[3719] 君はAdobe CCをやめられるか?

投稿:  著者:


《烏克蘭、土耳古、伊太利、波蘭、仏蘭西に素敵なガールフレンドが》

■ネタを訪ねて三万歩[112]
 ソーシャルネットワーク中毒しちゃってる
 海津ヨシノリ

■グラフィック薄氷大魔王[394]
 君はAdobe CCをやめられるか?
 吉井 宏




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■ネタを訪ねて三万歩[112]
ソーシャルネットワーク中毒しちゃってる

海津ヨシノリ
< https://bn.dgcr.com/archives/20140625140200.html
>
───────────────────────────────────
「ソーシャルネットワーク中毒」というのが、随分前から問題になっています。言われてみると、電車の中だけでなく町中で伝染病のように、猫(ネコが本当にやっていても多分驚かない)も杓子も歩行スマホ状態には、流石に背筋が寒くなります。

私もかなりのめり込んでいるので注意しなくてはと思っていましたが、中毒ではないことを確認しました。私、歩行中は当然として、電車やホームで継続利用はほとんどしません。つまり、外出時にはスマートフォンを持っていてもSNSに何かを書くことは皆無だからです。コメント返しもしません。

ただし、最近はfacebookのメッセージがメール代わりになっていることも多く、それだけは迅速に対応する必要があり、常識的な範囲で対応をしています。ですから、SNSの対応は8時間以上ノーリアクション、ということも珍しくありません。

そんなSNSで、最近不思議な事件が勃発していました。結論から先に言うと、facebookにて予定外の行動から海外のアーティスト、とりわけフォトグラファーとの繋がりが続くことになったことです。

発端はちょっとした間違いによる友達申請でした。facebookでは春頃の仕様変更に伴い、申請やメッセージ、リアクション類のお知らせが右側に表示されるようになりました。プルダウンして読みたいコメントをクリックしたつもりが、画面右に表示される『知り合いかも』の友達申請をクリックしてしまったことでした。

普通この手のミスの場合は「ごめんなさい。間違えてクリックしてしまいました」とメッセージを送るのですが、英文をタイピングしている最中に、突然ウエルカムメッセージが先方から届き、それではという流れで友達になってしまったのです。

恐らく偶発的に親日的な人に巡り会ったことが良かったのでしょう。一時間ほどメッセージを続けた後に、作品に「いいね!」をしたりコメントをいれているうちに別の方から申請が届いたりするようになりました。

こうして、わりと自然にこちらからも申請ができるようになり、気が付けばかなりの数の方と繋がってしまいました。

もちろん、海外のフォトグラファーの方がすばらしいというような話ではありません。視点の違いがとても面白いという意味です。

過去にPhotoDisc(現GettyImages)のスタッフと個人的に交流があった頃、海外のフォトグラファーが撮影した日本を素材とした写真を見る機会があり、その視点の違いに驚愕したことを思い出したからです。

同じような見慣れた風景や町並みなのに、日本のフォトグラファーが撮影したものと明らかに違うのです。これは逆のパターンでも言えることかも知れません。海外の名所や町並みを日本のフォトグラファーが撮影すれば同じような感触を現地の方達は感じるはずです。

自分が住み慣れた町の良いところや悪いところは理解しているつもりであっても、実は案外見落としがあるのかもしれません。よくも悪くも人間は麻痺してしまうことに注意する必要がありますね。

創作活動でもデザインワークでも、麻痺は危険な誘惑です。仕事を長くやっていると、ズルイ処理が身に付いてしまいます。それをできるだけ使わないようにする拘りや突っ張りがなくなってしまったら終わりだとさえ考えています。

しかし、なんだか上っ面な人が増えてきたように感じています。上っ面は、所詮は上っ面でしかなく、本道にはなれない亜流です。ですから、これからも同じ本道を目指す仲間とともに、業界を突き進みたいと常に感じています。

