[3854] アクセシビリティのお話

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《俄然陸路派である》

■わが逃走[155]
 豪雨と豪雪の金沢でトマソン階段を歩く。 の巻
 齋藤 浩

■もじもじトーク[14]
 アクセシビリティのお話
 関口浩之


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■わが逃走[155]
豪雨と豪雪の金沢でトマソン階段を歩く。 の巻

齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20150219140200.html
>
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このところ金沢出張が多い。

金沢はよいところであるが、東京から行くとなると新幹線で一旦越後湯沢まで出て、直江津経由で向かうか、羽田からまず小松空港に向かいバスで40分かけて市内へといった具合に、妙な遠回りを強いられるのだ。

私は空港での待ち時間がクヤシく感じる性格なので俄然陸路派である。

しかし、時間的には早いのだろうが、越後湯沢まで行ってまた戻って来なければいけないことにもクヤシさを感じる。

信越本線の横川・軽井沢間をぶった切ってしまわなければ、時間はかかるかもしれないが高崎、軽井沢、長野、直江津、富山とごく自然なコースで金沢に向かうことができたのだ。

寝台特急が健在なら、仕事を終えた後に金沢駅から『北陸』に乗車、日本酒と鰤の寿司なんぞ食べながら個室でゆっくり休んで、翌朝上野に着くこともできた。この方がキモチ的にはるかに楽だったのにー!

しかし、もうすぐ北陸新幹線が開通する。旅情には欠けるかもしれないが、金沢までわずか2時間半。そしてなによりも不自然な遠回りをしなくてすむのは精神衛生上とてもよろしい。

だがそうなると日帰り出張がデフォルトになってしまいそうでコワイ、といえなくもないのだが。

さて、そんな北陸新幹線開通を来月に控えた2月某日、金沢出張が決まった。

朝から打合せということになると前泊は必須だし、一仕事終えて北陸の海の幸と旨い酒、ということになれば東京に戻るのは翌日しかない。

泊まりとなると、なんとか早く出るか遅く帰るかして時間を捻出し、その地ならではの風景、できることなら歴史と伝統のある坂道を歩きたくなるのである。オレの場合。

という訳で金沢の地図を見る。

浅野川と犀川にはさまれた地形。間にググッと盛り上がる河岸段丘が小立野台地だ。Googleマップで近寄ってみると、おお、階段道がたくさんある!

というわけで、オレンジ色で印をつけたのが、今回気になった坂道。小立野台地の南西側。周辺の道のくねり方、地図を見るだけで歴史を感じるぜ。
< https://bn.dgcr.com/archives/2015/02/19/images/001 >


こういう複雑な線で構成された町は、行政や宅地開発業者主導ではなく、自然と人々が集まって集落が形成された場合が多い。定住する理由がそこにあるのだ。これぞ本来あるべき姿。

私はいわゆるニュータウンの区画整理されすぎた土地に、違和感を覚えながら育った。そのせいか、古くからその地に人々が暮らす意味を感じることのできる町に住みたいと思っている。

そういった訳で、このあたりの町並にはとても魅力を感じるのだ。ちなみに私の育った町を地図で見るとこんな感じ。
< https://bn.dgcr.com/archives/2015/02/19/images/002 >

地形が完全にリセットされた上に造られたため、非常に単調な線で構成されている。散歩していてもこの町ができる前がどんな風景だったかを知る術はないし、そのせいか、ここで30年近く暮らしたにもかかわらず、この土地に対する愛着もあまりないのだ。オレの場合。

さて、朝5時半に起きて東京を出て、金沢に到着したのは正午だった。ホテルに荷物を預け早速散歩にでかける。

外は暴風雨、ところにより雷を伴う。ちなみに翌日から豪雪の予報。傘がまったく役に立たない。それにもめげずに美術の小径、大乗寺坂、嫁坂、新坂、白山坂と小立野台地のエッジに沿って歩いてみた。

最も気になっていたのが嫁坂だ。(地図左上の印)

前回の旅でタクシーの運転手さんにも美しい坂としてすすめられ、その後調べてみてもさまざまな物語を持つこの坂の背景に歴史的風情を期待していたのだ。で、到着してみると確かに良い坂ではある。しかし…。

