3Dプリンタ奮闘記[11]3Dプリンタ「実践篇」その1
── 織田隆治 ──

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さて、3Dプリンタの私なりの活用について書いて来た訳だが、もう少し具体的な事例を上げてみようと思う。

昨年の晩秋、とある依頼が入ってきた。それは、いつも仲良くして頂いている会社の社長さんから、あるロボットの外装部品を作ってくれ、との依頼の連絡だった。

「ロボット! おお! それは凄い! 男の子の夢とロマンの詰まったお仕事じゃないか!」

と、はやる気持ちを押さえつつ、色々とお話を聞いてみると、製作期間が思ったよりない。もし、3Dプリンターがなければお断りしていたかもしれない。

一品物のロボットの外装ともなると、内部機構等の取り合いもあり、これまで通りのFRPでの製作となると、内部機構との組み付けや取り回し等を検討する為、取り付け部等は、ある程度は何回か試作してトライ&エラーを繰り返す可能性がある。

製作過程も、
CAD設計>原型製作>型取り>FRP成形>整形>塗装
と時間がかかる上、FRPの匂いや伸縮、乾燥時間等もある程度かかってしまう。

そこで3Dプリンタの出番となる。




3Dプリンタでの製作は、基本CAD上での設計となり、内部機構もCAD内部で組み付けた上から、外装を設計が出来、CAD内部である程度の動作範囲等も確認できる。

最終的には出力後に装着のテストをするのはFRPとも変わらない訳だが、設計データをそのままプリントして出力する事ができるので、何回か試作してトライ&エラーを繰り返す可能性が減る。

3Dプリンターを使った製作となると、
CAD設計>出力>整形>塗装
となり、大幅に工程を削減出来た。

この案件での課題は、まずその大きさにある。直径50cmほど、高さが50cmほどもあるロボットの出力になる訳だが、パーツごとに分けてもかなりの大きさとなる。

使用しているプリンタの最大出力範囲は、約250×230×220くらいとなり、とうてい一発で出力できる代物ではない。

そこで、分割して出力、後に貼り合わせが必須となる。大きな部品になると、全体を4分割して出力した後、貼り合わせる事にした。薄い断面同士での貼り合わせになると、後にその部分から亀裂等が入ってはいけないので、のりしろを考えての設計となった。

内部機械を組み込む為に、どういった分割にするべきかも考慮する必要がある。できたは良いが、「機械入らんやん! どうやって組んだらエエねん!」では本末転倒だ。

これについては、3Dで設計しながら、脳内で組み立ての順番を考え、CG上で実際に部品を動かしながらシミュレーションを行う。

PC上での設計が納得いくところまでいったら、まずCG上で3Dデータをレンダリングした完成予想図を作り、それを元に内部機構の設計者さんと綿密に打ち合わせを行った。

ここでしっかりと確認をしておけば、後は出力になる。

これからは3Dプリンタに文句言わせずにハードワークを強いる事になる。ひとつのパーツの出力が終ると、間髪入れずに次の指令が下される。

全部で20パーツ程。しかも結構フルサイズでの出力になったため、大きいものになると出力だけで7〜8時間。12〜14時間かかる部品もあった。

完全に労働基準法違反の24時間フルタイム&10日間続行のハード業務となった。実際、文句一つ言わず、黙々、粛々と出力する3Dプリンタの働きっぷりは、涙なくては語れないものがあった。

「後でレストアしてきれいに掃除してやるからね...。頑張れ!」

と、心の中では思いながら、でも、心を鬼にして淡々と指令を書き記したUSBメモリーを、情け容赦なく3Dプリンタに差し込んでいったのである。

途中、材料のリールが途中で折れてしまい、機械は動いているのに出力できていない...という恐ろしい反乱(トラブル)も何度かはあった。

実は、この「中折れ」とも言うべきトラブルは、この手のABSやPLAを積層するタイプの3Dプリンタには、私が聞く範囲ではあるが結構多いようだ。

ABSはある程度柔軟性があるが、PLAは基本固いので、この「中折れ」の頻度が多いように思う。

素材である樹脂の細い線材にし、ドラムに巻いて収納してあるので、芯に近くて巻きのきつい部分の樹脂は、巻癖が付いており、無理矢理伸ばすと折れてしまう事がたまにある。

途中、このような反乱(トラブル)がないか、警棒を持った看守のような気持ちで巡回してやる必要があった。

安心して任せきり、「ふふふ〜ん♪」等と余裕をかましているとエラい目にあうのだ。

次に怖いのは停電。雷などでも、瞬間的に停電になる事がある。その時のためにも、無停電装置の設置は、精神安定上にも是非お勧めする。

色々な苦難の道を乗り切り、それでも3Dプリンタはこの脅威のハードワークを成し遂げたのである。

3Dプリンターが働いてくれているその間は別の作業が出来る訳で、これは一人親方である私には大変なメリットとなる。まあ、一人親方でなくっても、これはかなりメリットな訳ですけどね。

【織田隆治】
FULL DIMENSIONS STUDIO(フル ディメンションズ スタジオ)
< http://www.f-d-studio.jp
>

次回に続きます。幾多の試練を乗り越え、製品になっていく行程には、製作者の外部には見えない苦労や感動が沢山詰まっているんです。って事ですね。