Otaku ワールドへようこそ![174]半導体関連の国際学会の宴会を盛り上げてきた
── GrowHair ──

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半導体に関連する、ある技術分野をテーマとした国際学会が今月、横浜で開かれた。アメリカ、フランス、ドイツ、韓国、台湾などの国々(&地域)からトップクラスの研究者・技術者が集い、最先端の技術について発表しあった。

私は一年ほど前から半導体を離れ、今はただの変態と化しているが、昔のご縁で宴会盛り上げ役に一枚かませていただける話になっていた。セーラー服を着て、アイドルグループを引き連れて、乗り込んでいった。日本の最先端の文化を海外からのお客様にご覧いただくことができ、たいへんな好評を博することができた。




●ほんとはうだつの上がらないサラリーマン

私は写真を撮って展示する活動をしている関係上、趣味で撮ってますと言うわけにもいかないので、いちおう写真家を名乗っている。けれど、実のところ、それで食えているわけではなく、本業はごく普通のサラリーマンである。

'88年に入社し、最初は画像処理技術の研究開発部門にいたのだが、'98年ごろだったか、半導体関連部門に異動になった。あのころは、「斜陽産業に左遷されちゃったよ」なんて冗談で言えるくらい絶好調の部門だった。今、うっかり口すべらせてそんなこと言おうものなら、ただでさえ寒々とした空気が、一気に、バナナで釘が打てそうなくらいまで冷え込むであろう。

昨年の2月、過去の栄華を誇るその楽園を私は追放された。さしたる働きもなかったものだから、どんな辺鄙な片田舎の閑職に回されてもおかしくはなかったのだが、どんな温情と期待がかけられたのか、元に近い部門に戻していただけた。

そのご恩に報いるためにも、今の部署では、ちょっとばかりがんばらねば。ケバヤシが来ると部署が傾く、なんて貧乏神みたく言われても困るし。とは言え、一年もいると、仕事がデキないのが周囲にバレてくるし、やっぱり成果がぱっとしないし、で、首のあたりがすーすーする今日このごろである。

ところで、桜が葉っぱになり、つつじが咲き始めるころ、毎年恒例の半導体関連の国際学会が横浜で開かれる。この学会は、私が去年までいたほうの部署とつながりが深い。守備範囲である技術分野が一致する上に、当時まで私の上司の上司の上司の上司の上司の上司であったH氏は、学会の運営に関わっている。

この学会では、バンケット(banquet)と呼ばれる宴会が催されるのが恒例となっている。H氏は、ここ数年、毎年ジョーク映像を制作し、バンケットで上映して場を盛り上げている。社会的に地位の高い人はたいてい多忙な日々を送っているものだが、H氏だって例外ではない。日本を留守にする日も多い。

映像の収録と編集にはたいへんな手間隙がかかるはずだが、H氏は、それをいとわず、多忙な業務の合間に面白い映像を毎年作り続けて、今回が 8回目である。ご参加の面々に笑っていただいて場を盛り上げたいという献身的な精神もさることながら、震災からの復興状況など、日本の今の姿を海外の方々にお伝えし、人々の結びつきを深め、ひいては世界平和に貢献したいという高尚な志もあってのことである。

役者は社内外の関係者を起用する。間に合わせのキャストであるからして、たいていはどちらかといえば大根方面に属する役者なわけで、そこがまた面白い。私は過去に2回、サムライ、というか、浪人役で出た。メイクなど必要なく、着流し姿になっただけ。これで立派な落ち武者の出来上がり。「社内浪人でござる。どなたか仕事をくださらぬか」って、いやいや違いますって、それじゃリアルだ。

事業のよりどころとしている技術を、陳腐化させてしまいかねない新技術開拓を目指して最先端の研究にいそしんでいる研究者を、斬っちゃう役だ。斬られ役は社外の方で、こんなジョークにつきあってくれちゃうあたり、シャレの分かる方でもあり、また、H氏の人徳によるところも大きい。

私は、その学会で発表したことはない。なので、映像にだけ出てくる浪人として、業界内で認知されているようだ。「あの人は社外から起用した本職の役者さん?」とH氏は聞かれたそうである。「いえいえ部下ですが」と答えて、たいへん驚かれたそうである。社内浪人でござる。

その部署を離れてしまった私であるが、'13年も出てくれませんが、とH氏からオファーがあった。去年の10月のことである。ちょうどアイドルグループのプロモーションの機会を求めていたので、ダメモトで言ってみた。「アイドルも一緒にいかがですか?」と。

●サムライとセーラー服とアイドルと

1月13日(日)、アイドルグループとの顔合わせ、および打合せのため、H氏は下北沢に来てくださった。芸能事務所、兼、音楽スタジオである。私は、H氏と奥井氏が目の前にいるという状態を、非常に妙な気分で受け止めていた。

私にとって仕事モードと週末モードは、完全に分離したふたつの別世界。ぜ〜ったいに接点をもつことはありえないと思っていた。お互いに乗り気で、話はどんどん進んでいった。

15分の映像に、アイドルグループと私が出ることに。私は、サムライとセーラー服で。会社の看板を背負って、セーラー服姿で業界の面々の前に姿を現す、初の機会となる。H氏、思い切った決断をなさる。

さらに、映像の上映に引き続き、本人たちの生出演。あの学会に、中学生アイドルたちを呼んじゃおう、って話だ。しかも、私は、セーラー服姿をナマでさらしちゃおう、と。いやぁ、いいんですか?

