[3620] 「Life ライフ」とカメラの進化

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《少しは「自己満足」があってもいい》

■装飾山イバラ道[131]
 「Life ライフ」とカメラの進化
 武田瑛夢

■Take IT Easy![02]
 目黒のさんま
 若林健一 / kwaka1208


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■装飾山イバラ道[131]
「Life ライフ」とカメラの進化

武田瑛夢
< https://bn.dgcr.com/archives/20140121140200.html
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アニマルプラネットで「Life ライフ」を見た。英国国営放送「BBC」と、「ディスカバリーチャンネル」が共同制作したドキュメンタリー番組。BBC得意の美しい映像と日本版では中井貴一のナレーションが良い。

真面目すぎるくらい淡々としている語り口だけれど、聞き取りやすいし映像に注意が向かう。オリジナルのデイビッド・アッテンボローのナレーションで短い字幕を読むのも味があるが、たまには画面に文字がないのもいいかもしれない思った。本当に息を飲むほど映像が美しいからだ。

映画版は2年くらい前に90分の作品として公開された。テレビ版はいくつかのテーマに分けて放送されている。「霊長類 創造と共感」ではいろいろな猿の生態を見た。

・ライフ | アニマルプラネット
< http://www.animal-planet.jp/series/index.php?sid=305
>

猿たちは人間のお仲間だから愛着も湧くし、猿なりのしっかりとした社会のしくみがあって面白い。ちょっとショックだったのはニホンザルのシーンだ。冬山の猿は雪の中で食べるものが少なくて、木の皮をかじって生活している。冬の食べ物は厳しいけれど、ここの猿は冬にも良いことがある。猿は温かい温泉に皆で入浴する。スノーモンキーなんて呼ばれて海外でも人気の光景だ。

お湯の湯気がホカホカで、赤ちゃん猿も年寄り猿も気持ち良さそう。と突然、ここまでの静寂を打ち破り、一部の猿がキーキーと威嚇されてお湯から追い出されていた。ニホンザルの上下社会はとても厳しくて、温泉に入れるのは上位の猿とその子供たちだけなのだという。

温泉から閉め出された猿の親子たちは、吹雪に身を縮めていて本当に寒そうだった。私は猿は皆平等に温泉に入れるものと思っていた。地位によって娯楽まで決められているなんて、猿界も大変だのう。

お湯の中と外では60度近くも温度差があり、生死を分けることもあると説明されていた。温泉は人間のお風呂とは違う価値を持つコミュニケーションツールなのかもしれない。

●カメラの進化で見えてくるもの

「Life ライフ」ではハイビジョンに対応した高解像度の映像と、ハイスピードカメラ、低速度撮影などの時間を自在に操る撮影方法が見事だ。

素早くジャンプする猿の動きはスローでゆっくりと見ることが出来るし、美しい景色は数秒で季節が変わる映像になっている。時間をのばしたり圧縮したりはドキュメントの映像加工の中でも腕の見せ所なのだろう。

そこには昔のドキュメントTVで見たようなチラチラとした不自然さがなく、なめらかに移り行く景色は夢を見ているような感じだ。

先日の朝のワイドショーで見たアフリカの映像では、小型のヘリコプターで撮影された動物の群れだった。ヘリは鳥くらいのサイズであまり音もしないらしく、動物たちはカメラの存在を意識していない。

以前からある、人が乗るヘリコプターの空撮の風と轟音で逃げ惑う動物たちの姿ではなく、くつろいでいる日常の風景そのものだった。

超低空飛行でハイエナが獲物を運んでいるところに近づいたら、ハイエナがこちらのカメラを見上げた。まるで自分が飛んで行ってハイエナの生活を覗いている時に、ハイエナと目が合ったような感じがした。

小型ヘリの映像はメガネ型のものでリアルタイムに見ることができるそうで、アフリカのサバンナを安全に散歩するような映像が実現している。自分がコントローラーを手にできるのなら素晴らしいけれど、規制しないとそんなのが増えすぎて問題になりそうだ。

研究者は野生動物の背中にのせた超小型カメラで、人間の知らない生態を次々に撮影している。海を泳ぐイルカや空飛ぶ鳥の視線になったような映像だ。

カメラのサイズや重さ、バッテリーなどの問題がクリアされ、海でもジャングルでも、地球の末端に人間の視界が広がって行く感じがする。現実は何も変わらないけれど、見え方が変わることで得られる情報の質は変わるのだ。

