[3695] H.R.ギーガーを思い出す。の巻

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《まさか自分が格闘技》

■わが逃走[140]
 H.R.ギーガーを思い出す。の巻
 齋藤 浩

■ところのほんとのところ[111]
 9月の写真展ラッシュ
 所 幸則 Tokoro Yukinori

■デジクリトーク
 デザイナーがハマった格闘技「システマ」
 福間晴耕




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■わが逃走[140]
H.R.ギーガーを思い出す。の巻

齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20140522140300.html
>
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スイスの画家H.R.ギーガー氏の訃報を聞き、30年前を思い出している。

映画『エイリアン』の映像に、人格形成時の齋藤浩は脳天をハンマーでたたき割られる程の衝撃を覚えたのだった。

「スター・ウォーズ」公開後とはいえ、その頃の日本では相変わらず未来は明るく希望にあふれ、宇宙人は銀色の全身タイツを着用しているものと相場は決まっていたのだ。

そこに突如として現れた、リドリー・スコットによる暗く湿った不安な未来。そして、どうしても目を背けられない美しい恐怖!

こりゃあコドモ心にトラウマが残るか、どっぷりその美意識に共感してしまうかの二択だろうね。で、私はというと後者の方だった。

そしてその影響力は、スーパーカーブームのような即効性のものではなく、じわじわ効いてくる薬膳のような衝撃だったのだ。

宇宙生物はまだ誰も見たことがないので、そのデザインには「見たこともないものを見てしまった!」という衝撃が求められる。しかしデザイナーも人間である以上、見たこともないものを具現化するのは並大抵のことじゃない。

しかしそれをやってのけてしまったのが「エイリアン」なのだ。

劇中に登場する、円盤でも飛行機でもない宇宙船や、古代遺跡のレリーフを思わせる体表を持つグロテスクな生物は、誰もが初めて見る美しさだったと言えよう。

厳密に言えば、それらは"不快に思われるモノ"(ドクロやチンポや節足動物)を組み合わせたフォルムだと言えなくもないが、まとめ方が絶妙なのでそれにまったく気づかない。

「エイリアン」の伝説たる所以は、この"初めて見ちゃったショック"によるところが大きいと思う。

しかし、劇中のシーンでは部分アップが多く、エイリアンの全身像はほとんど謎のままだ。ここがまたオタク心をくすぐる。なんとかエイリアンの全容を確かめたい。━その後、書店で「月刊スターログ」なるSF専門誌の存在を知り、立ち読みしているうちに、エイリアンのデザインがH.R.ギーガーによるものだと知る。

ちなみに当時の「スターログ」は超硬派で超高価(内容は濃いがページが少なくペラペラのくせに680円もした)、中学生が買うと残りの歳月をどのようにやりくりしていけばいいのかわからんような雑誌だった。

しかし、そこにはエイリアンのデザイン画や巨大セットでの撮影風景など貴重な資料が紹介されており、テレビを録画したベータ方式のビデオだけではつかみきれなかった、地球圏外生物の全貌を少しずつ知ることができたのだ。

それでもエイリアンの全身像の資料は少なく、中学生にできることといえば限られた素材を記憶しながら、脳内でひとつにまとめてスケッチしつつ構造を検証する程度。

同じ頃、「ポパイ」だったか「モノマガジン」だったかの誌上で、SFオモチャ特集が組まれた。

当時国内ではまだ馴染みの浅かった、アクションフィギュアやメタルフィギュア等の収集家が、自慢のコレクションを披露するといった内容のものだったが、私はその中で紹介されていたエイリアンに目が釘付けになったのだ。

MPC社のプラモデルとケナー社のフィギュア。いずれも大味な造形で資料的価値は低いが、360度から構造を確かめられる全身像が海外では売られていたのだ。これは欲しい!

しかし、S玉県の田んぼしかない町に舶来の玩具を扱う店などあるはずもなく、仮にあったとしても情報がない。情報といえば月末に発売されるオタク雑誌から得るしか方法がなかったのだ。

「ホビージャパン」発売日に立ち読みにでかけると、巻末に小さく広告が載っていた。「MPCエイリアン2個セット3800円、送料1000円」。送料が1000円も! しかも何故2個セット??

