講師だって、最初は初心者だもの[息抜き]「電子書籍とWeb」に参加してのレポート 〜その1〜
── 森 和恵 ──

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こんにちは。森和恵です。ただいま、岡山に居ます。昼前に、地元の新大阪を出発し、ぴゅーんと45分ほどで到着しました。

本日は、この↓勉強会に参加して、電子書籍とWebフォントについて学びます。


【第27回 岡山WEBクリエイターズ「電子書籍とWeb」】
< http://www.okaweb.jp/20140823-1.html
>

ということで、本日は、この勉強会のまとめをリアルタイムでお届けします。まず、今回は、セッション1だけをレポートしますね。

※残りの2セッションは、次回持越しとさせてください。帰宅後にリライトしてて感想も書きくわえててたら、ボリュームが多くなっちゃって…。

■セッション1:「電子出版と電子書籍の今とこれから」

最初のセッションは、技術評論社・馮 富久さんの登場です。電子書籍の5年とこれからの展望についてお聞きしました。

技術評論社さんといえば、電子書籍の自社マーケット「Gihyo Digital Publishing」を運営されています。業界的な話に加えて、自社ではその時どうだったか? という具体的なお話もたくさん聞くことができました。

【Gihyo Digital Publishing - 技術評論社】
< https://gihyo.jp/dp
>

電子書籍が日本に本格的に登場した、2010年の話から。

ipadが登場し、電子書籍元年と初めて呼ばれた年です。タブレットが一般に出回って、ようやく電子書籍のコンテンツを出せるぞ! と出版元が期待を寄せた年でした。話題に上がったコンテンツが「Alice for the iPad」。電子書籍の未来を感じさせるようなインタラクティブ要素たっぷりのものでした。

【Alice for the iPad】
<
>

わたしも、当時センセーショナルだったこの動画を覚えています。「これから、紙の本はなくなって、こんな感じの本に変わっていくのだな…」と複雑な心境でした。

電子書店もたくさんオープンしたそうです。スライドには、多くの会社のロゴが書かれていました。と、同時に今では聞かなくなったお店の名前も…。市場競争が働くのが世の常とはいえ、悲しいことですね。また、SONY「Reader」やシャープ「GALAPAGOS」など、国産の電子書籍リーダーも登場しています。こちらも、いまでは聞かなくなっていますね。。

まだ電子書籍用のデータ規格EPUB2は成熟しておらず、書店ごとに独自データを用いていたところもありました。電子書籍を利用している人はまだ少なくて、時代を先取りしているような雰囲気でした。

と、こんな風に業界として成り立ちだした最初の年が、2010年でした。

翌年の2011年は、HTML5やCSS3が本格的に登場し、それを内包したEPUB3が登場しました。技術面や規格だけでなく、いろいろな環境が揃ってきつつありました。技術評論社さんの電子書籍の自社マーケット「Gihyo Digital Publishing」は、この年にスタートしたそうです。

次の2012年は、電子書籍 “真の幕開け”と呼ばれる年です。

楽天 kobo、Google play、Amazon Kindleなど、日本でさまざまな電子書店がオープンしました。この年に売り場がたくさんできて、コンテンツを届けるインフラが整備されました。電子書籍の一般化、庶民化のスタートでした。

馮さん曰く、特に注目すべきは、楽天のkoboの快進撃とのことでした。導入はじめのサービスやハードのクオリティは低かったものの、功績は大きいと業界に大きな風穴をあけたのではないだろうか? と語られました。

私が電子書籍を本格的に購入しだしたのもこの年です。Koboユーザーになり、そのあとKindleユーザーになりました。楽天もAmazonも、普段からいろいろとネットショッピングをしていたお店なので、電子書籍の購入もハードルは低かったのです。

Koboの購入履歴をしらべると、米澤穂信著書 古典部シリーズ「氷菓」を2012年8月31日に購入したのが記念すべき一冊目でした。ちょうど、テレビアニメ「氷菓」を京都アニメーションが2012年4月〜9月に放映していまして、その影響で購入したのだと覚えています。

現在、Koboで販売されている電子書籍「氷菓」は下のURLなのですが、この年に私が購入したのは、これとは異なり、本の表紙がアニメーションのイラストの表紙になっているもので、一般書店で冊数限定で販売されていたものです。

【氷菓】Kobo
< http://books.rakuten.co.jp/rk/91e166e237974037977f4d7d8c2bfdc4/
>

Koboは、購入した電子書籍を管理する「マイライブラリ」というクラウドサービスがあり、購入した書籍はここから何度でもダウンロードすることができますが、私のライブラリからは、販売を終えた2012年度のアニメイラスト版の「氷菓」をダウンロードすることができます。

当時は、「電子書籍なんて、将来どうなるかわからないから、なくなってもいい、読み切って終わりの本だけを買おう」と考えていたものですが、こうやってみると、きちんとサービスとして成り立っていますよね。

