[3580] 嘘の記憶の世界だらけじゃつまらない

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《ある日気がついてしまったのです》

■ショート・ストーリーのKUNI[146]
 遺言
 ヤマシタクニコ

■ところのほんとのところ[104]
 嘘の記憶の世界だらけじゃつまらない
 所 幸則 Tokoro Yukinori




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■ショート・ストーリーのKUNI[146]
遺言

ヤマシタクニコ
< https://bn.dgcr.com/archives/20131107140200.html
>
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「ご隠居さん、ご在宅ですか〜」

「これはこれは凸山さんやないか。何か用かいな」

「はい。ご隠居さんは年に似合わずパソコンが得意と聞きまして」

「年に似合わずは余計やがな。まあ得意というほどのもんでもないが、いちおう使うてる」

「それやったら折り入ってお願いしたいんですけど、『も』というものをご存じですか」

「も?」

「はい。実は、私の叔父が死にまして。私にも遺産がなんぼか入るらしいんです。ところが、遺産の有り場所とかパスワードとか、重要なことはパソコンで書いて保存してはったらしいです」

「ほー。きちんと準備してはったんやな。りっぱな人や」

「しかし、私も私の親戚も、パソコンのパの字も知らん人間ばっかりで。とりあえずみんなで寄り集まって三日三晩悩みながらやっとこさパソコンを立ち上げました」

「三日三晩。どうやったら立ち上げるのにそんなに時間がかかるのか知りたいものやな」

「はい。なにしろ叔父以外はパソコンと聞いただけでアレルギーを起こす家系でして、危険なので電気屋にも近寄らないようにしています。叔父だけが変わり者だったんです。くわしいことは知りませんが、何でも『わーど』とかいうあやしげなソフトも使っていたそうです。かなり変わってたようです」

「ふつうやと思うがな」

「そういうわけですので、パソコンなどとはできたら一生関わりを持ちたくないと思ってたんですが、遺産が入るかも知れんと思うと俄然やる気が出まして。一族みんな苦難に耐え、アレルギーにも耐え、三日三晩という短期間で立ち上げたのです」

「いや、短期間やないやろ」

「幸い、立ち上げたらすぐ目につくところに『遺言』と書いたものがありました。それをみんなで一日がかりで開きました」

「たいへんやな」

「そしたらこんなふうに書いてあったんです。

---------これを読まれる方へ。みなさんには生前大変お世話になりました。ありがとうございました。遺産についてはMOを見てください---------

というわけで、その『も』というのはどんなものかと思いまして」

「ああ、それは『も』ではなく『エムオー』というものじゃ。いまどき珍しいものを使っておられたのじゃな。えーと。このくらいの四角いもので厚みはせんべいくらい。表面はプラスチックのケースでおおわれておる。わしも長い間見てないので忘れたが」

「そうですか。ではせんべいくらいの厚みの四角いものでプラスチックのやつを探してみます」

一週間後。

「ご隠居さん。やっとMOが見つかりました」

「おお、それはよかった」

「ですが、みんなでじーっと、何時間見ても読めません」

「あたりまえやがな。これはMOドライブというものを使わなあかん。たぶんパソコンの本体にあるはずや。これが入るような口が開いてて、そこへ入れると勝手に読み取ってくれるようになってる。もしパソコンにそういう口がないときは外付けのMOドライブを買うように」

「そうですか。おかしいと思ってましたが、ではやってみます」

二週間後。

「ご隠居さん。やっとMOの中身が読めました」

「そうかそうか。ちょっと苦労したやろ」

「はい。叔父のパソコンにはやはりMOが入るところがありませんでした。さらに近所の店どこを探してもMOドライブなるものは置いてません。『いまどき何に使うんですか』とあやしまれるばかり。それでさる筋にひそかに手をまわし、非合法すれすれのところでなんとかブツを手に入れることができました」

「おおげさやろ。しかし、まあ遺産のあり場所はわかったんやな」

「ところがこんなふうに書いてありました。

---------これを読まれる方へ。最初に遺言を書いたときはMOが割と普及していたのですが、それから何年も経ち、『MOなんてもう古いよ』と人に言われました。なるほどそれもそうだと思い、USBに保存しなおしました。申し訳ありませんが、USBをごらんください---------

USBってどんなものなんでしょうか。たぶんカレーと関係あると思うんですが」

「それはSBや。USBはカレーと関係ない。USBは、うーん、いろんなかたちのものがあるけど、だいたいは短めのチューインガムくらいと思ったらええやろ。そこに情報が入ってる。それをパソコンに差し込めばよい」

