[3469] 特撮やCGに興ざめするとき

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《これくらいオチャメしてもいいですよね〜》

■ネタを訪ねて三万歩[99]
 リアルとバーチャル、それぞれの人間関係
 海津ヨシノリ

■グラフィック薄氷大魔王[343]
 特撮やCGに興ざめするとき
 吉井 宏

■ローマでMANGA[63]
 ユーリからヨーリへ
 midori




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■ネタを訪ねて三万歩[99]
リアルとバーチャル、それぞれの人間関係

海津ヨシノリ
< https://bn.dgcr.com/archives/20130424140300.html
>
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いよいよ新学期が始まりました。4月はいつも気持をリセットして、新しい学生達と積極的に関わろうと努めています。そんな今年は初めての体験として、多摩美術大学造形表現学部の新歓(新入生歓)に参加してきました。最初の授業の後でしたので、新入生達も緊張はほぐれていたと感じました。

実は毎年オリエンテーションで、少しばかりのイタズラをしています。まず、入学式の後に昼食時間を挟んだ午後一番に、共通教育科目(全カリ)のオリエンテーションがあります。

ここで私はメガネを掛けっぱなしで「この科目は更に突っ込んだ内容の授業をデザイン学科にいる私の双子の弟が担当しますので......」と説明しておいてから、その後に別室で行われるデザイン学科のオリエンテーションでは、メガネを外して「共通教育にいる兄から説明があったと思いますが......」とやるわけです。

これが少々癖になっています。このくらい悪ふざけ......じゃなくてオチャメしてもいいですよね〜。というわけです。

もっとも共通教育は面白い教授が数人いて、色々ユニークなネタを披露してくれるので、私のネタなどカワイイほうです。ですから、ついつい調子に乗ってしまうわけです。

ちなみに、このイタズラを例年の学生の3割ぐらいは信じてしまうのです。もちろん、数日後には気が付いてくれますが、中にはかなり長い間信じ切ってしまう学生もいて少し反省......。

そんなわけで新学期がスタートしましたが、始まるとこれが恐ろしく速いわけです。色々とやることも出て来ますし、それとは別に在校生の色々なグループとの懇親会や、卒業生との恐ろしく早い同窓会と、案外と忙しなく4月は過ぎてしまいます。これも昔のように卒業と同時に一期一会に変わってしまったりしたのと異なり、ネットワークで繋がっていればこその嬉しさですね。

実は4月の頭に、代々木公園で多摩美の卒業生達とタイミング遅れのお花見をしたのですが、その場に別の学校の教え子が突然現れてビツクリ。広い公園内で偶然に会うなんて恐ろしい確率です。

しかし、そこは若い人達。直ぐにお互いが打ち解けて色々と盛り上がってしまいました。こんな風に、違う学校の教え子どうしのコネクションが最近増えてきています。教え子という括りに学校は関係ないですからね。お互いのネットワークを更につなぎ合わせて、素敵な関係が末永く続くことを祈りたいです。

さて、若い世代に限らず、既にネットワークの存在は生活の中に大きな比重を占めています。新聞はもはや存在意味を成さず、遂に学生の時から購読していた新聞を止めてしまいました。

そして、陳腐な番組を垂れ流しているだけのTVを見る意味はないですね。時間の無駄です。ただし、面白いCMは気になります。ですからそれらはYoutubeで確認するようにしています。なんだかTVにワクワクしていた子供の頃が妙に懐かしいです。

そういえばスウェーデンの友人から、2年ほど前のある日本のTVドラマを紹介されました。彼女曰く「とても面白くて癖になっている」とのこと。当然日本人の私が見ているのが前提で話を振ってきたわけですが、私はまったくTVを見ないので知る由もありません。

それを説明し、可能であればDVD等を捜してみると答えるのが精一杯でした。ちょっと笑えないシュールな結果ですね。みんなが同じ方向を向いていた時代は完全に終演しているわけです。

さて、そんな現代の加速度的に変化するメディアにあって、紙媒体は死滅寸前。もちろん電子出版が最高といっているわけではありません。今の電子出版はあくまでも既にある紙媒体の焼き直しでしかありません。電子出版でなければ実現できなかった見せ方と、本物のビジネスモデルは当分先にならないと拝めそうもないですね。

しかし、そろそろ拝ませてもらえないと、タダでさえ安い料金で振り回されている我々デザイナーやイラストレーターは、更に安いレートを提示されそうで、その方が困った問題です。

