わが逃走[136]趣味の構造美の巻 その3
── 齋藤 浩 ──

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ことあるごとに写真を撮りため、このシリーズもそれなりの数になってきました。私が掲げる“構造美”という感覚は、果たしてヒトビトに受け入れられているのか?

仲間内では面白がってくれる方も少なくないのですが、まあ一般受けはしないよね。

とはいえ、物心ついた頃からなんとなく気になっていたもの、好きだったものをひと言で表すこの“構造美”という言葉に辿り着いたことは、なにものにも代え難い安心を得たと言っても過言ではありません。

つまり、「好きな物は美しい構造! 美しく機能している構造を探してそれを美しく撮ることが私のライフワーク!」と声を大にして言えること。

このトンネルを抜けた感じ、突き抜けられた感覚は、私にとってここ数年の不況をもぶっ飛ばすくらいな大事件であり、自分の美意識の基準を確信できる大発見であったのです。


三歳の頃好きだったのはトビラの蝶番や電車のパンタグラフ、小一の頃はカウンタックの脇のNACAダクト(両サイドのドアにまたがるかたちで配置されている空気取り入れ口)やリトラクタブル式ヘッドライト、小四の頃は蒸気機関車の返りクランクやクロスヘッドなど足回りの部品、そして中学生になると階段やブロック塀に美しさを感じるようになりました。

しかし、まだその感覚に確証がなく、率先して写真に撮りたいとか、構造を研究したいなどとは全く考えていなかったのです。

そして40代も半ばにさしかかろうとした今、この長年の興味の対象をひと言で表す言葉に気づくことができたことは、どうにも幸せだなあ、などと思う齋藤浩でございます。

そんな訳で、今回も『趣味の構造美』です。

・天を仰ぐ
< https://bn.dgcr.com/archives/2014/02/13/images/fig01 >

斜面に沿ってブロックを積んでいくと、頂上は必然的にこうなる。にもかかわらず、こんなに素直な物件にはなかなか巡り会えないのが世の常。しばし見惚れる。そうこうしているうち、ブロックに人格まで感じてくるから不思議だ。

この日は曇りのち雪で、この写真を撮ったときは形状よりも風情を強く感じたオレだが、いつか晴れた日に訪れてビシッと屹立する陰影パキパキのこのヒトに会いたい。

・線路をくぐる美しい階段
< https://bn.dgcr.com/archives/2014/02/13/images/fig02 >

海側に直線的な階段、山側に美しくカーブした曲線階段を持つアンダーパス。階段そのものも美しいが、海側から線路の下を潜ると山側の線路の上に出るという、必然から生まれた構造がなんともエンターテインメント。

・力強い配管
< https://bn.dgcr.com/archives/2014/02/13/images/fig03 >

ただの配管なんだけど、光の影響のせいか古代ギリシア彫刻のような力強さを感じてしまい、思わずシャッターを切る。でもねー。うわっカッコイイ配管! とか言ってもなかなか理解してもらえないんだなー。

・チンアナゴ
< https://bn.dgcr.com/archives/2014/02/13/images/fig04 >
リズミカル。愉快。カワイイ。

・配管天国
< https://bn.dgcr.com/archives/2014/02/13/images/fig05 >
美しいレリーフとか彫刻を作るつもりなんかないのに、必然的に美しくなってしまった好例。

・真ん中だけ階段
< https://bn.dgcr.com/archives/2014/02/13/images/fig06 >

友人曰く「逆はよく見かけるけどこれはめずらしい」。たしかにそうかも。ひねくれ者の子どもは自転車に乗って真ん中を下る。オレならそうしたことであろう。

・舞台装置
< https://bn.dgcr.com/archives/2014/02/13/images/fig07 >
散歩していると、階段を中心とした舞台装置のような空間に遭遇。用途不明。

・連続する魚
< https://bn.dgcr.com/archives/2014/02/13/images/fig08 >

これも一種の構造美と言えよう。七夕やクリスマスの装飾にはほとんど興味ないが、干瓢や素麺の天日干しには興味がある。もちろんこの写真は後者に属する。いかに効率よく干すかを考えた結果であり、美しく見せようという下心がない。その結果の美と言えるのではないか。

・リピートするボート
< https://bn.dgcr.com/archives/2014/02/13/images/fig09 >

先日、ゾウのはな子の誕生日を祝いに井の頭公園まで出向いたところ、池の水抜きが行われており、ボートが密集。ミニマルな美。

・柱の基部
< https://bn.dgcr.com/archives/2014/02/13/images/fig10 >

急坂に設置された手すりの基部なわけだが、組合わされた複数の円柱のセンターがすべて一致していないところが好ましい。結果、単純な構造にリズムが生まれている。

・美しい壁と階段
< https://bn.dgcr.com/archives/2014/02/13/images/fig11 >

道と壁に対する階段の角度が好み。整然としているようでそうでもないところがイイ。

・都内某所のすべり台つき階段
< https://bn.dgcr.com/archives/2014/02/13/images/fig12 >

オレが子どもだったら絶対ここで遊ぶはずだ。美しい曲面と水平垂直との対比、そして調和。23区内の階段の中でも、かなりな美階段の部類に入るのではなかろうか。

・薄い階段
< https://bn.dgcr.com/archives/2014/02/13/images/fig13 >

薄い! 果たしてこれを階段と呼べるのかどうかは置いといて、構造として素直におもしろいと思う。

今回はこのくらいにしておきますね。これからも趣味の構造美、小出しに紹介していきたいと思っています。それではみなさん、ごきげんよう。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。