ユーレカの日々[42]ギュウギュウ詰めの智恵と工夫/まつむらまきお

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先日、自宅に収納家具が必要となり、通販で買うことになった。家具といっても、立派なものではなく、いわゆる「スキマ収納」だ。そもそも、一家そろってモノが多い生活なので、自宅はギュウギュウ詰め。なんでこんなにギュウギュウ詰めかといえば、うーん、多分そういうのが好きだからだ。

「耳をすませば」というスタジオジブリのアニメがある。主人公はニュータウンの団地に一家四人で住んでいるのだが、この家の密度がすごい。

主人公姉妹は六畳の部屋の真ん中に二段ベッドを配置し、それが間仕切りを兼ねている。左の姉の部屋からはベッドの二階、右の主人公の部屋からはベッドの一階がそれぞれのスペースなのだ。僕自身、子どもの頃弟と二段ベッドで生活していたのだが、こんなレイアウトは思いもよらなかった。

食卓のすぐ後ろの和室は書架で埋まっている父親の書斎になっており、ダイニングキッチンまで本が溢れかえっている。玄関には洗濯機が置かれている(古い公団団地には洗濯機置き場がない)。

壁という壁には手作りの棚やフックが取り付けられ、様々な物が立体的に配置されている。とにかくどの空間もモノの密度がものすごく、惚れ惚れする。実際のモデルになった住居があるのだろうか。




我が家はあそこまですさまじくはないが、まぁ、近いものがある。地震を考えると、こういった高密度の居住空間は危険なのだが、かといって、なにもない広々とした部屋はどうにも落ち着かない。

そんなわけで、徐々にモノが増え、家具が増える。時折、モノがあふれ出し、収納状態を見直して、その度に、より高密度空間になっていく。今回のスキマ家具の購入も、その一環だ。

●ノックダウン家具

我が家の家具はそのほとんどがノックダウン、組立家具。ikeaやディノス、ニトリや無印で買って、自分で組み立てたものだ。

家具には完成品と、ノックダウン方式の二種類がある。完成品は職人が組み立てるから、丈夫でしっかりしている。その分高価だ。大きい完成品で運ばれるので、保管倉庫も広く必要だし、輸送費も高くつく。

これに対してノックダウン方式は安価だ。もともと、家具は半分は空気だ。収納家具は中は空洞だし、椅子やテーブルも足元などにはスペースがある。

だから分解して部品をまとめれば、コンパクトに圧縮でき、その状態でユーザーに届ければ、倉庫代も輸送費も最小限にできる。実に合理的な考え方だ。

その代わり、素人が自宅で組み立てることができるよう、構造や部品の大きさに制限が出てくる。また、どうしても強度や耐久性が劣ることになる。

どちらがいいか。人によって価値観は違うだろう。まさに大塚家具のお家騒動の論点だが、我が家では圧倒的にノックダウン方式、「家具屋姫」の意見に賛成である。

我が家がノックダウン方式を愛用するのは、安価であることもあるが、それ以上に僕がそういったものの組立てが大好きだからだ。子どもの頃からプラモデルや紙模型が大好きだったのだから、巨大な模型、いや実物を自分で組み立てられるなんて、最高に楽しい。

こんな楽しいことを金を払って人にやってもらうなんてあり得ない。そしてもうひとつの理由は、ノックダウン方式の方が品種がたくさんあって比較検討しやすい点だ。

収納家具が欲しい時、なにより重要なのはサイズだ。どんなに気に入った家具でも、自宅のスペースに入らなければ意味がない。家具屋に行って実物をあれこれ見るのは楽しいが、実際に自宅に置いた時の様子をお店でイメージすることは難しい。

そんなとき、カタログやWebでサイズやデザインを、自宅であれこれ比較検討できる、IKEAやディノスが便利だ。

IKEAやディノスの家具は種類、サイズが豊富だ。同じシリーズでサイズや色違いが豊富に揃っている。種類が豊富というのも、倉庫で場所をとらないノックダウンの恩恵のひとつだろう。

けっして広い部屋ではないので、少しのスキマも無駄にしたくない身にはありがたい。今回買ったスキマ家具は、実は二台目だ。以前買ったものがサイズ、使い勝手が良かったので、その隣に同じモノを置こうということになった。

