ショート・ストーリーのKUNI[144]探偵
── ヤマシタクニコ ──

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「安田先輩、いてはりますか」

「おお、そういう声は山田山。ひさしぶりやな。遠慮すんな。あがれあがれ」

「では遠慮なく...わ、びっくりした。先輩、えらいりっぱな椅子を買いはったんですね」

「おお、実はおれ、安楽椅子探偵になったんや」

「え、安楽椅子探偵。ミス・マープルとか黒後家蜘蛛の会のヘンリーとかの」

「おお、それやそれ」

「英語でいうとアームチェアディテクティブ」

「それはちょっと違うな」

「いや、もともとそうですやん」

「アームなんとかディテクティブではなんかごつごつして楽そうな感じがないやないか」

「先輩、ひょっとしたら単に楽そうやという理由で安楽椅子探偵に」




「あたりまえやないか。おれももう定年でリタイアしたんや。再就職しようと思ってもどっちみち口はないやろし。それやったら子供のころのあこがれで、しかも名前からして楽そうな安楽椅子探偵になろうと思たわけや。何しろ今までさんざん苦労したからな。地方公務員の一番ひまな出先機関で毎日することがなくて苦労して、そらもうたいへんやった」

「どこが苦労ですか。まあとにかく、さっそくその椅子を買ったんですね」

「やっぱり安楽椅子探偵になるには安楽椅子が必要やろ」

「いや、それはなんとも。で、先輩、実はぼく...」

「おー、みなまで言うなみなまで言うな。おれは安楽椅子探偵や」

「そうでした」

「見た目は単に安楽椅子に座ってるだけにみえるやろうが、おまえが今困っていることは入ってきた瞬間からわかってた」

「そうですか。さすが」

「おまえ、今やばい組織とかかわってるやろ」

「いえ?」

「隠すな隠すな。さっき家に入ってくるときに何回も後ろを振り返ってた。尾行されてる恐れがあるんやろ」

「いえ、ゆうべ寝違えて首が痛くて」

「わはは。また隠す。それに片手をポケットに入れてるのはそこに拳銃が」

「ハンカチと鼻紙があるかどうかチェックしてました」

「小学校の持ち物検査か。しかしもうごまかせんぞ。おまえの腕に妙な数字が刻印されているのは、何かの暗号。それとも組織の一員であるしるし」

「どこにそんな...あ、これはその、昼寝したとき、うっかりしてチラシを下に敷いてしまいまして。そのチラシの数字がついたみたいですね」

「なんやそうか。おれも『さくら卵10ヶ100円』とは変わった刻印やなと思た」

「全然探偵になってませんやん」

「うーん。やっぱりこの椅子の限界かな。閉店セール最終処分で安かったのをさらに値切った」

「椅子のせいにしないでください」

「すまん。山田山。おれでは力不足や。なんか相談したいことがあったら大中先輩とこに行け。実は大中先輩も安楽椅子探偵になってるねん」

「なんか流行ってるんですか」

「手軽に開業できるもんいうたらそうなるやろ。しかも大中先輩の安楽椅子はかなりゴージャスな安楽椅子らしい」

「それは大いに見込みが...そいうもんやないと思うんですけど、ほなまあ行ってきますわ」

■■

「大中先輩、いてはりますか〜」

「おお、安田の後輩の山田山やないか。遠慮せんとあがれ」

「ありがとうございます。安田先輩から紹介されまして。実はその」

「おー、みなまで言うなみなまで言うな。わしを何やと思てる。わしは安楽椅子探偵やぞ」

「そうでした。実際これはまたすばらしい安楽椅子で。いかにも座り心地がよさそうですね」

「ああ、弘法は筆を選ばずというが、設備投資は大切じゃ。このすばらしい安楽椅子のおかげでわしも優秀な安楽椅子探偵になれるというもんじゃ。ちなみに君は今晩ギョーザと冷麺を食べようと思てるな」

「それはこの、ぼくが持ってるスーパーの袋にギョーザと冷麺が入ってるのが見えてるからでは」

「失礼な。そんなものは見ておらん。今このカードで占ったらそう出たんじゃ」

「探偵じゃなくて占いなんですか」

「すわってやるところが共通してるのでついそうなってしまった。なにしろ座り心地がいいのでな」

「全然真剣に安楽椅子探偵やってませんやん」

「そんなことはない。だいじょうぶや。君の困りごとくらい簡単に解決してみせる...と思ったが...」大中先輩は突然がっくりと首を垂れた。

「どどどどどどうしたんですか、先輩!」

「あー...もうあかん。すまんが君、ここから先は...こ、小島先輩に聞いてくれ。そこの大通りに出て、13本目の電信柱の角を曲がったところに公園がある。その公園の小便小僧の鼻先45度の方角にあるアパートの...2階に小島先輩は...住んで...おられる。ああ...もうだめだ...」

「先輩、先輩、しっかりしてください!」

「ぐー...」

「あの...なんや寝てしもたんや。急になんで...あ、この椅子、マッサージチェアやないか! どうもさっきからゆらゆら揺れてると思たら...マッサージが気持ち良すぎて寝てしもたんか...安楽椅子探偵やのうてマッサージチェア探偵かいな、ほんまにもー。しゃあない。その小島先輩とこに行ってみよ」

■■■

「というわけで来ましたが、小島先輩、いてはりますか」

「おお、その声は大中の後輩の安田の後輩の山田山。安楽椅子探偵になったわしの評判を聞きつけてやって来たんか。はっはっは。あがれあがれ」

「はい...これはまた安田先輩とも大中先輩とも違う安楽椅子で」

「わかるか」

「わかります。どこかで見たことあるようなないような。ところで先輩、実はぼく...」

「おー、みなまで言うなみなまで言うな。わしは安楽椅子探偵や」

「はあ」

「硬いことは抜きで、とりあえずシャンプーしてもらおか」

「はあ?」

小島先輩がレバーを操作すると安楽椅子の背中がぐーんと下がり、足元がぱーっと持ち上がった。

「先輩、これは安楽椅子やのうて美容院のシャンプーチェアやないですかっ」

「わかるか。これが気持ち良うてなあ。君もリタイアしたら安楽椅子探偵になったらええで〜」

山田山くんは怒って帰っていった。そういうわけで山田山くんの困りごとが何かはわからないままである。

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食欲がまだあまりないので、あっさりしたものが中心。焼きなすなんかよさそうだけど自分のためにだけ焼くのもめんどうだな...と思ってたら電子レンジを使った焼きなすの作り方が幾通りもネットにあがってる。なーんだ。さっそくやってみたら、確かに、焼いたものと微妙に違うものの十分オッケーなものができた。以来何回も試している。そろそろ飽きるころかも(笑)