さらにひと月後。

「ご隠居さん。USBが見つかりました。エビフライの形のUSBだったので苦労しました。で、見つかったのはいいんですが、どこへ差込んでいいのかわからず、コンセントからドアの鍵穴、壁の穴に貯金箱の口まで試してみました。おかげで日がかかりましたが、一族の総力を結集したおかげでなんとか読めました」

「よかったよかった。今度こそわかったんやな」

「ところがこんなふうに書いてあったんです。

---------これを読まれる方へ。せっかくUSBを買ったところ、別の人に『簡単に読まれては困るのだから、むしろUSBのように普及してるものではないほうがいいのではないか』と言われ、それもそうだと思い直しました。それでフロッピーディスクに」

「フロッピー?! そんなものに保存したのか。確かに、ある意味読み取るのがむずかしいともいえるが、いや......」

「いえ、まだ続いておりまして。

---------フロッピーディスクに保存しようかと思いましたが、さすがにメディアもドライブももう持ってないのでやめました。さて、いったい何に保存すればいいのでしょう。

DVDや外付けハードディスクも思い浮かべましたが、別の人には『そういうリムーバブルメディアも永久に安心とは限らない。数年でデータが消えることもあるんだよ。ふふふ』と言われ、私はますます悩みました。

どうすればいいんだ。いっそのこと紙に書いたほうが安全ではないのかと。そうだ。むかしの人はみんなそうしていたのだ。紙に書き、それをタイムカプセルに入れて埋めることにしよう---------」

「なんじゃそら」

「それで一族みんなで手分けして庭を掘り起こしました。もう大変です。庭中穴ぼこになりましたがそれでも見つからない。手で掘るには限界があるということで土建屋に重機の手配を頼み、いよいよガリガリとやり始めたところでふと、USBの文書に読み残しがあることに気づきました。

---------タイムカプセルに入れて埋めることにしよう。一度はそう決めましたが、さらに考えて気が変わりました。もっともっとむかしの人は紙にも書かなかった。古事記のむかしを思うがいい。人々は口伝えで情報を伝達したのです。そこで私もその方法をとることにしました。

私は遺産のあり場所とそれを開くためのパスワードを凸山凹助に教えました。大事なことだから、とだけ言って。本人がずっと覚えているかどうか何の保障もありませんが、それならそれでかまいません。何にでもリスクはあるものです。---------」

「ひょっとして凸山凹助とは」

「はい、私のことですが、まったく覚えていません。大事なことだから、とか何とかいわれたことも何にも覚えていません。しかし、このことを一族が知ったら私をあちこちに差し込んでみたり重機でバリバリと掘り起こすに違いありません。それで」

「うん?」

「USBのこの文章を内緒で削除する方法を教えてほしいんです...」

【ヤマシタクニコ】koo@midtan.net
< http://midtan.net/
>
< http://koo-yamashita.main.jp/wp/
>

買い物が苦手な私だが、ふとんがぺっちゃんこになってきたのでいよいよ買い替えねば、と毎日チラシを見たりネットショップをのぞいたり。おかげでふとんにもいろいろ種類があることがわかったが、わかればわかるほど迷うだけ。秋になったら買い替えよう、と夏から思っていたが、早くしないと冬になってしまいそうだよ・・・。


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■ところのほんとのところ[104]
嘘の記憶の世界だらけじゃつまらない

所 幸則 Tokoro Yukinori
< https://bn.dgcr.com/archives/20131107140100.html
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さて、前回書いた怒濤のスケジュールのまっただ中に[ところ]はいます。現時点では無事に11月1日から、写真家・所幸則の写真展【本当は秘密の写真家の目】が始まっています。11月31日まで。詳しくはこちら。
< https://www.facebook.com/cafe.sousou?rf=164041880318522
>
< http://sou-sou.info/
>

これもギリギリの展開の中、プリントのセレクトもギリギリで。プリントをそろえて、額装して展示するのもギリギリでした。もう体が保たないなと思いながらのこの個展、高松の沢山の方の手助けのおかげでなんとか実現できたので、[ところ]はとても満足です。

作品を展示してみて、この作品展に対する思いが説明されていてないことに気がついて、いま急いで書いています。書いているうちにそうか、こういう意味の展示だったのかと[ところ]の思いがわかりました。