もっとも前に買ったのはもう何年も前のことで、どこで買ったのかもわからない。サイズを測り、Webで探してみると、まったく同じではないが、ほぼ同じものが見つかった。ディテールが違うが、サイズは同じ。

どうやらこの数年でモデルチェンジしたようだ。Webから購入すると、翌日には発送された。ネット通販バンザイである。

●ギュウギュウ詰めのパッケージング

ノックダウン家具が届くと、いつも感心するのが、そのパッケージングだ。想像よりもずっと小さな梱包で届けられる。

段ボールには「開封時カッター禁止」と大書きされている。テープをはがして開梱すると、段ボールの中には大小様々な家具の部品が、まるで立体パズルのように収まっている。このギュウギュウな収まり方が実に見事だ。

ホームセンターで買うカラーボックスも、同じようにコンパクトになっているが、今回買ったものはそれよりもずっと大きなものなので、パーツ数がずっと多い。板だけで17枚。ネジ類は6種42本、その他金属部品などもある。

それがギッシリとスキマなく詰まっている。たしかにカッターで開梱したら、部品が傷ついてしまうだろう。

考えてみれば、こういう詰め方はノックダウン家具ならではだ。家電品などは、商品が箱の中で宙づり状態になるよう、段ボールやスチロールで四方八方から支持されている。この支持材は、箱がつぶれないような補強の役割も果たしている。その結果、箱の中は空間も多い。

それに対し、ノックダウン家具の梱包は、内容物そのものが構造にもなっている。箱にモノが入っているというより、モノを段ボールでくるんでいるような状態だ。

部品は様々な大きさ、形状なので、なにも考えずに箱に入れると、スキマだらけ、空間だらけになってしまう。家具は家電よりも重いので、箱がもたない。そこで、部品同士ができるだけ密着するよう、スキマがないよう、パッケージングする必要があるのだ。

もちろん輸送中に壊れたり、パーツ同士が擦りあって傷つかないように、緩衝材も使われているが、ほんのすこしだけ。いつものコトながら、今回の家具も、パッケージングの密度にはほれぼれする。一体、誰がこんな高度なパッケージングを考えるのだろうか?

●梱包のプロフェッショナル

メーカーに勤めていた友人に聞くと、製品のパッケージングは通常、段ボール箱のメーカーが行うらしい。製品にあわせて緩衝材の設計なども箱のメーカーが行うのだという。

以前、箱の中の仕切りが、広げるとたった一枚のダンボールに戻るという、超絶技巧のものを見たことがあるが、そういうのも箱のメーカーが提案するらしい。箱詰めのプロフェッショナルというわけだ。

そういえばヨドバシカメラの通販で使われている段ボール箱、最近気がついたのだが、なんだか妙な切れ込みのある箱だ。よく見てみると段ボールの折り方によって、箱の高さが変えられるようになっている。

少ないサイズでも、いろんな大きさに対応できるから、梱包の現場をシンプルにできる工夫らしい。あれも、段ボールメーカーの工夫なのだろうか。

しかし、ノックダウン家具の場合は、そういった箱側の工夫だけでパッケージができているとは思えない部分がある。

というのは、家具そのものの分割方法が、パッケージングを大きく左右するからだ。

たとえば、ある部品を一体型とすべきか、分割して組み立てるようにすべきか。一体型だと箱が大きくなってしまうが、他の部品の大きさにあわせて分割すれば、パッケージは小さくできる。

しかし分割すれば組立の手間が増え、完成品の強度も落ちる。相当試行錯誤が必要なはずだ。

●オリンピックとみんなのいえ

現在話題になっている東京オリンピックのスタジアム。デザインはよいがどう作るのかは別、ということで、問題が噴出している。

どうやら、家電製品や建築のデザイナーの中には、そういった「パッケージング」「組立方法」は業者まかせ、というスタイルの人たちがいるらしい。

僕自身、一時建築関係の仕事に就いていた頃、設計者と現場でよく衝突が起きるのを見てきた。設計者が考えたデザインを実際に作るとなると、そのデザインを変更せざるを得ない場合が生じる。

