わが逃走[135]オレは甘いものが食べたいの巻 齋藤 浩

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正月明けに太った。というよりも、年末からずっとハードなデスクワークが続き、脳の活性化という名目のもとチョコレートと餅を大量摂取したのだから、太って当然なのである。

先日体重計にのって驚いた。なんといつのまにか6キロも増えている。6キロといえば2リットルのペットボトルの水3本分だ。どうりで階段を上るのがきついわけである。ズボンもシャツもきついわけである。


なので今月の8日からダイエットをしている。ダイエットといっても運動をするわけでなく、必要以上に食わない。満腹になったらそれ以上食わない。惰性で食わない。それを心がけるだけだ。

毎日体重計にのり、摂取カロリーを記録していたところ、約2週間で3キロの体重減に成功した。とはいえ、この程度の体重はすぐにもとに戻るので、油断は禁物である。

オレは甘いものが好きだ。チョコレートとか菓子パンとかどら焼きとかカステラとか、好きな物は太りそうなもの全般、と言っても過言ではない。

好きな物を食べたいのに食べられないのはつらいことだ。甘いものを食べてはいかんと思えば思うほど食べたくなってしまう。どら焼きを買う金すらないのであればあきらめもつくが、生憎どら焼き程度なら買えるくらいの金は持っている。なのでどうにも始末が悪い。

では、そうすればあきらめがつくかを考えてみた。そして、買いたくても買えないものを食べたがればいいという結論に達したのだ。

さて、買いたくても買えないものとは何か。それは廃番商品である。絶版の書籍やレコードは中古屋に行けば手に入るが、廃番のお菓子はどう考えても無理である。無理なものなら諦めもつく。結果ダイエットも成功するはずだ。

というわけで、かつてオレが大好きだったけど、今はもう手に入らない思い出のお菓子を思い出してみることにした。

1・森永ハーバードクリーム

いわゆるマリーとかチョイスとかいった類いの森永ビスケットシリーズの中で、幼児期のオレがいちばん好きだったのがこの『ハーバードクリーム』だ。当時は細長い直方体の紙製パッケージに入っており、片方の端からはバニラ味、もう片方の端から開けるとココア味のクッキーがぎっしりと詰まっていた。

あのぎっしり感! 最近はどれもこれもスカスカ個包装の商品が多く実に嘆かわしく思うのだが、あの頃のお菓子はぎっしりみっちり詰まっている商品も多かったように思う。

あれを一気に一箱食べ切りたかった。少なくともふたつの味を交互に10個くらいは食べてみたかった。

今となっては食べたくても食べられん……。と思っていたのだが、ネットで調べたらサイトが存在している!

近所で見かけないので廃番かと思ったらまだあったのか!? 思わず森永ビスケットのページをクリックしてみたところ、やはりラインナップには存在せず。ああ、これで安心してダイエットができるな。

2・森永くるみの森

明治が『きのこの山』、『たけのこの里』といったチョコレート菓子を発売し定番化していった頃、そっくりのパッケージと似たようなネーミングで森永から発売されたのがこの『くるみの森』である。たしか沖田浩之がCMに出ていた。

姉妹品の『森のどんぐり』はたいして旨くなかったが、この『くるみの森』は尋常じゃない旨さだった。構成要素である濃厚なミルクチョコレートと胚芽入りビスケットとの対比と調和が絶妙で、これを食べた後に『たけのこの里』を食べると、どうにも粉っぽく淡白な印象を受けた。

なぜ廃番にしたのか未だ理解に苦しむ。パチもんぽいネーミングに物言いがついたのであれば、違う名前で再発してほしい。

たしか中学二年のとき、友人とくだらない遊びで勝負して勝った方が『くるみの森』をもらえる、なんてことをしていたものだ。とにかくその頃は小遣いで買える全てのお菓子(150円程度の)の中で最もコストパフォーマンスに長けていたものがこの『くるみの森』だったのである。

思い出したらますます食べたくなった。ああ食べたい食べたい、食べたいよー。でも廃番商品だから食べたくても食べられないよね。というわけで、諦めてダイエットだ。

3・明治かなぼうくん

幼稚園の頃だったか、母に買ってもらって初めて食べたところ、こ、こんなに旨いものがこの世にあったとは! と感動したのがこの『かなぼうくん』だ。

細長いビスケットを軸に、ピーナッツチョコがもりもりと盛られている構造で、鬼が持っているイボイボのついた金棒に似ていることから、そういったネーミングになったものと思われる。

