[3510] 脳内で犬を飼う 〜 遠い散歩 の巻

投稿:  著者:  読了時間:14分(本文:約6,800文字)


《球体の中にある球体、どう作る?》

■わが逃走[127]
 脳内で犬を飼う 〜 遠い散歩 の巻
 齋藤 浩

■3Dプリンタ奮闘記[15]
 3Dデータの普及が必要
 ──3Dプリンタの活用、実製作について
 織田隆治

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■わが逃走[127]脳内で犬を飼う 〜 遠い散歩 の巻/齋藤 浩
< http://bn.dgcr.com/archives/20130704140200.html >
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アサヒとは脳内で飼っている犬の名前だ。こう書くとアサヒは非実在犬と思われがちだが、ちゃんとこの世に存在している。

ことのおこりは10年ほど前にさかのぼる。

現在の集合住宅に越してきてしばらく経ったある日、いつものようにベランダでおふとんを干していたところ、向かいの新聞販売店の軒先でまるくなっている犬と目があった。

ハスキーみたいでもあり、柴犬のようでもある。体が黒くて顔が白い。精悍さは微塵もないが愛嬌はある。

なんとなく気にするようになり、朝起きたらまずベランダからアサヒの姿を見るのが日課となり、そうこうしているうちに、まるで自分が飼っている犬のような気がしてきたものだから、人間の脳とは不思議なものだ。

自分の犬なら名前をつけねば、という訳でひとんちの犬に勝手にアサヒと名付けたのであるが、しまいにはなぜ自分の犬が向かいの新聞販売店の軒先にいるのか不思議に思うようになり、結果的に「アサヒのエサやりと散歩を毎月3940円で依頼したところ、それではもらいすぎなので当店で扱っている商品をお納めください、と毎朝新聞が配達されている」という設定をつくり納得した。

毎月25日頃には新聞販売店の方からわざわざエサ代の集金に来てくれるのだ。こことのつきあいも10年近くになる。

不満があるとすれば、暑い日や寒い日にはアサヒをおうちの中に入れてしまうことだ。

ちゃんとベランダから見えるところに出しておいてくれないと困る。

少なくともハスキーの血が入ってるんだから、夏はまだしも冬はちゃんと外に出しておいてほしい。

「ウチの子を甘やかさないでください」と、何度か文句言いに行きたくなったが、そんな気持ちをなんとかおし留めていたのだった。

アサヒはそんなにおりこうじゃないので、救急車のサイレンやちり紙交換の声を聞くと、つい遠吠えしてしまう。最近ではなんでもないのに遠吠えする。とくに日曜日の夜は、わおーんと悲しげに鳴くのだ。

明日からまた仕事だー。という私の念波を受信してしまうのだろうか。おおアサヒよ、オレ気持ちを本当にわかってくれるのはおまえだけかもしれない。

アサヒは最近スフィンクスごっこが好きだ。

ギザの三大ピラミッドを守護するがごとく、背筋を伸ばしてきちんとおすわりするのだ。腹を出して仰向けで寝ていたいままでのアサヒと比べるとかなりなイメチェンだ。アサヒよ、一体なにがあったのだ。

しかし、スフィンクスのポーズは3分ももたず、つぎに見に行くとまた腹だして寝ている。

そういえばアサヒは昨年夏頃から急に年老いてきた。歩き方もよたよたしているし、白髪も目立つ。当然毛並みも美しくない。

秋も深まったある日、集金のお兄さんに(さりげなく)尋ねたところ、「ああ、あの犬ならもうすぐ死にますよ。鳴き声がうるさくてスミマセン、昨日もまたおしかりを受けて...」なんてことを言う。

いやいや、オレは自分の犬のように思っているからと(さりげなく)答え、何事もなかったかのように3940円を支払う。

アサヒがもうすぐ死ぬ!

その後しばらくは脳内が真っ白になり、毎日仕事の最中に何度もベランダに出てアサヒの様子をうかがった。

しかし、数週間観察しているとそこまで衰えているようにも見えず、何かの間違いのような気もしてくる。

翌月の集金のお兄さん(先月とはちがう人)にも(さりげなく)尋ねてみたところ、「去年の夏頃は病気だったんですけど、もう元気になりましたよ。ホント鳴き声がうるさくてスミマセン...」とのことだった。

先月のお兄さん、情報が古いよ。やっぱりアサヒは元気なんだ! よかったよかった。平静を装いつつ3940円を支払う。

冬が過ぎ、春が来た。アサヒは相変わらずだらしなく寝ている。

そして梅雨に入った頃、アサヒの姿が見えなくなった。

また家の中に入れているのだろうか。雨だからってうちの子を甘やかさないでほしい。


翌日もいない。何かあったのか。

あくる日、犬小屋が撤去される。アサヒの身に何かあったんだ。死んじゃったのかな。いや、前もそんなことあったけど、アサヒは元気だったんだ。

もう、心配で心配でめしものどをとおらない。夜寝ていても遠吠えが聞こえない。とても心配である。

いきなり新聞販売店に踏み込んで「犬がいないけどどーしたの?」と聞くのも変な人なので、夕刊を配達するお兄さんを待ち構えて、さりげなく偶然を装って聞き出すことにした。

