まにまにころころ[73]ざっくり日本の歴史(中編その4)
── 川合和史@コロ。 Kawai Kazuhito ──

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こんにちわん、コロこと川合です。『花燃ゆ』はついに主人公の文が久坂玄瑞と婚約するところまで進みました。まあそんなことなどどうでもいいくらいに、松下村塾での講義は面白い感じで、今のところどうみても主役は吉田松陰です。

程なく松陰は幾度目かの問題を起こして、結果この世を去って行くのですが、弟子たちの活躍がその後は語られるんでしょう。なら、やっぱり主役は松陰。

そう思えば、文の立場っていったい、と疑問に思うのですが、逆にこの松陰を中心とした幕末の動きを語るにあたって、誰を主人公に据えるのが適役なのかと考えると、結局は文あたりがふさわしいとしか言えないのではないか、という結論に落ち着いてしまいます。

松陰先生を主人公にすると、没後の話が長くなりすぎる。主人公が早々に退場して去って行くのはマズいでしょう。では松陰の門人の誰かでどうだというと、松下村塾以前の話が少し薄くなってしまうし、松門四天王と言われた高杉晋作、久坂玄瑞、吉田稔麿、入江九一はいずれも、新時代を見ずに散ってしまうし。

文を主人公に据えるというのは、いい目の付け所だなあと感心する次第です。ただ、文自身は有名人ではないため、視聴率は苦戦しているみたいですけどね。




◎──長州藩

今のところ舞台となっているのは松陰の属する長州藩。今でいう山口県です。戦国時代以降、昨年のNHK大河でもよく出てきていた毛利氏の領国である藩で、松陰の時代の毛利敬親は長州藩の第13代藩主、安芸毛利家の25代当主です。

山口県、子供の頃に家族旅行で一度、修学旅行で一度の、計二度訪れたことがあるのですが、歴史に疎かったため何も覚えていません。今思えば残念。また一度行ってみたいところです。ちょっと遠いですけどね。

関西に住んでいると何がいいかって、歴史の教科書に出てくるようなところに、大抵は気軽に行けるってことで。古代から飛鳥、奈良、平安、鎌倉は飛ばして、室町に、織田、豊臣の時代と、だいたい関西がその舞台の中心ですから、私のような教科書程度のにわか歴史ファンにはたまらなくありがたいです。

今日は信長の話に先立って、比叡山や本願寺の話を書くのですが、比叡山には電車で2時間半くらい、車だと一時間半ほどで行けますし、本願寺が拠点とした石山本願寺跡(大阪城)には会社から歩いて行けます。(笑)

今日の『花燃ゆ』では、前原一誠との会話で松陰先生が、日本の歴史を今一度見直すところから始めないと、ってなことを言っていました。まにころはそんな大層な理由で日本史話をしているわけではありませんけど、まあ乗っかって、今日も進めていきたいと思います。

◎──宗教勢力

前回、いよいよ信長の時代に入っていくと言っていたのですが、その前に少し寄り道したいと思います。織田信長、ミーハーな私は大好きなんですけれど、信長と言えばどうしても比叡山焼き討ちやら本願寺殲滅やら、宗教勢力に対し厳しく弾圧した大殺戮者という非難がつきまといます。もう、仏敵扱い。

まあ確かに歴史的事実として、宗教勢力を弾圧したのは間違いないと思われるのですが、弾圧したのは「宗教勢力」であって「宗教」ではないんですよね。

神仏の敵、宗教の敵みたいに思われがちですけども、宗教に関しては、むしろ寛容ですし、自身も大戦の前には神社にお参りしたりもしています。

異国から入ってきたキリスト教まで認めていますし、一昨年に伊勢神宮では式年遷宮が話題になりましたが、中世ずっと予算不足で途絶えていたその式年遷宮を復活させたのは信長です。信心深い、とは言えないまでも、宗教には寛容なんです。

じゃあ、なぜ延暦寺や本願寺と戦ったのかという話なんですが、当時の宗教勢力は、宗教を中心に結びついた武装勢力なんです。他の戦国大名と似たような、いや、実際はもっとたちの悪い(といったら怒られそうですが、まあ)そんな勢力だったんです。

僧兵と聞いても、寺を守っている警護兵程度にしか思われないかもしれませんが、とんでもない。ガンガンに攻めるんです彼ら。それも宗派をめぐっての戦いだけでなく、領地や権力をめぐっても戦います。

朝廷や幕府に要求を通すために神仏担いで押し入ったり、寺に籠城したりもします。武力を背景に政治に介入したり、領地を支配したりもします。

......今の感覚で言えば、やってることはまるで暴力団です。

◎──山科本願寺の戦い〜天文法華の乱

信長が生まれる前後の話ですが、宗教勢力の武力抗争のお話を。舞台は京都。発端は日蓮宗(法華宗)と一向宗(浄土真宗)の争いから。この両者は、鎌倉時代に日蓮宗ができた時から、とにかく険悪な関係で。理由はある意味簡単で、日蓮が念仏(浄土宗・浄土真宗)を真っ向否定したからです。