しかし、某有名プロデューサーが国に対して「クールジャパンなら日本中のクリエイター達に、無報酬で協力して貰えばいい」とふざけた発言をしている状態ではお先真っ暗ですね。完全にクリエイター版ワーキングプワを国が推奨してどうするの? と突っ込みたくなります。

記憶に新しいところでは、天王寺区役所の「報酬無しのデザイナー募集」の件、企画立案者は既に辞表を提出していると激しく願いたいです。

とにかく、一度貼りついてしまったレッテルを剥がすのは大変です。「デザインなんてちょちょっと出来るでしょ」「イラストなんてササッと描けるでしょ」っていうレッテルです。

この状況を思うに、超有名デザイナーあるいはイラストレーターたちは、どうして後から続く若い才能を育てようとしなかったのだろうか感じています。保身なんでしょうか? そう勘ぐられても仕方がないですね。

有名女性政治家同士が犬猿の仲なのに、メディアに対しては「最高にいい友達」と言っているのと似ていますね。言っているコトとやっているコトが違いすぎる人が多すぎます。

ちなみに件の話は別に女性だからと言うワケではなく、男性の方がむしろ多いように感じます。調子のいい奴という意味で。あるいは上っ面だけの奴かな。近づかないのが一番ですね。もろんコレは、生身の付き合いが面倒だという話ではありません。

例えば、まだまだネットワークでのバーチャルなやりとりを揶揄する方達もいます。「やはりリアルな関係が交友には大切」......と。もちろんこれは一理あると思いますが、胡散臭い関係がリアルであるのなら、真面目なバーチャル関係の方が遙かに健全だと感じています。

既存概念が変化するために必要な時間の数十分の一しか与えられずに、俊足で変化する時代になってしまうと、そのスピードにしがみついているのがやっとですからね......普通は。

実際、リアルな関係でも胡散臭いことは山のようにあるわけです。人は過去の事柄や経験を美化してしまう動物です。どんなに嫌なことがあっても、時間と共に美化してしまう。だからリアルの方が絶対に正しいとなってしまうわけです。もちろん極論ですけれど、皆さんも案外思い当たることがあるのではないでしょうか。

昔、私も記憶が間違っていなければ、15年ぐらい前にネットで知り合った方と初めてお会いしたのは2年前でした。会う前も、そして会った後も関係は何も変わらず、今も良好に続いています。もっと長い時間を手紙やメールだけで続けていた例もあります。しかも言葉の通じない外国人です。そう考えると、コミュニケーションは本当に面白いと感じています。

もちろん、リアルな関係を否定しているわけではありません。リアルだからこそ余計に鼻つまみ者が気になるのかも知れません。バーチャルの世界での嫌な奴は問答無用でトラッシュですから、リアル世界よりも生存競争は厳しいわけです。

そう考えると、リアル世界の許容範囲の方が圧倒的に広いわけです。だから、無関係な人にまで影響が飛び火してしまうような気がしています。

もしかしたら、ほんの少しの会話で誤解や勘違いが解けていたかも知れない関係は本当に多いと思いますよ。それがやりやすいリアル世界は、それを心して実践しないと駄目なのだと感じています。パーチャルではそれが出来にくいわけですから......。

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■今月のお気に入りミュージックと映画

[Stairway to Heaven]by Led Zeppelin in 1971(U.K)

邦題『天国への階段』。ジミー・ペイジとロバート・プラントとによって作詞作曲された名曲中の名曲。まだまだ現役というか、突然聴きたくなってしまったというわけです。若い時に染みついた音楽は一生消えないですね。

[The Mechanic]by Simon West in 2011(U.S.A)

邦題『メカニック』。1972年のチャールズ・ブロンソン主演のアクション映画『メカニック』のリメイク作品。ジェイソン・ステイサム主演。時代とともにスターのイメージは変化しますが、チャールズ・ブロンソンもよかったけれど、やはりジェイソン・ステイサムのキレのあるアクションは、本人がスタントマンを使わない主義であることもあって素晴らしいの一言です。ストーリーはネタバレになので触れませんが、ラストまで本当に気が抜けない傑作だと感じています。

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■アップルストア銀座 5月20日(月)19時00分からのセッション

Hands on a Macとして画像処理セッション『海津ヨシノリの画像処理テクニック講座Vol.77』として、Photoshopによるフィルタ処理の可能性をハンズオンします。基本的な使い方をマスターしたら、是非覚えて頂きたいのが直感的な使い方。フィルタ処理は組み合わせと極端な設定により処理結果が激変します。

