装飾山イバラ道[145]眼鏡の問題じゃない問題/武田瑛夢

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●遠近両用眼鏡を買いに

旦那さんが初めて遠近両用眼鏡を買うという。以前買ったのは普通の度付きレンズの眼鏡で、映画を見に行く時や、何かをはっきり見たい時に使っていた。ずっと眼鏡をかけていなかった人がかけるようになったので、私としては見た目の感じの違いの方が大きい。眼鏡選びに付き合うのは前回以来なので、あまり慣れていない。


大きな駅の大型眼鏡店に入り眼鏡を探す。1Fのフロアをぐるっと見てまわって、おしゃれな眼鏡が多いことに気づいていたけれど、どうも遠近両用眼鏡は別フロアのようだ。
店員さんに教えてもらって上の階へ行くと、それらしい大人っぽい眼鏡がたくさん並んでいた。いくつか選んでかけてみたりしていると、男性店員が声をかけてきてアドバイスしてくれる。眼鏡にド素人ということがバレたらしい。

顔の大きさに合わせて、先ほど手に取っていたものに似たタイプのものを勧めてくれる。顔の幅が狭い方なので選べる種類がそうないようだった。三つほどのタイプから、店員さんの勧める良さそうなものに賛同してうなずく。この時点でほぼ決まったなと思った。

洋服や財布など何を買いに行っても、店員さんとアクティブに話をするのはほぼ私という買い物スタイルなので、旦那さんがどんなものを欲しいか私がわかっていないと話が進まない。店員さんも具体的な要望は私から出て来ると気づくと、途中からほぼ私を見てセールストークをするようになる。

結局は、最後に買うか買わないか決めるのはやっぱり旦那さんで(あ、これは断りたいモードだな)と私が気づいて、試着しているものを脱ぐ方向に導くような感じだ。遠近両用眼鏡の場合は旦那さん本人もこれでいいというオーラを私に出していたので、「これでいいんじゃないの?」と私が言って決めた。

●目の検査が何度も

私自身は眼鏡をかけていないので知らなかったけれど、フレームの種類を選んでから目の検査のフロアへ移動するという。目の検査は以前の眼鏡の時くらいの時間はかかると思っていたけれど、予想以上に長くて驚いた。一時間以上はかかっていたような気がする。

そして検査コーナーから戻って来た旦那さんと係の人は、何か今後の相談をしている。買い物が終わった感じの晴れ晴れしさがなかったので聞いてみると、何と眼鏡を売ってくれなかったという。

複数の検査をしてみたところ、視力が安定していないので、このまま眼鏡を作っても作り直しになりそうだということ。今の目の状態を確かめるために眼科受診を勧められたのだ。

眼鏡屋さんが眼鏡を売ってくれないなんてと、ショックを受けている旦那さんが可哀想だったけれど、無駄にならないアドバイスをしてくれたのだからなかなか良心的な眼鏡屋だと思う。

眼鏡選びから検査までかなりの時間をかけたけれど、眼科を受診した方がいい状態だとわかったので良かった。選んだ眼鏡フレームは期限付きでキープしておいてくれるという。

その後近所の眼科へ行ったところ、さらに精密な検査機器での検査を勧められて、紹介された大きな眼科へ検査しに行った。そんなに深刻なのだろうかと心配になる。結局のところ、加齢から来る問題が多いということで、目の病気として病名がはっきりするということはなかった。

今の状態で眼鏡を作って、合わなくなったら作り直しでもそれでいいじゃないかということになってキープしていた眼鏡フレームで眼鏡を作りに行くことになった。

●ナイスなアドバイス

事情を説明して眼鏡店で再度目の検査を受け、次の週に眼鏡を引き取りに行った。カウンターで出来上がってきた眼鏡をかけてみる。遠近両用なので見え方のチェックが肝心だ。近くを見て、遠くを見て、と繰り返していたけれど、なかなかしっくり来ないようだ。

どう見えているかは本人にしかわからないので、女性の店員さんが詳しく様子を聞く。手元の文字を読んで、遠くのポスターの文字を読む。こんなもんですかねぇと不安げな様子だ。