急傾斜ナントカ地区に指定された影響か、以前は密集していたであろう周囲の住宅がまばらになっていた。

さらに市の『景観再整備なんちゃら』が行われたせいか、路面には派手な石板が貼られたうえ蹴上の高さが統一、大きくきらびやかな手すりが設置されるなどして昔ながらの趣をイメージしていた私にとっては、残念ながら味気なく思えたのだった。

しかし、斜面に沿って進むといくつもの階段道があり、有名じゃない(=名前のついていない)物件はわりとイイ感じだった。

ひとつひとつ語りたいが、今回はナントカ坂(名称不明・地図右下の印)を紹介しようと思う。クランク状に曲がりながら上るドラマチックな階段だ。
< https://bn.dgcr.com/archives/2015/02/19/images/003 >
< https://bn.dgcr.com/archives/2015/02/19/images/004 >

最初の角になんとトマソン物件『無用門』が。ブロック塀と化した二度と開くことのない門。その奥にも階段は続く。
< https://bn.dgcr.com/archives/2015/02/19/images/005 >

この門が現役だったとき、この上に住む人の暮らしはさぞ素晴らしかったことだろう。階段道から門をくぐって自分だけの階段を登り、家に着く。振り向けば金沢の景色が一望できる。うーん、素敵だ。

さらにナントカ坂を上る。次の角を曲がり、振り向く。
< https://bn.dgcr.com/archives/2015/02/19/images/006 >

冬のしかも雨の日だというのに思わず感嘆の声が出てしまう。素晴らしいじゃないか、ナントカ坂。季節や時間を変えて何度も訪れ、移り変わる色彩を楽しみたいと思うオレなのだった。

翌日は仕事。金沢地方は大雪となった。

翌々日の朝も雪。昼の新幹線で東京に帰る予定だが、どうしても雪のナントカ坂を見てみたくなり早起きして現地に向かってみた。雪の中の階段を注意深く進むと、一昨日の夕方とは全く違う景色がそこにあった。
< https://bn.dgcr.com/archives/2015/02/19/images/007 >

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/
>

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■もじもじトーク[14]
アクセシビリティのお話

関口浩之
< https://bn.dgcr.com/archives/20150219140100.html
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こんにちは! もじもじトークの関口です。今回は「アクセシビリティ」のお話をします。

アクセシビリティってなに? あまり耳にしたことないなぁ…。なんかむずかしそう…。そう思う人が多いかもしれませんね。

まずは、アクセシビリティについてWikipediaを見てみましょう。

『アクセシビリティ(英: accessibility)とは、高齢者・障害者を含む誰もが、さまざまな製品や建物やサービスなどを支障なく利用できるかどうか、あるいはその度合いをいう。』とあります。

アクセシビリティを理解するために、いくつか思い浮かんだ事例があります。

・高速道路の看板が運転中でも読みやすいか?
・駅構内の案内板が見やすいか?
・トイレを示すマークがわかりやすいか?

実際に写真で確かめてみましょう!
< http://goo.gl/kfSkXa
>

僕は文字に興味があるので、可読性(読みやすさ)や視認性(わかりやすさ)に目がいってしまいましたが、フォントの字形や太さ、文字色や背景色によって人間の感性に与える印象が大きく変わることがよくわかります。

●事例を詳しく観察して見みよう

サンプルで掲載した高速道路の看板の文字は、iPadやMacOSに搭載されいるシステムフォント「ヒラギノ角ゴ」ベースの書体です。

以前の高速道路の標識案内の書体はもうちょっと小ぶりの文字でしたが、認識しやすいようにフトコロの大きな文字が最近は多いようです。

豊中の「豊」の文字をじっくり観察してみてください。あれっ、なんか変ですね。横線が一本足りません。間違ったわけなく、わざと間引いているようです。

運転中は、標識の文字を一瞬で認識してもらうことが大事なので、省略した場合としない場合の視認性実験を行って、書体変更を決定したという講演を聞いたことあります。

字形だけでなく、レイアウトや背景色、文字色などの違いにより、視認性にどう変化を与えるかは重要ですよね。

・高速道路の標識 ヒラギノ書体に iPadと同じ
(2010年12月14日 朝日新聞DIGITAL)
< http://www.asahi.com/special/playback/OSK201012140052.html
>

トイレの案内を示すマーク(ピクトグラム)の形や背景色、施設内の案内版の字形や背景色は、人間の感性に認識違いを生じさせない配慮がとても重要なのです。

●インターネットにおけるアクセシビリティ

みなさんは一日のうち何時間ぐらい、パソコンやスマートフォン、タブレットの画面を見ていますか?