なお、ハンズオンセミナーは予約制で、申し込みに関してはAppleに一任しております。ちなみに2013年度に入ってからの傾向としては、偶数月に行っている公開セミナー終了後に申し込みをすることが定番化しています。

【海津ヨシノリ】グラフィックデザイナー/イラストレーター/写真家/怪しいお菓子研究家

yoshinori@kaizu.com
< http://www.kaizu.com
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< http://kaizu-blog.blogspot.com
>

facebookで知らない人からの友達申請は危険ですが、こちらが忘れている場合も当然あるわけです。以前話をしたように、一〜二度会った程度の関係で10年近くブランクがあったら、普通は忘れてしまいますからね。いちいち申請者のページを見ている暇もないわけです。

結果、メッセージのない人で誰だか解らない人は、保留にして忘れてしまいます。仮に共通の友達が複数いたとしても、私の対応に変化はないです。悪く思わないで下さい。細かい事を気にしていたら続けられませんから。

この問題はどこかで宣言しておかないと「あいつ無視した嫌な奴」とレッテルが付いてしまいますからね。こちらの問題じゃないのに。とにかくマナーなきリアル関係よりも、マナーのあるバーチャル関係の方が格段に優れているというわけです。


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■グラフィック薄氷大魔王[343]
特撮やCGに興ざめするとき

吉井 宏
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●リアル表現とお約束の間

どの映画とは書きませんけど、また予告編見てガッカリした。う〜ん、「特殊メイク」ってことをアピールする特殊メイクはいかがなものかと思います。特撮好きだけど、一目で作り物とわかる特殊メイクと、ワイヤーアクションは大嫌いなのだー。伝統芸能的お約束とか様式美とか言われても、納得したくないのだー。

ワイヤーアクション、なんで嫌いかというと、重力とか慣性が不自然に見えるから。放物線ってちょっとでも狂うとわかるじゃん! そのへん、不自然に見えないギリギリを狙うならいいけど、たいていめちゃくちゃに見えてそこで映像が台無しになる。

物理法則とか重さ表現の件で、僕が子供の頃から気になってしょうがないのが、ウルトラシリーズとかで、戦闘機などがあり得ない半径で進路を変えること。テグスで吊った天井を中心に回ってる感じ。スターウォーズの撮影はそのへんをクリアしてたから大好きになったわけだけど、「帝国の逆襲」でミレニアムファルコンがルークを救出しに行こうって、雲越しに反転するカット。あれはない! と思った。

基本的に、ああいう重そうな飛行物体はほぼ直線上にしか動かないようにしないとダメ。曲がる場合は、進路を変えるのがすごいしんどい感じで、どうにかムリヤリ曲がっているくらいにしないと。遠心力で中の人つぶれるし。

「スターシップ・トゥルーパーズ」のでかい宇宙船の描写は僕的に満点! ちゃんと重いし、方向変えるの大変ってところ。なんであんなに艦隊が密集してるの? ってのはおいといて。

重心や慣性や放物線とかって、CGアニメ見ててもすごい気になる。そこが不自然な箇所があると、ハッと我に帰らされちゃう。キャラクターの重心がどこにあるか? 立ち止まるときの慣性の殺し方とか。自分で動きつけるときもそこが一番重要と思う。あんなリアルに作った「タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密」も、派手なアクションの遠景で人が不自然な落ち方してるところが引っかかって、印象に残っちゃってる。

特撮で重力が変っての気になり始めたのって、幼稚園くらいかも。あんなでかい怪獣があんなに速く動いたら重量感ないじゃん! とか思ってた。あと、4年生くらいから戦艦とかのプラモが流行ってたけど、水に浮かべて動かしても本物みたいな波ができない。洗剤の泡とかでも白い航跡を作るのは無理だし、水しぶき自体が船のプラモに対してでかすぎる。同様に、「ミクロの決死圏」で目頭から救出するシーンで、足元バシャバシャ細かい水しぶきがすごい変だと思った。

そのへんの描写の不自然さに気がついて以来、特撮怪獣もロボットアニメもほとんど興味なくなっちゃった。仮面ライダーは等身大だから大丈夫だったんだけどw でも高く飛び上がってのライダーキックは、飛び上がった瞬間に着地(つまり怪人にキック)の位置は決まってるわけだから、よけるの簡単なんだよね〜。

一寸法師的小人やダイダラボッチ的巨人の描写もずっと引っかかってた。声の高低もあるし。まあ、そのへんを「お約束」として処理できない性格は、何か問題あるんだろうw

●ウナギイヌの正しい表現とは?