中学生に4800円などという金はないし、いくらエイリアンが欲しくても2匹もいらないよ。困った。1匹半額で売ってもらうよう店に交渉してみようか。ダメだろうな。

一晩考えた翌日、SF映画の話がわかる数少ない友人のひとりタクヤ君に「半額ずつ出して買わないか」と持ちかけた。すると意外なことに「いいよ」との返事。善は急げということで、放課後に現金書留を送り、到着を待った。

2週間後に届いたそれは、少年達に映画の恐怖とは真逆の感情をもたらしたのだった。「しょぼい!」

手と体と頭のオモテとウラを貼り合わせ、しっぽをつけて完成。しかもエイリアンというより佃煮みたいないいかげんな作りで、箱だけはデカい。

「ま、アメリカだからね」。無理矢理納得し、仮組みしたエイリアン像を眺める。映像に比べて頭は短いようだが、胸や足のディテールがわかったことは確かに嬉しい。

よく見れば、こめかみ周辺のディテールは「醤油チュルチュル」じゃないか! などという発見もあった。

しかし、費用対効果の低すぎる買い物をしてしまったショックの方が大きかったようで、エイリアンへの執着は急激に薄れていったのだった。

数年後、映画「エイリアン2」が公開される。予告編を見たときに、違和感を覚えたが、実際に見て謎が解けた。

頭の形状が違う。エイリアン最大の特徴でもある、あのいやーんな形の透明なキャノピーが外されているのだ。そして、卵の開き方もどちらかといえば植物的で、生殖器のような動物感がないのである。

この作品、映画としては最高のエンターテインメントとして完成しているとは思う。

しかし「エイリアン」とはまったくの別物、映像からあふれるエレガントな美しさが微塵もなくなってしまったのだ! 残念だ。実に残念! と熱く語るS玉県在住の男子高校生は間違いなくモテない。

どうやら今回の映画化に際して、H.R.ギーガーは参加してないらしい。しかし、この頃から日本ではギーガーブームがわき起こる。

美術書コーナーには彼の作品集「ネクロノミコン」が大々的にディスプレイされ、今まで謎だった「エイリアン」のメイキングシーンを美しい写真でまとめた「ギーガーズエイリアン」も発売された。

翌年冬、忘れられない出来事があった。なんとH・R・ギーガー展が渋谷SEEDで開催されたのだ。会場には数10点に及ぶ絵画と映画のための美術デザイン、そしてエイリアンの原寸大オブジェが展示されたのだ。

これはもう行くしかない。家から最寄り駅まで5.5km、自転車で15分。駐輪代が100円で、駅から渋谷までの交通費が510円、入場料が600円だったが、こういうことをケチってはいけないのだ。

会場は意外と広く、静かだった。ハウスマヌカン風の女性や肩パッド入りスーツを着た男性が数人いるだけだ。

入ってまず目に入ったのが「ネクロノミコン」収録作品の数々。意外だったのはその表面があまりに平滑だったことだ。エアブラシで描いているので当たり前といえば当たり前なのだが、あの悪魔のレリーフとも思える立体感を持つ作品に何一つ凹凸がみられなかったことにまず驚かされたのである。

そして、エイリアンのためのデザインの数々。「ギーガーズエイリアン」を何度も立ち読みしていたのだが、やはり本物には説得力があった。実はギーガーには世界はこのように見えていて、それをただ写実的に描いているだけなんじゃないか? それほどの落ち着いた狂気を感じたことを思い出す。

そして原寸大エイリアン。本物のエイリアンだ。身長は2メートルほど。人形のように直立不動のポーズをとっているが、このいまにも動き出しそうな生命感はなんだ? 

銀色の歯を見上げる。コワイ! こんな奴に目の前に立たれたら、足がすくんで動けなくなって当然だろう。

背後へまわる。意思を持っているような背中から生えた4本の太い茎、そして後頭部の表面の皮膚は病気にかかったように剥けていた。

異常! 異常! ギーガーの脳は絶対異常! イッちゃった人だけが描ける世界、それが「エイリアン」の世界だったんだ。スゴイけど憧れたりめざしたりはしないぞ! 高校生の私は恐ろしくなって会場を後にした。

その後映画「ポルターガイスト2」公開や目黒の「ギーガーズバー」オープンでブームはさらに拍車がかかる。バブル景気にのって制作された「帝都物語」にもコンセプトデザイナーとして彼の名前があるように、なんでもかんでもギーガーになってしまったのだ。(ところで、コンセプトデザイナーって何?)