日蓮「ひたすら念仏唱えて極楽へ? はあ? 仏の教えはどこいったよ? だいたい世の中これだけ乱れきってんのに、それ目の前にして、今、あの世の話? バカなんじゃね? てめえらがこの国に災厄呼んでんだよ、消えろよ、うぜえ」

と、まあ、日蓮宗の発端自体がだいたいそんな経緯でのものだったので、以来、当然のごとく仲は悪いです。日蓮自身も何度となく命を狙われましたし。

そんなこんなで約二百年から仲の悪い両者ですが、戦国時代にはどちらも一大勢力をなしていました。戦国大名も、利害の一致を見るときはその勢力と手を結んで、敵対勢力を攻撃したりしていました。管領家であった細川晴元はその政争に一向宗の勢力を利用しますが、次第にコントロールしきれなくなります。

興福寺や春日神社をも攻撃する一向宗の攻勢に、「次は京に根を張る法華宗を攻める」との噂がたちます。そこで法華宗は1532年、一向宗排除に立ち上がります。細川晴元らはこれと手を組み一向宗に対峙します。

緒戦を優勢に進めた法華宗陣営は、一向宗の本拠地である山科本願寺を3万とも4万とも言われる軍で包囲、社坊の全てを焼き尽くし撃滅します。逃れた一向宗勢は大阪へと落ち、石山本願寺を拠点に再起を図ります。

戦国時代最強の城と呼ばれ、信長が手を焼いた石山本願寺はこうして生まれたのです。

一向宗を排除し京都での地盤をさらに強固なものとした法華宗は、次に比叡山延暦寺をターゲットにしました。論争や裁判を通じて法華宗に面目を潰された比叡山は、法華宗勢力を京から一掃することを図ります。

ここでの比叡山の動きは、まさに現在の暴力団。メンツを潰されたことに激高した比叡山は、京の日蓮宗寺院に対して、延暦寺参加に下って上納金を納めろと恐喝。当然拒んだ日蓮宗寺院二十一本山を、全て焼き払います。

これで京の法華宗は三千人とも一万人とも言われる被害者を出し、その炎は下京区全域と上京区の三分の一を灰にしました。これが1536年のこと、天文法華の乱です。その延焼面積は、10年以上続いた応仁の乱を上回っています。

この時、信長はまだ2歳ですが、信長が生きた時代の寺社勢力がどのようなものであったのか、信長はお坊さんや女子供も殺戮したひどい奴だ、という評価が少しズレているということが、なんとなく感じられます。

それでも女子供までという話もありますが、寺社勢力のうち一向宗と法華宗は特に信者を動員するので、その兵力自体に女性も子供も老人も含まれてきます。むしろゲリラ戦の主力なので、非戦闘員として区別することができません。

本願寺の時だけでなく、比叡山でも女性を殺してるじゃないかって? それこそ不思議な話で、女人禁制だった比叡山になぜ女性がいたんでしょうね。戦闘員ではなかったにしても、比叡山と深い関係の人員だったのでしょう、たぶん。

なお比叡山の焼き討ちは、敵対勢力だった朝倉・浅井と手を切らなければ攻めるぞと事前通告をした上でのこと。本願寺にいたっては、先に手を出したのは本願寺のほうです。他にも信長は高野山ともやりあっていますが、それも高野山が敵対勢力に与したからのこと。しかも、高野山は信長の使者を切り捨てたそう。

◎──宗教に寛容な信長

そんなこんなで、信長が宗教勢力を弾圧したのも「やむなし」という話ですが、繰り返しになりますが、信長は宗教自体に対しては寛容です。

あれほど争って、危うく全てを失うところだったのにもかかわらず、決着が付けばノーサイド。禁教もしません。

講和時に本願寺に対して送った書状には七つの項目があり、その一つ目が「惣赦免事」と。全部許す、と。夏までには大阪の城を明け渡せ、人質を入れろとありますが、基本的には今まで通り宗教活動してOKとのこと。

様々な思惑込みでの政治判断でしょうが、信長は宗教弾圧はしませんでした。その辺ちゃんと切り分けて考えています。

信長の宗教勢力に対する態度は一貫して「宗教団体は宗教活動をしろ」と、今の常識からしても至って真っ当なもの。逆に、今の常識の基礎を作ったのが、信長だったといえそうです。

◎──織田信長

桶狭間にて今川を破り、将軍を擁して上洛を果たし、敵対勢力を退けながら、天下一統の礎を築いた信長の話は次回に持ち越し。次回こそはちゃんと時代を進めて行きたいと思います。

今月号の「歴史街道」(PHP研究所)はちょうど信長特集ですので、信長好きな方はぜひ。たぶんコンビニにも売ってます。マニア向けの内容ですけど(笑)

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