さて、見ず知らずではなく昔お会いしたことのある人をネット上で発見すると、なんだかとても楽しくなってしまいます。私は自発的に友人を捜すことはしない(そのような時間を惜しんでいる)ので、なすがままに任せているのですが、まったく関係ない状況下で、突然昔の知り合いが画面に現れるのは驚きです。

こんな場合、最初にその人が私の思い込みなのか、本当に知っている方なのかについての裏を取ります。多くはメールのやり取りを探したりすることで確証をつかんでから、その方にメッセージを送る訳です。「昔どこそこでお会いした海津です」「こちらでも宜しくお願いします」と。

ところが、ここで「ひと間違いです」と切り返されてしまうことが時々あり、がっかりしてしまいます。「ひと間違い」ではなくて事実なのですが、先方の記憶から私が完全に消えてしまっているのでは会話はまったく成立しません。

「大変失礼いたしました」で、再びつながるはずの交流は完全に途絶えてしまいます。もしかすると、私が送付したメッセージは最後通告だったのかもしれませんね。

だとしたら大変失礼な話となってしまいますが、断られてしまった以上、私にはどうしようもありません。もちろんその方にはまったく罪はありません。単に私の存在感が薄かっただけなのですから。

逆に、誰だか分らない人からの友達申請の場合。相手の友達や年齢、仕事関係から色々推測し、誰であったのかの確信を持つのですが、会っていた当時のことが記憶に戻るまでかなりの時間を必要とする場合があります。

もちろん、よほど怪しい状況でもない限り承認は直ぐにするのですが、メッセージも頂けない方だと本当に「誰だったか」について、思い出すまで時間が掛かってしまいます。変に聞くのも失礼ですからね。

できればメッセージを頂けるといいのですが、先方は私が覚えていたと勘違いしているわけですから、やはり問い合わせは失礼ですね。

それでも、長いブランクを経てまた繋がったことは歓迎すべきことですね。ネットなどなかった時代には考えられなかったことですから。こうなると、情報格差という問題は思った以上に深刻なのかもしれませんね。情報収集力はそのまま仕事や交友関係に直結してしまいますので。

もっとも、これだけ多くの人がネットを活用しているのに、意外と基本的なことを知らない学生が多く、時々「えっ」という驚きがあります。溢れすぎている情報に問題があるのでしょう。選択肢があり過ぎると、人間は結局何も選択できないという実験結果を読んだことを思い出しました。いやいや、そんな私も大きなモノを見落としているのかも知れません。

とにかく、昔知っていたということは大きな問題ではない訳です。まだ「一面識」もないのに、まるで旧知の友のような関係の方もたくさん生まれています。

あんがい実物に会わない方が、その人の本質を理解しやすいような気もしています。「遠くの親戚より近くの他人」ということわざがあります。まさにこれですね。

もちろん、少々極論ではありますが、そんなことを強く感じています。ということは何だかんだで、ソーシャルネットワーク中毒しちゃってるということですかね〜。

まっ、何だかんだで私としてはウクライナ、トルコ、イタリア、ポーランド、フランスに素敵なガールフレンドができた事実は大感激です。英語で恐ろしく苦労してますが......。

■今月のお気に入りミュージックと映画

---------------------------------------------------------------------
[Floor Ferng Far]by ?????? in ????(Thailand)

邦題「フローファンファー」。「僕は忘れない」というタイ生命保険のCMの中で流れる曲が気に入ってしまい。何とか調べようにもタイ語はサッパリ分からないので2年ほど悶々としていました。

そんな矢先、教え子数名がタイで仕事をしていたことを思い出し、藁をも掴む思いで調べてもらったのですが、タイトルの英語表記が解っただけで後はサッパリの状態でした。現在舞踊家の方にも声を掛けて調べてもらっているところです。YouTubeでタイ語にて検索すると色々出てくるのですが、調べた範囲では古い伝統的な舞踊曲のようです。歌のないオーケストラの曲が聞いてみたいのですが、まだまだ前途多難です。