こうなるともはや神秘的なイメージもなくなり、ギーガー=商業活動の1ジャンル、という印象になってくる。「ポルターガイスト2」の彼の仕事も場違いな印象だったし、「帝都物語」にいたっては無意味以外の何ものでもない。目黒のバーも行かずじまいだった。

こうして私の中でギーガーは過去のものとなっていったが、最初に受けた衝撃は「今」のままだ。

そう思うと、リドリー・スコットこそ最高のアートディレクターであり最大の功労者だったということか。ギーガー自身は映画の仕事が嫌だった的な言葉をいくつも残しているけどね。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/
>

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■ところのほんとのところ[111]
9月の写真展ラッシュ

所 幸則 Tokoro Yukinori
< https://bn.dgcr.com/archives/20140522140200.html
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大阪芸大に二度目の登校(笑)。今回は作家論、とりあえず生徒達に所幸則を知ってもらうために「天使にいたる系譜」(美術出版社)を使って、小学校からの写真好きの少年[ところ]がどういうふうに今にいたったかを説明し、またどんな写真家たちの影響を受けたのかも語ってみました。

まずどんな人物が今年7回、作家論の講義をするのか知って欲しかったからです。誰だかわからない人の話では説得力ないでしょう? [ところ]がどういう人物なのか、20%ぐらいは語れたかもしれません。徐々に[ところ]をわかってもらいながら、カメラマンと写真家の違いを理解してもらえればいいかな。

さてさて、ずいぶん前から、9月いっぱい高松市立塩江美術館で[ところ]が主宰するTokyo Shibuya Lovers Photograpers 6人の写真を展示する予定で動いています。

この「変貌する渋谷」の目論みは、香川県で活動しているK-Lovers Photograpersに対する刺激の意味で思いついたものです。K-Lovers Photograpersはやはり一般的な写真の呪縛から逃れていないというか、写真の常識にとらわれ過ぎているように感じるからなのです。

Tokyo Shibuya Lovers Photograpers のメンバーの中には、これ渋谷? これ写真? ここまでやっていいの? というような写真の作家もわざと入れてあります。それにより、より写真らしいものも引き立ち、なおかつ見る人が考えていた写真というものの枠の呪縛から解き放たれることでしょう。

【ところ】はTokyo Shibuya Lovers Photograpers メンバーのこともちゃんと考えています。地方とはいえ、ミュージアムでちゃんとした展示をした事はキャリアになるということです。

そして、ワークショップやトークショーにより、東京の一部の人しか知らなかった彼らと彼らの写真を、地方でも広める道筋になればと思っています。

さて、同じ場所で10月からは「所幸則の渋谷ワンセコンド前編完結編」と新たなシリーズである「アインシュタインロマン」の作品を中心に展示することにしています。

9月1日発売の写真集「渋谷ワンセコンド前編」の出版を記念してということですが、トークショーや4K大型モニターによる、みんなの知らない前期・所幸則の作品を流しながらの[ところ]の道のりを語る予定です。一般の人には初めての話もするので面白いものになると思います。

本当はスッゴク広い所で大回顧展的なことをやるまでは、昔の所幸則は封印したかったんですけどね。何と言っても、やっと「渋谷ワンセコンドシリーズ」を一冊の本にまとめられることがとても嬉しい[ところ]です。

しかも、編集者は蒼穹社の大田通貴さん。もちろん出版社も蒼穹社ですが、前書きは東京画コミッショナーの太田菜穂子さん。

高松での話はいったんここで置いておいて、実は[ところ]は9月10日前後から3週間〜1か月、阿倍野ハルカスの24階でも大型の展示をすることが決まっています。

今年から大阪芸術大学に加わった客員教授2人を中心に、OBの展示もあるようです。[ところ]は新客員教授ということで、大きなスペースが貰えるようなので関西では初めてくらいの大きな展示になるのかなと思っています。関西の方、楽しみにしていて下さい。

そして、まだ正式発表はできないのですが、9月に東京の銀座で大型展示をすることになっています。早くこの内容については話したいのですが、ギャラリーのプレスリリースがまだなので、少し待ってね。