次に2013年。電子書籍が売り物として認識され始めた年と語られました。

各社の調査結果で、MMD研究所調べでは56.8%、インターネットコムGooリサーチ調べでは34.3%など、電子書籍を読んだことがある人が急増していることがわかるそうです。Apple iBookは、一年遅れでこの年に始まっています。

馮さん曰く、これまでに比べて複合的な話題が増え、業界として電子書籍が成熟してきたと感じたそうです。また、技術評論社さんでは、キャンペーンをつかった電子書籍の露出を始めたのがこの年だそうです。

いくつか例を挙げていらっしゃいましたが、私が驚いたのは、2012年1月に発売された、通称“モバツイ本”(↓)の80%オフキャンペーンでした。Amazonランキング総合13位になったそうです。

【100万人から教わったウェブサービスの極意】
< http://www.amazon.co.jp/dp/B00DVHO6B8/
>

このキャンペーンを踏まえて、電子書籍もある程度の数字、ボリュームをもって動くこと、動きも早いこと、電子だけではなく紙の書籍も連動して動くことなどを実感されたそうです。

この話を聞いて私が感じたことは、ネットの「口コミ」の威力と、電子書籍は相性がいいのだということ。電子書籍を購入するユーザーは、既にWebにどっぷりつかっている人だと考えられるので、毎日目にするSNSやブログ、ニュースサイトで話題になっている書籍を「そんなに話題になってるなら、買ってみよう」と思うケースも多いのだと思います。

そして、電子書籍が登場してから5年後の今年、2014年。電子書籍市場は、1000億円超える見込みの市場に成長しています。

技術評論社さんも、本格的に電子書籍に取り組んでいて、「雑誌・技術系専門誌の電子化スタート」や「電子書籍のみのオリジナルコンテンツ」にもどんどん力を入れているのだそうです。電子書籍なくては、語れない。そんな時代がようやく来たという印象でした。

【『Software Design』『WEB+DB PRESS』 電子版定期購読のお申し込み】
< https://gihyo.jp/dp/subscription
>

「「雑誌・技術系専門誌の電子化」について。Web制作系の勉強をしている人なら、専門の月刊誌を定期購読する人も多いのですが、あれ、部屋の中でかさばりますよね。自炊して電子化している人もいるのではないでしょうか。電子書籍なら、しおりをつけてブックマークし、自分が欲しい記事を後からまとめて読むこともできてうれしいですよね。

残念なのが、雑誌系の電子書籍は、そのほとんどが固定レイアウト(PDFなど)の形式のため、小さい画面での閲覧に向いていないし、中身のテキストの検索ができません。この辺の改善が、さらに望まれます。

ちなみに私は、専門の月刊誌をよく電子書籍で購入しますが、すごく気になってじっくり読みたい時は、紙の本を買ってしまいます。最近、紙の雑誌で購入したのがこちら↓。本屋でぱらぱらとめくったら、コードの量が多くて、「こりゃ、電子で読んだら目が疲れるわ…」と思ったのが理由です。電子書籍のほうが、356円値引きされているのですが…(苦笑)

【フロントエンドエンジニア養成読本 [HTML、CSS、JavaScriptの基本から現場で役立つ技術まで満載! ] (Software Design plus) 】
< http://www.amazon.co.jp/dp/4774165786/
>

続いて、「電子書籍のみのオリジナルコンテンツ」について。技術評論社さんでは、電子書籍だけで出版するコンテンツを発行されています。この形式で発行される本は、「業界のホットな話題・いち早く・コンパクトに」という特徴があります。

例で出された、Facebookのプログラム言語「Hack」の電子書籍は、Facebookが「Hack」の仕様を公開したのが3月で、その翌月の4月には、もう発行されるというスピードだったそうです。

【Facebook発 新プログラミング言語「Hack」スタートアップガイド 】
< https://gihyo.jp/dp/ebook/2014/978-4-7741-6445-8
>

Web系の新しい情報は、たくさんのブログで読むこともできますが、その筋のプロの方が執筆し、プロの編集者がまとめた書籍にはかないません。

紙の書籍の場合は、それなりの部数が売れないとコストと見合わないので、あまりにも旬すぎるホットな話題の書籍を出すのはメリットが薄くなるものですが、電子書籍なら可能とのことでした。

ここからは、この5年の総括と未来への展望の話に移ります。

2010年から2013年の売上グラフが提示されました。それを見ると、電子書籍に限れば4倍の伸びをみせたそうです。この5年で、電子書籍ビジネス、電子書籍制作業界の下地は、十分にました。ですが、書籍業界全体としては、紙に比べて電子書籍が占めている割合はまだまだ少なく、これからまだまだ伸びしろがある状況です。

