わが逃走[131]ヤッホーと山へゆく の巻/齋藤 浩

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極親しい間柄で地殻変動好きの年上の女性Aさんが、「氷河にえぐり取られた地形を見に行くわよ」と言うので、千畳敷カールまで行ってきました。断っておくが登るのではなく、あくまでも見に行くのである。木曽駒ヶ岳。

朝早く家を出て中央高速の駒ヶ根インターで降り、すぐ近くの駐車場に車を停めると、そこがバスの発着場になっている。

このルートは自然保護の観点などから一般車両の乗り入れが規制され、観光客はここからバスとロープウエイを乗り継いで、目的のえぐられた地形までゆくのである。

ラクして3000メートル級の迫力ある山を目の当たりにできる幸せ。

この日の午前中のお天気はぎりぎり晴れ。標高に従って色が変わる木々を眺めつつ、駒ヶ岳ロープウエイの頂上駅、『千畳敷駅』に到着したのは10時半すぎだった。

標高2612m。駅の建物はそのままホテルになっており、まるで『女王陛下の007』に登場するスペクターの基地のようだ。

ツアー客は慌ただしく土産物を買い込み、周辺を歩いらすぐに次の目的地へ行かなければならないが、我々はここに泊まるのでゆっくりと大自然を鑑賞する。

おお、まさにえぐりとられた地形。でかい。高い。美しい。

真正面にそびえ立つ屏風の真ん中のへっこんだところが『乗越浄土』で、ヤマノボラーの人たちはそこから尾根づたいに中岳 、木曽駒ヶ岳をめざすのだそうな。

見渡すと下界はまだ夏だったのに、ここではすでに紅葉もはじまっている。空が近い! 雲が近い!
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ホテルで荷物を預かってもらい、ちょっとそのへんを散歩してみる。

周囲には一周40分程度の遊歩道があり、高山植物等を保護しつつ、安全に散策できるよう整備されていた。

てくてく歩きながら屏風を見上げるもよし、ノリによっては乗越浄土まで登る! というのもアリか。

しかしこの旅はあくまでも山を間近から鑑賞することが目的なので、調子こいて無理をしてはいけない。我々は素人なのだ。

一応トレッキングシューズをはいてるし、リュックの中にはウインドブレーカーも水も食糧もあるので、なんとなく登りつつ、疲れたところで引き返すと決めた。右に見える建物が『ホテル千畳敷』。
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半分くらい登ったところで、極親しい間柄の年上の女性Aさんがリタイヤ。どうやら急激に高いところまで来たので、軽い高山病にかかったらしい。

モテる男なら一緒に戻るが、オレは「んじゃまた後でねー」と言いつつそのまま乗越浄土まで登ってゆく。

到着したのはスタートのだいたい50分後くらい。ほどよい運動量といえよう。ポテトチップスの袋がパンパンにふくれるだけのことはある。屁が良く出る。それに呼応するがごとく、突然ガスが出てきた。

最近の天気予報はよく当たる。今日の午後からは曇りの予報だ。あっという間に辺りは真っ白になり急に気温が下がってきた。山の天気は変わりやすいのだ。
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その日はそのまま下山し、ホテルで夕方5時まで泥のように眠る。極親しい間柄の年上の女性Aさんも元気に寝ている。ひとっぷろ浴びて食事、そしてまたぐっすりと眠った。

翌日。あまりによく寝たので朝5時頃目が覚める。窓の外を見ると、雲海が広がっていた。昨日はこの雲の下からロープウエイで登ってきたことになる。

徐々に外が明るくなってくる。よく見ると甲斐駒や北岳の頂が雲から顔を出し
ている。
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残念ながら御来光は見えなかったが、雲の合間から富士山頂が!(*注 この写真ではほとんど見えませんが)

そして千畳敷を見ると、昨日と比べて明らかに紅葉が進んでいる。おそるべし大自然。

さて、気合いの入ったヤマノボラー達はすでに山頂をめざしている訳だが、山鑑賞にきた我々は部屋に戻って二度寝し、朝食の後ゆっくり9時にチェックアウト。

今日もいい天気だ。青空に月。
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極親しい間柄の年上の女性Aさんは昨日とはうってかわって元気になったことだし、ノリと勢いで乗越浄土をめざすことにした。

真正面のへこんだところが乗越浄土。
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振り向けば富士山
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で、乗越浄土到着。標高2860m。天気がいいってイイもんだなあ!
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非日常的風景を写真で見ることはすでに日常であるが、非日常的風景を目の当たりにすることはまさに非日常。もう、何言ってんだかわかんないくらいな体験である。

これから尾根伝いに山頂を目指すと、それは『山鑑賞』でなく『登山』になってしまうので今回はここで引き返したが、そういうのも悪くないかもな、なんて思わなくもない齋藤浩であった。

そういえばヤッホーと言ってる奴は誰もいなかった。もう流行らないのか。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。