わが逃走[153]タイポ収集の巻 その1/齋藤 浩

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謹賀新年。

さて、先日ハードディスクの整理をしていたところ、「文字」を記録した写真がけっこうあることに気づいた。

デザイナー目線というより、コレクター的視点で集めた「文字」である。ざっと並べてみたらそれなりに面白かったので、ここでひとつ見せびらかそうと思った次第。

旅館よしつね
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ドロップシャドウ。パソコンで作るインチキな影ではなく、これは本物。背景が波打っていれば当然のことながら影も波打つ。あたりまえのことが新鮮に見えてしまうのは、"作り物"を見慣れてしまったということか。




でんわ でんぽう
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子供の頃はよく見かけたような気もする。が、あまり記憶にないということは、とくに気にもしなかったということだろうか。こうしてじっくり見ると無駄のないシンプルなデザイン。必要最低限の文字情報を優先順位に応じて強弱をつけ、図像を中心に配置している。情報伝達の基本だ。

水ドウ
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なぜドウがカタカナなのかは謎。そして、なぜ水が筆文字でドウがゴシック体なのかも謎である。文字が陰刻表現なのは、これがもし陽刻だと文字が削れてしまうから。だよねえ。それだけはわかる。


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力強く美しい。おそらく手作り。書家のセンセイが書いた文字を分厚い板に写し取って彫り込み、削っていったのだろうか。

エッジの処理にムダがない。かっこいい。オレも夏休みの工作かなんかで作りたくなってきた。作るなら「壺」だな。壺という字は思いきり壺の形をしているから、昔から好きなのだ。

どうでもいいけど映画「ブレードランナー」の夜の街のシーンにも「壺」という意味不明のネオンサインが登場し、なんだかわからんけどかっこいいと刷り込まれて久しい。

整堂骨鍼灸...
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切り文字にペンキ塗って乾かしてるところに遭遇。バラして見ると模様に見える。外国人が見る日本語の印象が少しわかるかも。

コロンビア
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なんといっても、雨どいに重ねるように「ア」を設置する意図がわかりません。まあ可読性は落ちますが、結果的にとても印象的にはなっていると言えなくもないけど。日本コロムビアの和文ロゴに似ているのはご愛嬌か。

どうでもいいけど、ウチの近所の商店街にある『雀荘ジョイ』は洗剤のロゴと瓜二つ。

高崎競馬場
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発見したときの感動を今も覚えている。超地球的存在の意思によるレタリングもしくは"フィルター"効果とでも言おうか。可読性を維持しつつ、ここまでオリジナリティのあるタイポグラフィに仕上げた"神サマ(=自然の力)"ってやっぱりすごいや。

トヨタ指定サービス
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旧正式ロゴ。バブル期のCIブームのとき現在のロゴ(楕円Tマーク)に統一されたように記憶している。

楕円Tマークは全ての車種のエンブレムとして適用され、ようやく日本企業もグローバルなビジュアルコミュニケーションを意識し始めたなーと思ったら、それもつかの間、何故か車種ごとに異なるデザインのものが装着されはじめて現在に至る。

よくわからんなあ。昭和に逆戻りだ。

中途半端なCI計画に何億円も払うんだったら、いっそのことこのカタカナのトヨタマークのまま突き進んだ方が、今にして思えば相当クール! だったかもしれない。と思うのだがいかがか。

スプライト
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こうして見ると、和文ロゴが極めて秀逸。オリジナルの英文ロゴが、やや長体がかったローマン体をベースとしているのに対し、和文はあえて平体を採用し欧文のリズムを表現、イメージの統一を図っている。

上下につけられたアルファベット風のセリフも違和感なく馴染んでおり、"読む"以前に"見る"だけで商品が伝わる工夫が随所に見られるすばらしい設計。

そしてこのシンプルなイラストの効果も高い。わずかな色数と適切な省略でシズル感を伝えている。この略画が見る者の持つスプライトの印象、記憶と融合し、近所の酒屋さんへと走らすわけだ。

看板やビルボードのビジュアル表現が"全部語っちゃう"CGのような写真になって久しいが、いま改めてこういった表現の可能性を再考する時期に来ているのではなかろうか、と思うのだった。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/ >

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。