[3665] アートの世界は残酷だ、ということ

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《東急東横店は川の上に建っていた》

■わが逃走[138]
 春の小川の巻
 齋藤 浩

■ところのほんとのところ[109]
 アートの世界は残酷だ、ということ
 所 幸則 Tokoro Yukinori

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  怒りのブドウ球菌 電子版 〜或るクリエイターの不条理エッセイ〜
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◎デジクリから2005年に刊行された、永吉克之さんの『怒りのブドウ球菌』が
電子書籍になりました。前編/後編の二冊に分け、各26編を収録。もちろんイ
ラストも完全収録、独特の文章と合わせて不条理な世界観をお楽しみ下さい。
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■わが逃走[138]
春の小川の巻

齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20140327140200.html
>
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◯月×日 晴れ

新宿三丁目駅で降りて伊勢丹の前に出る。

華やかな正面もいいけど、装飾過多になりすぎてない側面もイイ。

< https://bn.dgcr.com/archives/2014/03/27/images/001 >

そこから徒歩3分、某ギャラリーにて松田光司彫刻展。

松田さんはスゲー彫刻家だ。静と動とか疎と密とか、対比の美とでもいうのだろうか、そういうものがひとつの作品に凝縮されている。

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こういった彫刻が生み出される母体を知りたくて、以前工房にお邪魔して型を見せていただいたのだが、型も彫刻と同じくらい迫力があった。

彫刻の写真はよく見るけど、型の写真はあまり見かけない。

立体というプラスの形状を作るための、型というマイナスの空間。

これをネガのまま鑑賞したら打ち消し合って立体に見えるんじゃないか? などと妄想してみる。

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◯月×日 晴れ

神田駅2時集合、今月で閉店となる活版印刷工房の見学。

博物館級の印刷機が最後の仕事をしていました。

機械だけでなく、職人(ご主人)そして空間まで含めて動態保存したいくらい完璧な昭和的産業遺産。

ひとつの時代が終わるのかと思うと残念でなりません。

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◯月×日 晴れ

渋谷駅の高層ビル化工事に伴い、長らく暗渠となっていた渋谷川の蓋が奇跡的に開いた! とのことで見に行ってきました。

しかし完璧に出遅れました。防護ネットで覆われる前に撮影しておきたかった!

画面奥が上流。キャットストリートからのんべえ横町の下を通り、ここへ至るわけだが、それにしても東急東横店が川の上に建っていたとはオドロキです。

今回の工事、川の上に高層ビル建てるわけにはいかんということで、ヒカリエ側へ流れを変えるのだそうです。

ちょっと前まで東急東横線のホームがよく見えた歩道橋から撮影。

< https://bn.dgcr.com/archives/2014/03/27/images/010 >

稲荷橋より下流側を見る。

コンクリートで固められてはいるけど、意外と蛇行しています。

この橋のほとりにエロDVD屋があるのだが、10年ほど前の、よりによってバレンタインデーにうっかり何気なく入って物色していたところ、ソフトオンデマンドのキャンペーンのおねえさんから、チョコレートとAVをもらったことがあります。あれは恥ずかしかったなー。

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一本下流側にかかる金王橋より稲荷橋を見る。

奥は数十年ぶりに暗渠の蓋が開かれて差し込む光。一年前まではここから東横線ホームを見ることができた。

周辺は雑居ビルでぎっしりだが、川っぷちには昭和な木造建築もギリギリ残っていた。見るなら今のうちだろう。

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ヒカリエから蓋の開いた渋谷川を見下ろす。ちょうどバスが川と平行に停まっ
ている。

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隣の駅では地下を走っていた銀座線が、ビル3階のどてっ腹に開けられた穴に入ってゆく不思議。

渋谷は読んで字の如く、谷だということがわかる。

渋谷川はその谷を流れる川だ。心の目で川筋を見る。

< https://bn.dgcr.com/archives/2014/03/27/images/014 >

渋谷って人が多いので素通りすることが多いのですが、地形を見ることに特化した散歩ならけっこう面白いかもしれません。

散歩に適した季節になったことだし、近いうちに渋谷川に沿って歩けるところまで歩くかな。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/
>

