ローマでMANGA[82]「アモーレ」で描いた「宿命」の深さ/midori

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90年代に講談社のモーニングが、海外の作家の書き下ろし作品をのせるという前代未聞の企画を遂行していたときにローマで「海外支局ローマ支部」を請け負って、そのときのことを当時のファックスをスキャンしつつ、それをもとに書いているシリーズです。

前々回で、イタリアのマンガ雑誌1995年6月号のlinus(リヌス)の我らがイゴルトとヨリの特集記事を紹介した。

その中で特に気になる発言を取り上げて分析(?)する第二弾はこの発言。

<「学ぶべきことはたくさんあった」とイゴルト。「例えば、ある時、代理人から丁重な電話があった。『栗原さんは、分析的な構成の前に、全体的な構成をしたほうが良いのではないかと言っています』 僕のマンガの作り方と日本のやり方の違いを目の前につきつけられて嬉しく拝聴した」>

この発言は、MANGA構成の分析にまで及んでいないものの、その性格を言い表している。イゴルトはおおよその粗筋で合意してから、すぐに第一話の構成に入ったわけだが、編集部は細部のこだわりに入る前に、この大河ドラマの性格付けをすべきと考えたわけだ。

それは、各話何ページで、各章で何を語るのか、どのようなトーンで進めるのかを、あらかじめ考慮して、その大台から外れないようにしながら細かい構成にしていく、ということなのだ。




ネーム(ストーリーボード)を作り始めると、つい細部に意識が行ってしまうのだ。こういうアングルを使いたいとか、武器はこうだとか、出だしはこう行こうとか。

もちろん、これらは考えてアイデアを出していくべきことだけれど、イゴルトの場合のように、1000ページの大河物語の場合、細部から入って行くと物語の方向が曲がっていく危険性がある。

特に初めて長編を一緒にやる作家さんだったら、編集者としては始めにどういう方向で進んでいくのかを把握しておきたい。方向というのは、粗筋ではなく前述した通り、物語のトーンのこと。それがないとネームを判断するのにも困る。作家の意図と自分が理解したものが、噛み合っているのかどうかの判断の材料になるのだ。

イゴルトは優れたストーリーテラーでもあるので、主題を明確にする、という作業はすでにやっている。

「アモーレ」では「南イタリア特有の運命には抗えないとする『宿命』という概念」がそのテーマだ。

心優しく女と料理を愛する若い主人公が、マフィアのボスファミリーの長男に生まれたという宿命で、ボスである父親が暗殺された後、マフィアファミリーを統率する立場につく。自分の性癖とはまったく逆の方向へ進まざるを得なく、崩壊していく...という暗い物語だ。

陽気なイタリア人という、日本人が持つイメージとは対照的に、イタリア産の物語には身動きできない中で悲惨な結末を迎える暗い話が多い。これはやっぱり宿命論のなせるわざなのだろうか。

今でも床屋談義的にベルルスコーニや政治家の批判をする人はたくさんいるけれど、実際に行動を起こすのは稀だ。全国的に組織された労働組合がストライキをやることはあるけれど、デモ行進しておしまいだ。

民主党政権だった時の日本で、様々な一般人がSNSで発信し自然発生的にグループが生まれて、国会中継を組織的に発信して多くの一般国民が見られるようにしたり、法制度とその意味を解説したりして『政治家なんて右も左も同じ』ではないことを発信する人がたくさん出た。無責任なお花畑に住む(しかも外国)ノンポリだった私にまでその情報が届いたくらいだ。

イタリアには、お上には勝てない、という空気が充満しているように感じる。しょうがないよ、で済ませてしまう。諦めてしまう。

歴史的に自治ではなく外国権力が行政について、しかもその行政者がコロコロ替わった土地がたくさんある。特に南イタリアはギリシャから始まって、サラセン人、スペイン王、フランス王に支配された。

そして権力に立ち向かって殺されてしまう道ではなく、殺されないように従順そうに振る舞いつつ、なるべく損にならないような抜け道を探すメンタリティを身につけて行った。

これはシチリアのマフィアが生まれた背景でもある。 近年、ナポリの近郊の貧しい地域で生まれた犯罪組織ンドランゲタの扱う金額がマフィアを超えたそうだ。まともに探すと見つからない仕事が、この組織の末端に入ると、すぐにスクーターを貰え、走り使いでお小遣いが貰える。

話が脱線してしまった。イゴルトと編集者は話し合いの結果、家庭生活の描写から始まり、少しずつ犯罪組織のボス家という異常性を表面に出して行き、同時に主人公の犯罪や暴力と無関係な性癖と、彼を取り囲む環境との葛藤を強くしていくと言う大筋を決めた。

何を語るのか、という大筋を効果的に読者に伝えるには、主人公はどのような感情を持っているのかを決め、それを強調するシチュエーションのアイデアを出して行けばいいのだ。

そして、まだ子供である次男の誕生日を冒頭に持って来た。大きな屋敷の描写と高価な贈り物で富豪な家庭である事を示し、贈り物にシチリア独特の品を持って来て物語の場所を示し、同時に伝統を重んじる土地である事も示す効果的な選択をした。

料理をしているのが料理人ではなく、ボスの妹でマフィアの家庭も一般家庭と同じ日常を生きていることを示した。同時に、若々しく美しい妹とふざける手下が持っていたピストルを、その妹が台所にこういうものはだめよ、ととりあげるシーンを入れた。一般家庭には相応しくないピストルが、この家では日常であることを示す秀逸なエピソードだ。

主人公のマリオが家業に家族に全く興味を持っていないことを示すのに、弟の誕生日に遅れて帰宅させ、父親に口ごたえをさせた。(つづく)

Midori 【midorigo@maccom】

「MANGAの構成とテクニック」マスターコースというのを考案して、マンガ学校に提案し、受け入れられたものの、生徒がまったく集まらずにスタートしないことになった。学校側の熱心さが見られないと不満に思っていたけど、私も預けっぱなしでまったく熱心ではなかった。

気持ちを取り直して、かけあったら「Facebookにバナー広告を載せよう、Google Adwarsにバナー広告を載せよう」と言う運びになった。

来年4月のローマでのコミックスフェアの機会に、mangaコンテストもする事になった。今までの人任せでイニシアチブを取らないでのほほんとしていた癖を、やっと乗り越えるチャンスと捉えている。なんとか収入に結びつけないと後がないし。

COMICO 無料マンガ 「私の小さな家」
http://www.comico.jp/manage/article/index.nhn?titleNo=1961

「イタリアで新しい漫画を作る大冒険」
http://p.booklog.jp/book/77255/read

主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
http://midoroma.blog87.fc2.co