装飾山イバラ道[121]ナショナルセキュリティとパーソナルセキュリティ/武田瑛夢

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●ドラマ『24』ではなんでもあり

CIAの職員が通話記録や電子メールを収集していたことを暴露し、世界中で話題になっていたけれど、私はそのニュースをポカンとして聞いていた。「何を今さら。『24』のクロエも散々やってたのにね」

※以下はドラマの話で、現実とはかけ離れた個所が多々あるかもしれません。

アメリカのドラマでは、ナショナルセキュリティのためなら、どんな手を使ってでも情報を手に入れるというシーンがよく出てくる。傍受はしているのが当然という設定で、電話の会話にあえて現在の作戦に関するキーワードを入れたりして、相手を撹乱させたりするのだ。

そんなのあくまでもドラマの中の話かもしれないけれど、公共施設の防犯カメラにアクセスしたり、サテライト(衛星)を使って隠れ家の現在の様子を窺うことも簡単にできる。高感度赤外線カメラで、建物内のどこに何人の見張りがいるのかがわかる。人の形のシルエットが赤く映るアレだ。つっこみどころ満載の、勝手な税金の使い方をしていたけれど。

『24』の舞台のCTUは、ナショナルセキュリティのための組織。クロエはCTUの通信部門で最高ランクのレベル6の権限を持つ分析官だ。この権限レベルというのは、その分析官のそれまでの実績や信頼度によって、リアルタイムに変動する。




失敗をして上官の信頼を損ねると、すぐにレベルを落とされ、重要なサーバーへのアクセス権限がなくなったりして仕事に支障をきたす。分析官の性癖として、重要で正確な情報を扱えることに生き甲斐を感じ、レベル落ちは一気にやる気を失うみたいだ。

クロエは主人公のジャック・バウアーからの秘密の頼まれ事を、上官に隠れてよくやっている。表向きの仕事の裏で、どんどん犯人を追いつめたりしているので、よけいに気を使っている。

CTUの職員は、クロエ以外にも皆勝手に内職をしすぎだと思う(笑)。本来の仕事以外のことで忙し過ぎるので、しょっちゅうアメリカの国家の安全が脅かされている。それはサーカスの綱渡りでわざわざジャンプしたりして、ハラハラさせるのと同じ要素なのかもしれないけれど。

それでも、こういうドラマのシーンからでも、案外リアルな事実が見えていたりする。どんなに重要な職務であろうと、普通の人間が日常の中でやっている作業だということだ。

ものすごい権限のある上級分析官の趣味がどんなものであっても、その分析官の勝手だと思うとちょっと怖いなー。情報を知り得るまでのやる気って、すごいプロ根性だろうから。

日本でもあらゆる所に設置される防犯カメラは、今後も増え続けるだろうし、今は独立していて安全なはずのカメラも、そのうちきっとネットワークにつながってしまうだろう。その方が外部から制御できて便利だからだ。

常時録画の大量なデータも、ネット経由でどこかに保存しておけば、カメラ自体に残さずに済むので便利だと思ってしまうだろう。

データの管理は「きちんとした人がやるから大丈夫」だと言われるだろうが、どこまで責任を持ってくれるものだろうか。私が疑い深いのかもしれないけれど、まず完全な管理なんて信じられない。

●知られたくない相手にしか価値のない情報

個人のセキュリティはどうだろう。よく夫婦・恋人間でそれぞれの携帯電話を見るか見ないかで論争になるようだけれど、私は今までも見たことがないし、見る必要性を感じない。

GPSで相手の居場所がわかるソフトもあるみたいだけど、まったく使いたいと思わない。相手の情報をなんでも知りたいというタイプではない、ということか? 相手には相手の世界があり、それを尊重したいので、許可なく知る必要はないと思うのだ。

もし相手の浮気を疑っている人が、相手の携帯電話からその秘密を得てしまうと大変なことになる。個人の秘密レベルの情報は、それを隠したい相手に知られてしまった時点で損害になる。そうでない誰かに何かを知られたとしても、たぶん相手も興味を持たないし、その情報を使う術もないのだ。

誰かからの興味が自分に向いているということを先に知る事が出来れば、知られる損害を未然に防ぐことができるかもしれないとは思う。テレビ番組で、専門業者が盗聴器を捜索するシーンを見たけれど、そういったチェックを業者に依頼している人って多いのだろうか?

今後、技術が進歩したらそんなことも自分で確かめられる日が来るかもしれない。例えば、自分以外の人間が自分の携帯電話の画面を見ると、携帯電話に記録が残る仕組みはどうだろう。想像するとあまり良い結果になりそうにもないけれど、自分の持ち物に忍び寄る危機くらいはすぐに感知する仕組みが作れそうだ。

今はまだドラマの中のクロエレベルの技術を、一般市民が手に入れてしまったら、何でもわかってしまう日が来たら......。案外、みんな正直者の良い世界が待っていたりして。誰にでもわかるようなことに価値はないから、隠しもしないし、隠すために必要な膨大なセキュリティもいらなくなる......。

知りたい側と知られたくない側のセキュリティ技術には、技術の進化と退化の波みたいなものがあるように思える。技術が熟すと、お互いがいらなくなってしまうようなものなのかもしれない。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
< http://www.eimu.com/ >

今さらながら、NHK「サイエンスZERO」のヒッグス粒子の回の録画を見たので、ヒッグスのことがちょっとだけわかった。理論のことよりも、ヒッグスさんという人が理論を予言して、それをヒッグスさんではない別の誰かが発見したということ。それをヒッグスさん自身が大変喜んでいたのが印象的だった。

自分の生きている間に発見されて嬉しいというご本人の顔の喜び、何人もがそれに関わって達成する素晴らしさ、それがあったからこそ生きた他の理論、というようにまったく理系的でないところで感動してしまった。