夕方、一階の階段付近をさりげなくうろついていると、お兄さんが来た。

「あ、こんにちは。最近犬がいないようだけど、どうしたの?」
「ああ、所長が変わったので引越していきました」
「死んじゃったのかと思ったよー」
「あはは、元気ですよー」

よかった。本当によかった。アサヒは元気だった。でも、もうここにアサヒはいないんだ。そう思うととても寂しくなる。

いまごろは飼い主さんと旅してるのかな。脳裏に夕暮れの山々に向かって歩くアサヒの姿が浮かぶ。

「わんわん。飼い主さん、どこまでいくの?」
「あの遠いおやまの向こうまでいくんだよ」
「そうなの?」

アサヒは何も考えず「つかれたわん。ぐう」と、今日も寝てしまったのだろう。

アサヒが遠いおやまの向こうに着くのはいつのことだろう。

今日もおふとんを干すときに、アサヒの小屋があったあたりをつい見てしまう
のだ。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/ >

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■3Dプリンタ奮闘記[15]
3Dデータの普及が必要
──3Dプリンタの活用、実製作について

織田隆治
< http://bn.dgcr.com/archives/20130704140100.html >
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前回は造形の基礎である素材選びについて書いた訳だが、今回は実際に3Dプリンタを使った製作について述べてみよう。

最近特にテレビ等でさかんに取り上げられ、いかにも簡単に造形が出来る、ともてはやされているようだが、そんな簡単には出来ないでしょ......とも思うが、それが一概にすべて違うとは言うつもりはない。

一般的には、今は3Dプリンタ自体が珍しい事もあり、パソコンの中にあったデータが魔法のようにが現実のもの、触れるものとして出現するに至っては、まずはその事に驚いて感動する。

3Dデータをパーソナルユーザー向けの3Dプリンタを使って出力する、ができるようになるのは、もうすぐそこまで来ている。

最近は安価で便利な3DCGソフトが出て来ているが、なんだかんだ言ってみても、やはり3Dデータは一般的ではないことは確かだ。

もっと一般に普及させるには、まず3Dデータの共有や配布等で、もっと身近に3Dデータを普及させる必要がある。

これにも色々と問題があり、一度ネットで解放されたデータは、歯止め無く広がってしまう事態は容易に考えられる。

例えば3Dデータを販売するに当たっても、今の音楽データや特殊なソフトのように、データにセキュリティガードをかけて、何回まで出力、コピー出来るとか、スパイ大作戦のように「なおこのテープは自動的に消滅する」とかいったものにしておく必要があるだろう。

また、無料で配布するにも限度もあるのだ。

例えば、工業製品のメーカーが、一般消費者(ユーザー)に対するサポートとして破損箇所の3Dデータをダウンロード出来る、というサービスなら可能だろう。そういったサービスもこれからもっと出て来るだろう。

メーカーはこれまでサポートとして保存しなくてはならなかった、大量の在庫を持たなくても良いことになるだろう。これから出る製品に関しては、その3Dデータをメーカー側が保存、管理する事で、その膨大な在庫管理の束縛から解放される。

全国の代理店や事業所、営業所に3Dプリンタを置いておき、ユーザーから故障箇所の連絡があれば、その3Dデータを元に出力、配送、もしくは取りに来て頂くようにすれば良い。

そういった意味でも、メーカーの側にも利点がもっと沢山あるだろう。

次に、設計、制作者としての場合はどうだろう。

工業製品の設計や製作に携わっている人に関しては、色々な3Dプリンタを使って仕事の効率化を計れる事は言うまでもない。

前にも書いたが、3Dプリンタで扱うデータは元々工業製品等の設計にも用いられる3DCADを使用して作られるソリッドデータだ。

このデータを製作出来る事と、使用する3Dプリンタの特性を把握すれば、これまで試作に費やして来た時間や経費等を、大幅に削減出来る可能性がある。

この3Dプリンタ自体で生産出来るものがあれば、これまでスライド金型等でしか表現出来なかったものや、複雑なスライド金型を使っても製作出来なかったものを作れるようになるだろう。