アイドルグループが登場するシナリオをH氏が練ってくださることに。それにしたがい、2月16日(土)に、最初の収録。このときは、アイドル抜きで、私だけ。H氏と、11:00amに秋葉原駅改札口で待ち合わせ。私は、ウチからサムライの姿で。

襦袢に着物に地下足袋。手には巾着。腰には刀、......ではなく「カサナ」。つかの部分はどう見ても刀なのだが、身の部分は傘なのである。銃刀法違反の嫌疑をかけられた場合に「いやいや傘ですがなにか?」と切り返せる小道具である。H氏は私の姿に「ウチから着てきたの?」とずいぶん驚いていたが、セーラー服に比べれば、人々の反応はマイルドだったような気がする。

3月17日(日)、アイドルグループとともに、下北沢にて収録。音楽スタジオの近くにある写真撮影スタジオを借りて。アイドルグループは、ステージ用の衣装。私は、サムライで行って、前半を収録した後、セーラー服に着替えて後半の収録。

その後、ついでに小田急線、下北沢駅近くの踏み切りの前でも撮影。私がセーラー服姿で、アイドル3人がステージ衣装で、一緒に歩いていると、けっこう目立つようである。この日は、小田急線が地下に埋まる前の、最後の週末。鉄ヲタな人たちが熱心に写真を撮っている。その鉄ヲタたちのカメラでさえ、こっちへ向けられた。

3月27日(水)の早朝、元の職場の近くの公園で、元の職場の同僚たちと、収録。私はサムライ姿で。満開の桜の下、職場から起用したキャストが勢ぞろいするのが、毎年の恒例のようになっている。例年より早く咲くとのことで、その日までもつかどうか、やきもきしたが、結局もったのはいいとして、けっこう寒い日で、あんまり散らなかった。風が吹いても桜吹雪とはならず、枝にくっついたまま。

これにて収録、終了。その後は当日のナマ出演に向けた、練習だ。とは言え、3月後半から4月にかけて、ライブの出演やメディアからの取材が立て込んで、なかなか集中できない日々であった。ライブ出演の話は割と直前に来ることが多いため、すぐ目先のステージの準備に注力せざるを得ず、その先のことには気が回らない状態が続いた。

去年、ももクロがフランスで公演したときは、メンバーが一言ずつフランス語で台詞を覚えてきて、何かしゃべっていた。お世辞にも上手い発音とは言えず、内容が伝わったのかさえ定かではないが、よくここまでがんばったと非常に好意的に受け止められていた。われわれも、国際学会の公用語は英語であるから、自己紹介ぐらいは英語で行きたい。

......と思ってたのだが、英語の原稿をメンバーに渡せたのは、本チャンの3日前に赤坂で行われた公演の終了直後であった。これじゃ、覚える暇、ないよね、ごめん。

●メンバーたちの感想「楽しかった」

当日、学会の基調講演でしゃべったのはH氏。業界の顔なのである。学会が進行している部屋の隣の部屋ではバンケットの準備が進行していた。

控室でメイクしている間、メンバーたちはそうとう緊張しているようであった。まあ、大きなイベントだし、いつもの公演とは、客層がだいぶ違いますからなぁ。でも、笑いながら「あー緊張するー」とか言ってる程度なんで、まあ、なんとかなるでしょう。

私はかつて、この学会を聴講したことがある。聴講者の約3分の1が外国人という場で、英語で発表する日本人たちの緊張ぶりは相当であった。世界のトップクラスの切れ者たちが集って形成されるあの空気には、やっぱ大人でも圧倒されるよね。

私は、今回は聴講しない。すでに業界を離れているから、っていうのもさることながら、そういう格好で来ていないので。それにしても、この学会に、ウチからセーラー服を着て来る日がいつか来ることになろうとは、まったく思いもよらぬことであり、人生のズッコケっぷりが尋常じゃないなぁ。

バンケットには、200人ほどが集まった。聞くところによると、学会発表は聴講しないのに、バンケットだけ参加を申し込んだ方が今回は15名ほどいらしたそうで、異例のことらしい。なんか、今年の出し物はすごいらしいぞ、と噂が流れたとか。

主催者は、われわれの出番を最後に持ってきたかったらしいが、なにしろメンバーたちは中学生なので、遅くまではいられない。という事情により、トップバッターにしてもらった。

