ショート・ストーリーのKUNI[164]お話を思い出させないで/ヤマシタクニコ

投稿:  著者:  読了時間:8分(本文:約3,500文字)


宗田くんというごくふつうの男がおりました。

ある日、宗田くんはだらだらと残業をしておりましたが、それでも終わらないのであとは家ですることにしました。いわゆる持ち帰り残業です。

一人暮らしなのでだれに気兼ねすることもありませんが、さすがに疲れて、やる気が出ません。時おり意識が飛ぶ。長いまばたきとも居眠りともいうやつです。ぶるるっと頭をふって眠気をとばそうとしても限界。

「あーあ、どうしよ。明日の会議までにこれを仕上げて、みんなの前で発表せなあかんのに...この調子やと絶対無理...」

ほとんど泣きそうになった宗田くんは、ふと昔読んだお話を思い出しました。貧しい靴屋の夫婦がいて、寝てる間に小人たちがやってきて、みんなでよってたかって靴をつくってくれるというお話。

「あー、そうや。こんなとき、寝てる間に小人がやってきて代わりにやってくれたらなあ...目が覚めたらすっかり仕事ができてたらなあ...」

すると、目の前に突然、ぬうっと白いひげの男が現れた。

「わーーーーーーっ!」

「おどろくこと、ありません。ワタシは、神様です」




「ななな、なんやねん、その、安物の結婚式の牧師のような、亀山エリーのようなしゃべり方は。おおおれはマッサンとちゃうぞ!」

「ワタシは、神様です。あなた、さっき『小人がやってきて代わりにやってくれたらなあ』と、言いました」

「あ、ああ言うたけど」

「小人、派遣します。次のうち、どれがいいですか。1・腕のいい小人、2・そこそこの小人、3・さっぱりわやな小人」

「はあ?」

宗田くんは「金の斧」の話を思い出しました。水の中から金・銀・鉄の斧を持った神様が現れて「あなたの落とした斧はこれですか」と聞く話。確か、鉄の斧を選んだ男は正直者とほめられて結局得をして、金の斧を選んだ男は罰せられたのではなかったか...よし。

「3の、さっぱりわやな小人でいいです」

「わかりました」

そのあと、宗田くんはあっけなく眠りに落ちました。朝になってみると会議の資料はまさに途中から、わやくちゃなことになっています。

宗田くんは上役から怒られ、同僚からは「やっぱりなー」「あいつはそんなもんや」「前からわかってたけどな」と言われ、職場の同僚でもある彼女には「いや、夜中に小人がやってきて、それがさっぱりわやな小人で」と説明しかけたところでしばかれました。

ひと月ほどして、また宗田くんは家に仕事を持ち帰りました。段取りが悪いのか集中力がないのか、最初からやる気がないのかわかりませんが、ちょくちょくそうなるのです。

「あーあ、どうしよ...もう一回神様出てけえへんかなあ」

すると神様が現れました。

「あなた、また持ち帰り残業ですか。残業代も出ないのに」

「そうなんです。また明日会議で、今日中にやっとかんとあかんのに、もう眠くて眠くて...無理ですわ」

「小人、派遣します。どれが、いいですか。1・腕のいい小人、2・そこそこの小人、3・さっぱりわやな小人」

宗田くんはすかさず答えました。

「1の、腕のいい小人!」

そのあと、またしても宗田くんはこてっと眠りに落ち、何が起こったのかわかりません。とにかく朝になって見ると、すばらしいプレゼン資料ができあがっていて、しかも美しいつるつるのクリアファイルに収められています。

100円ショップで売られてるぺらぺらのやつではなく、もっとデラックスなやつです。250円くらいでしょうか。どうでもいいですが。

「すごっ。こないだは中身がわやな上に揃えられてもなくて、ぐちゃぐちゃやったわや。ほんまにわややったわや」

何を言ってるのかわかりません。

会議ではその資料をもとに宗田くんは発表、拍手喝采を浴びました。

「宗田くん、君にあんなすばらしい仕事ができるとは思っていなかった。あ、いや、失礼。君の能力はこれまで十分知られてなかったようだ。今後はばりばり仕事をしてもらうよ」

「宗田さん、すてき! 私、仕事のできる男性って大好き!」

上司からはほめられ、女性社員からはうるんだ瞳で見つめられ、宗田くんはうちょうてんです。しかし、これをきっかけに仕事がどっさり押し付けられ、かえってたいへんなことになりました。