書籍業界的には、「若者の書籍離れ」など、全体的な本の売り上げが下がっている状況なのですが、その下がり度合に電子書籍の伸びが追い付いていないのが現状だそうです。今後、もっと電子書籍の伸びを引き上げて、書籍が全体が下がっても、電子書籍が上がってきて、つじつまを合わせていけばよいのだと考えているそうです。

次に、電子書籍データの制作現場の話に移りました。

電子書籍データの形式としては、PDFなどの固定フォーマットとEPUBなどのリフロー形式がありますが、読む人にとってアクセシビリティが高く、利便性の大きいEPUB形式のデータをもっと増やさなくてはならないと考えているのだそうです。

EPUBとは、電子書籍標準規格で、現在EPUB3バージョンが規格として制定されています。EPUB形式は、HTML・CSS・JSなどWebページを制作するために使われている技術を応用したものです。ルビ・縦書きなど、日本独自の形式を盛り込んでいくなど、更に進化が予定されています。

EPUB形式は、固定形式とは違い、「ユーザーが文字のサイズを大きくしたり」「デバイスの画面サイズに応じてレイアウトを再調整したり」することが可能な、自由な形式「リフロー型」です。

技術評論社さんでは、基本リフロー型のEPUBにするべきだと考え、EPUB3データを出力するためのワークフローを独自に編み出しているのだそうです。

「原稿を準備」→「書式をMarkdownで記述」→「MarkdownからXHTMLに変換する内製のスクリプトを通し」→「EPUBパッケージング」…という流れで制作を進め、執筆・編集・構成は、フォルダ、ファイル名などの情報構造ををルール化し、GitHubを使って管理しつつ、複数人でMarkdownの書式の状態のまま進めるそうです。

一方、紙の電子化は、印刷向けに作ったデータをそのまま使うのではなく、EPUBに最適化するために作り直すのだそうです。この作業は、とても手間のかかる作業なので、今後の課題としてワークフローの改善をしたいと語られていました。

この時、「紙の書籍は、言い方を変えると読者に読み方を指示している。それに比較して電子の方が自由度が高い。どんなデバイスでも読めるのが電子のメリット」と話された言葉に、私はハッとしました。

このメリットを最大限に生かすためには、多少手間がかかってもEPUB形式を進めているのだそうです。電子書籍に本気で取り組んでいるのだなぁ…と改めて思いました。

この後、いくつかの事例を挙げながら、「いかにして、紙をEPUBデータに最適化するのか?」について語られました。くわしくは、公開されているスライドの後半部分を見て頂くと参考になると思います。

【「電子出版と電子書籍の今とこれから」のスライド 】
< http://www.slideshare.net/tomihisa/27-webweb
>

次に、技術評論社さんの売り上げの話がありました。

自社書店の売り上げが多く、KindleやKoboの割合はまだまだ少ないのだそうです。雑誌の定期購読を始めた頃ぐらいから、ぐっと伸びてきたということです。

スタート時にキャンペーンを行うことで、スタートダッシュを図り、その後も予想よりも多く一定の購買数をキープできているとのことでした。ネットを通じて、発売前から販促活動し、スタート時には情報を拡散し、注目度を高めるという手法は、紙の書籍ではなかなか難しく、消費行動を活性化するために大きなキーとなっているようです。

最後に3つの課題点のお話がありました。

・作り方における、紙と電子のバランスをどうするかということ

・書籍の権利関係(電子と紙を複合的に考えるとかなり複雑化するそうです)

・情報の氾濫(電子書籍ということを意識しすぎている、実状よりも情報にノイズが乗ってしまう)

課題点が、ちょうどまとめのような感じで聞いていました。

EPUBデータの制作と紙のデータの制作は、たしかに手法がまったく違うので、ここの制作フローを効率よく整備するのは、なかなか骨のかかる仕事ではないかなと私も感じました。

また、私自身も紙の本・電子書籍を出版社から販売して頂いているのですが、権利のために交わした契約書の文面は、複雑な内容でした。特に電子書籍は、これからどんなことが起こるかが未知の部分もあり、契約書を作る人も難しいのではないかなと思います。

最後の〆の言葉として、「あと5年後には、特別ではなく普通になっていることが望まれる」と語られました。また、最後の質問の時に「一度やってみることが大事かも」と語られました。

まだまだ、過渡期の電子書籍、この後5年後にどう変わっているのかが楽しみでもあり、怖くもある、そんなセッションでした。また、馮さんが言ったように、手をこまねいて見ているだけでなく、一度やってみることが大事だと思います。折角、電子書籍の誕生から成長にお付き合いできているのですから…。試して、実感してみよう! と思いました。

……さて、今回はここまで。次回のネタは、この勉強会の残り二つのセッションをレポートしますね。しばしお待ちを。また、9月にお会いしましょう!

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