歌う田舎者[43]婚活したっていいじゃないか、人間だもの。/もみのこゆきと

投稿:  著者:  読了時間:10分(本文:約4,500文字)


結婚式であった。6年ぶりであった。
......あれ? あんた、それって先月の原稿を過去形にしただけじゃないの? すいませんすいません、やりなおします。やりなおせばいいんでしょ。

結婚しない、結婚します、結婚する、結婚するとき、結婚すれば、結婚しろ。サ行変格活用ですね。思い出しましたか。なに? 思い出せない? そんなことで赤門くぐれると思ってんのか。甘いっ、甘すぎる。いつやるか? 今でしょ!

しかし、わたしの気持ちにぴったりの活用形は、この中にない。

♪嫁に〜こないか〜 僕の〜とこ〜ろ〜へ〜♪
とか
♪ぼくの髪が〜肩までのびて〜君とおなじに〜なったら〜♪
♪約束どおり〜まちの教会で〜結婚しようよ〜んん〜ん〜♪
とかいってほしいのである。

つまり「結婚したい」のである。どうだ、参ったか。しかし、肩まで髪がのびた男とは、あんまり結婚したくないような気がする(※注:肩まで髪がのびた男とは、わたし的にはピンポイントで海援隊時代の武田鉄矢である)。いや、そんな贅沢いってる場合ではない。肩までだろうが白髪三千丈だろうが文句は言わぬ。

だいたい生まれてこの方、結婚願望というものを抱いたことなど、まっっったくないわたしである。そんなもの、犬にでも喰わせときゃいいんである。

そんなわたしが結婚したくなる時というのは、会社ストレスで死にそうになっているときと相場は決まっていたのだが、最近、もうひとつ結婚したくなる要因を発見した。すなわち貧乏で死にそうになっているときである。




手元不如意な日々に、将来が心配すぎて動悸はしてくるわ偏頭痛は襲ってくるわ、そのうち不安に取り殺されそうな気がする......ジャズダンスのレッスン後、踊り子仲間にそのような話をつらつらとこぼしていたところ、ある大御所がこのように仰せになった。

「あら、もみのこちゃん、結婚する気はないの? 婚活すれば? 婚活。死にそうな金持ちのじいさんと結婚すれば将来安泰。安心して生活できるわよ。近所のスミ子さんがそうだもの。あたしの友だちで、50代で婚活とかザラよ、ザラ」と言うではないか。

そんな都合のいいドラマみたいな話があるもんかと思ったが、実話であるらしい。高齢な金持ち爺さまと結婚したスミ子さんは、旦那がぽっくり逝ってしまったあと、莫大な遺産を相続。若いツバメと再婚し、悠々自適の老後を送っているという。ちなみにスミ子さんが70代なので若いツバメは60代らしい。

うむむむ、そうか。ドラマのような出来事も、意外とそのへんに転がっているものかもしれぬ。70代のスミ子さんに比べれば、まだわたしなどピチピチのピーチパイではないか。♪恋が始まる〜予感はピーチパ〜イ♪ 

よしっ! わかった。この際、婚活でもなんでもやってやろうじゃねぇか。いつ結婚するの? 今でしょ! ところが、その気持ちを一瞬にしてしぼませる出来事が起きた。

ある日の飲み会のこと。相手はちょっとした仕事がらみの人々で、一緒に飲むのは3回目くらいであったろうか。宴もそこそこ盛り上がってきたところで、わたしの目の前に座るA女史が、煙草をくゆらせながらこう言った。

「あのさぁ、もみのこって、文章読むとどんなおもしろい子かと思ってたけど、会って話したらつまんないね、全然」

アイゴー! 心はムンクの叫びである。つっ、つまんない......つまんない、ですか。

......えぇ、わかっていましたとも。ほんとのわたしは地味なヤツなんです。地味すぎて居るのか居ないのかわからないくらいです。なんつっても初めてデジクリに書いたコラムが「地味な女・地味な県」ってくらいですから。

[地味な女・地味な県」
< http://bn.dgcr.com/archives/20090724140200.html >

記念すべきデジクリの初回コラムで、「地味で不憫な県」の初代王者として福井県にその栄冠を授けたわけでありますが、何をかいわんや。わたくしの存在自体が、福井県以上に地味で不憫なのでございます。そんな地味なわたくしにどうしてオトコなどできましょうや。

家では威張り散らし、外では意気地のない人を内弁慶などと申しますが、わたくしの場合、コラム弁慶とでも申しましょうか。コラムの中では言いたい放題いたしておりますが、常日頃は口も聞けない地味な小心者で、もうジミー・もみのこと改名したいくらいです。

それになんと申しましても根がビビリスキーであるため、人間が怖くて怖くて仕方がないのでございます。

[私がビビリスキー]
< http://bn.dgcr.com/archives/20121220140200.html >

初対面の方とお話をするのは辛うございます。その方のことを存じ上げないのですから、どのあたりに地雷が埋まっているかわかりません。巨人ファンなのかアンチ巨人なのか知らないと野球の話題は振れません。

埼玉県民に知ったかぶりで浦和レッズの話など振ってみたら、大宮アルディージャのファンかもしれぬではありませんか。AKBが好きだというから、ゆきりんを褒めそやしてみたところ、みいちゃんは坊主にしたのにゆきりんは反省が足りないと逆鱗に触れるかもしれません。あな恐ろしや。人間とはなんと怖い生き物でしょう。ビビりすぎて何もしゃべれません。

