装飾山イバラ道[132]ソチ五輪〈フィギュアスケートが回すもの〉
── 武田瑛夢 ──

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ソチオリンピックで毎夜眠れない日々が続いている。と言っても、いつも起きていることの方が多い時間帯なので、ちっともつらくはない。明け方頃からさすがに疲れが来るけれど、日本が良い結果を出してくれればそこからの寝つきもよい。

しかし、スキーモーグルの上村愛子の時のように採点に納得が行かないと、目がランランとしてしまう。でも彼女が言っていた、自分より上の選手は良い滑りをしていたという言葉で、ならばしょうがないと思うことにした。お母さんと抱き合う姿とか、旦那さんが画面越しに見守っていることとか、すべてが大人のアスリートの凛々しさを感じられてとても感動した。


●フィギュアスケートの回転ジャンプ

この原稿を書いている今は、フィギュアスケートの羽生結弦が金メダルを取った直後というタイミングだ。本当に良かった! おめでとう! フィギュアは昨年の全日本選手権のオリンピック代表選考から盛り上がっていたけれど、あの全日本の大会は全員が全力で戦ったので、ここ数年で一番見応えがあった。

層が厚いと言われている日本のフィギュアスケート界だけれど、この五輪のタイミングを集大成に位置づけている選手が男女共に何人もいた。年齢もバラバラなのにそんなに一斉にいなくならないで欲しいと思う。

男子は羽生がまだまだ若いし、これからもっと盛り上がるだろうけれど、女子は若い村上佳菜子までも、最後のオリンピックだと思っているらしい。アスリートは近い目標に自分のピークがあると信じることで「今」に最高の力を出せるということか。

20歳前後であればいつ最高が来てもおかしくないし、ここで最高が来たらあとはやめるだけと思っていた方がやりつくせるのかもしれない。

浅田真央もジャンプは若い頃の方が回れていた。細い体のバランスと若い体力、恐れを知らぬ精神のおかげかもしれない。特に回転数は15〜16歳頃に最も多い数を回ることを達成して、それ以降はそのクオリティを上げることに費やすようだ。

年齢や経験を重ねた結果、トリプルアクセルや四回転を回れるようになる訳ではないのだ。そう考えるとなかなか辛い競技かもしれない。身体能力のピークと踊りの技術のピークの両方を持ってくることに難しさがある。

羽生は高難度のジャンプを競技の後半に持って来ることで、得点を稼ぎ出す作戦を組み立てている。戦略を実現するだけの実力があるのが素晴らしい。

ショートプログラムは、オーサーコーチの得意とする技の組み立てに完全にハマっているように思える。フリーではいくつかの失敗があって、ハラハラした。すべて完璧には出来なかったことが、今後への闘志につながったと思いたい。

●羽生が噛み合わせた歯車

羽生は東北出身ということで、ここ数年は苦難を乗り越えてきた。自分ががんばることで見せられるものに強い思い入れがあるようだ。つらい想いを力に変えるのに、時間が間に合ったのも幸いだ。戦略、技、マインド、タイミングすべてが噛み合っている。これは羽生自身が噛み合わせたのだと思う。

自然に起こったことで自分にわき上った気持ちを誰のところへ持っていくか。歯車の中心は自分で決めるけれど、全体を回す力は協力者や見守る人々の力が得られるものだと思う。彼は渾身の演技という形で軸を定めればいい。有能なチーム体制や応援の声は自ずと集まった。

見る人が多いものにはお金は集まる。テレビを見て応援してるだけでも、どこかの誰かの視聴率も業界には大きなエネルギーだ。いろんな掲示板やSNSでコメントが集まるのも歯車の回転力になっているのかも。見ているこちらはスクロールが大変だ(笑)。

●こぼれた感情をもらいたい

今回のオリンピックでは、キャスターや解説者の熱さも話題になっている。ノルディック複合での銀メダルに号泣した荻原次晴氏の放送を生で見ていたけれど、私も思わずもらい泣きした。

そして、スピードスケート500mでメダルを取れなかった後に、堀井学氏が目を真っ赤にしながら「褒めてやってください」と言っていたのにもジンときた。

感情を出すことは悪いことじゃない。本当の思いを伝えるチャンスなんて、しゃべる仕事の人でもそうやって来ることじゃない。そばで見つめてきた人の気持ちの動きが見えた瞬間に、多くを語るよりもずっと強く伝わるものだ。

本来は解説なんかしている場合じゃないくらい競技者に近い人が、解説を任された時にテレビ中継はより面白くなるのがわかった。

誰にどのように伝えればより大きな力になるのか。どんなことにも使えそうな大切なことが、それぞれの形できっと多くの人の心に残った。こんなに濃密な大会だから、四年に一度ぐらいでちょうどいいのかもしれない。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
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種子島から取り寄せた安納芋を、地厚の鍋でフタをしてじっくり焼く。7分ごとにタイマーをしかけて、呼ばれるたびに焼く面を転がして一時間以上。焼き芋用の石があれば、回転させなくても全体が焼けるのに。めんどくさいけれど、蜜が吹き出した安納焼き芋の味に報われる。

・メダル噛みという下品な行為は報道側の愚かな要請だが、今のところそんなバカ映像が見あたらないのはいい。また、国歌君が代は聴くのではなく歌え、国歌も歌えないのは国際人として恥ずかしい、日本には国歌斉唱時に胸に手を当てる文化はない、直立不動で歌うこと、という竹田恒泰の意見は実に正しい。次の金メダル獲得者はそうしなさい。いればいいな。(柴田)