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■ところのほんとのところ[109]
アートの世界は残酷だ、ということ

所 幸則 Tokoro Yukinori
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アメリカから帰国したら、成田空港からまず電話。いよいよ、[ところ]が育てた写真家集団「K Lovers Photogrpers」の東京展のオープン直前なので、順調に事が進んでいるかどうかが心配だ。

一番信頼している宮脇くんや穴吹くんに連絡。そしてギャラリーコスモスにも電話する。聞いている分には問題なさそうだったが……なんと、40点近い展示をするというのに、まだ誰もプリントを入れるブックマットの注文を出していないことが判明した。

おいおい、[ところ]は思わず声を出して「おいおい」と言ってしまった。全員が[ところ]のプリントチェックを待っていたというのだ。ちょっと待ってくれよ、すでに半数はチェックしてたはずだぞ。

終わった者からでも順番に送って頼んでおかないと、ブックマットが間に合わない。しかも、プリントもマットも傷まないように、ちゃんと四隅にビニールポケットを付けるように頼んでいるんだから、時間がかかるのが分ってないの?

[ところ]はそう思ったが、写真は上手くなりステートメントも随分書けるようになっても、写真の展示経験がないから、全員そのことに関しては素人同然なのだった。

これは[ところ]のミスだ。第一期・所幸則は29歳くらいで初個展、これまでにグループ展、個展合わせて100以上の展示をして来た[ところ]にとっては空気のようにあたり前のことでも、みんなには全然あたり前じゃないんだということに気がつかなかった。

急いで高松にもどり、全員に連絡をとり、集まれる人からプリンタールームに来てもらう。とにかくチェックできた人からドンドン送ってもらい、なんとか事なきを得た。

[ところ]もプリントをドンドンして、この展示の意味、この集団を作ろうとした意義、そして地元の百十四銀行の援助があって開催できたことへの感謝のテキストなどを書いた。それらも当然展示しないと、なんだかわからないだろう。書いたものがこれ。



百十四銀行学術文化振興財団の助成によりアートとして香川を撮り続けるフォトグラファー集団(所幸則主宰)K lovers photograpers TOKYO展を開催するにあたり

フォトグラファー集団“K lovers Photographers”について一言

いわゆるカメラ雑誌でいうところの“うまい写真”を撮る、あるいはFacebookで「いいね!」をもらえる写真を撮るというのではなく、自分のテーマ、被写体と真摯に向かい合い、作品を紡ぎ出すという写真表現、アートとしての写真に取り組む人々の育成が目的で生まれたものです。

半年間【フォト・ラボK】で基本的なアートについての講義ののち、情熱が高まった人達が“K lovers Photographers”に入り、アート県を標榜する香川県を“ファインアート”として撮り続ける、そういう集団です。

ここ数年のデジタルカメラの普及と飛躍的な技術革新により、良い写真はある程度の写真の知識とセンスや慣れで誰でも撮れるようになっています。つまり、良いカメラを持てば誰でも大衆芸術としての写真は撮れる時代になっているのです。

そこで“ファインアート”としての写真を軸に、フォトジャーナリスト的な方向性等も含め「eとぴあ・かがわ」と、大阪芸大写真学科客員教授でもある私こと所幸則が微力ながら、いわゆる“うまい”だけの写真から頭一個抜け出そうとしている人をバックアップできればと思っています。

普段見慣れた香川の風景も、フォトグラファーの目を通して表現されるとまったく異なる表情を見せます。

初めて香川を被写体にした写真を見る方にも、写真表現の可能性について感じられる写真展になっていると思います。

ぜひ今回の展示を見てなにかを感じていただければと思います。

主宰 所幸則



ということで、展示の設営が終わるところまでこぎつけた。あとはオープニングでどれだけの人を集め、ファインアートおよび写真を理解できる目利き達をどれだけ集めて、その人達の反応をみんなに見せられるかだ。アートの世界は残酷だということを、メンバーたちにわからせなければならない。

