ネタを訪ねて三万歩[111]酔狂の先の新しい縁
── 海津ヨシノリ ──

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ここのところ教え子達との飲み会が続いて、嬉しい悲鳴を上げていました。それぞれが、業界のさまざまな方面で活躍している様子は本当に嬉しいことです。大切なのは人との繋がり。つまりは出会いですね。出会わなければどうにもならないわけです。


ところで、私は面識がなければ「忍ぶ会」やら「励ます会」の類に参加するのは失礼だと思い続けていましたが、世の中ではそんなことはないみたいですね。

「忍ぶ会」であれば本人は亡くなっているわけですから、交友関係がどの程度であったかなど分らないわけです。結局、厚顔無礼な方達はそういった場で積極的に名刺を配りまくって顔を売るわけですね。私にはできないことです。私は本当に親交のあった方でなければ動く気がしませんし、実際動くことはありません。

愚直すぎると言われたことがありますが、本人は至って普通だと思っています。とにかく嘘ついてまで取り繕いたくないですからね。

そういえばこんな事がありました。8年ほど前に、多摩美出身の某大先輩から声を掛けられて仕事を一緒にやっていたことがありました。要するにPCでの処理が苦手である故の、アシスタント的な対応だったわけです。

それでもかなりの高齢者でしたので、愚直に対応していました。同窓会で知り合ったのが運の尽きだったのかもしれません。やはり先輩から声を掛けられてしまうと断りにくいですからね。

そんなある日、もう一人のスタッフを加えるので打合せをしたいということで、その方と会うために田園調布の喫茶店に集まることになりました。新しいスタッフとして現れたのは女性でした。

某大先輩とは既に顔見知りのようで、ひとしきり世間話をしたところで仕事の本題に入りました。暫くは勝手が読めない私がボーとしていると、どう考えても「あんた何を言っているの?」という傍若無人な指示をその女性に対して言い始めたのです。

流石にその女性も「それならば私はお断りします」という流れになった時、いきなり大先輩はその方に対して「あんたはそんなことだからいつもダメなんだよ!」とキレてしまったのです。

そしてその頃には全体の流れが理解できていた私は、衝動的に大先輩に対して「あんた何を馬鹿なこといっているの?」というような言葉を気が付いたら発していました。そして、この大先輩との関係は切れました。

思えば大手の仕事の尻ぬぐいを随分させられていたわけですから、タイミング的には良かったのかも知れません。要するに自分の自由勝手に使える人をほしがっていたようです。自分では何も出来ないが故に。

こうして大先輩とは疎遠となり、その女性とは年賀状程度のお付き合いが続いたのですが、2年前に始めたfacebookで繋がり、今年に入ってグループ展を行うというので出掛けてみたら、なんと数名の別の友人と間接的に繋がっているコトが判明してビックリ仰天。

それはちょっとしたタイミングの悪戯からでした。一通り展示物を鑑賞し、本人とも雑談をした後に芳名帳に名前を書こうとしたところ、そのページの上に近所に住む同業者の名前があるではありませんか。

しかも、彼は同業者ですが仕事やネットとは無縁の、プライベートな交友関係から生まれた友人であり、25年来の付き合いです。グループ展に出掛けるタイミングが少しずれていたら、目にすることはなかったわけです。確認してみたところ、彼はそのグループ展を主催していた協会の幹部の方と知り合いだったようです。

そして、許可を取り作品を撮影してfacebookにアップしたところ、別の友人が気になってグループ展に出掛け、なんと展示をしていた女性と仕事で間接的な接点があることが判明しました。

私が某大先輩を立てて、怒らずに喫茶店での打合せを終了していたら、こんな繋がりは発生しなかったわけです。そもそもその某大先輩と出会った多摩美術大学の同窓会も、ほとんど酔狂で参加したようなモノでした。

その酔狂も非常勤講師をしていたことで生まれたものであり、非常勤講師もちょっとした酔狂がスイッチとなって発生した仕事でした。いや、酔狂という縁ですね。色々な縁の繋がりが複雑に組み合わさった先にある、新しい縁という流れです。そして、それは今も流れ続けています。

そんなことを思っていると、別の不思議な体験を思い出しました。今年2月に行われた中学校の同期会へ、都合が付かず二次会から参加した私は、隣のクラスの元女生徒Aさんと何故か意気投合し、ほとんどサシで話し込んでしまったのです。

その後の三次会では、別の元女生徒達と盛り上がり帰路についたわけですが、その後Aさんからfacebookの友達申請があり、盛り上がった勢いで数名の同期生とまたまた飲み会を決行。気が付くと旧知の仲になっていました。

同期生なのだから当たり前と思われる方がほとんどだと思いますが、彼女とは中学3年間に一度も会話をしたことがなかったのです。恐らく廊下ですれ違う程度の関わりしかなかったはずです。とにかく記憶がほとんどないのです。

もちろん会話をしたことがなくても、記憶に残っている人もいます。でも、彼女の記憶は大変失礼ながら私にはありませんでした。聞けば彼女も同じだったそうです。ですから後日、数人で行った飲み会の参加者のほとんども、同じように中学時代にはまったく会話のなかった同期生だったのです。本当に不思議な縁です。

