乏になって必要なもんまで失うような仕組みになっとる。正味の話が」

「......」

「そういうもんやねん、世の中。1000年経っても10000年経っても変わらへんねんて。なんでかゆうと人間はみんな孤独やからや。自分の痛みは他人にはわからへん、ほんで他人の痛みは自分にはわからへん。そやのに自分の痛みを他人がわかってくれへんゆうて怒りよる」

「......」

「そやけど、救いがないわけやない。その鍵はジャイアンツや。昨シーズン、タイガースがBクラスに落ちたその痛みを原監督が理解して、目障りな主砲の阿部をパリーグに放出したら、千年王国のへの第一歩になるがな」

「もう、きみとはやってられんわ」

ありがとうございました〜

(なんばグランド花月にて収録)

【ながよしのかつゆき/永吉流家元】thereisaship@yahoo.co.jp
ここでのテキストは、ブログにも、ほぼ同時掲載しています。
無名芸人< http://blog.goo.ne.jp/nagayoshi_katz >