ここでは、まだほとんど発表していない、NYやハノファー、パリ、モントリオールの作品群と、撮りおろしの銀座の街のワンセコンドのプリントを中心に、4Kモニター複数台による100枚を超える作品のムービー的スライドショーをしようと目論んでいます。

どの会場でもいろんな人とトークショーをしたいですね。
楽しみにしていてください。

【ところ・ゆきのり】写真家
CHIAROSCUARO所幸則 < http://tokoroyukinori.seesaa.net/
>
所幸則公式サイト  < http://tokoroyukinori.com/
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■デジクリトーク
デザイナーがハマった格闘技「システマ」

福間晴耕
< https://bn.dgcr.com/archives/20140522140100.html
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なぜかデジクリから、日頃の運動やトレーニングについて書いてほしいというリクエストをもらったので、デジクリのテーマからは外れそうな気がするのだが、自分の運動まわりのことを書いてみたい。

椅子に座った作業が多く、運動不足になりがちなデザイナーの読者が多い(かもしれない)デジクリだからこそ、たまにはこんな話題もいいだろう。

●安いランニングコスト:自転車

日頃は殆どパソコンの前で椅子に座った仕事をしていることもあって、一時はけっこう太っていて、これではまずいと運動し始めたというお決まりのパターンなのだが、まず手をつけたのが学生時代にやっていた自転車(ロードバイク)だった。

最初は高額なロードバイクを買う踏ん切りがつかなかったので、当時流行っていたピストバイクを買って、主にローラー台でトレーニングすることにした。後から考えれば、これは正解だったかも知れない。

ロードバイクを買った多くの人が、それに乗らなくなる最大の理由は、乗るヒマがなくなるのと、スピードが出過ぎるので公道を走るのが怖いという二点であろう。

その点、ピストバイクは5万円前後でかなり良いものが買えたし、ローラー台があれば室内で好きな時に乗ることができるからだ。ただし、トラックレーサーはノーブレーキ問題でトラブルも多いし、そもそもブームも去ってあまり売られてないので、今なら代わりにシングルスピードレーサーが良いと思う。

ローラー台は簡潔に言えば、ランニングマシーンみたいな感じでその場で自転車をこぐことができる器具で、具体的なイメージはLink先を見て頂きたいが、これを買ったおかげで、なんとか今まで自転車に乗り続けられたと言ってもいいだろう。
< http://fukuma.way-nifty.com/fukumas_daily_record/2007/10/post_cef7.html
>

とはいえ、ローラー台の上では風景も変わらないし、走っている感覚も乏しいので、これだけでは飽きてくる。そんな訳で、結局はちゃんとしたロードバイクを購入し、週末にはそれに乗るようになっていた。

自転車好きに言わせると、一日に50km近く走ったり、時速30km/h以上でスクーターとおなじ感覚で走行するのは普通だそうだ。始めた時には正直無理だと思っていたが、一年ちょっとで自分にもできるようになっていたのには驚いた。気になっていた体重も、いつの間にか昔の適正体重に戻っていたのだった。

そうした意味では、自転車は初期投資はかかるものの、比較的早く効果が出てくる点ではお勧めなスポーツと言えるだろう。自転車以外にもウェアや置き場所の確保など意外な物入りがあるものの、新しい自転車に目移りしたり交換パーツにはまらない限り、ランニングコストが安いのも魅力的だ。

●効果あるエクササイズ:システマ

そして、最近ハマっているシステマという格闘技の方は、まだ成果が出ているとは言いがたいが、物珍しいこともあり、新しい発見が多くやっているだけで面白い。
< http://ja.wikipedia.org/wiki/システマ_(格闘技)
>

システマを初めて知ったのは、たぶん漫画の「アクメツ」か「ディアスポリス 異邦警察」の中だったと思う。ソ連の特殊部隊スペツナズが用いる不思議な体術で、とにかく強力な格闘技という描かれ方だった。

その時は格好いいし強そうとは思ったものの、まさか自分がやってみるとは夢にも思っていなかった。やろうと思ったきっかけは、たまたまTwitterでシステマのインストラクターをやっている人のツイートを見てるうちに、強面のイメージに反して、初心者でもできるのではないかと思ったからだ。

ところで、ちょっと語弊があるので補足すると、システマの面白さは強くなるとか、試合で勝てるとかというものではない。意外に思えるかも知れないが、特殊部隊発祥の格闘技といわれながら、システマでは試合はもちろん昇段試験すらないのである。

