わが逃走[165]東京名建築ふたつの巻
── 齋藤浩 ──

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三年にわたる修復工事も終わり、これからも末永く大切に保存されていくであろう東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)と、今月いっぱいで取り壊しが決まっているホテルオークラ。ふたつの名建築を見てきました。




●庭園美術館

訪れたときは建築そのものを鑑賞する企画展(つまり何も展示していない)開催中で、しかも撮影可。ここへは何度も来ているが、内部の写真を撮れたのは初めて。

最初にこの建築を意識したのは、中学生の頃に見た高橋幸宏のPVだった。「アールデコ」とか「ロシア構成主義」なんかを知ったのも、全部YMOのレコジャケから。

最近なにかとグラフィックデザイナーに対して風当たりが強くなってるけど、私の場合、人格形成時に影響を受けたものにはどうしても似てしまう。

15年くらい前のことだが、初めて朝日広告賞に入選したとき、審査会では「これはロシア構成主義なのではないか?」という議論がなされたらしい。結果的に「違う」と結論づけられた。

審査員の判断は正しかった。あれはロシア構成主義ではなく、YMOだったのだから!

おっと、話がそれた。そのユキヒロさんゆかりの建築は、どうしてもラリックらが手がけた装飾様式に目が行きがちだが、シンプルな構造そのものの持つ強さもまた魅力的だ。

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階段の裏

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中庭

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照明

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窓枠

宮家所縁の建築ということもあるが、ここまでの建築が一般公開され、重要文化財として保存が約束されているということは、スクラップ&ビルドを良しとするこの国に於いては、ある意味奇跡なのではないかと思うのだった。

◎アール・デコの邸宅美術展 建築をみる2015 + ART DECO COLLECTORS
< http://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/150718-0923_artdeco.html
>
会期:2015年7月18日(土)〜9月23日(水・祝)10:00〜18:00 金曜日〜21:00
休館:第2・第4水曜日 ただし9月23日(水・祝)は開館
会場:東京都庭園美術館(本館・新館)東京都港区白金台5-21-9
観覧料:一般800円 大学生(専修・各種専門学校含む)640円 中・高校生・65歳以上400円

●ホテルオークラ

西洋式ホテル空間に日本的な意匠。完璧な美しさ。まさにハレの空間だと思う。

このような価値ある建築がぶっ壊されてゆくのを見るのは誠に無念。しかし、これが現実である。今月いっぱいで見納めということで、ロビーには大勢の人々の姿があった。

私が訪れたときはとくにお年寄りが多く、若かりし頃の思い出を夫婦で、家族で懐かしんでいる様子があちこちで見受けられた。

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エントランス

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ロビーと照明

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階段

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窓の意匠

改修や建て替えで創業時の印象が(良くも悪くも)払拭されてしまった物件が多い中、日本におけるホテルとはなにかを提示し続けたオークラの美意識に対し、最大限の敬意を表するものである。これまでありがとう。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/
>

1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。