鬼のイラストの描かれたパッケージはインパクトもあるし親しみやすく、今でも記憶に残っている。

商品の構造上折れやすいらしく、それを防止するためコの字型のPP加工された厚手の紙製トレイに守られたパッケージングになっており、当時4歳のオレはそのちょっとした心遣いにも感動したのだった。

さて、他社製ピーナッツチョコは今でもコンビニで買えるので、それを一旦溶かしてから、塩とごまを取り除いたギンビスのアスパラガスに盛りつけて再現してみようかと思ったのだが、チョコレートの質がイマイチだったため挫折。

『かなぼうくん』は、かなり質の高いミルクチョコレートにピーナッツが混ぜ込まれており(4歳児の記憶)、これを再現するとなるとそれなりに時間と費用もかかろうってなものだ。なのであきらめてダイエットだ。

4・東ハトレーズンパイ

東ハトといえばオールレーズンが定番だが、レーズンはレーズンでもオレが食べたいのはパイなのである。

やはり幼稚園児だった頃に思い切り感動したお菓子のひとつで、紫色を基調とした、これも横長の直方体パッケージに入っていたと記憶している。

初めて食べたのは、父とふたりで留守番していたときだ。父がおもむろにオーブントースターで温めた後、バターを塗ってくれたんだな。そうすると、普通に食べる何十倍も美味しくなって、この世の物とは思えないほどの味と香りだった(4歳児の記憶)。

その後、類似商品が他社からも発売されたが、東ハトレーズンパイに勝るものなし。小学校を卒業する頃には店頭でみかけなくなり、高校生の頃だったか、一度これを探し求めて自転車でさまよったことがあるが、結局みつからなかった。それ以来ずっと食べたくても食べられないので、いいかげん諦めてダイエットしようと思う。

5.ロイヤルホストのりんごとシナモンのパフェ

ここでいきなり単価が上がる。なんとファミレスのメニューである。とはいえ、最後に食べたのがすでに20年以上前。ファミレス業界では、ガキがうるさくなく料理も旨いのでロイホはわりと好きなのだが、とくに甘いもののクオリティが他の追随を許さず、オレ評価はいたって高い。

で、ここにはかつて『りんごとシナモンのパフェ』なるメニューが存在しており、これがとんでもなく旨かったのだ。

構成の中心はりんごソースのかかったバニラアイスなのだが、甘すぎず上品な酸味があり、とにかく他では食べられないオリジナリティを感じたのだった。

先月、印刷会社の営業のNさん(若い女性!)と打合せの後お茶することとなり、たまたまロイホがあったので久しぶりに入ってみた。で、速攻でメニューの甘いもののページを開いたが、『りんごとシナモンのパフェ』は載っていなかったのである。

あー、食べたいな『りんごとシナモンのパフェ』。それとも季節商品でたまたまなかっただけなのか? だとしても、次のりんごの季節までは我慢するしかないな。そんなわけでダイエットである。

番外編・小分けされる前のポッキー

ポッキーは今でもグリコの定番商品であるが、昔と違って箱を開けると小さなアルミの袋ふたつに小分けされている。この影響で内容量も少なくなったんじゃないか? そんな気がする昨今である。

さて、オレが子供の頃は、箱を開けビニールの包装をひらくと、ぎっしりとポッキーが詰まっていたものだ。

そんな小学生のある夏の日、ポッキーを日向に置いていたらチョコレートがドロドロに溶けて液体となってしまった。慌てて冷蔵庫で冷やし数時間後に取り出してみると、全てのポッキーがひとつにくっつき、見た目は悪いが手のひらでがっしりと握れるたいまつのような巨大な一本のポッキーが出来上がっていたのだ。

あれをかじったときの衝撃は忘れられない。顎から耳に伝わるチョコとプレッツェルのくだける音。ものすごい贅沢をしている後ろめたさを感じつつも、充足感に満たされた幸せな時間だった。

しかし、今は小分け、個包装の時代である。真夏にいくら日向に置き忘れたところでカタマリは半分の大きさにしかならないのだ。そう思うと執着もなくなり、そこまで食べたいとは思わなくなるから不思議だ。

そしてまたひとつ体重減に近づくのだった。
目標まであと3キロ。ことしもよろしく。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。