ローマでMANGA[70] キャラクターをめぐる攻防
── midori ──

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講談社のモーニング編集部が日本人以外の作家を起用して、描き下ろしを作ってもらって掲載するという、前代未聞の企画を進行した時に、イタリア人作家と編集部の仲介をするという嬉し楽し仕事をしていた時の記録の意味を込めて書いているシリーズです。今は、「幸運が服を着て歩いている」楽天的なヨーリとの関わりを書いてます。


●翻訳調で助けてくれる編集者

今回の編集部とヨーリとのやりとりファックスのスキャンは、1993年6月から8月まで。6月の第一報は、3月から顔を出し始めた「不思議な世界旅行」準担当の木原さんからのファックスだ。大雑把なヨーリの担当にふさわしく、温和な人柄の方だ。

しょっちゅう手書きでファックスを送ってきて、「遅くて済みません」が何度も出てくる。6月第一報も、第3話のネームの返事が遅くなって済みません、の連絡だった。もちろん、のんびりしてて遅くなるわけではなくて、他にも担当している作家さんがいるからなのは、言うまでもない。

私への連絡は普通の日本語だけれど、ヨーリへの通信は、イタリアとフランス担当のボス、堤さんの教えのおかげで、いかにも翻訳調の書き方をしてくれる。例えば、6月の次の送信にこんな文が見える。

「あなたがこの『不思議な世界旅行』の制作に熱意をもって取り組んでいることを、改めて知ることができ、大変嬉しく思いました」「私はこのラフとネームを受け入れます」「私は、あなたがこの第3話の原稿を完成に向けて薦めてくださることを希望します」

なるべく主語と述語をいれて短いセンテンスで、あいまいな表現を回避している。このおかげで、ほぼ直訳でいいので、翻訳時間を大いに短縮することができた。

●まったく毛色の違う作品を提案

7月はファックスの感熱紙ではなくて、オリジナルプリントアウトに担当編集者、堤さんの似顔印が朱肉の赤も生々しく押されているA4のコピー用紙で始まる。日付は七夕。私が東京に赴いて、直接手渡されたからだ。

生まれた子供を実家に見せに、旦那と三人で里帰りをしたのだった。子供は5か月。離乳食を少しづつ始め、歯が生え始めて歯茎がイジイジしていた頃だ。飛行器の中で赤ちゃん用のボックスの中で、歯固めや自分の足をガジガジしてよだれでぐじゃぐじゃにしていたのを思い出した。

連絡内容は、ヨーリが新しい作品の提案をして、それを受け入れるということだった。イゴルトがマフィアをテーマにした大河を制作しながら、カラー作品の全く毛色の違う「ユーリ」を提案したのと同じように、イゴルトのお友達のヨーリもまったく毛色の違う作品を提案してきたわけ。

私がほそぼそとエッセイMANGAを掲載してもらっていた時、たったの2ページか4ページだったのにヒィヒィ言っていた。なのに、この御仁達は長編を描きながら短編連載を描くと言うのだ。プロ根性というのだろうか。

もちろん定収入があるわけではないから、できるときになるべく多くの原稿料を発生させようとするのは正しい姿だけど、それにしてもよく頭の切り替えが出きて、アイデアを次々と出していけるものだと感心した。

●戦うヨーリ

新しい提案は「ミヌス」。「ミヌス」はキャラの名前だ。製作中の「不思議な世界旅行」と同様、過去にイタリアで何回か掲載したもの。セリフはほとんどなく、鮮やかな色が支配する目に楽しい、シンプルな読み切り短編だ。イタリア版を翻訳するのではなく、キャラはそのままにして、日本向けに新しく作る。

国際版権部とも話し合って、まず、週刊誌に掲載し、のちに絵本として出版するという提案が編集部からなされた。ただし、全面的な受け入れではなく、主人公の造形について待ったがかけられた。

以下のURLで画像をご覧ください。
< http://bit.ly/1c0kWgV
>
画像は編集者がカラーコピーを使って、週刊誌掲載状態をシュミレーションしたもの。

ご覧のようにミヌスはとても単純な造形をしている。編集者はその特徴をよしとしなかった。編集者の朱印がついた手紙では、「強いキャラクター性を感じることができないので、工夫を加えてみる気はないか」と聞いている。聞いている形をとりながら、実は、変えて欲しいと依頼しているのだけど。

イタリアで掲載したものは、穏やかなミヌスの形状や陽気な色彩とは裏腹に、ブラックユーモア的な題材が多かった。これについても編集者は、ブラックを否定するつもりはないが、これに限定してしまうと作品世界を最初から狭めてしまうのではないか、と危惧している。

これに対してヨーリは、ブラックに限るつもりはないと答えてきた。そして、形状に関して、うまい戦い方をした。ミヌスというキャラを復活させたいという希望が大きいので、堤さんの出す条件はすべて飲むつもりでいるけれど、まず戦ってからだ。

1)この単純な造形は抽象的でどんな背景、風景にも調和する
2)年齢がなく、大人にも子どもにもなれる。
3)わかりやすく、必要不可欠なものだけで成り立っており、慣れるのに時間がかかるかもしれないけれど最後には好きにならずにいられなくなる。

ヨーリの攻撃は大成功、「かいしんのいちげき!」だった。

担当編集者は、「この造形が完成度の高いことであることは認める。小さな丸い目と口に、時折眉毛が出てきて様々な表情をつくる技量も評価している、ついてはこの所見を尊重し、造形はこのままで行きましょう」という全面降伏に終わった。

ヨーリの喜びは言うまでもない。
「不思議な世界旅行」制作も着々と進んでいく。

【みどり】midorigo@mac.com

お小遣い稼ぎ大冒険は続く。ウェブライターの道を探していて、「ガジェット通信」でもウェブライターを募集しているのを見つけた。応募要項に「中年です。中年も人間です。」と、前に応募した時に不採用になった理由に年齢があるだろうと推測したので、逆にこれを武器にする自己紹介にした。翌日に、すぐに採用のお知らせが来て、逆にびっくりした。

12月1日に中部イタリアで起きた中国人経営の工場の火災について記事を書いた。でも、ガジェット通信が望むトーンや扱う記事内容が、今ひとつ把握しきれずにいる。

そして、10月終わりに高齢の姑が入院し、11月末に天に召されて、お見舞いやらお葬式やらでごちゃごちゃしていて、お小遣い稼ぎに時間を割けなかったせいもある。毎月末連載のはずの電子書籍も用意できなかった。

姑は91歳。高齢と27年前の脳溢血の後遺症がだんだん進行して、ここ数年は家の中では椅子に座ったまま、我が家に遊びに来るときは車いすの移動だった。頭もだんだん機能しなくなっていった。

医療が進んで、難しい病気から生還できても、現代医療はあくまでも肉体を重視していて患者の生活のレベル、人としてのレベルは考慮に入っていない気がする。体のあちこちの痛みに耐えつつ、何をするにも同居人に声をかけて手伝ってもらわねばならず、視力も落ちて、一日、ただ、生きているという感じで、自分が姑の立場だったらと考えると、生きていること自体が拷問に近いような気がして気の毒でならなかった。

麻生さんがだいぶ前に「さっさと殺して」みたいなことを言ってマスコミが問題にしていたけれど、麻生さんは自分がそうなったらと言っていたのであり、私も自分がそうなったら、さっさと召されてしまいたい。

「イタリアで新しい漫画を作る大冒険」
< http://p.booklog.jp/book/77255/read
>

主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
< http://midoroma.blog87.fc2.com/
>