僕は少なくとも一日10時間は、パソコンやスマートフォンと格闘してると思います。ブラウザ上で調べごとしたり、ブラウザベースのツールで仕事することが半分くらいあるかもしれません。

ですから、ブラウザコンテンツが使いやすいかどうかはすごく重要ですね。

「アクセシビリティ」は広義な概念です。似た言葉で「Webアクセシビリティ」というのもあります。Webコンテンツにおけるアクセシビリティを指します。

インターネットのWebページは、基本的にHTML(HyperText Markup Language)とCSS(Cascading Style Sheets)で構成されています。それをコンピュータが理解して画面に表示しているわけです。

「目が不自由な方にWebコンテンツの内容を読みあげる」「耳が不自由な方に動画や映画をキャプションで伝える」ということが重要になります。

では、Webアクセシビリティは、障害者を助けるための概念なのでしょうか?もちろん、その観点もすごく大事だけど、Webアクセシビリティは誰にとっても大切な品質基準なのです。

●JIS X 8314-3:2010

Webアクセシビリティを知るためには、JIS X 8314-3:2010を避けて通るわけにはいきません。

ということで、JIS X 8314-3:2010の規格表(冊子)を入手して読んでみましょう。たぶん、眠くなります。というか日本語が難解で理解できません。わかりやすく解説しているWebサイトを参考にするか、セミナーに参加することをおすすめします。

僕が最近参加した、アクセシビリティーのビギナーズ向け勉強会の参加者ブログページをご紹介します。

・アクセシビリティー・ビギナーズ向けのセミナー「AccSell Meetup 008」に参加して(masuP.net 2015-02-15)
< http://masup.net/2015/02/accsell-meetup-008-2015.shtml
>

●ブラウザ上の写真や文字画像

難解な日本語で書いてあるJIS X 8314-3:2010規格表はまたの機会に学ぶこととして、二つ具体的な例で説明します。

まず、自分のプロフィール写真をサイトに掲載するとき、alt記述はどうしますか?
< http://goo.gl/s4TDKy
>

1. 関口浩之の顔写真
2. 顔写真:関口浩之
3. 俺の写真
4. 写真01
5. 画像差替時にalt記述の訂正し忘れた

iOSのVoiceOverを使ったことがある人は想像がつくと思いますが、1番か2番が適切ですよね。3〜5番だと目が不自由な方には情報が伝わらない、または間違った案内をすることになります。そんな間違いはしないと思いますが、たまにみかけます。

文字画像のalt記述はどうでしょうか? テキストをそのまま記述すればいいのに、2〜4番は完全に残念ですね…。

1. もじもじトーク
2. 見出し画像
3. alt記述しわすれた(文字と勘違いしてた)
4. 文字画像差替時にalt記述の訂正し忘れた

デザイン性を考慮して、今までは見出しやグローバルナビゲーションを文字画像にすることが多かったような気がします。

最近は、画像文字を極力使用せずシステムフォントで表示するWebサイトが増えてきたと思います。font-familyの記述により、なるべく綺麗な書体が表示させる工夫もできますし。

あとは、Webフォントを上手に活用する方法があります。一時期、日本語Webフォントは遅くて残念な時代がありましたが、今はかなり改善されてます。

●アクセシビリティでITの未来を明るくする

僕自身もWebアクセシビリティについては最近、勉強しはじめたので、深く理解できていません。

なので、今回は専門的なことは書いていません。この半年、Webアクセシビリティのセミナーやコミュニティの集まりに5回以上参加しました。

Webコンテンツが「マシーンリーダブルであること」はますます重要になると肌で感じています。

情報提供する側にとっても、情報を受け取る側にとっても、みんながアクセシビリティをあたり前に配慮すれば、楽しいITの未来が開けると言ってもいいのではないでしょうか。