ウナギイヌが出てくるCMあるじゃん? 最初に見た「掃除機篇」はピンと来なかったけど2本目の「ギター篇」は色や質感がなじんでてなかなかイイ。CMはこれでいいんだけど、現実世界にCGキャラを登場させる系の映像で、いつも感じる不満がある。
< http://home.tokyo-gas.co.jp/enefarm_special/cm/guitar.html
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人間とデフォルメキャラがいっしょに写る違和感。人物も赤塚キャラ的デフォルメになってるとか、全部作り物感があれば大丈夫なんだけど、実写の人間ってことは、人物に関しては究極のリアル表現がされてるってことで、他のモノをそれに合わせるのは大変。そのへん違和感なく成功してる映像ってほとんど見たことないな。

実写の人物を優先するのだったら、そのへん、映画「ヤッターマン」のときに寺田克也氏が言ってたアレをしなきゃいかんと思う。「キャラがマンガになったときのデフォルメや、何が省略されたか検証し、現実寄りにもどしてやる必要がある」ってこと。ある程度は、だろうけどね。

っていうか、30年前に大友克洋がバラエティ誌の連載に描いていた「リアルウナギイヌ」が頭に残ってるので、どうしても頭に浮かんじゃうのだw
< http://www.mandarake.co.jp/information/2009/08/29/21nkn12/
>

【吉井 宏/イラストレーター】
HP < http://www.yoshii.com
>
Blog < http://yoshii-blog.blogspot.com/
>

GWはいよいよ立体制作三昧! しかしそれほど楽しめそうにないのが惜しい。展覧会用作品なんだけど、制作スタートする前から締切ギリギリってわかってるから。とにかく間に合わせるのに精一杯。試作も失敗もできない一発勝負! インダストリアルクレイ、しこたま買い込んだぞっ。

・iPhone/iPadアプリ「REAL STEELPAN」ver.2.0がリリースされました。
REAL STEELPAN < http://bit.ly/9aC0XV
>
・「ヤンス!ガンス!」DVD発売中
amazonのDVD詳細 < http://amzn.to/bsTAcb
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■ローマでMANGA[63]
ユーリからヨーリへ

midori
< https://bn.dgcr.com/archives/20130424140100.html
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講談社のモーニング編集部が日本人以外の作家の作品を掲載した90年代のほぼ10年間、作家の国籍はU.S.A.、カナダ、中国、韓国、ドイツ、フランス、スペイン、イタリアと多岐にわたった。

最初に掲載になったアメリカで見つけた作家はほぼ素人、マンガがあまり盛んでないドイツからの参加作家も素人っぽかった。ヨーロッパのコミックス王国フランスの参加者はプロで、さすがと思われる作品が多かった。毎年一度、南フランスのアングレームで開かれるコミックスフェアに編集長が行って、直接この企画の参加者を募って一人一人面接をしたこともあるけれど、底辺が広いと思わざるを得ない。参加作家が一番多い国がフランスだった。日本語を話すフランス人編集者がいたことも、話がスムーズに進んだ理由かもしれない。

スムーズと言っても、作品の企画段階から参加するのが通常業務の日本の編集部と、一人で作業が普通のフランス人作家の間でわかりあえない事は多々あったらしい。

我らがイタリア人作家は、前回まで主人公だったイゴルトを始め4人いて4人とも、編集部とやり取りをしながら進めていく作業形態を面白がっていた。

今回からその一人、マルチェッロ・ヨーリが主人公になる。イゴルトの子供宇宙飛行士「ユーリ」の次だからヨーリとふざけたわけではなくて、こういう名字なのだ。

アルファベットではJORIと書き、イタリア語にはない「J」の文字をつかった珍しい名字だ。イゴルトも本名をIGORといい、スラブ系の名前だ。イタリアの漫画家には妙な名前が多いと言うわけではないのだけど、地理的にも歴史的にもあちこちつながりのあるヨーロッパだから//。

ヨーリは北イタリアのメラーノというオーストリアとの国境に近い街の出身で、もともとこのへんはオーストリアから割譲された南チロルの町だそうなので、オーストリア系の名字だと想像できる。< http://bit.ly/17sT1Aw
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名前のマルチェッロ、この「チェッロ」の吃音が日本人の感覚としては余計で「マルチェロ」と発音したいところだろうけど、本国ではこういう発音なのでそのまま行く。