●画像の質と量の向上

個人が動画サイトにアップする動物動画も解像度が増している。BBCでさえ、奇跡のようなシーンを撮影するためには「時間」をかける以外に方法はないという。

しかし、今はすごい数の動物好きが世界中で手分けして撮影しているようなものだ。個人個人の手に高機能なカメラがあり、すぐにネットにアップできる。見た人が次々に情報を回すので、評判の動画が広まるのはあっという間だ。

個人の動画がプロの動画と変わらないとは思わないけれど、チャンスは等しいのかもしれない。野生の地で撮影するのは無理でも、人の住む場所に近い動物なら撮影も期待できる。

雪男や他のUMAもいつか撮影できるかも? 珍しい動画には捏造された動画も多いようだが、解像度がクリアであればあるほど嘘っぽさもはっきり見えてくるもの。

作りものは偶然映ったすごいことを超えられない時代になってしまっている。よほどのものを作らないといけないのは、どんなジャンルの仕事の人でも同じ悩みかもしれない。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
< http://www.eimu.com/
>

新年初の原稿です。土鍋でご飯を炊いてみたくて買った炊飯用の黒いやつ。2合用なので小さいけれど、火加減は簡単なのに水加減が難しい。電気釜の味に勝てない日々が続いた。ようやくベストに炊けたので、次は時間を増やしておこげ付きで炊けるといいな。というわけで、今年もよろしくお願いします。


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■Take IT Easy![02]
目黒のさんま

若林健一 / kwaka1208
< https://bn.dgcr.com/archives/20140121140100.html
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突然ですが、古典落語の「目黒のさんま」をご存知ですか?

外出先で立ち寄った長屋で、「焼きさんま」をご馳走になった殿様が、お城に帰ってからも「さんまを食べたい」と言います。しかし家来達は、「骨がささっては大変」と骨を抜き、「脂は体に悪い」と脂を抜き、カスカスになった「さんま」を食べられるものにするために、「さんまのつみれ汁」にして殿様に出したところ、殿様は「これは私の知っている、さんま、ではない」という噺です。

私は、日本製品が魅力的でなくなったという話を聞くにつけ、この「目黒のさんま」を思い出します。

メーカーのモノづくりにおいて、着想時点では面白いアイデアのものがたくさんあります。決して、アイデア段階からつまらないものばかりではないのです。

しかし、そのアイデアを商品化するプロセスの中で、「利用者が正しく使えないかもしれない」「悪意のある利用者に、悪用されるかもしれない」と「改良」が繰り返された結果、できあがったモノが「魅力的でない」モノになってしまっています。この構造は、「目黒のさんま」そのもの。

一見、この噺の家来達は「殿様の健康を想い」、メーカーは「利用者のことを想い」という意味で共通しているように見えるのですが、実は「家来」と「メーカー」が保身を考えた上での行動、という意味で共通している、と私は考えています。

噺の中の家来達にそのような悪意は感じられませんが、これが実話であったなら、家来の中には自己保身を考える者もいたでしょう。

「焼きさんま」を殿様にお出しして、殿様に何かあれば、例えそれが些細なことでも家来が責任を取ることになります。最悪は切腹です。

メーカーも、利用者の誤用によって事故が起こったり、利用者からクレームを貰うことになれば、何らかの責任を取らなければなります。

もちろん、本当に殿様(利用者)のことを考える家来(メーカー担当者)もいるのですが、少なからず自己保身に走っているケースもあるのです。

また、家来達はできあがった「さんまのつみれ汁」を見て、「美味しそうだ、自分が食べたい」と思ったのでしょうか? おそらく、そんなことはなかったのでしょう。

モノづくりにおいても、同じことが言えると思います。担当者自身が「これを欲しい、自分が使いたい」と思っているかどうかが大切になります。

「自己満足になってはいけない」とも言われますが、「顧客視点という名を借りた自己保身」に走るぐらいなら、少しは「自己満足」があっていいと思うのです。

では、すべては家来とメーカーの責任なのか? そうではありません。殿様も、普段はわがままを言い散らしているに違いありません。そんな殿様を知っているから、家来は萎縮してしまうのです。

利用者とメーカーの間にも、このような関係ができてしまっています。どこで線を引くのか? というのは難しいところですし、明確な線引きは難しいでしょう。

しかし、利用者にとっても、メーカーにとっても不幸な結果をもたらしている今の構図を見ると、双方が対話し歩み寄ることが日本のモノづくりを復活させるために必要な要素のひとつだと、私は考えています。

目黒のさんま @Wikipedia
< http://ja.wikipedia.org/wiki/目黒のさんま
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目黒のさんま 十代目馬生さん @YouTube
<
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#モノづくりの現場から

