デジアナ逆十字固め...[131]驚くべき鳥瞰図絵師の仕事
── 上原ゼンジ ──

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「大江戸鳥瞰図」立川博章著(朝日新聞出版)という本が刊行された。この本は友人が著者から書籍化の相談を受けて、出版社に持ち込んだものなのだが、最初から話を聞いていたので、本という形になりちょっと嬉しい。

友人というのは、美学校で赤瀬川原平さんに教えていただいていた時の同級生の森伸之。『東京女子高制服図鑑』という本を1985年に著しロングセラーとなった、女子高生の制服研究での第一人者だ。

赤瀬川さんの教室は考現学研究室という名称だったが、これは今和次郎が提唱した考現学からとったもの。今和次郎の考現学は、考古学のようなアプローチの仕方で現代を客観的に観察する学問だが、森伸之の制服研究も客観的な視線で行われ、写真を用いず、観察とスケッチによるフィールドワークから完成されたものだ。

そして「大江戸鳥瞰図」の著者である立川博章氏は、やはり美学校時代の別の友人のお父さん。元々は東宝でゴジラを始めとする映画美術に関わってこられた方だ。

その後、大阪万国博覧会、沖縄国際海洋博覧会、六本木ヒルズ、幕張メッセなどの企画策定に携わられ、2003年から東京新聞で江戸時代鳥瞰図を書き始める。リクエストに応えるような形で江戸全体の鳥瞰図を書くことに取組み始め、今年その作業が完成した。

パソコンなどは一切使わず、ロットリング(製図ペン)で緻密に仕上げた労作。一枚の大きさが162cm×82cm。それが全部で29枚あり、繋ぎ合わせると7.2m×6.4mになるそうだ。




鳥瞰図だから、空の上に視点があるわけだが、それが三浦半島の上空6万6000メートルに設定してあるらしい。もちろんそんな所から眺めてスケッチをしたわけではなく、設定した場所からどう見えるのかを計算して仕上げたとのこと。

季節は初夏の晴れた日の午前3時に設定してあるそうだ。それを想像しながら緻密に描き上げるというのは、まったく途方もない作業だと思う。

本の構成としてはまず鳥瞰図が見開きであり、次の見開きでその地図上に現在の主要建築物や鉄道路線などが記載され、現在のどこにあたるのか分かる仕組みになっている。トレーシングペーパーなどではなく、すべて同じ紙なので、めくりやすいし、分かりやすい。

この地図を見て改めて分かったのは、皇居を中心とする都心部には武家屋敷などが密集していてかなり栄えていたんだなということ。それらの多くはすでにないわけだが、瓦屋根の家々がずらりと並ぶ光景はかなり壮観。

吉原遊郭なんかも整然と家屋が並んだ様子、というのは今までに見たことがなかったが、ちょっと江戸時代に行って散歩をしてみたくなるようなリアリティーを持った地図だ。

逆にちょっと都心を外れて郊外に行けば、すぐに田んぼや林ばかりになってしまう。電車もなかったわけだから郊外に行くには時間もかかるし、都心と田舎の落差というのは大きかったんだろうな。

A4変型判で2600円なので、書籍としてはリーズナブルでいい本に仕上がっていると思う。でも、これとは別に電子書籍版というのも見てみたいと思う。

超高精細画像をどんどん拡大していく技術にはギガパンなどいろいろあるけれど、この鳥瞰図をiPadなんかで拡大して見られればけっこうな迫力だと思う。

元データが原寸で7.2m×6.4mもあるわけだから、かなり拡大のしがいがあるはずだ。それと現在の航空写真とをうまく連動できれば、面白いコンテンツができそう。

6年がかりでコツコツの仕上げた鳥瞰図絵師の仕事は称賛に値する。美術館で原画を展示しても迫力があるだろうし、多くの人の目に触れるようになればいいと思う。

◇「大江戸鳥瞰図」(朝日新聞出版)
< http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=14809
>

◇江戸鳥瞰図ホームページ
< http://hoshi-kohboh.art.coocan.jp/birdview/birdview-index.html
>

◇東京スカイツリー鳥瞰図
< http://hoshi-kohboh.art.coocan.jp/birdview/image/map/skytree/map-sky-tree >

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