わが逃走[126]円筒分水! の巻/齋藤 浩

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円筒分水。前から気にはなってたのですが、大分県竹田市の音無井路十二号分水があまりにも有名なので、てっきり九州の方にしか存在しないと思い込んでいたのです。

ところが全国にあったんですね。しかもけっこうたくさん。まさに盲点でした。

そうとわかれば、見学しない手はない! 偶然にも先日ちょいと信州まで行く用事があったもので、ついでに(といってはあまりにも遠かったけど)岐阜との県境まで足をのばし、円筒分水銀座こと『西天竜幹線水路円筒分水工群』まで行ってきました。

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円筒分水というのは、ひとことで言えば農業用水を均しく分配するための施設です。構造的にいくつかのタイプに分類できるのですが、今回ご紹介するものは、用水路から取り込んだ水を円筒の中心部へ沸き上がらせて、均等に区切った隙間からそれぞれの田んぼへと流すもの。

水争いを防ぐために考案された施設ゆえ、公平な分配っぷりが視覚的に伝わります。

ここ西天竜幹線水路円筒分水工群は、いちどにたくさんの円筒分水を見ることができる、そのスジでは有名なところで(私も最近知りました)、近代土木遺産リストにもAランク物件として掲載されています。

しかし、地元では円筒分水で町おこしをしようとか、そういったこともなく(ちなみに川崎は『円筒分水もなか』まである盛り上がりよう)、この地域の日常的風景として普通に存在している現役の施設です。

さて、現地に着いたのは午後2時頃。諸般の都合(同行した年上の女性Aさんが仕切りが悪いと怒りだしたため)により、駆け足での見学となってしまいました。現地滞在時間90分程度で10基ほど確認。

円筒分水は用水路に沿った細い農道のまわりに点在するため、きちんと鑑賞したいのなら近所に一泊して朝から晩まで自転車で廻るのがベストでしょう。そんなことするやついるのか? オレはしたい。

さて最初に発見したのがこれ。

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円筒分水というものはかなり古いものと勝手に思い込んでいたのですが、写真のように出来たばかりと思われる真っ白のコンクリートのものも相当数あることが判明。

近年になってリニューアル化が進められているらしい。年期の入った物件を拝むなら早い方がいいかもしれません。しかし、まっさら状態のものもワビサビに惑わされない分構造がわかりやすく、これはこれで楽しく見学できました。

さて、次なる物件は扇形タイプでした。円筒分水とはまるいもの、という先入観があったので、いきなりのバリエーション攻撃に度肝を抜かれました。

円周に沿って、それぞれの田んぼに向かう農業用水。必然から生まれた構造美です。

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その隣にもリニューアル物件とおぼしきものが。周囲の雑草も刈り取られていたせいか、構造が非常に明快です。

スリットいくつぶんの水が、どこの田んぼへ流れていくかがひとめでわかります。必然から生まれた伝わる形態。よいデザインの見本のような存在です。

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さらに進むと複数の扇形物件が。

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その先には、端っこを道に食い込ませたタイプを発見。これはこれでプロダクト! って感じがします。GSX-1100Sのサイドカバーにおけるエアクリーナー避けのふくらみに通ずる美意識を感じました。

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さらに進むと年期の入った大型物件がありました。円筒中央から沸き上がる水の勢いも強く、働いてるぞ! という気合いを感じます。

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まさに百聞は一見にしかず。水争いを収め、みんなが幸せになるための視覚的な、構造的な工夫がここにあります。デザインとは解決策である、ということを背中で語りながら、円筒分水は今日も黙々と仕事に励んでいるのです。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。