装飾山イバラ道[131]「Life ライフ」とカメラの進化
── 武田瑛夢 ──

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アニマルプラネットで「Life ライフ」を見た。英国国営放送「BBC」と、「ディスカバリーチャンネル」が共同制作したドキュメンタリー番組。BBC得意の美しい映像と日本版では中井貴一のナレーションが良い。

真面目すぎるくらい淡々としている語り口だけれど、聞き取りやすいし映像に注意が向かう。オリジナルのデイビッド・アッテンボローのナレーションで短い字幕を読むのも味があるが、たまには画面に文字がないのもいいかもしれない思った。本当に息を飲むほど映像が美しいからだ。

映画版は2年くらい前に90分の作品として公開された。テレビ版はいくつかのテーマに分けて放送されている。「霊長類 創造と共感」ではいろいろな猿の生態を見た。

・ライフ | アニマルプラネット
< http://www.animal-planet.jp/series/index.php?sid=305
>


猿たちは人間のお仲間だから愛着も湧くし、猿なりのしっかりとした社会のしくみがあって面白い。ちょっとショックだったのはニホンザルのシーンだ。冬山の猿は雪の中で食べるものが少なくて、木の皮をかじって生活している。冬の食べ物は厳しいけれど、ここの猿は冬にも良いことがある。猿は温かい温泉に皆で入浴する。スノーモンキーなんて呼ばれて海外でも人気の光景だ。

お湯の湯気がホカホカで、赤ちゃん猿も年寄り猿も気持ち良さそう。と突然、ここまでの静寂を打ち破り、一部の猿がキーキーと威嚇されてお湯から追い出されていた。ニホンザルの上下社会はとても厳しくて、温泉に入れるのは上位の猿とその子供たちだけなのだという。

温泉から閉め出された猿の親子たちは、吹雪に身を縮めていて本当に寒そうだった。私は猿は皆平等に温泉に入れるものと思っていた。地位によって娯楽まで決められているなんて、猿界も大変だのう。

お湯の中と外では60度近くも温度差があり、生死を分けることもあると説明されていた。温泉は人間のお風呂とは違う価値を持つコミュニケーションツールなのかもしれない。

●カメラの進化で見えてくるもの

「Life ライフ」ではハイビジョンに対応した高解像度の映像と、ハイスピードカメラ、低速度撮影などの時間を自在に操る撮影方法が見事だ。

素早くジャンプする猿の動きはスローでゆっくりと見ることが出来るし、美しい景色は数秒で季節が変わる映像になっている。時間をのばしたり圧縮したりはドキュメントの映像加工の中でも腕の見せ所なのだろう。

そこには昔のドキュメントTVで見たようなチラチラとした不自然さがなく、なめらかに移り行く景色は夢を見ているような感じだ。

先日の朝のワイドショーで見たアフリカの映像では、小型のヘリコプターで撮影された動物の群れだった。ヘリは鳥くらいのサイズであまり音もしないらしく、動物たちはカメラの存在を意識していない。

以前からある、人が乗るヘリコプターの空撮の風と轟音で逃げ惑う動物たちの姿ではなく、くつろいでいる日常の風景そのものだった。

超低空飛行でハイエナが獲物を運んでいるところに近づいたら、ハイエナがこちらのカメラを見上げた。まるで自分が飛んで行ってハイエナの生活を覗いている時に、ハイエナと目が合ったような感じがした。

小型ヘリの映像はメガネ型のものでリアルタイムに見ることができるそうで、アフリカのサバンナを安全に散歩するような映像が実現している。自分がコントローラーを手にできるのなら素晴らしいけれど、規制しないとそんなのが増えすぎて問題になりそうだ。

研究者は野生動物の背中にのせた超小型カメラで、人間の知らない生態を次々に撮影している。海を泳ぐイルカや空飛ぶ鳥の視線になったような映像だ。

カメラのサイズや重さ、バッテリーなどの問題がクリアされ、海でもジャングルでも、地球の末端に人間の視界が広がって行く感じがする。現実は何も変わらないけれど、見え方が変わることで得られる情報の質は変わるのだ。

●画像の質と量の向上

個人が動画サイトにアップする動物動画も解像度が増している。BBCでさえ、奇跡のようなシーンを撮影するためには「時間」をかける以外に方法はないという。

しかし、今はすごい数の動物好きが世界中で手分けして撮影しているようなものだ。個人個人の手に高機能なカメラがあり、すぐにネットにアップできる。見た人が次々に情報を回すので、評判の動画が広まるのはあっという間だ。

個人の動画がプロの動画と変わらないとは思わないけれど、チャンスは等しいのかもしれない。野生の地で撮影するのは無理でも、人の住む場所に近い動物なら撮影も期待できる。

雪男や他のUMAもいつか撮影できるかも? 珍しい動画には捏造された動画も多いようだが、解像度がクリアであればあるほど嘘っぽさもはっきり見えてくるもの。

作りものは偶然映ったすごいことを超えられない時代になってしまっている。よほどのものを作らないといけないのは、どんなジャンルの仕事の人でも同じ悩みかもしれない。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
< http://www.eimu.com/
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新年初の原稿です。土鍋でご飯を炊いてみたくて買った炊飯用の黒いやつ。2合用なので小さいけれど、火加減は簡単なのに水加減が難しい。電気釜の味に勝てない日々が続いた。ようやくベストに炊けたので、次は時間を増やしておこげ付きで炊けるといいな。というわけで、今年もよろしくお願いします。