わが逃走[122]どうでもいいものコレクション の巻
── 齋藤 浩 ──

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部屋を片付けていて思ったのだが、オレにはどうやら収集癖があるようだ。金銭的価値のあるものというよりも、比較的どうでもいいものに妙な思い入れを感じ、つい捨てられなくなってしまう。たとえば......。

【1】
壊れた家電製品を捨てる際、暇だったのでつい分解してみたところ、中に入っていた部品がなんともイイ。何に使うものかはわからないが、虫眼鏡でながめると、外国の給水塔のような情緒を感じるではないか!
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片目を閉じてしたから仰ぎ見るだけで、ベッヒャーの世界が脳内に構築される。うーむ、これはイイ。




【2】
中古屋でジャンクカメラが100円で売ってたりすると、つい買ってしまう。で、分解してみると歯車やら接眼レンズやら、美しい部品が沢山出てくるのだ。その中のひとつ、一眼レフのペンタプリズム。
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子供のオレがこんなものを見つけた日にゃあ、狂喜乱舞したのではなかろうか。ひとつの面を覗くと、青空だったり地面だったりがいっぺんに見える五角形の立体。きっと「いいモノ見せてあげる〜」とか言って自慢用品として活用したことであろう。うむ、これもイイ。

【3】
オレの部屋には作りかけのプラモの箱がけっこう積んであるのだが、その中に中2の頃からコツコツと作り続けているも、30年経っても完成しないというサグラダファミリアみたいなモノがある。箱の中には当時の接着剤がひとつ。イイ。実にイイ。
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オレが子供の頃、プラモには必ず接着剤がついていたものだ。鉛のチューブに入っていて、先端部に画鋲で穴を開けて使う。最近のお子様はガンダムすら作らないらしいし、作ったとしてもハメコミ式だからこういうものの存在は知らないだろうと思う。

古道具屋に行くと、昔の目薬の瓶とかをありがたいお値段で売っていたりするが、そのうち接着剤も高値で取引されるようになるのではないか。そう思うと、タミヤのラベル付きのものや、2000円のガンダムの箱に入っていた旧バンダイロゴ入り大容量チューブなどが無償に欲しくなってきた。困ったものだね。

【4】
この歯車は、とある木工職人からいただいたもの。
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大きさといい重さといいサビの具合といい、文句なしの逸品(オレ基準)だ。時計に入っているような小さな歯車も好きだが、やはり持ってみて手にしっくりと馴染むくらいの大きさがベストであろう。

力という目に見えないものを、それを伝える構造によって実感することができる。まさに機能美。

【5】
今住んでる集合住宅が建築中のときに出土したもの。もともとはエディターのS氏が掘り起こしたものだが、駄々をこねて譲り受けた。子供の頃からほしかったんだよなー、矢印。
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道ばたで何度もみつけるも、そのすべてが地面と完璧にくっついていて(当たり前だ)拾って帰ることは叶わぬ夢と諦めていたものだ。ほんと、長生きするといいことあるね。

【6】
先日仕事で某研究機関のドクターN(仮名)を訪ねたところ、研究室は大掃除の真最中だった。積み上げられた不燃物の山の中にふと目をやると、素敵な鍵束が大量にあるではないか。

ずいぶん前にすべての扉が電磁キーに置き換わったため不要になったらしい。さらに、建物自体も今年度いっぱいで取壊しとなるそうな。だったらもういらないよね。なのでオレにください。ということで、いまここにある訳だ。それにしても昔の鍵はイイ。
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先っぽの凸凹部分がなんとも記号的な美しさである。オス型をメス型に突っ込んで廻すと扉が開くという構造が、視覚的に理解できるところが心地よい。

また鍵穴から部屋の中をこっそり覗く少年探偵団を想像するのも楽しいし、虫眼鏡で拡大ながら、時代小説に出てくる金蔵の鍵をイメージしてみるのも楽しい。カードキーじゃこうはいかないよ。実に文学的な工業製品と言えましょう。

「ドラえもん」の何巻だったか忘れたけど、のび太が部屋を片付けようとしたものの、捨てるものが何もない。穴のあいたグラスは何も飲みたくないときに使えるし、切れた電球は停電のときに使えるという。

もっともな意見である。なんて納得したまま30年以上経ってしまった。のび太の部屋はなんだかんだで布団を敷くスペースがあるし、押し入れの中もドラえもんが寝るスペースが確保されている。立派なものである。見習わねばならんと本気で思うアラフォーの春。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。