歌う田舎者[44]庶民的非業の死
── もみのこゆきと ──

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インドから連絡が来ない。いったいどうしたというのだ。

先日、ニューデリーに住む高校時代の友人N子からメールがあった。現地に大変人気がある星占い師がいるらしく、多くの在住日本人が占ってもらっているという。

N子は「東南方向へ引っ越しするであろう」といわれ、本当に東南方向へ引っ越しになったというのである。小学生の長男は、将来エンジニアになるといわれているようだ。

「来週の月曜日、その占い師さんが来るから、もみちゃんのも聞いとくよ」ということで、生年月日・出生地・出生時間を連絡して、わくわくそわそわと結果連絡を待っていたのだが、それ以来ぷっつりと連絡が来ない。

常日頃「占いなんてものはな、女子供がひっかかるインチキみたいなもんじゃねぇか。けっ。しゃらくせえ」などと嘯いているくせに、人生が不安になってくると、なけなしの金をひっつかんで占い師のもとに走っているのはわたしである。

これまでの占いで、どのようなご宣託があったかを思い返してみる。薩摩藩には「天文館の母」と呼ばれる有名な占い師がいるのだが、20年前に母はこう言った。「あなたは6人の親を見なければなりません」「えっ!」




つまり自分の親と最初に結婚した相手の親、次に結婚した相手の親、6人の面倒を見なければならんということなのである。

しかし、あれから20年経っても、まだ一度目の結婚が来ない。どうしたことか。やはりこれからソッコーで大金持ちの爺さんと結婚して、爺さんがあの世に旅立ったあと、若いツバメと再婚するということか。

いや待て。死にそうな爺さんの親が、両親ともに健在という設定はなかなか難しいのではないか。ひょっとすると結婚する相手は爺さんではなく、そこそこの若者で、結婚した途端に車に轢かれて死ぬのか。......謎だ。

システムエンジニアを辞めて、再就職先3択で悩んでいた8年前は、とある山深い地方に住む占い師のところに赴いた。たどりついたのは竹藪に囲まれた古びた庵である。

占い師の婆さまはおだやかな顔で「その会社名を短冊に書いてください」といった。社名が書かれた三枚の短冊を見つめつつ、何やら祈りをささげはじめたが、突然しわがれた男のような声でおどろおどろしく叫んだ。

「腐っておる、腐っておるぞ〜〜〜!!」な、な、なんですか、何が腐ってるんですか、イタコですか、あなた。♪潮来〜の〜伊〜太郎〜ちょっと見な〜れば〜♪ あ、こっちじゃない、こっちじゃないのね。こりゃまた失礼いたしました〜。

3枚の短冊の匂いを嗅ぎまわり、その中から一枚の短冊を取り上げた。地の底から響くような声で「ここはダメだ。行ってはならぬ」と、ご宣託くだされた。もう一枚の短冊は鼻でフフンと笑い飛ばし、そして最後の一枚を見つめ「ここしかあるまいて」とつぶやいたのである。

ちなみに結果的に三枚目のところに就職したのだが、潮来の伊太郎......じゃなくてイタコの婆さまの言うことを聞いたというよりも、三枚目だけが正社員(正職員)だったからである。

そして、その職場を辞めようかと悩んでいた昨年は、ネットの知り合いが絶賛していた大阪のタロット占い師に電話した。

「退職しようかと悩んでるんですけど、このご時世で食っていけるでしょうか」電話口でカードをめくる音がする。「......今の状況は、まるで松葉杖をついて歩いているような状態です。辞めて大丈夫ですよ」「そうですか! じゃ、辞めたあとの仕事はどうなるんでしょう」「......正社員とか正職員という目はなさそうです」「えぇぇぇぇ! わしゃどうすればいいんかいっ!」「でも食べてはいけます」

意味がわかりません。意味がわかりませんけどっ。そしてそのご宣託が当たったままの状態が今である。いや、当たっているのは「正社員とか正職員という目はなさそうです」の方であって、「食べてはいけます」の方はそろそろ微妙である。

そんなわけで、わたしは今後どうやって食っていけばいいのか、マリアナ海溝よりも深く悩んでいるのだ。それなのにインド人よ、いったいどうした!