この個展の作品は、日常の中で、特に栗林公園近くの自宅の中で撮ったものでほぼ占められています。室内で発見した素敵な光と影、色の素敵なバランスなどですが、写真に撮る人はまだまだ少ないと思います。

                 ■

僕は写真家です。ですからなおのこと、テーマとなる被写体以外と対する時間は、普通の人よりも少なかったかもしれません。少し前までは。

渋谷の街を美しく残そうと思いたち、時間の流れを捕獲するというコンセプトを持って撮り続けていました。時間と季節の変化による街の美を捉えるために、歩く人、走る車や電車等に神経を集中していました。僕は家ではあまりカメラを手にとることはありませんでした。

ですが、渋谷と高松を行き来する生活になってから、渋谷のことを考えない時間も生まれ、ある日気がついてしまったのです。日々の生活の中にも、渋谷と高松を往復するその時にも「美」があることに。

最初は進化する携帯のカメラで撮ってみていたのですが、ある日気がついてしまったのです。自分が見た物をあまりに誇張する効果がついた写真を。撮った写真を保存したくなくなるようなアプリが無数に存在することを。自分の記憶をカメラに書き替えられていることを。

考えてみれば、印象が強く美しいと思った物は、確かにより美化するクセは人間にはありますが、それは自分の頭や心の中でするべきことだと思うのです。

世界に誇るカメラメーカーが研究に研究を重ね、良い色をだそうとすることは否定されるものではありません。ですが、一方ではちゃんと素直なデータもメモリーカードに残せるようにもなっています。RAWデータというのがそれです。

ですが、今のところ携帯のカメラではそういうデータは残せません。それどころか、アプリを開発する優秀な技術者達の努力の成果で、どんなものでも雰囲気よくも、鮮やかにも、ノスタルジックにも、写真という名の記憶媒体は何でも美しく書き替えられていくのです。

みんな現実から離れ幸せになりましょう〜♪ という、僕からするととても気持ちが悪くお手軽な幸せの記憶。

ですが、僕はそんなものを使わなくても、自分の目で見た美をそのまま残せるんだよという証明に、一度こういう個展を開いてみたかったのです。

写真を撮ることに技術はいらない、そういう時代がすぐそこに迫っています。だけど、嘘の記憶の世界だらけじゃつまらないじゃないですか。アプリを使わないで、自分の見たものに感動が残る、それでいいんじゃないかな。

まあ僕がこんなことを書いたり、こういう個展をする機会はもうないかもしれません。いろいろなことが迷走している今の時代だから、こういうことも考えたのでしょう。なんといってもこの50年は、人類史上稀に見る価値観の変貌の時代が続いているからだと思いますから。まだ当分は続くのでしょうね。

                 ■

このテキストがネットに流れる頃に、[ところ]は兵庫県の「Mt.ROKKO INTERNATIONAL PHOTOGRAPHY FESTIVAL 2013」に向かっているころでしょう。
< http://rokkophotofestival.com/index.html
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アルペンローゼにて「東京画」写真展を開催しているからです。RAIECのコミッティーのメンバー太田菜穂子さんのキュレーションで「東京画」の4名の写真家、大西みつぐ、古賀絵里子、鋤田正義、所幸則にフォーカスを当てた写真展です。[ところ]も会場近辺にいます。一日中ってことはないけど、FBのメッセンジャーで会いたいと言ってくれれば会場に行きます。
< http://rokkophotofestival.com/2013/tokyoga.html
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そして、12月14日からはニューヨークです。

【ところ・ゆきのり】写真家
CHIAROSCUARO所幸則 < http://tokoroyukinori.seesaa.net/
>
所幸則公式サイト  < http://tokoroyukinori.com/
>


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編集後記(11/07)

●10月16日、外務省は「竹島に関する動画」(1分27秒)を公開した。シンプルにして明瞭、効果抜群、なぜもっと早くやってくれなかったんだ。早期の多言語化が望まれる。一方、韓国も独島(竹島の韓国名)の広報動画を流したが、その中にNHK「坂の上の雲」から20秒ほど盗用していたことが発覚、国家的な大恥をかいた。日露戦争勝利のような輝かしい歴史がない韓国にとって、まさに垂涎のビジュアルだ。利用したい気持ちはよく分かる。