とにかくそんな不思議な繋がりがfacebook上で発生し、気が付けばまだ会ったこともない多くの友人が彼女を通じて出来てしまいました。もちろん、それをもって友人と言うべきかについては難しいかも知れませんが、相性のようなモノはなんとなく伝わってきます。

私達の両親や祖父母の時代であれば、仕事関係の繋がりが一番で、それ以外は基本的に近所の人達だけでした。今は国境を越え、会ったこともない外国人とコミュニケーションを交わすことも珍しくもありません。そんな交友関係を昔の判断だけで決め付けることは、ナンセンス以外のなにものでもないですね。

考えてみれば、良好だと思っていた交友関係にもかかわらず、突然疎遠になってしまう場合も少なくありません。理由も解らず悩んでしまうことも多々ありましたが、それも縁と割り切るようになりました。原因を突き詰める暇があれば、新しい縁を楽しんだ方が賢明だと悟ったからです。

誤解や疎遠も縁の内というわけです。そして、その縁が創作に大きな影響を与えることは、改めて私がここで言うほどのことではなく、当たり前のことです。

そう割り切ると、習慣的に続けていたPCソフトのアップデートも案外割り切れてしまいますね。

それほど使い込んでいるわけではないのに、毎回律儀にアップデートを繰り返していたソフトが幾つかあるのですが、考えてみれば別に今のままで困ることは一切無いと気が付いてしまえば、アップデートはどうでも良くなってしまいました。

もちろん、この先永遠にアップデートをしないという意味ではありません。ひとつおき、あるいは2つおきでも構わないという判断です。メーカーさん、ごめんなさい。

ところで、お話はココで終わるはずだったのですが、冒頭文章に繋がることに気が付きました。厚顔無礼と言われても、縁を見つけるチャンスを優先する集まりに出席することは必要悪じゃないですか。この場合、バレバレの金銭目当ての縁捜しです。

そんな疑問が「ふっ」と湧いてきたわけです。でも私は今まで通りに愚直に行動するだけです。自分の行動の先にある縁を大切にしたいからです。もっとストレートに言ってしまえば、金儲けのキッカケとしてしか縁を見る事が出来ない人にはなりたくありません。そうでなければ、縁で繋がっている人達に対してとても失礼ですからね。

■今月のお気に入りミュージックと映画

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[Soapbox]by Crookes in 2014(U.K)

イギリスのシェフィールドで、2008年に結成されたインディーポップ、ネオアコ及びロックバンドである、クルックスのサードアルバムに収められたタイトル曲。ちなみに既にインディーズバンドではありません。

ファーストアルバムに戻ったような楽曲も、じっくり聞くとモダンな流れでウットリしてしまいます。ケーブルで電気的に処理する録音が一般的であるロックは、どれもこれも楽曲が尖りすぎているなかにあって、わざわざ教会にてマイクによるアナログ録音を行って作成されているので、とても暖かみのある楽曲に仕上がっています。何よりテクニックがあるから為し得る処理ですね。
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[R.I.P.D.(Rest In Peace Department)] by Robert Schwentke in 2013
(U.S.A)

邦題「ゴースト・エージェントR.I.P.D.」。殉職したライアン・レイノルズ演ずる警官"ニック"が、R.I.P.D.(Rest In Peace Department 安らかに眠れ捜査局)にスカウトされ、ジェフ・ブリッジス演じるベテラン・エージェント"ロイ"と組んだ彼は、死後も現世にとどまり悪事を働く悪霊たちから世界を守る任務に就く……というお話。

とにかく「勇気ある追跡」のリメイク作品「トゥルー・グリット」で存在感を出したマーシャル・ルーベン・J・コグバーンを彷彿させるキャラクター(ただし、こちらはコメディー仕上げ)を演じるジェフ・ブリッジスと、グリーンランタンを演じたライアン・レイノルズの駆け引きが最高です。

更に一般の人間から見ると2人はマリサ・ミラー(ファッションモデル)とジェームズ・ホン(ブレードランナーのハンニバル・チュウ役)というズレまくりの設定もナイス。そしてラストのオチも。もう絶対に続編希望10000「いいね!」ですね。

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【海津ヨシノリ】グラフィックデザイナー/イラストレーター/写真家/
怪しいお菓子研究家

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仕事部屋は風通しが悪い放熱地獄でなので、例年であればこの4月末からエアコンを使い始めるのですが、一昨年エアコン直撃で肩を傷めてしまい完治に一年半掛かってしまった経験から、エアコンが苦手になっています。

もともとあまり好きではなかったのですが、体中がベタベタになってしまうのは効率低下の元ですからね。省エネというわけではなく、今年は出来るだけエアコンを使わないようにするつもりです。

そこで小型の扇風機を購入し、窓を開けて風通しを良くする……という単純な処理でいきなり挫折。網戸が破れていたのです。修理をする為には窓周辺の荷物や本などを整理しなくてはなりません。

ということで、頑張って整理し、網戸も無事に張り替えました。そうしたら突然涼しくなってしまったのは、お約束の結末なのでしょうね。