-僕は忘れない- 夫婦愛が胸を打つタイ生命保険
<
>

---------------------------------------------------------------------
[Sherlock]by BBC in 2010〜(U.K)

邦題「シャーロック」は、言わずと知れたアーサー・コナン・ドイルの小説『シャーロック・ホームズ』シリーズですが、なんと舞台を21世紀のイギリスに置き換えたBBC制作のTVシリーズなのです。

英国では現在シーズン3が完了したばかり。ちなみに各シーズンはそれぞれ3本ほどしかなく、1本の作品は2時間ほどで濃厚な内容となっています。実は、私はTVを見ないので放映のことを知らず、レンタルDVDで初めて知ったというわけです。

とにかく、ベネディクト・カンバーバッチ演じるシャーロック・ホームズが抜群の存在感であり、マーティン・フリーマン演じるジョン・ヘイミッシュ・ワトソンとのコンビが鉄壁。

彼らは従来のホームズ作品と異なる独自のキャラクター設定となっているのが新鮮で、グイグイ引き込まれていきます。BBCのドラマは丁寧な作りということもありますが、今更ながらドラマは俳優さんと脚本で何度でも新鮮に生まれ変われることを痛感してしまいました。

【海津ヨシノリ】グラフィックデザイナー/イラストレーター/写真家/怪しいお菓子研究家

yoshinori@kaizu.com
< http://www.kaizu.com
>
< http://kaizu-blog.blogspot.com
>
< https://www.facebook.com/yoshinori.kaizu
>

先日、半年前に買い換えた複合機で初めてFAXを送信する必要に迫られたのはいいのですが、使い方を忘れて必死にマニュアルを読むという間抜けなスタートになってしまいました。

OKボタンとスタートボタンで大混乱。前のFAXにOKボタンがあったか既に記憶がないのですが、ほとんどの処理をOKボタンで解決してしまうカメラを普段使っている事による混乱でした。

とにかくマニュアルを読み返して、なんとか送信できたと安堵していたら、先方から白紙しか届いていませんとFAXが届く始末。つまり用紙の裏表を間違えて送信までする大サービスを行ってしまったわけです。FAX......もう既に死亡フラグが立っている世界ですからね〜と言い訳してしまいます。

しかもこのFAXは、先方にメールが正しく届いて居ない疑惑が発生したために、5日経過した後に渋々送信したというイワクツキ。今の時代ほんとうに怖いのは、昨年使っていたメールアドレスを、先方が今も使っているかどうか確認出来ないこと。

もちろん消滅していればエラーで戻ってきますが、単に使っていないというだけだと相手は永遠に読んでくれません。今年、あと一回ぐらいはFAX使うのでしょうか......ある意味本当に憂鬱です。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■グラフィック薄氷大魔王[394]
君はAdobe CCをやめられるか?

吉井 宏
< https://bn.dgcr.com/archives/20140625140100.html
>
───────────────────────────────────
Adobe Creative Cloud が2014年版にアップデート。キツネの3Dプリントフィギュアの写真がツボ! ......ここ最近感じてたAdobe CCへの愛憎ひっくるめ、いろいろ書いてみた。

< https://www.adobe.com/jp/creativecloud.html
>

●台数制限がきゅうくつ

アドビ一般利用規約に「デバイス(または仮想マシン)2台までアクティベーションできます。但し、ソフトウェアをこれらのデバイス上で同時に使用することはできません。」とある(今のところ2台で起動しても警告は出ないようだけど)。パソコンを2台ならべてそれぞれAdobeアプリを使えなくなる?

