どうしたらできるかな?[step:08]なんで協力してくれないの?
── 平山遵子 ──

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子供の絵を何点か入手したい。しかし、友人や知り合いで結婚して子供がいる人はいない。さてどうしたらいいか? そんな事を考えていると、横でメモ帳に落書きをしている姉の姿を見てひらめいたのです。

私の姉は保育園で保育士の仕事をしています。ということは、子供たちと工作したり絵を描く機会もあり、保育園の教室には子供たちの絵や工作がたくさん飾られているはずです。

「お姉ちゃん、保育園にある子供の絵を数点借りてくること、出来ないかな?」
「えっ、子供たち絵? 何するの?」
「ほら、いま卒業制作でぬいぐるみを制作しているでしょう。子供のためにオーダーメイドのぬいぐるみを作ってみたいんだ」




「はぁ、でも、それってどうやって作るの?」
「まず、依頼主は子供の親と仮定して、その子供の絵や工作を数点借りる。その絵を元に、私がその子のためにキャラクターをデザインするの」

「ふ〜ん。それで......」
「デザインしたキャラクターをぬいぐるみにして、その子供にプレゼントするんだ。卒業制作だから無償で。子供の絵から生まれたキャラクター! 世界で一点物のぬいぐるみって素敵じゃない! 子供や親御さんや反応を見て、オーダーメイドのぬいぐるみビジネスに発展できたら凄くない!」

「..................」
どうも姉の反応、表情は微妙。そして意外な言葉が。
「悪いけど、協力は出来ないよ」

「えっ、なんで!!」
「子供の絵なら自分で借りてきなよ。知り合いとかいないの?」
「なんで、冷たいな〜!!」

私は、なんで協力してくれないの! ケチ! と姉をなじりました。だって、難しいことを頼んでいる訳でもないし、妹に協力してくれないなんて......。

「もう、ジュンちゃんはわかってないんだよ。今の親は私たちが子供の頃に比べるとうるさいし、何かにつけてすぐ文句を言うんだよ」
「えっ!? どういうこと!?」

「例えば、私の保育園の子、数人にぬいぐるみを作ってあげたとするよね? そうするとね、ぬいぐるみをもらえなかった親とかはなんていうと思う?」
「えっ?」

「どうして、うちの子はぬいぐるみをもらえなかったんですか! 不公平でしょう! とか、すぐ文句を言ってるんだよ。だって、お遊戯会に対して文句を言ってきた人もいるよ」
「なんて?」

「どうして、うちの子が主役じゃないんですか! とか、なんでうちの子にあんな地味な衣装を着せるんですか! とか......。とりあえず私は面倒なことになるのが嫌なの。だから、自分で何とかしてくれない」

なんか妙です。いつも温厚な姉が少し怒ったような表情で私にこう言うのです。絵を数点借りるのがそんなに面倒なことなのか? あまりにも協力を拒むので、ひとまず姉に頼るのはやめました。

そうか、自分で幼稚園や保育園を訪問して、園長先生に直々にお話して協力してもらえばいいのでは? そう思った私は、自分の作品やデザイン画、大学の学生証を用意、身支度を整えて、相変わらずの無鉄砲でさっそく近所の幼稚園と保育園に行きました。

幼稚園の園庭では子供たちが楽しいそうに遊んでいます。私は早速入り口にあるインターフォンを押しました。

「あの、お忙しい時間にすいません。私、多摩美術大学の学生の者です。美術制作の活動をしておりまして、ぜひ、こちらの保育園にご協力頂きたいのですが。園長先生とお話は出来ませんでしょうか?」
「そうですか、では中へ、受付へどうぞ」

果たして取り合ってもらえるかドキドキでしたが、何とか園に入れてもらうことが出来ました。受付に入ると子供たちが珍しいそうに私を見ています。

事務室の方が出てきたので挨拶を交わし、私は怪しい人だと思われたくないので、念のため、学生証明書を渡しました。どうやら幼稚園側も安心してくれたみたいです。

「あぁ、美術大学の学生さんですか。今、園長が来ますのでしばらくお待ち下さい」
「ありがとうございます」

しばらく待っていると園長先生らしき中年のご婦人が現れました。
「こんにちは」
「あなたが学生さんかしら? こんにちは」

お互い挨拶を交わしたあと、園長先生が園を案内してくれました。立ち話でしたが、私は自分のポートフォリオやデザイン画などを園長先生に見せました。

「あら、かわいいじゃない! これ全部あなたが作ったの。素敵ね」

園長先生はかわいいものが好きだったのか、私のイラストやキャラクター、ぬいぐるみをとても気に入ってくれた様子でした。

いい感触だったので、本題のオーダーメイドぬいぐるみについての話を切り出しました。そして、それに必要な子供の絵を貸してもらえないか、数人の子供達に協力してもらえないか聞いてみました。

「10人くらいのお子さんに協力してもらえないでしょうか? その子たちの絵を借りて、私がその子たちのためにキャラクターをデザインして、その子たちのために一点ものぬいぐるみを作りたいんです。卒業制作が終わったら、ご協力頂いた子供たちにぬいぐるみをプレゼントして、制作物に対する反応を見たいんです」

私は背伸びせず、気取らず、正直に自分の言葉で園長先生にお願いしました。するとさっきまで楽しそうな園長先生の顔が暗くなっている......。

あれっ? 私なんかまずいこと言っちゃったのかな? すると......。

「ごめんなさい。それならあなたの知り合いに頼んだ方が良いかも知れないわ。ご近所や知り合いに小さなお子さんがいる方はいないの」
「はい、いないので、今、こうやって近所の幼稚園や保育園をまわっているんです」

「本当はあなたに協力してあげたいんだけど、いろいろと面倒なことがあるのよ。全園児分を作ってくれるならいいんだけど......」
「全員分ですか?何人いるんですか?」
「250人です。」
「えっ!?」

卒業制作の残り期間から、正直、250人分のぬいぐるみを制作するのは無理だ。それにしてもなんで協力してもらえないんだろう? 私は不思議で仕方がなかった。すると園長先生は私に理由をお話してくれました。

「本当はあなたにこんなことを言いたくないんだけどね。今の親は昔とは違ってなにかとうるさいのよ。ちょっとしたこと、大したことでもないのにすぐに文句、苦情を言ってくるんです」

この台詞、どこかで聞いたような。姉も同じことを言っていた......。

「例えば10人の子供たちのためにあなたがぬいぐるみを作ってプレゼントしたら、なんて言われると思う?」
「えっ、わかりません」
「どうしてうちの子はぬいぐるみをもらえなかったのですか! 不公平だ! と言われるでしょう......」
「そうなんですか......」

園長先生の困った顔を見ていると、これ以上お願いするのはご迷惑だと思いました。私はきちんとお礼を言い失礼することにしました。

その後、もう一つの保育園を訪問してみましたが、同じことを言われてしまい断念......。自分で幼稚園、保育園を訪問してみて、姉が協力してくれなかった理由がわかりました。

姉に「ケチ」とまで言ってしまった自分が恥ずかしくて、姉に対して申し訳ないことをした罪悪感でいっぱいになりました。しかし、子供の絵はどうしても手に入れなければ、という焦りもあってもう気分は最悪です。

あ〜困った! 本当に困った! これじゃあ制作が進まない! どうしよう!

【平山遵子・ひらやまじゅんこ】
J★(Junko allstars)〜思い出を形に未来につなぐハンドメイド〜
< http://www.j-allstars.com/
>
夢は「世界一楽しいぬいぐるみ」を作る!