眼鏡の受け取りのチェックに時間をかけるのが普通なのかもよくわからないけれど、どうも普通よりは時間がかかっている流れだったようで、ベテランらしい年配の男性スタッフが登場した。

男性スタッフによると、旦那さんは両目の視力に差があるため、今までは遠い方と近い方で左右の目の役割を分けた見方をしていたらしい。今回レンズの部位によってそれを補正していること、焦点が合うエリアが狭いので視線を移動するのではなく、顔ごと向きを変えて物を見る訓練が必要なことなどをアドバイスされた。

このベテラン男性スタッフのおかげで、旦那さんも見え方への疑問が晴れていくようで良かった。手前の物を見る時に、眼鏡をズラすしぐさをしたら、そのしぐさはあまりカッコいいものではないということまで教えてくれた。癖がつく前に知っておいた方がいいことを教えてくれるのってありがたい。

遠近両用は慣れるまで時間がかかるので、まずは家のリビングで坐って身の回りだけで使うこと、慣れたら家の中を歩き、だいぶ使い慣れた頃にやっと外出で使用可能だと教えてもらった。

足下が見えにくい状態で歩くと転ぶこともあって危険だという。慣れないと脳が疲れるので、すぐに外して休んだ方が良いそうだ。初めての遠近両用眼鏡な上に左右の度に差があるので、普通よりも慣れるのに時間のかかるはずだと言う。旦那さんもベテラン男性スタッフの話をしっかりと聞いていた。

●あれだけ念を押されたのに

包装してもらった眼鏡を受け取ってエレベーターに乗ろうとすると、ベテラン男性スタッフが駆け寄ってきて「くれぐれも、ゆっくり時間をかけて慣らして下さいね!」と再び丁寧に言ってくれた。熱心でいい人だなぁ。

その後、食事の買い物でもして帰ろうと駅の方へ歩きながら、さっきの男性スタッフが面白かったねと話をしていたら、旦那さんが今買って来た遠近両用眼鏡をかけているのに気がついた。「何もうかけちゃってんの? 家で慣らしてからってあれだけ言われたのに!」「さっきからずっとかけてるよ」

何ということだろう。これぐらいのおじさんの言う事の聞かなさときたらハンパない。それがわかっていたから、あのベテラン男性スタッフは駆け寄ってまでアドバイスをしてくれたのだ。私に。

転ばれたら困るからしまえと言ってもきかないので、手をしっかりつないでさっさと帰ってきた。新しいものを買ってもらった子供じゃないんだから、買ったその日くらいアドバイスを聞いても良さそうなものである。本当に遠近両用は足下がぼやけて見えて危ないので、甘く考えていると事故になりかねない。

旦那さんは自分のことは自分が一番わかっていると思いすぎているのか、アドバイスが入っていかないのが困る。養老先生の「バカの壁」のように何らかのバリアが覆っていて、受け付けないのだろうか。

最近はバリアが張られて聞いていない時の顔とかもわかるようになってきた。残念ながら心に響くかどうかは、こちらが真剣に言うかどうかはあまり関係がないのが悩ましい。まーそーいうもんだくらいに考えて、その都度言っていくしかないのかもしれない。

それこそ新型の拡声器のようなもので、心の芯まで届く言葉を伝えることが出来るようになったらいいのにと思う。真剣に言っている言葉を聞くと脳に響くとか。

でも、そういえば三蔵法師でさえ孫悟空の頭に輪の緊箍児(きんこじ)をつけてコントロールしようとしたように、優れた人でも道具に頼るしかなかったのか。わかってもらうってほとほと難しいのである。

【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
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冬は化粧品が華やかになる。化粧品店でネイルを二本選んで買おうとすると、「もう一本お買上げ頂くとこちらの可愛いパッケージに入りますよ」と言われた。確かに可愛い箱だったけれど、やさしく断った。本当は綺麗な紙箱や紙袋大好きなんだけれど、今は集めちゃった過去の物たちを処分&整理のまっただ中なのだ。くっだらないものを厳選審査にかける手間って無駄なのかなー。