今までどうだったかよくわからないけど、今回からこの制限が加えられたとしたら、なんかやはりどんどんきゅうくつになっていく印象は否めない。

最近Macが3台になったので、認証を解除したり再認証したりの面倒とか起動しなくなるトラブルが続いた。「Adobe CCのせいでパソコンが3台あると不便! Adobeのせいで世界のパソコンの売り上げが減ってるんじゃないか」とか吠えてましたw

どうにか他アプリに乗り換えたい気分が首をもたげてくる。Adobe CSになってから毎回のアップデート時にそう思っちゃうんだけどさ。

●Adobe CCを使わないという選択w

いくつのアプリが含まれてるかわからないくらい、たくさんのアプリがAdobe CCに含まれてるわけだけど、実際のところ使ってるのはPhotoshopがほとんどで、たまにIllustratorくらい。あと書籍自炊にAcrobatを使うくらいか(ScanSnapにおまけで入ってるからCCでなくてもいいんだけど)。After Effectsが使えるのがAdobe CCの僕的大きな餌だったけど、使ってないなあ。

「数多くのAdobeアプリが使い放題な割には安い!」のがAdobe CCサブスクリプションなわけだし、業務用ソフトのサブスクとしては激安ってのもわかる。でも、2個のアプリくらいしか使わないからと、個別に2個のサブスクにすると全部入りとたいして変わらなくなるっていう「イヂワル」に、ケチケチ根性が反応してしまう。

●「フォトグラフィプラン」を使う手

僕的に使用頻度が低いIllustratorの代替アプリがあれば、Adobe CCフルセットではなく、Photoshop+Lightroomの写真家向け「フォトグラフィプラン」にしちゃえば月980円。ちょっと勝った気分になれるw

3か月前の記事だけど、こんなのがあった。-----『Adobe CC(月額4,980円)』から『Photoshop CC 月額980円』へ乗り換えました。SiteMiru(してみる) < http://bit.ly/1ywbXii
>

フォトグラフィプランに切り替え、僕的に使用頻度の低いIllustratorは後述の代替アプリを使い、AcrobatはScanSnapのおまけを使う。ってことで支障ないんじゃないか? とも思う。滅多に使わないAfter Effectsなど映像関連は、AppleのFinalCut Proがあるわけだし。なーんにも支障ないじゃん? あれ? ちょっと本気になってきた?

●代替アプリの難点

たとえば、Photoshop並みとも言われる画像処理アプリPixelmetorはアルファチャンネルがなく、レイヤーやマスクを選択範囲に変換もできない。他にもPhotoshopのような画像編集やお絵描きアプリはいっぱいあるけど、アルファチャンネルが使えるものは滅多にない。

Photoshopと同等のアルファチャンネルが使えるのはPainterくらいだけど、選択範囲を駆使した画像編集は動作がめちゃくちゃ遅いのが、Photoshopに乗り換えた大きな理由の一つだもん。

Illustratorの代替、Mac App Storeを見てみるとiDrawなどパスが使えるドローアプリはいくつかあるようだ。でも、Illustratorは印刷原稿を作るのに必要だからはずせないんだよなあ。

●GIMPとInkscape

決定版的代替としては無償アプリ、GIMPとInkscapeでしょうね。試してみた。いや、ずいぶん以前に試したことがあるんだけど、Macでは両者ともX11上の動作となり、扱いがややこしくて頭が狂いそうになった。今使ったら違った感想になるかもしれないけど、とりあえず、BootCampのWindows7にインストールしてみた。

・GIMP

アルファチャンネルが使える〜! 選択範囲へ変換もできる。レイヤーアルファも使える。使い勝手やショートカットがPhotoshopとあまりに違うので戸惑うけど、CMYKが使えない以外は基本的な部分でPhotoshopと同等に使える気がする。最近は「CMYKで下さい」と言われることが僕的には滅多になくなってきたし。

GIMP < http://www.gimp.org/
>

・Inkscape

こっちはちょっと感動したぞ! 適当なIllustratorファイルが見当たらなかったのでPDFを開いて見たところ、何と! Illustrator同様にページを選んで開くことができた。中身のパーツをそれぞれいじれる。パスも普通に使えるし、線の丸めなどの設定も同じ。打ち込んだテキストのアウトライン化もできる。