加工方法、組立手順、そういったことを判断するのは現場だ。現場のことをわからずに、こんなデザイン作れるか、というわけだ。

反対に設計者の方からみれば、設計者に無断で勝手に仕様を変えられる。なんで変えたんだ、設計図通りじゃ作れない、という衝突になる。

このあたりの事情は、三谷幸喜の映画「みんなのいえ」でよく描かれている。僕が知る限り、あの設計者と棟梁の衝突は、カリカチュアされているもののかなりリアルだ。

今の完全にコンピュータ化された設計現場のことは全くわからないが、建築という「ワンオフ」な物作りは、今も机上の設計より現場で練り上げられていくものなのだろう。

さて、スキマ家具だが、この家具の分割も、パッケージという現場とのやりとりがあるのか、もしくは設計者がパッケージングまで配慮して設計したのか、はたしてどちらなのだろう。

●仕様変更の謎

二代目の今回の家具を組み立ててみて気がついたのが、初代、前モデルとは部品の分割方法や、組立、構造に変化が見られる。

たとえばバックパネル、棚の奥の背板と呼ばれる薄いベニア板。この板は、単なる仕切りではなく、家具全体をささえる構造材として重要なパーツなのだが、それゆえ、もっとも大きな面積となる。

初代モデルでは、このバックパネルが左右分割され、樹脂のジョイントを使って大きな板に組み上がるような設計だった。

これに対し、二代目は固定棚の高さにあわせて上下三分割されている。これは実に興味深い。はたして変更になった理由は、強度の問題だったのか、パッケージングの問題だったのか。

以前、自分の創作としてペーパーモデルをしたのだが、3D上ではあっというまに形ができても、それだけでは済まない。A4サイズの用紙に納まるように、また切り抜きやすく、組み立てやすいようにしなくてはならないのだが、それはパーツの分割方法の工夫にかかってくる。

絶対納まらない、と思っていたパーツが、分割方法を工夫するとキレイに納まる。しかし、今度は組み立てが難しくなったりする。この過程は何度も試作する必要があるので実に面倒だが、一番面白い部分でもある。

ノックダウン家具の設計も、何度も何度も試作し、収まりと分割を検討するのだろうか? 模型を作ったり、試作をしたりしながら、よりコンパクトで、より強度があり、より組み立てやすいものを追求しているのだろうか。

ひょっとしたら、今は3DCADで簡単にシミュレーションできるのかもしれないが、この見事なパッケージングと、旧バージョンからの改良を見ると、費やされたであろう多くの時間、多くの工夫を感じてしまう。

●知恵と工夫の美しさ

アップル製品は製品の完成度もさることながら、いつもパッケージが凝っていて、開封の時のワクワク感までデザインされていると言われる。

それに比べれば、収納家具は味も素っ気もないチープなものだ。荷姿も安価な段ボールで、グラフィックも美しいわけではない。

それでも僕は、見事にコンパクトにすべてのパーツが納まったパッケージを美しいと思う。この製品の企画や設計に携わった人たちの、ユーザー、工場、倉庫、輸送、強度、あらゆる面にわたる配慮と工夫に感服する。

そこには、思想が宿っている。思想のもとに生み出された製品が美しくないわけがない。

さて、家具が出来て、いろいろと物を収めてみる。が、様々な大きさのモノたちは、そう簡単に棚に収まってくれない。あちこち、ハンパな空間だらけだ。

もうちょっとうまく収まるはずだったのに、収納力があると思ったのに失敗だったかなと、隣の元の家具をみると、そちらは隙間なくぎっしりとものが詰まっている。

こういうことには、やはり時間がかかるのだ。時間をかけて、何度もフィードバックすれば、収まるところに収まっていく。

「耳をすませば」の公団住宅が魅力的に見えるのは、それが経て来た時間、携わった人々の工夫が感じられるからだろう。きれいな調度品が美しくレイアウトされた広い空間よりも、僕にはギュウギュウ詰めの方が好ましい。

そうして我が家はあの部屋に少しづつ近づいていくのだ。


【まつむら まきお/まんが家、イラストレーター・成安造形大学准教授】
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映画「チャッピー」を見に行った。「第九地区」の監督の最新作だ。見終わってなんだろう、この既視感は、とあれこれ考えて思い当たったのが手塚治虫の火の鳥じゃん、これ。

SF映画としては色々ツッコミどころもあるのだが、火の鳥だと思うと、手塚本人の様々な映画よりもずっと手塚っぽい。プロット、キャラクター、世界観、演出、オチまで、あらゆる要素が手塚的。そう思うと、第九地区も相当に手塚っぽい映画だったことに気がつく。