誰の地雷も踏まない無難な話題といったら、お天気の話くらいです。こちらに話を振られたら、「今日もいい天気でよかったですね、ははは。そろそろ大隅半島から薩摩半島に火山灰の向きが変わる時期ですから、これからちょっと心配ですね」という毒にも薬にもならない話題を繰り返し、皆様の地雷に触れないように、小さく小さくなっているしかありません。

だからといって、何の話も振られないのも居場所がない気がして、そのような場合は、「とりあえず早く酔っぱらってしまえ!」とばかりに目の前の焼酎を飲みほし、ますます地味にへらへら笑うばかりでございます。

初対面がこんな具合でございますから、相手の地雷情報などリサーチできるはずもございません。2回目も3回目も、結局天気の話を繰り返すばかりの気弱なわたくしです。

そんなことでは恋人どころか友だちだっていないんじゃないの? と思われる方もいらっしゃるやもしれませぬが、失礼ですこと! 恋人はさておき、友だちなら幾人かおりましてよ! ホントだったらホントです。

話は少々さかのぼりますが、1月に関東を訪れたときのこと。べちおサマンサ殿が横浜案内をしてくださったのですが、伊勢佐木町のショッピングモールを歩きながら、「ここをね、ちょっと向こうにいった筋は風俗店がずっと軒を連ねてるんだよね」というべちお殿のつぶやきを聞き逃さなかったわたくし。

「なんですって! 薩摩藩には風俗街なんてないざますよ。行きますっ! そこ行きます!」と叫び、横浜で風俗街を初体験いたしました。初体験と申しましても店に入ったわけではございません。「横浜モンデミ〜テ」とか「マットDEいってミルク」などという看板を大興奮で激写しまくっていただけでございます。さすが横浜。都会には何でもあるのでございますね。

新たな観光スポットを体験し、帰藩後、「風俗街なるものが薩摩藩にもあれば、わたくしの働き口もあるのではないのでせうか」と周囲につぶやいたところ、「あんたが働くんだったらオバ専でしょ? そんな店、薩摩藩みたいな田舎じゃ需要ないからねぇ」という冷たい反応ばかり。

しかしながら、そのつぶやきをずっと覚えていた方がいらっしゃるのでございます。2カ月も経って、オバ専という単語も忘れかけた頃、「いやー、探したよ。見つけた見つけた。薩摩藩にもオバ専あるよ」と、わざわざURLを連絡してくださったのです。そこは「薩摩藩 オバ専」でグーグル先生にお尋ねしても回答がいただけない秘密のクラブなのでございました。

かの方は、ウイルスの危険も顧みず、世界に広がるエロサイトの大海に飛び込み、連続ポップアップするウインドウと闘いながら、わたくしのために情報を探してきてくれたのでございます。

ほら、ちゃんといますでしょ? わたくしにも友だちが。さりながら、友だちがいるということを、なぜ横浜の風俗街の話からしなければならないのか、何かが間違っているような気もいたします。

ちなみに、まじまじとそのオバ専サイトを眺めたところ、「妖艶な美熟女と熟練のプレイや会話を楽しみたい殿方へ」とキャッチコピーがついております。女性一覧にはさまざまな美熟女の写真が並んでいるのでございますが、ご年齢は42歳から52歳といったところ。わたくしでも十分いけそうではございませんか。......にしても、皆さん写真がスレンダーすぎるのが気にかかります。

やはり熟女がお好きな向きには、週刊新潮の広告に出ている「湯けむり旅情・熟女の裸体写真集」のように、脂肪たっぷりの崩れた果実を思わせる肉体でなければいけないのでは......と思うわけでございます。

しかし、どう考えてもサイトの女性一覧は、「VERY」に掲載されている三浦りさ子の写真に顔モザイクかけただけみたいな、ファッショナブルでスレンダーな写真ばかり。これはいかがなものかと。

このような写真など見せられては、ハードルが高すぎて、わたくしが面接に行けないではありませぬか。

脱線してしまいました。話を戻しますと、地味なわたくしにも友だちは幾人かいるのでございますが、よくよく考えたところ、それはすべて高校時代からの同級生。会話のひとつひとつにビビるわたくしは、友だちをつくるのにも長大な時間がかかるのでございます。

その上、わたくしの人生の辞書には『一目惚れ』という項目がございません。ひと目会ったその日から恋の花咲くことなどないのでございます。友だちというステップを通過しないと、その先に移行できないということを考えますと、結婚に至る前に還暦どころか喜寿とか傘寿などがやって来ないとも限りません。ピチピチのピーチパイがドライいちじくになってしまいます。

せっかく婚活する気になったというのに、地味でビビリスキーなわたくしでは、やはり結婚できないような気がしてきた春の日なのでございました。

※「嫁に来ないか」新沼謙治
< >
※「結婚しようよ」吉田拓郎
< >
※「不思議なピーチパイ」竹内まりや
< >

【もみのこ ゆきと】qkjgq410(a)yahoo.co.jp

「あのさぁ、もみのこって会って話したらつまんないんだよね、全然」と仰せになったA女史に、「薩摩藩にもオバ専あるみたいなんすよ〜」と嬉々として報告したところ、「そんな地元の店で働きたくないじゃない。誰に会うかわからないでしょ」とご忠告くださいました。あぁ、全くもってその通りでございます。地味な上に頭の回転も悪いわたくし。オバ専に就職するなら、やっぱり横浜でございますね。