【若林健一 / kwaka1208】 kwaka1208@pote2.net
Take IT Easy!
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< https://www.facebook.com/kwaka1208net/
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1月17日、シャープ株式会社時代にお世話になった先輩が亡くなりました、52歳でした。今の私が、エンジニアとして一人前であると胸を張って言えるのは、モノづくりで多くの経験を得られたのは、この方のおかげと公言している大切な先輩です。あまりにも若過ぎて、あまりにも突然の死、本当に悲しいです。

後藤さん、本当にありがとうございました。自分は、後藤さんに教えていただいたことを支えに、もう少しこの業界の力になれるよう頑張っていきます。どうぞ、天国から見守ってやってください。


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編集後記(01/21)

●近ごろの若者言葉もひどいが、政治家言葉は以前からもっとひどい。官房長官会見で毎日聞いてるような気もするのが例の「遺憾」だ。中韓からどんな理不尽なことをされても、国内で大きな事故や事件が起きても、たいていは無表情で「極めて遺憾」が発せられる。遺憾とは広辞苑によると「思い通りにいかず心残りなこと。残念。気の毒」である。それだけしか意味がないはずなのに、政治家は万能の言葉のように都合よく多用する。明らかな間違いである謝罪にまで使っている。

[外交における「〜は遺憾である」という声明は「〜は為されるべきではなかった」という見解の表明として使われている。相手の行為に対する言及であれば非難となり、第三者の行為に対する言及であれば旗幟の表明となる。ただし、いずれの場合も劇的な対処を行わず事態を収拾せんとする意向を暗示するものであることが多い]というWikipediaの解説が鋭い。

官房長官の「遺憾に思う」を外国ではどう解釈しているんだろう。逆の意味にとられかねない危険な言葉だ。日本人でも理解できない、意味不明で最悪の政治用語だと思う。植木等が「まことに遺憾に存じます」と笑い飛ばしたのはいつのことだっけ。慣用句らしい「汗をかかせていただく」なんての、うす汚く臭気漂う。ほんとに気持ち悪い。「がんばる」でいいじゃないか。

歴代民主党党首が「しっかり」「きっちり」を乱発してきたが、単なるごま化し語。自信のなさの裏返しだ。政治家の「を」を気にする人は多い。「事態が緊迫をしております」「把握をする」「達成をする」「共有をする」「成立をさせる」こんなバカな表現はテレビで毎日聞ける。テロップはちゃんと「を」抜きだけど。内館牧子の「金を積まれても使いたくない日本語」コレクションに、野田首相が突然の解散を表明したとき、ある民主党幹部が「びっくりを致しておるところでございます」と言ったというのがある。「あまりのすごい使い方に抱腹絶倒し、私はこの政治家が好きになった」そうだ。

「お」もある。「お会いさせていただいて」「お示しする」「お訴えをさせていただく」ああ聞き苦しい。バカ丁寧にもほどがある。慇懃にもほどがある。票が欲しいから有権者に無意味な丁寧語、謙譲語を羅列しまくるクセが出ているらしい。内館コレクションにこんなすごいのがある。「ここまでの説明でよろしかったでしょうか。以上、紙の上におのせさせて頂いた資料の内容を、関係各所にお伝えをし、実現をお訴えしていくところでございます」

「公務員と政治家の言葉を聞いていると、こんなレベルの人たちに国をお委ねをさせて頂いておることに、びっくりを致してしまう」という内館サンであった。ところで、いつも困惑顔でボソボソ話す防衛大臣がいる。たぶん誠実な人だと思うけど、報道のマイクの前ではもっと堂々とした頼もしい姿を見せて欲しいものである。(柴田)

< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4022735139/dgcrcom-22/
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「金を積まれても使いたくない日本語」


●人と会う。近所まで来てくださった。ゆっくり話したいとのことで、カラオケボックスに。近所ではお茶やカラオケには行かない。お茶は家で飲めばいいやと思ってしまうし、カラオケは敢えて選ばない。

フリータイムがあるとのこと。8時間いても1,000円未満。なんですかこれ。そして、フリードリンク。飲み物は自分たちで取りに行くシステム。同行者に聞くと、食べ物持ち込みOKなカラオケボックスもあるそうな。

実際には3時間程度の利用で、歌わず終い。個室が欲しい時は手軽でいいなと。部屋の予約はできるし、コンセント使用OK、電源タップや携帯充電器、ブルーレイやDVD(ブレイヤー?)の貸し出しOK、PCやケータイゲーム持ち込みも可能。行ったお店はSoftbankのWi-Fiスポットだったわ。(hammer.mule)