そうだ、きっと悪い結果だったのだ。だから連絡できないのに違いない。きっと「お気の毒に......この方は近々非業の死を遂げる運命でございます」とかなんとか言われたのだ。「こんなこと、もみちゃんには言えないわ......」ニューデリーの片隅で、さめざめと泣き崩れるN子の姿が目に浮かぶ。

インド人ウソつかない。いや、それはインディアンだった。インド人もびっくり。そんな非業の死ってどんな死に方だ。あぁ、気になる。

神の啓示を受けてイングランドから薩摩藩を解放するも、異端認定を受けて火刑に処されてしまうのか。それとも「パンがなければさつま揚げを食べればいいのに」と言ったばかりに、断頭台の露と消えるのか。

いやいや、わたしは聖処女でもハプスブルク家の血を引いているわけでもないぞ。もっとフツーの、庶民的な非業の死ってのがあるはずだ。

もしやこのままぶくぶくと太り続け、東の窓から右手を出し、西の玄関から左手を出したまま家から出られなくなり、お肉に埋もれて死んでしまうのか。

それとも、いよいよ食料品を買う金に事欠いて痩せ細り、トイレに入ったら便器にズボッとお尻がはまりこんで出られなくなったまま餓死してしまうのか。おーまいがーーーっ。かわいそうなわたし。

すいません。そういうわけで、わたくし非業の死を遂げることになりました。みなさまからのご香典、絶賛受付中です。分割払いも可能。もっともお得な一括前払いをご利用のお客様には、景品として熱い抱擁・熱いベーゼなど差し上げたいと思います。

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※「潮来笠」橋幸夫
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※「インド人もびっくり」昔のカレーCM
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【もみのこ ゆきと】qkjgq410(a)yahoo.co.jp

紙で推敲していない作文を、人様の目に晒したことは一度もない。昨年辞めた職場では情報誌的なものも作っていて、取材原稿を書いてレイアウトして......などということをしていたのだが、当然紙で出力したものを起案して、上司の印鑑をばかすか押してもらったあと、やっと発行するわけである。

なーんの役にも立たない「歌う田舎者」ですら、数回印刷して赤入れて、環境変えてどこぞのカフェで再確認してから出していたのである。

嗚呼それなのに、どうやらプリンタが壊れてしまったようなのだ。紙詰まりのエラーメッセージが出るのだが、どこをどうひっくりかえしても詰まった紙が見つからない。スキャナ機能は生きているのだが、ここ半年ほど調子が悪かったので、そろそろご臨終間近か。いや、しかし印刷チェックしてない原稿なんて、恐ろしくて人様に見せるわけにはいかぬ。

というわけで、近所の○マダ電機にプリンタ担いで駆け込んだのが4/24である。ところが○マダ電機いわく「今、3名ほどお待ちなので、そのあとになります。お時間がどのくらいかかるかわかりません」「あ、そうですか。じゃ、2〜3時間したら戻ってきます」「あ、そうなりますと、また最後尾になりますので」

は? 最後尾って......それって、ここでずーーーっと待ってないと、自分の順番は回ってこないってことですか? マジで? 最悪、丸一日暇な日を作って行かないと修理できないかもってことですよね。キーーーーーッ!

いや、しかしいつ何時も小心者なわたくしでございますから、「あぁぁぁぁ、そうですか。仕方ないですねぇぇぇ。じゃあ、今日は時間がないのでいいです」と肩を落として帰ったわけである。

わけであるのだが、「最後尾ってなんなんだよ、いったいっ! デジクリの原稿がまだ出来てねぇんだよ! どーしてくれんだ!」と腹が立ってきたので、帰りにスーパーに寄った。腹が立ったらチョコレートである。森永エンゼルパイである。

しかし近所の○形屋ストアにはエンゼルパイがなかった。あるのはロッテのチョコパイ、しかも9個入りの大袋である。「なんでエンゼルパイがないんだよっ! しかも9個入りって、そんなん喰ったらますます太るだろうが!」と、心の中で罵詈雑言を吐きまくったものの、仕方がないのでチョコパイでなんとか怒りを鎮めた次第である。もぐもぐ。

そういうわけで、この原稿は印刷した状態で一回もチェックしていない。悪いのは○マダ電機である。ぎりぎりまで原稿書いていなかったわたしが悪いのではない。そういうことにしとく。

ところで、♪インドの山奥で 修行して♪で始まるレイボーマンの歌の替え歌は、「インドの山奥出っ歯のおじさん」が全国的にデフォルトかと思っていたら、どうもそうではないらしい。知らなかった。薩摩藩ではこうだった。

♪インドの山奥 出っ歯のおじさん 骸骨食べて 死んじゃっ卵焼
♪○ンタマぶらぶら ジャングルパークは楽しい じゃんけんぽん!
※「レインボーマン」
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