主催者紹介として、所幸則もマンハッタン1secondを二枚 高松1secondを二枚、【ところ】の代名詞でもある渋谷1secondを三枚展示した。

会場がオープンした。【ところ】の作品の前で立ち止まらないような目利きはいない。だがその後はスルー、スルー、3秒止まって、またスルー、そして60秒止まって、スルーして、また60秒止まって、またスルー、スルー、そして気になった数点の作品をまた見に行って、何分かいて、最後にまた[ところ]の作品をじっくり見て帰って行く。

もちろん個人差はあって、この時間が二倍だったり三倍だったりするだけで、大体パターンは同じだ。展示作品に対する[ところ]の評価も同じだった。

ハービー山口さんや、織作峰子さん、松本典子さん、東京フォトの実行委員、雑誌の編集長、編集者、美術評論家、あらゆる人に声をかけて来てもらい、その人たちの反応をメンバーたちに見せつけた。これは彼らにとって、今後すごい財産になることだろう。

そして、友人でもありアートコレクターでもあるi氏が、二枚のプリントを買って行った。もちろん将来を期待しての行為ではあるが、メンバーのふたりはすごく興奮していた。だけど儲かったとかじゃない。今回は、売れてもKラバーズの活動のために、少ししか手元に残さないという決まりだ。

売れたメンバーはこの嬉しさを糧にして欲しいし、自分のは売れずにそれを見ていたメンバーも悔しさを糧にして欲しい。ちなみに一万円以上じゃないと大事にされないと[ところ]は思っているので、それよりは高く設定している。

そして、撤収。あっという間だったけれど、自分の個展より疲れた一週間だった。こういった催しは、これからもドンドン続けて行きたいと思う。

さて、終わってまず高松にいったん戻る。高松は高松で、弟分にあたるフォトラボkの展示の真っ最中だ。そして、21日、高松のいろんな分野を盛り上げている〈るいまま〉というキャラのたった方とのトークショーが、フォトラボK3期生の展示会場で行われた。

この高松で、写真に関するトークショーに人が来るのか謎だったけれども、かなりの盛況で成功だった。4期生の募集の説明会がその流れで行われたけれども、これも予想以上の人が来てくれて、またまた抽選で決める事になりそう。せいぜい1.5倍ぐらいの競争率だろう。

とはいっても、落ちる人はいるわけで、それなりに審査もある抽選なので(これで抽選っていえるのだろうか?)まあ、熱く意気込みを書いた人が、くじ運も強いってことでよろしくです。

29日にまた〈るいまま〉とトークショーがある。その時は東京で展示したチームと残りのKラバーズの中から9人の追加で、17人の展示合計点数61点というかなり大きな展示のなかで、また写真について語り合うわけだ。

実際、〈るいまま〉相手だと[ところ]はいくらでも話せるから、21日より盛り上がるのは間違いない。その上、Ustreamでも生中継もするから、結構な人が見ることになるだろうね。その後、説明会もあるので、4期生はもっと応募者数が増えて狭き門になるかもしれない。さらに、31日にはNHKに取材された映像も香川のTVで流れる。

[ところ]は、5月からは大阪芸術大学に教授として講義に行く。東京と高松に大阪も加わることになる。広島はあまり行かなくてもよくなりそうだが、それでも以前より大変だし、また楽しみでもあるけれど、身体持つかなあ。

スキを見てNYやパリ、フィレンツェも撮りに行くし、東南アジアにも行く話が出ているから、健康管理はちゃんとしなければいけない[ところ]です。そこが一番心配でもあります。

【ところ・ゆきのり】写真家
CHIAROSCUARO所幸則 < http://tokoroyukinori.seesaa.net/
>
所幸則公式サイト  < http://tokoroyukinori.com/
>