それどころか、教えるインストラクターによって多少違いはあるものの、格闘技にありがちな体育会的な雰囲気や、厳しい上下関係という雰囲気すらない。

では何が面白いかというと、そうした一見カルチャーセンター風の穏やかな練習風景に反して、ネットに上がっている動画にあるように、相手が勝手に倒れてしまう一見やらせのような技が、やらせではなく本当に行われていたからだ。

強いていうなら合気道に見た目は似てるかも知れないが、そこはスペツナズ発祥ゆえに妙に実践的なところがあって、しかも説明が合理的なのも面白い。

そんな訳で、きっと冷やかしで終わるだろうという予想に反して、半年以上も通い続けている。システマの良いところは、教室によっては違うかもあるかもしれないが、よくあるスポーツジムのように最初に半年とか一年分の利用料を払って通うのではなく、毎回精算できる点だろう。ビジネスとしては上手くないのかも知れないが、自分のような初心者には敷居が低くてありがたい。

ところで、まだ成果が出ていないと書いたが、それでも半年ちょっとやってみて気づいたことや変化したことを最後に書いておこう。

半年ほどでは技や動きを習得したという実感はもてない。アニメや漫画では、数日間の超人的なトレーニングによって、新しい技を身につけるという描写がしばしば出てくるが、週一くらいで普通に教室に通うレベルでは、半年程度ではまったく習得するというには程遠い感じだ。周りを見回してみて、ある程度できると思う人は最低3年以上はやっているようだ。

それでも、基礎となる技術を習得している人は、やはりうまくなるスピードが早い気がする。他の武術のスキルとは系統が違うので、一から覚えることには変わりないといっているが、やはり他の武術をやっている人の方が習得が早いようだ。とはいえ、劇的に早いか、または元の技の流用ではなく本当にマスターしているのかというと、確かに微妙な感じは残る。

とはいえ、エクササイズ効果はけっこう早く出てくる。スポーツ毎に使う筋肉が違うせいか、これまで自転車で鍛えていたつもりでも、行くたびに筋肉痛に悩まされる(まれに打撲)。

逆に、これまで使わなかった筋肉が鍛えられるのか、腕や胸なども筋肉がついてきたし、体重もより増えにくくなった。

そして、技以前の気付きや慣れが実感できる。どのスポーツもそうだが、特に格闘技の場合、互いに攻撃しあう(もちろんコントロール下でセーブした状態だが)という非日常的体験の度合いが大きいせいもあって、頭で思っているようにはなかなか動けない。

特に格闘技の経験のない人は、無意識のうちに相手に対する攻撃を躊躇してしまうらしく一瞬間が空いたり、逆に攻撃を受けた時に固まってしまったり、反射的な反応しかできなくなるのだが、慣れてくると体はまだ動かないものの、冷静に状況を観察できるようになってくるのが面白い。

「受け身」という最も日常で役に立つスキルがだいぶ身についてきた。インストラクターの人も言っていたが、格闘技を日常使う機会は殆どないし、仮にあったとしても後々面倒なことになりがちで出来れば願い下げだが、こと受け身に関しては覚えておいて損はない。階段を踏み外したり雪道で滑ったりと、意外に使う機会が多いものである。

ネットで見られる格闘技話のうち、明らかに実際にはやってない人が書いているものが見分けられるようになる(笑)。多分、システマに限らずあらゆるテーマでも、本当は何も知らないのにさも知っているように語っている人は多いのだろう。

おまけ:「火薬と鋼」のサイトより
「システマを知らない人にシステマを紹介するための動画」
< http://d.hatena.ne.jp/machida77/20130605/p1
>

【福間晴耕/デザイナー】
フリーランスのCG及びテクニカルライター/フォトグラファー/Webデザイナー
< http://fukuma.way-nifty.com/
>

HOBBY:Computerによるアニメーションと絵描き、写真(主にモノクローム)を撮ることと見ること(あと暗室作業も好きです)、おいしい酒(主に日本酒)を飲みおいしい食事をすること。もう仕事ではなくなったのでインテリアを見たりするのも好きかもしれない。


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編集後記(05/22)

