ショート・ストーリーのKUNI[165]祝日を増やそう!
── ヤマシタクニコ ──

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ある日あるとき、総理大臣が閣議を招集した。総理大臣は言った。

「大臣諸君、本日集まってもらったのはほかでもない。私は新しく祝日を作ろうと思うのだ。その名も『日本のクリスマス』」

「なんですと?! クリスマスを祝日に?!」

「ありえません、総理。クリスマスはキリスト教のイベントです。特定宗教のイベントを我が国の祝日になど」

「ありえません!」

「まったくありえません!」

「絶対ありえません!」

全員一致でありえないところを総理大臣は言った。

「勘違いしてもらっては困るなあ。だれがクリスマスを祝日にと言ってるのだ。『日本のクリスマス』だよ」

「はあ?」




「大臣諸君の指摘通り、クリスマスはキリスト教のおまつりだ。だが、我が国ではほとんどの人は、そんなことはどうでもいいと思っている。早い話が、ケーキとチキンを食べてプレゼントをして、あとはどんちゃん騒ぎをするだけ。私はそういう、キリスト教と全然関係ない『日本のクリスマス』を祝日にしようと思っているのだ」

「で、それは何月何日に」

「もちろん12月25日だ。『日本のクリスマス・イブ』が24日」

「ふつうのクリスマスと同じじゃないですか」

「たまたまだよ。何か問題でも」

「いったいなんのためにそんな祝日を」

「何を言ってるのだ財務大臣。国民にお金をどんどん使ってもらうために決まってるではないか。ちょうどボーナスも出た後だ。休みにすれば思い切り遊べる。おいしいものもゆっくり味わえる。飲食店もデパートも繁盛する。内需拡大だ。わはははは」

「さすが総理。つまらないことを...いや、すばらしいことをお考えになるもんですな。まさか、これも景気対策だとでも」

「もちろんだとも文科大臣。ハッピーマンデーで三連休が増えて、旅行に行く人も増えたではないか。そもそも、我が国の国民はお金を持ってるくせになかなか使わないのだよ。使い方を知らないのだから困ったもんだ。お金はぱーっと使うためにあるのに」

「総理。お言葉ですが、世の中リア充ばかりではないのです。非モテという言葉をご存知ですか」

「知ってるさ厚労大臣。美女が桶でシャンプーするやつだろ」

「それはティモテです。クリスマスにいい思いをしているのは、ひとにぎりのリア充だけ。恋人もいない、お金もない非モテの怨念がたまりにたまって、今しも爆発しそうになっているというのに火に油を注ぐようなっ」

「心配するな。私は非モテ対策もちゃんと考えておる」

「といいますと」

「非モテの人には国がケーキを配る。国民みんなで楽しむのが目的だからそれくらい当然だろ。そうだ。非モテ歴の長い人ほど大きなケーキをプレゼントすることにしよう」

「ええっ」

「さぞかしご苦労されたのだろうから、国としてそれ相応のねぎらいの気持ちを表すのが当然だ。製菓業界ももうかるし、小麦粉や卵、バター、いちごやチョコレートのメーカーももうかる。あ、断っておくがケーキで景気対策などというおやじギャグをかましているつもりはないからな。はっはっは」

「要するにバラマキ...。私はいいですが、野党が納得しません」

「うるさいなあ国交大臣。バラマキでもはらまきでもいいじゃないか。最近はヒートテックの」

「だいたい、非モテかどうかどうやって調べるのです。何を基準にするのです」

「そりゃあまあ、本人に申請してもらうのがいいだろうよ法務大臣」

「本人の申請を鵜呑みにするのですか。世の中もらえるなら何でももらおうという人がいっぱいいるのです。そんな輩にもほいほいとケーキをわたすのですか」

「転売目的でもらう輩もいるかもしれません。いや、絶対います」

「非モテの方には小麦アレルギーや卵アレルギーの方もいると思われます。国が配ったケーキでアレルギー症状が出たらどうするのです」

「和菓子業界から猛反発必至です」

「非モテ歴の長い人には大きなケーキですと。ものすごく年季の入った非モテの方は巨大なケーキをもらうのですか。絶対胸焼けします」

総理大臣がいらいらして言った。

「うるさいなあ。ケーキは転売禁止、違反したものは懲役、なんならGPSでもつけておけ。アレルギー除去ケーキももちろん作るさ。作ればいいんだろ作れば。オプションで『日本のクリスマスまんじゅう』も選べるようにする。巨大ケーキには...漬け物も添えよう。さっぱりするように。個人的には千枚漬けだが、しば漬けでも奈良漬けでもいい。漬け物業界も潤う。これでいいだろっ」

「待ってください。本人申請ではやはり問題があります。証人が必要でしょう。確かにこの人は友だちも恋人もいない、お金もない、さびしい非モテであることを保証するという」

「賛成です。税金を投入するからには慎重にしなければ。証人は最低5人は必要かと思います」

「住所・氏名の記入および捺印は不可欠ですな」

「あーもううるさいなあ。じゃあそうしよう、それでいい。決まりだ。法制化を急ごう。国民はきっと喜ぶぞ!」総理大臣が言った。

「ちょっと待ってください、みなさん! みなさん全然わかっておられない。非モテの方々はお友達が少ない、もしくは、いないのです。親身になって考え、あなたのためなら証人になってあげようと言ってくれる友人や身内が5人もいれば、そもそも苦労しないのです」

「それは言えてる。簡単に5人の証人が集められるようなら、非モテではないといえるかもしれないような、まあなんともいえないような」

「いや、集められたとしても...なんだか楽しくないですけど」

「ええい、うるさい、やかましい! 一体どうしろというんだ!」


ある日ある街に住むヤマダくんに電話がかかってきた。

「もしもし、ヤマダさんでしょうか。ご存知かと思いますが、先の国会で『日本のクリスマス』祝日化および非モテの人に一律ケーキ支給案が通りまして、さっそく実行されることになりました」

「はあ? おれ、新聞もテレビも見ないから知らないんだけど」

「知らなくてもいいのです。とにかくあなたに、クリスマス、じゃない『日本のクリスマス』の日に政府からケーキが贈られるのです。正確にはケーキ引換券ですが。別途郵便でお送りしましたので、期日までに手続きのうえ市役所の福祉課でお受け取りください」

「ちょっと待てよ。なんでおれが非モテだなんてわかるんだ。どっから情報が」

「えっと、その件につきましても報道されている通り、非モテの認定につきましては『推薦制』となっております」

「推薦制?」

「はい、当初は申請方式の案もあったようですが紆余曲折の末に推薦制に...。プライバシーの問題もありまして明らかにできないのですが、複数の地域住民代表の方に、この方こそは非モテであるという推薦をしていただきました。その結果、ヤマダさんが多数の支持を得て、みごとその中の一人に選ばれました。ぜひ特大のケーキを...」

「いらねえよっ!」

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会社に行かなくなって思いっきり朝寝をしていたら、お得意さんからの電話で起こされるということが数日続いた。自分は出勤しなくても、世間の出勤時間に合わせて起きておかないとだめなんだと、思い知らされた新米フリーとは私のことだ(それにしても10時や11時は寝過ぎだろうという声もあり)。