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編集後記(03/27)

●「一〇〇年目の書体づくり──『秀英体 平成の大改刻』の記録」を読んだ(DNPアートコミュニケーションズ、2013)。この本は、100年以上にわたり日本語書体のスタンダードとして愛されてきた秀英体の、リニューアルプロジェクトの記録をまとめたものだ。いかに優れた活字書体であっても、長い歳月の使用に耐え、さまざまな技術革新に対応して来た結果、秀英体は本来の姿ではなくなっている、大幅な改刻が必要だ、という活字・印刷史研究家の片塩二郎さんの指摘に、大日本印刷が応じて、2005年「秀英体平成の大改刻」プロジェクトが発足。7年の歳月をかけての10書体、のべ12万文字に及んだ書体開発が終了した。

「秀英体平成の大改刻」とは「基盤書体である本文用明朝の前面改刻、和文書体の精華たる初号明朝のデジタル化、印刷だけでなく画面表示などを前提にした新書体開発を含む、総合的な書体開発」である。改刻書体は、秀英明朝L、M、B、秀英初号明朝。秀英体を次の100年につなげ、用途を拡張する新書体を作ることもプロジェクトの目的のひとつだった。そして秀英角ゴシック金L、B、秀英角ゴシック銀L、B、秀英丸ゴシックL、Bが生まれた。それぞれの開発レポートは非常に興味深い。もっとも専門用語も使われているから、よくわからないところも少なくない。しかし、プロジェクトに携わった人たちのハードな仕事ぶりは鬼気迫るといってもいいくらいだ。

デザイナーインタビューが面白い。試作版を見た祖父江慎さんは「ええ〜っ! コレが初号? こんなの絶対に使わないよ〜!」と決定的なダメ出し。「秀英初号の魅力って、もったりしたところでしょ? 活版のころの文字って、バランスがちょっと狂っていて崩れる寸前、ギリギリのところで踏ん張っている風情がすっごくいいんです! なのに、試作版ではそれが全部整理されちゃってて……」。その指摘を参考に、半年で漢字全部を修整したという。永原康史さんは、秀英明朝は横組みでもすっきり読める点に注目、「レイアウトソフトにテキストを流し込むだけである程度の水準に達することができる。これは、ある意味驚くべきことで、結果的に組版のレベルを底上げすることにもつながるはずです」という。

「デザインや出版、タイポグラフィに興味のある方はもちろん、電子書籍やWEBなどでフォントを扱うエンジニアも必読の一冊」というが、教養としてはともかく、実用には直接結びつかないような気もする。研究者やマニアには喜ばれる内容だ。わたしはマニアだからすごく楽しんで読んだ。書体見本や組み見本はいつまで見ていても飽きない。マネして筆ペンで書いてみたりする。ところで、この本の電子書籍版はamazonにはないのが残念。また、iOSアプリでどんな見え方がするか興味があるが、iPhone持ってないもんね……。(柴田)

< http://www.dnp.co.jp/shueitai/kaikoku/kaikoku.html
>
大日本印刷 「一〇〇年目の書体づくり」
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4887522576/dgcrcom-22/
>
「一〇〇年目の書体づくり 『秀英体 平成の大改刻』の記録」


●自宅で作業中、ネットが急に繋がらなくなった。AirMacユーティリティー画面にエラーマークがついたのだ。問題の切り分けが必要になる。まずは、プロバイダーのサポートページへ。障害情報を見るが掲載されておらず。工事案内メールを確認するが関係なし。

次にパソコン側から検証。AirMacとは繋がっているので、パソコンの無線LANカードが問題ではない。ネットワークユーティリティで診断してみると、AirMacの外側の問題のようだ。となると、モデムかケーブル?

モデム類を置いている場所へ移動すると、AirMacのランプが点滅。あれ、これが問題ってこと? 電源ケーブルの抜き差しで再起動してみたが、点滅のまま。(hammer.mule)