加えてデートを申し込む女性社員があとを絶たず、全部オッケーするととても時間もお金も足りません。かといってどうやって断ればいいのか、なにしろ経験が少ないのでわかりません。毎日がパニックです。結局仕事がたまって、また持ち帰り残業になりました。

「あーあ。何やってるんやろおれは...結局自分で自分の首絞めてるがな...明日の資料がまだできてへん...」

すると待ってましたといわんばかりに神様が現れました。

「小人、派遣します。どれが、いいですか。1・腕のいい小人、2・そこそこの小人、3・さっぱりわやな小人」

「2のそこそこの小人に決まってるやろ!」

宗田くんがそう言って、こてっと寝ようとすると神様は「あなたに、言っておきますが、決して小人たちが仕事してるところ、見てはいけません」

「ええっ?」

寝かけていた宗田くんは思わず目をぱっちり開きました。なんやったっけ。そんなお話があったような...えっと...あ、そうや、「鶴の恩返し」!
 
鶴が「決して私が布を織っているところを見ないでください」とさんざん言ったのについ見てしまったという...細かいことは忘れたが、とにかく見てはいけないという話だったな...。

「あ、はは、はい、絶対見ません!」

宗田くんは机を離れ、隣の部屋のふとんにもぐりこむとぴしゃっとふすまを閉めました。しかし、見てはいけないと言われるとやっぱり見たくなる。心がついつい隣の部屋に行ってしまう。

しんとした中で、かすかに物音がする。ページをめくる音...パソコンのキーボードをたたく音...小人がキーボードをたたくってどないしてるんやろ...小人にしたらキーも椅子くらいあるんやないやろか...たいへんやな...

「!」を打つときなんかひとりではでけへんな...いや、小人とゆうてもどれくらいの大きさなんやろ...両脚広げたらなんとかいけるくらいの大きさかも...脚がつりそうやな...元に戻れへんかったりして...

今度から「!」はなるべく使わんようにせな、かわいそうやな...スクリーンショットを保存するときはどないするんやろ...絶対腰いわすな...ああ見たい...見たい...。

すると枕元に神様が現れました。

「あなた、見たい。でも、絶対、だめ」

「わかってますって!」

「でも、見たいでしょ」

「みみ、見たくないです!」

「どうしても見たかったら、見てもいい。でも、絶対口をきいてはなりません」

「はあ?!」

宗田くんはここでまたしてもお話を思い出しました。えーっと...あれは...杜子春! ...絶対口を聞いてはいけないというのに思わず声を出してしまってなにもかもなしになってしまうという話...ぶるるる、とんでもない!

「いや、見ません、しやから心配無用ですってば!」

杜子春ってどんな筋書きやったかな...確か、自分の親がひどい目に遭っているところを見せられて思わず「お母さん!」と叫んだのだった...あ、ひょ、ひょっとしたら、今、一生懸命キーボードを打っている小人はぼくのおやじやおかんかも...

「!」を打とうとして脚をめいっぱいひろげて「あー、どないしょー、脚がつって、身動きでけへんわ、痛たたた」「がまんせえ! あいつのためやないか。親のわしらがせんでどないするねん!」とか言ってたりして...

ああ、ぼくはなんというひどいことをしてるんや、おかあちゃん、ごめん...いや、これは神様の罠かもしれん...だいたいこの神様、ろくなやつやないし...ひとをいじっておもしろがってるみたいやし...ほんまは悪魔とちゃうやろか...

あー、何か目が冴えてきて、とても寝られん。よう考えたら、これやったら起きて自分でやったらええんちゃうんか...。すると神様が

「あなた、いまから、自分でやりますか。なんでしたら、夜食にリンゴはいかが。とてもおいしいリンゴ、です。ひとくちかじるだけでも、いかが」

「リンゴ...いりません! もうお話を思い出させんといてください!」

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腰痛をなんとかしようと、整骨院通い中。かちんかちんになった筋肉を、ハリやマッサージでほぐしてもらっています。少しずつましになってるみたいで、この間までシャンプーの全行程(洗ってすすいで、そのあとトリートメントとかするとけっこう長くかかりますよね)が終わるまで腰がもたなかったのが、なんとかもつようになりました。