マルチェロというと「マストロヤンニ」と連想する人があるかもしれない(マストロヤンニさんも本国では「マルチェッロ)」。イタリアを始め、キリスト教文化圏では聖人の名前をつけるのが普通なので、名前の種類がそうたくさんない。クラス内や事務所内で同名が重なるのは普通だ。

英語圏のジョージさんはイタリアではジョルジョでフランスではジョルジュ、スペインではホルヘとなる。我が息子のイタリア名はダニエレで、日本名は大右(だいすけ)とつけた。日本名も「だ」で始まるので「ダニエレは日本語でダイスケなの?」とよく聞かれる。

そういうわけでマルチェッロ・ヨーリだ。
< http://www.marcellojori.it/
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ヨーリは漫画家で画家。最近では家庭用品アレッシのデザインもしている。
< http://www.alessi.com/en/1/316/marcello-jori
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学生とアーチストの街、ボローニャに住んでいる。ここでサルデーニャ出身のイゴルトと知り合い、70年代の新コミックス運動「バルボリーネ」にイゴルトと共に参加した。真面目なイゴルトとおちゃらけな(本人は真面目なのだけど)ヨーリは気が合って、よくつるんでいてイゴルトから講談社での仕事の話を聞いて、んじゃ、僕も、とコンタクトを取ってきた。

●「マルチェッロ・ヨーリの冒険」

オトモダチのイゴルトによると、ヨーリは「幸運が服を着て歩いている」ということになる。例えば、知らない人の車の屋根に財布を置いたまま忘れて家に帰ってしまった。財布がまるごと戻ったばかりか、車の持ち主で財布を届けてくれた人が「あなたのファンなんです」と言って絵を買ってくれたとか。

イタリアで失くした財布が中身ごと戻ってくるのが珍しいところへ持ってきて、拾った人がファンで絵が売れちゃった、とイゴルトは呆れ返っていた。

マルチェッロのテーマは自分自身だそうで、自分を主人公にした話を持ってきた。自分を主人公にするといっても、自伝的なものではなく摩訶不思議な世界を旅行する主人公を自分にした物語。「マルチェッロ・ヨーリの冒険」なのだ。あ、作品のタイトルは「不思議な世界旅行」。自分のアートの一環で、色々な表現方法で展開するのだと言っていた。

ヨーリは卓越した水彩絵具使いで、この作品も水彩で描くことになった。カラーだから「ユーリ」と同じように各話8ページ。週刊誌に用意できるカラーページは最高16ページで、この16ページを一人の作家に与えることは稀だ。というか、そういう例があったのだろうか?

物語はヨーリの寝室から始まる。ベッドに入って連れ合いと事に励んでいると空中に目が現れる。そして謎の男が現われ、ヨーリはその男について不思議な世界旅行に出発することになる。

男のモーターボートでモビーディックに会いに行く。白鯨ではなくて赤い鮫だ。それから空飛ぶエイに乗って島へ行き、鳥軍と空中戦を戦い、ヒトの木(人間が樹の実として枝にぶら下がっている)と話し、死神と戦う。と、このように前後の脈絡がないままヨーリの旅が続く。

コマ割りは1ページに付き、時には8コマ、時には大ゴマひとつと自由自在に変化する。顔の表情は日本のMANGAほど顕著ではなく、リアルな表現。多分写真を参考にしながら描いていると思う。

表情は止まってて、コマからコマへの流れがない。それがコラージュのような独特な雰囲気を出していて、不思議なモノ達との交流がリアルに感じる効果を生んでいる。

これを書きながら、「不思議な世界旅行」の原稿のカラー写真を見ている。それでいまさら気がついたのだけれど、各話ごとに「支配色」がある。8ページ全体に共通の色味がある。アーチストだから計算しているのだろうね。

編集者とヨーリのやり取りは、ヨーリの性格を反映して、いつも穏やかに事が進んだ。編集者もイゴルトに対するほど厳しいことは言わなかったと記憶している。ヨーリもイゴルトのようにうるさいことは言わなかった。

次回から、編集者とヨーリのやり取りファックスを発掘して、作業経過の詳細に臨む。

【みどり】midorigo@mac.com

やっと本気でMANGA構築法をイタリアに伝えようという心境になりましたよ。今までも嘘だったわけではないのだけれど、話せば長くなるからお話しない心癖によって、気概がふっと抜けてしまって、別のことを始めてしまう。