色を選ぶのにPainter風の丸+三角のカラーホイールが使える! 面と線の塗りを切り替えるには、Illustratorだと小さい色アイコンをクリックするわけだけど、Inkscapeでは面と線それぞれのタブ画面がある。慣れればIllustratorより使いやすいかも。

僕がIllustratorで使う機能はほとんどカバーできてる模様。Inkscapeのサイトには「商用印刷に適したファイル形式にエクスポートできます」って書いてあるから印刷原稿もイケそう。

Inkscape < http://www.inkscape.org/ja/
>

●乗り換え可能ではあるけど

Adobe CCから代替アプリに乗り換えは一応可能、ってわかったのは収穫。まあ、Adobe CCサブスクリプションをやめなきゃいけないほど切迫してるわけじゃないし。サブスクをやめたって、機材やアプリや他のサブスクにかかる費用全体からしたらたいした節約にならないしね。そもそも、やめて快適になるかと言えば......ならないよねえ。まあ、やめられないことがわかってるので、ゴネゴネとゴネてるだけなのですが...。

●Photoshopが手放せない理由

代替アプリでたいていのことが可能でも、Photoshopのアクションと自動処理のバッチの便利さの代わりになるものはない。「アルファチャンネルから選択範囲を作り、キャンバスレイヤーから切り抜いてレイヤーにする」とか「800pixel角にサイズを統一してsRGBに変換し、特定のフォルダにJPG保存」などなど、いつも使うアクションをショートカットで実行させるとか。

Photoshopアクションやバッチがなかったら、数10分で終わる仕事に何日もかかるかもしれない。たぶんPhotoshopの最も重要機能かも。関係ないけど、「今やったアクションをもう一度やる」っていうショートカットがほしい!

●Photoshopに初めてまともなカラーパレットが!

ああっ! Photoshop CC(2014)、まともなカラーパレットパネルがついたじゃないか〜〜! Painterの使いやすいカラーパレットが僕的に標準になってたので、Photoshopのカラーパレットの貧弱さにはいつも悩まされてた。

あんなもので色は選べないので、HSBスライダを使うよりしかたなかった。最近ではHUDカラーピッカーなどという意味不明機能も加わったりして、Adobe何やってんの? って感じだった。しかたなく、サードパーティのPainter風カラーパレットを使ってたけど、ようやく正式についたかー! なんで今まで放置されてたんだ?

< http://bit.ly/1pVVxx1
>

●追記! CLIP STUDIO PAINT

ここまで書いたところで、CLIP STUDIO PAINTがPhotoshopの代替になるか試してみたところ、驚きの事実が判明。次号に続く!

【吉井 宏/イラストレーター】
HP < http://www.yoshii.com
>
Blog < http://yoshii-blog.blogspot.com/
>

長くなりすぎた。新しいiPadアプリ「Adobe Sketch」と「Adobe Line」の件も書きたかったけど、別の機会に。っていうか、数回分のデジクリ原稿が作れるくらいの小ネタ系テキストが用意済みなのに、どんどん後へ押し出されていってしまう〜。あっそうだ! 賞味期限切れネタ在庫処分特集やろうっとw いっぱいあるよ〜。

・rinkakインタビュー記事
『キャラクターは、ギリギリの要素で見せたい』吉井宏さん
< https://www.rinkak.com/creatorsvoice/hiroshiyoshii
>
・ハイウェイ島の大冒険 < http://kids.e-nexco.co.jp
>
・INTER-CULTUREさんの3Dプリント作品販売
< http://inter-culture.jp/Buy/products/list.php?category_id=63
>


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
編集後記(06/25)