「何かを伝える」ためにWebサイトを公開しているわけですから、画像データのalt属性記述がWebアクセシビリティに配慮しているかどうかはとても大事なことだし、素敵なことだと思うんです。

まずはそんなところから取り組むのもありだと思ってます。

Google検索エンジンに対してマシーンリーダブルであれば、配信する側にとってはSEO対策になるのでメリットがあります。受け取る側にとっては、欲しい情報が正しく取得できる機会が増えます。

これからはインターネットを活用したライフスタイルに変化するのは間違いないですし、「マシーンリーダブルであること」はWeb制作の当たり前のお作法と考えるのがいいと思います。

肩にあまり力いれずに、Webアクセシビリティのことをもっともっと学んでいこうと思っています。

2015年2月3日に神戸で開催された「アクセシビリティの祭典」で、僕が登壇した際のスライドを共有します。フォントとアクセシビリティに興味のある方はぜひご覧ください。
< http://goo.gl/VmzHSQ
>

【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
< http://fontplus.jp/
>

1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。

小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。


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編集後記(02/19)

●大久保潤・篠原章「沖縄の不都合な真実」を読んだ(新潮新書、2015)。この本に書かれているのは、沖縄の抱える病巣であり、病因である。沖縄のメディアは辺野古移設問題を「善良な県民の総意を無視して強引に移設を進める政府の悪行」といった勧善懲悪の視点から語っているが、そんなシンプルな話ではない。「日本VS沖縄」「悪VS善」「加害者VS被害者」という単純な視点で解けるなら、とうの昔に問題解決していたはずだ。筆者らが本当に強調したいのは、沖縄には、自分たちの現状を変えたくないという、真の意味で保守的な社会集団が存在するということだ。

基地には反対だが、基地の見返りである振興資金に依存する公主導・官主導の経済はこのまま続けたいという集団があり、それは支配階級、エスタブリッシュメント、旧体制などと呼ばれ、政治的保守派と革新派の両方が含まれている。「県民の総意」「県民の悲願」という言葉を好んで使う「沖縄ナショナリズム」と、そのナショナリズムの発信元である保革同舟の支配層の存在を明らかにするのがこの本の最大のテーマだ。沖縄をある種の身分制社会と捉え、その現状を自覚し、そこから脱却する道を探ることこそ沖縄の未来を明るく照らすはずだという。基地は沖縄の抱える問題を象徴するが、根っこではない。

先の知事選の実態は断じて「沖縄VS日本」ではなく、従来通り沖縄振興資金を巡る「カネと権力」を求める翁長と仲井眞の覇権争いであり、基地問題を巡るスタンスの対立ではない。二人とも「支配階級」で、「沖縄ナショナリズム」という思潮や「日本の沖縄に対する構造的差別」という主張では一丸だ。沖縄では基地の見返りの振興予算の副作用が、格差社会の拡大、地域社会の分断、人間関係の崩壊、貧困の放置、自然破壊として現れている。日本にこんな多くの問題を抱えた地域があるのかとうんざりする。その指摘にある沖縄の病巣が取り除かれれば、新しい沖縄が生まれる、というのだが……。

沖縄の言論界では基地問題を差別問題として語る傾向が強まっている。「差別」とはちょっと心外だが、その主張の根拠はただ一点、基地の偏在だという。筆者らは言う。いま本土のわたしたちができるのは、沖縄の基地を減らすことだけだ。見返りの振興策と減税措置をなくすことだ。「なくせ」ではなく「減らせ」である。「なくせ」と「つくれ」の二者択一では話がすすまない。支配階級はその膠着状態を長引かせ恩恵を得ている。振興予算をなくすことが沖縄基地問題の解決に繋がる。具体的な削減プランにまで踏み込んでいないのが残念だが、傾聴に値する意見だと思う。(柴田)

●hammer.mule の編集後記はしばらくお休みします