黒田勝弘「韓国 反日感情の正体」を読んだ(角川oneテーマ21 2013)。筆者は外国人記者としては韓国では最も滞在が長い現役記者で、産経の外信コラム「ソウルからヨボセヨ」で、おもしろおかしく、かつシャープに韓国事情を伝えてくれている。現地では「日本の極右言論人」というポジションで、ときどき韓国メディアの袋叩きにあっているが意気軒昂だ。

さて、竹島問題である。領土紛争では長期にわたって実効支配している側は騒ぐ必要はなく、静かにしているほうが得策である。それが正論、常識である。ところが、韓国は逆で、盗んだ側の韓国が一方的に騒いで来た。日本では竹島問題への関心はきわめて低かったわけだから、騒ぐのはよけいにまずいはずだ。韓国はなぜ領土問題としてはマイナス効果しかない一人相撲を続けるのか、愚かな人たちだなあと思っていたら、黒田氏がその理由を書いていた。

じつは、竹島問題は韓国にとってもはや「領土問題」ではないという。「歴史問題」へと転換し、具体的で分かりやすい反日テーマとして浮上した。島をめぐる紛争・対立にかかわる過去の情報は遮断され、一方的な情報によるマインドコントロールが進んだからだ。韓国にとって独島は、韓国史の見果てぬ夢である「対日独立戦争」の象徴でありその舞台なのだ。もはや信仰である。「国教」だといってもいい。そして、信仰化した「独島反日」を政府はもはやコントロールできなくなっている。

「韓国の日本に対する鬱憤は過去の歴史にあることは間違いない。しかしその鬱憤は日本に支配(侵略?)されたことより、その支配を自力で打ち破ることができなかったことにある、というのが筆者のかねてからの見立てである。戦後の日韓関係の問題点はすべてここから発している。(略)韓国は竹島を舞台に日本と"疑似戦争"を展開しているのだ。この『戦いの気分』こそ竹島問題の核心である。」

韓国大統領・朴槿恵はアメリカでヨーロッパで、執拗に「言いつけ外交」を展開している。相手国に直接言うべきことを、他国に向けて言いふらすことほどぶざまで、侮蔑の対象になることも分からないようだ。韓国ではしきりに「歴史認識の一致」を言い立てるが、黒田氏の見立てでは、韓国人の歴史観というのは歴史を「あった歴史」よりも「あるべき歴史」で考えるということだ。民族あるいは国家として「こうあるべき歴史」を前提に歴史を考え、記録しようとする。根本的に歴史観が違うんだから(リアルとファンタジーの違い)一致などできるわけがない。「歴史観に関する動画」も作って欲しい。 (柴田)

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竹島に関する動画
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尖閣諸島に関する動画
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00DVZRP72/dgcrcom-22/
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黒田勝弘「韓国 反日感情の正体」


●続き。続き。ナンバーカード(ゼッケン)の裏に緊急連絡先を書き込み、安全ピンで止め、シューズにはICチップをワイヤー入りビニールひもをつける。

電池を持たないパッシブタグというもので、1996年にオランダのチャンピオンチップ社が開発したとのこと。最後のランナーがスタートするまでには30分程度の開きが出るが、このチップによって個人の正確なタイムが記録される。

大阪マラソンでは5kmごとに経過時間とペース、通過時点の映像が記録され、名前とナンバーによって検索ができる。また、Webアプリによって、大会中に参加者がどこを走っているか、地図上に表示されるようにもなっていた。

45ml袋の倍はある丈夫な手荷物預かり用のビニール袋に、名前やナンバーが印刷されているシールを貼る。貴重品をどうするのか気になったが、みんな預けているよとのこと。ということで1,000円だけ入れておいた。いざとなれば歩いて帰れるし。続く。 (hammer.mule)

< http://www.keisoku-kobo.co.jp/article/13190011.html
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計測システム(特にマラソン計測について)
< http://sunwards.asablo.jp/blog/2012/11/27/6644477
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去年のものだが、今年とほぼ同じデザイン
< http://fitnesskannamba.blogspot.jp/2012/11/2012.html
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去年のもの、表。時間がメモできる。

< http://eonet.jp/osaka-marathon/2013/
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「ランナーズ・アイ」と「どこ走っとRun?」

< http://okwave.jp/qa/q3590142.html
>
市民マラソン参加時の荷物
< http://d.hatena.ne.jp/edograph/20110228/1298881037
>
東京マラソンの荷物管理
< http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130728-00000007-pseven-spo
>
東京マラソン 預かった数万個の手荷物をゴールですぐ返す技