こういった、継ぎ目のない造形物を作れるという事は、これまで現実不可能とされていた形状を製作出来る可能性がある。

簡単に説明出来るのは、球体の中にある球体。

これまでは中の球体を作り、その上に被せるように半球等の状態のパーツを作って挟み込み、半球パーツを貼り合わせる必要があった。

しかし、3Dプリンタを使えば、その工程を大幅に削る事が可能となる。一回の出力でその造形が可能なのだ。

試作、量産にあたって必須だった金型データの微調整も、3Dデータの中で行え、3Dプリンタで出力しながら調整出来る。

こういった面でも、今後の3Dプリンタの進化に期待したい。

だが、いまの3Dプリンタの精度は、現在の精密な金型の精度にはまったく及んでいない。これは、積層していく工程で、必ずその段が出てしまう事にある。

この積層段をなくす事は出来ないが、そのピッチを細かくする事は可能だ。しかし、そのために製作スピードは当然落ちて行く。

今後、積層ピッチの精度アップ、スピードアップ等の研究、開発されていく事により、実際に量産に適応出来る3Dプリンタが誕生する日もそう遠くはない気がする。

これは、ソフト、ハード、素材とこの三つのバランスの取れた進化が必要だ。ソフトやハード、素材が三位一体となって初めて実現する。機械メーカー、ソフトハウス、素材メーカーの企業共同体等でタッグを組んで開発して行く方向が必須だろう。

【織田隆治】
FULL DIMENSIONS STUDIO(フル ディメンションズ スタジオ)
< http://www.f-d-studio.jp >

日本製の3Dプリンターの開発に、もっともっと期待していいですよね? がんばって欲しいものです。ほんとに期待してます!


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編集後記(07/04)

●食事のときにニュースを見る程度で、普段わたしはあまりテレビを見ない生活だが、そのわずかな時間の中に流れるCMはちゃんと見ているほうだ。「これ誰?」と女性タレントの名前を妻に聞くことが多い。ほとんど即答できる妻である。ひとつの才能だと認めざるを得ない。名前を確認するほかは、CMに意地悪くケチをつけるのがわたしの役目だ(昔取った杵柄)。最近見た記憶のあるトヨタの「TOYOTOWN」は、とてつもなく意味不明なのでサイトに行って何度も見た。しかし、何を訴求しているのかサッパリわからない。

「TOYOTOWN」とはなにか。いきなり「ハイブリッドしなければ、こういうことにはならなかった。」と出る。ハイブリッドしなければ、だって。なんとなく妙な語感。そして、「こういうことにはならなかった。」とは、明らかに後悔している。「こういうこと」という困った事態が、このCMシリーズで次々にあらわになるということであろうか。

そしてこう続く。「15年前に植えた一本の樹。世界初の『ハイブリッド』というその樹は、いま、大きく育った。ハイブリッドの樹のまわりには、いつしかTOYOTOWNという街が生まれた。街に、一組の夫婦がやってきた。彼の、彼女の、過去と未来は... この不思議な物語は、次々に、ドラマチックに展開していくだろう。」

最初のCM。葬儀の棺から逃げ出した老女(樹木希林)が(すご過ぎる設定だ)、草原で会った男(堺雅人)から不死を授けられ一本の木の苗になった。15年後、樹の周りに街ができる。15年前に草原の出来事を見てしまった少女を妻に迎え、男はここにやって来る。妻(満島ひかり)はこの街に住むのはあまり乗り気ではなく、「TOYOTOWNってださ過ぎる」とさえ言う。たしかに野暮ったい、イージーなネーミングだ。

CMはその後3本が続き、「男には住む理由があった」「妻はいいしれぬ不安を感じ始めていた」って、なんやらサイコスリラーかホラーな雰囲気さえ漂う。ほかの出演者はトヨタ車のCMに登場する人たちばかりである。トヨタの企業・車種CMに出演する豪華な顔ぶれが「ハイブリッド」した一大キャンペーンだというフレコミ。だけど、少しもおもしろくない絵空事。CMプランナーはなんと言ってスポンサーを騙したのだろう。TOYOTOWNはハリウッドのユニバーサルスタジオ内にあるセットらしい。いかにも虚構の話に向いた舞台だ。(柴田)

< http://www.toyotown.jp/ >
TOYOTOWN


●昨日書いたメール紛失事件とは別に、出して、送信済ボックスに残っているのに届かないメールがいくつか出てきた。Gmailのシステムを利用しているせいなのかもと、SMTPサーバ(こっちはレンタルサーバのもの)の設定まで見直したが、問題なさそう。SPFを設定すべきか?

先様には全部届かないわけじゃない。規則性がないか考えると、私から書きはじめたメールが届かず、返信を繰り返したものは届いていた。これってスパム扱いされているってこと?

困ったことに、エラーメールの届くのが2日後。つまり、その間は出したつもりになっているし、同じ人に違う用件で返信しているメールは届いていて、その件に関してはやり取りできてしまっている。エラーメールには「MTA's poor reputation」とある。えっ? ブラックリスト?

使っているレンタルサーバのSMTPサーバを利用して、スパムが送りつけられた模様。調べると、Yahooのパスワード入力を求めるメールが晒されていた。このレンタルサーバは「SMTP AUTH」なので、利用者がスパムを使ったのかも。そんなことでうちが被害を? 移転すべきか。メールサーバだけ別にするか? (hammer.mule)

< http://www.senderbase.org/home >
検索したらEmail RepがPoorだった......。ここのデータベースを利用しているサーバだと拒否される
< http://laugh.rinazo.com/2012/03/28/857 >
SPFレコード設定について