●GWに見た古い映画は「馬鹿まるだし」と「なつかしい風来坊」であった。山田洋次監督、ハナ肇主演の喜劇だ。これらはかつてWOWOWで放映されたものをVHS録画して保存していたが、10年前の引っ越しで全部捨ててしまった。急にたまらなく見たくなって、レンタルショップで捜したが見つからず、川口市の図書館で検索したらDVDがあったので借りた。この2本はよくいわれるように、「男はつらいよ」の原型みたいなかんじだが、「男はつらいよ」よりはるかにおもしろい(「男はつらいよ」がおもしろいのは、はじめの2本だけだ)。同じようなパターンの2本だが、ハナ肇の愛すべき馬鹿っぷりは面白いが哀しい。

「馬鹿まるだし」(なげやりなタイトルだ)は1964年の松竹映画で、山田洋次の最初の喜劇、寅さんへと続く山田喜劇の原点だという。谷啓を除くクレージーキャッツの全員が出ているが、植木等は東宝との関係でノンクレジットで、ナレーションだけかと思ったら、最後にちゃんと出て来てしめくくっている。瀬戸内の小さな町、シベリア帰りの安五郎が淨念寺に転がり込み、ご新造さん一目惚れするという、「無法松の一生」のパロディみたいな映画。容易に先が読める。早のみこみの向こう見ず、頼まれたらいやと言えないお人好し、いわれるほど「馬鹿まるだし」ではない。子分役の犬塚弘がすごくうまい。ご新造さんの桑野みゆきがかわいらしく、彼女を見られただけでもお得な映画だ。

「なつかしい風来坊」は1966年の松竹映画。ハナ肇はこの作品でブルーリボン賞・主演男優賞、山田洋次は監督賞を受賞している。湘南在住の厚生省のお役人(有島一郎)は、粗暴だが人がいい作業員の源さん(ハナ肇)と知り合って意気投合。以来、源さんは度々彼の家にやってくる。ある日、源さんが海で自殺を図った愛子(倍賞千恵子)を担ぎ込んでくる。やがて、ちょっとした行き違いがあって、源さんも愛子も姿を消し、役人も失意の転勤、単身赴任となる。この映画はとても居心地が悪い。源さんのぶきっちょな愛情表現はともかく、有島以外の家族や周囲の人も、微妙に悪意が漂う。それらも、予想外のハッピーエンドで救われるから帳消しだ。若く可憐な倍賞千恵子を見られてよかった。

アマゾンの「馬鹿まるだし」カスタマーレビューで知ったことだが、渥美清と組む前の無名のひら監督・山田は、彼など足元にも及ばないスーパー・スター、ハナ肇に使われていたそうだ。親分肌で面倒見のよいハナは「山田というのは優秀な監督です」とふれ触れ歩いたという。だが、渥美と組んで一発当ててから山田が"偉くなり"挨拶にもこないので、ハナは面白くなかったそうだ。たぶん実話だろう。イヤな人になる前の「いいかげん馬鹿」「馬鹿が戦車でやってくる」は、まだ面白いはずだ。かつてWOWOWで見た覚えがある。どこかでDVDを捜してこよう。ところで、スーツ着たハナ肇は「外務省のラスプーチン」佐藤優に似ている。いや、佐藤優がハナに似ている。(柴田)

< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0009G3F3Y/dgcrcom-22/
>
「馬鹿まるだし」

< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B009IX4K2O/dgcrcom-22/
>
「なつかしい風来坊」


●システマ体験してみたい〜。大阪にも教室があるではないか。

『マネーフォワード』続き。つまりはお金に関しては敏感にならざるを得ず、いつ失業してもしばらく保たせられるように、でもまだ老後までは考えられないという状態。

リーマン・ブラザーズや山一證券でさえ倒産廃業したのだ。何があるなんて予想はつかない。自分は今までと同じようにやってきたって、どこかで戦争があれば為替や金利は変わってくる。

アベノミクスの影響は、私にはまだまだ先の話だ。有り余って困るほどの潤沢さはない。圧縮できるところは圧縮し、いざという時には使えるように。天井に穴が空くなんて予想外すぎた。

家計管理に時間を取りたくなく、けれど把握はしておきたい。そんな私には『マネーフォワード』がぴったりだった。続く。(hammer.mule)

< https://moneyforward.com/
>  マネーフォワード