●和田誠が装幀した3000冊を超える本から、名ゼリフがきらりと光る100冊をセレクトした「ほんの数行」という2000円超(!)の本を読んだ。その100冊の中からとくに興味をひいた本を数冊、図書館に予約したら速攻で届いた。もはや古い本で借り手がないからだ。確かにだいぶくたびれていた、丸谷才一「挨拶はたいへんだ」を読んだ(朝日新聞社、2001)。丸谷才一はスピーチの名手である。あらかじめ原稿を書いて、読み上げるというのも特徴である。その理由は「一つには当意即妙の才がないから。さらには、失言をしないやうに」だそうである。

前もって書くので推敲ができる。現場で慌てることがない。言葉に詰まって立ちつくすこともない。調子に乗って失言することもない。いいことずくめである。これはいいことを知った。お調子者だから、いままで挨拶はいくつも引き受けてきたが、事前にメモさえ作ったことがなく、殆どがやっつけ本番。頭の中で考えていたナイスなセリフが、すべてスルスルと出て来て大成功、なんてことはこの人生で一度もなかった。挨拶のあとはいつも意気消沈していたものだ。練りに練った原稿を読み上げるという手に、なぜ気がつかなかったんだ。とにかく原稿に書く。それを丸暗記できたらなおいいのだ。

「挨拶はたいへんだ」には、谷崎賞贈呈式での選考委員祝辞から、ドナルド・キーンさんの喜寿の会での祝辞までの49本の挨拶と、筆者の簡単な解説(うちあけ話)がついている。葬儀での弔辞、お別れ会・偲ぶ会での挨拶も少なくない。自身が川端康成文学賞を受賞時の挨拶は、漢字混じりでわずか174字とは洒落ている。すべての挨拶がすばらしい。名人芸である。とくに弔辞は、知人ではなくてもその人の人となりと仕事の意義が分かる。挨拶の原稿が残っているので、本にまとめるのも容易。この企画を立てた編集者の頭のよさといったら。なにしろ、原稿を催促する必要がないのである。丸谷挨拶本はその後、三冊が刊行された。

巻末の対談で井上ひさしが挨拶のコツ要領よくまとめている。一般論、抽象論は言わない。ゴシップ、エピソードなど具体的なものを使う。理屈をいわなきゃいけないときには、練りに練って、しかも簡潔に、おもしろく、きちっと言う。原稿ができあがったら題名をつけてみる。題名がつけられないようだと、散漫になっている。前置きはやめる(前置きは司会者の仕事)。大変に参考になりました。もうわたしが挨拶する機会はないと思う。自分の葬式用に、せめて練りに練った原稿を書いておくことにしよう。(柴田)

< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822814025/dgcrcom-22/
>
「ほんの数行」

< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4022647167/dgcrcom-22/
>
「挨拶はたいへんだ」「挨拶はむづかしい」の2冊を合本にしたものが文庫になっている。


●カラーパレット? 前からこれじゃなかったんでしたっけ......。別のアプリでしたっけ。

肘の痛み続き。レントゲン室では肘が主役のため、脇役の私は無理な体勢をとらされる。「はーい、痛いですね−。すぐに済みますからねー」という技師さんの言葉。マンモグラフィーの時もそうだった。あの人たちはその「痛いですねー」という言葉を出しつつ、もう一段階踏み越えてくる。

撮影後の診察では、骨折していないことを告げられる。そういや今までの人生で骨折ってないのである。階段から落ちようが、フルコンタクト空手をしようが。年取ってきたから今後はわからない。

先生は「カルシウムが出てます」とフィルムの一部を指しながら説明してくれるのだが、こちとら素人。カルシウムが出ていたらどうなんだ? 溶けてるってこと? 骨粗しょう症になりかけてるってこと? そういや胸は一部石灰化しているって話をされたことがあったな......。

「鍛えたほうがいいですか?」「それは不要です」えっ、じゃあ何なの? 予防できない何か? 質問したいのに、先生は相手にしてくれない。忙しいのに授業になっちゃうもんね。続く。(hammer.mule)