メンバーの一人であるサエは、長野に住んでいて、ほぼ毎週末、東京に通ってくる。学会前後のサエの動きがすさまじかった。土曜は公演で赤坂、日曜は学会のバンケットの練習で下北沢、月曜は普通に学校で長野、火曜は学会のバンケット本番で横浜、水曜は修学旅行で奈良、木、金曜も修学旅行で京都、土曜は長野、日曜は2つのメディア様からの取材で下北沢。

H氏の制作した映像の流れる15分間、われわれはついたての陰で待機する。メンバーのご家族の方々は、先に入って見守っている。H氏は、東北の震災からちょうど2年目の日に、みずから陸前高田に行き、映像を収録してきている。

さらに、社内外の業界人たちに、『花は咲く』を一節ずつ歌ってもらっている。海外出張の多いH氏は、その都度、飲み会のときなどを利用して収録していた。その数40人ほど。映像では歌を2回まわして、やっと全員が収まっている。

映像の最後は、ジョークでキメる。主役は私。秋葉原を闊歩するサムライ。悩んでいる顔。ふと横を見ると、大きなスクリーンにアイドルの映像が流れている。「ぽんっ! これだっ!」。停滞気味の半導体業界をよみがえらせる決め手は、やっぱりアイドルだっ!

サムライは、セーラー服姿のおっさんに変身! ヒゲは三つ編みにピンクのリボン。周囲から駆け寄ってきたアイドルたちに囲まれてポーズ! 映像が終了してもどよめきの収まらぬ中、本人たち、登場。

満面のいい笑顔と、パキパキしたキレのいい動きとで、空気を一気に華やいだムードにしてくれた。一番年下にみられることの多いアカリンは、屈託のない笑顔がいい。一番背が高いけど実は一番年下のミッシェルは、アメリカ人と日本人のハーフで、表情がモデルっぽい。大きな拍手で迎えられる。オリジナル曲を2曲、披露した。

それから、会場のお客さんたちも一緒に全員で『花は咲く』の大合唱。ピアノ伴奏はサエ。スクリーンには、日本語とローマ字で歌詞が表示され、海外からの方々もがんばって歌ってくださっている。

大きな拍手に包まれて、ステージを降りた。これはうまくいったと言っていいだろう。後で聞くと評判は上々とのことで、H氏もたいへん喜んでおられた。ちょっとした達成感。メンバーたちに感想を聞くと、みんな一様に楽しかった、と。登場するまでは、緊張するー、とか言ってたのに、登場してからは、ちっともビビることなく、持ち前の明るさを振りまいてたもんなぁ。

駅へ戻る途中、明日を作る技術のあの会社の方が声をかけてくださった。かつて、定期的に会社におじゃまして、ディスカッションのミーティングに参加していて、いつも顔を合わせていた方である。すごーく久しぶりにお目にかかります。その節はたいへんお世話になりました。......なんて言ってる私の姿がセーラー服なのが、ちょっと気まずかったり。

あらためて、会社の看板を背負ってわれわれを起用してくださったH氏の決断は、突拍子もなく大胆だったのだなぁと思う。ああ、楽しかった、っと。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
セーラー服仙人カメコ。アイデンティティ拡散。

4月21日(日)には、「ITMedia ねとらぼ」様が、下北沢まで取材に来てくださった。芸能事務所、兼、音楽スタジオにて、アイドルグループのメンバーと雁首そろえてインタビューを受ける。ま、取材の主な対象は私なんだけどね。

女装の原点について聞かれ、振り返ってみれば、小学生時代にスカートめくりばっかしてて、罰としてクラスのみんなの前でスカートを履かされたけど、あれがちっとも罰になってなかった、アレがそもそもの始まりだったかな? なんて答えたら、メンバーたちが思いっきりヒイてた。

2日後には記事になってアップされてる、ネットメディアのスピード感に驚き。ま、私も当日書いた原稿が配信されてるわけだけど、これはスピード感じゃなくて、書くのが遅いだけです。すみません。
< http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1304/23/news042.html
>

これがlivedoorニュースやアメーバニュースやmixiニュースにも転載されて、けっこう広まったかも。

さらに、この記事の一部等、あちこちから情報を拾い集めてきて、英語で記事を書いてくれた人がいる。アップされてからわずか一日で4万アクセスとか。コメントもいっぱいついてるし。グローバル化するワタシ。
< http://kotaku.com/this-is-just-a-middle-aged-man-dressed-as-a-japanese-sc-479226302
>

4月27日(土)、赤坂で開かれるイベントに出ます。
『ウタ娘定期ライブ4月27日・昼の部』
会場:赤坂GENKI劇場、開場:10:30、開演:11:00、出演:11:10
チケット 前売3000円/当日3500円(別途ドリンク500円)
< http://www.uta-musume.com/Entry/31/
>