生活費に必要だった観光ガイドの仕事が、ここ数か月全くといっていいほどなくなってしまった。で、なんとかしなくちゃと思いつつ、では、皿洗いとかベビーシッターとかやるのか? と考えたのだった。

ここまでは前も考えて、私の知識を社会に還元するの役目という考えに至ったのだけど、気概がふっと抜けてしまうのだった。

学校でMANGAマスター・コースを作る話をして校長もいいねと言っていた。でも、その後なんの音沙汰もない。やっと、向こうからなにか言ってくるのを待つのではなく、私が動かなくちゃだめじゃんということに気がついたのだった。

改めて企画書を書いて校長に提出。それがきっかけになったかのように、昨年出発と言ってて中止になったナポリ校での「MANGAテクニック」コースが、次の学年度(10月)から出発することになって、女性を扱うジャーナリストからウエブ雑誌に乗せるインタビューの申し込みがあったりして、何度か目の何かが動き出す感じを受けているここ数日です。

あ、企画書は校長も気にいってくれました。さらに煮詰めなくては。あちらこちらに移り気になる癖を諌めて、MANGA構築法に集中します!!! そうそう、この覚悟を庇護するかのように、6日間のガイド仕事の依頼がキャンセルになりました。お陰でMANGAセミナーを休まなくて済みます。

主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
< http://midoroma.blog87.fc2.com/
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編集後記(04/24)

●毎朝の一番の楽しみは読売新聞の「編集手帳」を読むことだ。集合ポストから新聞を取り出し、わが部屋に戻るまでの10数秒さえ待ちきれず、読みながら歩く。食卓でフジパン本仕込みを食べながらじっくり読む。この看板コラムを11年も書いているのが、当代随一の名文家・竹内政明氏である。「『編集手帳』の文章術」(文春新書、2013)は、この名人が文字数の制限されたコラムの執筆で、苦労しながら体得した独自の文章術を公開したものである。

文章の書き方については、かつて向井敏「文章読本」にものすごく感動したものの、すっかり内容を忘れ(嗚呼、読み返さなくては)、最近では野口悠紀雄「『超』文章法」こそ最高のノウハウ書であると断定したものの、すっかり内容を忘れ(嗚呼、読み返さなくては)、なのであった。今度こそ竹内政明スタイルを盗み取ろうと読み始めたら、たちまち付箋だらけだ。小学生の「辞書引き学習」みたいだ。笑ってためになる、まさに前代未聞の文章読本である。

まずは「私の『文章十戒』」で恐れ入る。文章を書くときに自分に言い聞かせているルールのご披露、これはすばらしい。コラム書きを目指すわけではないが、これはすごく役に立つ。文章の「構成」についてもそうだ。また、筆者にとっての「出入り禁止」の言葉たち。嫌いな言葉や虫酸の走る言い回しを並べている。ただし言葉狩りにあらず。

<......する機会があった/ちょっと待って欲しい/......と言っても過言ではない/就活/意気投合した/こだわる/売り/定番/なあに/合掌。/立ち上げる/説明責任/上から目線/アイデンティティ/ぱくつく/癒し/絆> どこがどういけないのか、それぞれの罪状が書き出されていて、まったくその通りだと思う。

手垢がついた陳腐な言い回しの東の横綱は「ちょっと待って欲しい」、西の横綱は「ここに一枚の写真がある」ではないかという。これ、今も朝日新聞でよく使われているような気がする。格言やことわざが使われていたら出来の悪いコラムだと見当をつけて、まず外れはないらしい。これも朝日新聞に......。付録に「うまい表現」「気の利いた言い回し」コレクション。人生で一度は使いたい表現がいくつか。こことは別の章にあった感動的な表現、「妻を憎んで、人妻を憎まず。」うまい、うま過ぎる。(柴田)

< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4166608967/dgcrcom-22/
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「編集手帳」の文章術


●大阪マラソンのチャレンジランに申し込んだ。去年は落選。今年はどうなるか? 6月上旬に結果が届く。

大阪マラソン公式アプリのバナーを見た。『ハシログ』。橋下さんの何か? と素で思ってしまった。いえいえ、走る、でした。トレーニングを記録するためのアプリ。走行マップ・記録・計測・FacebookとTwitter連携に加え、今走っている距離がわかる音声読み上げ機能があるんだって。距離に応じたアドバイスまであるらしい。もちろん無料。(hammer.mule)

< http://www.osaka-marathon.com/
> サイドナビの下に「ハシログ」バナー
< https://marathon.eonet.jp/
>  ハシログ