挑んで死にたい、ダンボールアーティストとして[10]番外編参加したコンペでプロダクト部門最優秀賞を受賞
── いわいともひさ ──

投稿:  著者:



●メーカーの要望とユーザーのアイデアをつなぐ「Wemake」

今回は近況報告として、最近挑戦したふたつのコンペの内容と結果について報告します。

まず最初は「Wemake」が実施したダンボール家具のアイデア募集コンペです。Wemakeは株式会社A(エイス)が2015年に立ち上げたばかりのサービス。
https://www.wemake.jp/


大手メーカーは様々な製品を開発して大量生産し、世の中に送り出す体力を有しています。一方でより多くの人達に受け入れられるよう、無難で最大公約数的なものづくりに陥りがちです。




小規模事業者や個人は良いアイデアを持っていても、形にする方法がわからなかったり、資金がないために実現できないことも少なくありません。

このようにアイデアが欲しい「メーカー」と、様々なアイデアを持った「ユーザー」をつなぐのがWemakeのサービスです。

例えば、あるメーカーが「キッチンで使える家電」のアイデアをWemake上で募集します。これに対して小規模事業者や個人(ユーザー)が自身のアイデアをWemakeに提出(ウェブサイトにアップロード)します。

その後、SNS(Facebook、Twitter)を通じて一般からのユーザー投票が実施され、得票数上位のアイデアとメーカー推薦のアイデアが商品化の候補として残ります。

投票やメーカー推薦で選ばれたアイデアの発案者達は、一般からの意見に回答し、必要に応じて製品の改善提案を行います(意見のやり取りはWemakeのウェブサイト上で行われ、すべて公開されます)。

そこから絞りこまれた最終アイデアはメーカーによって試作され、試作に対する意見を再度一般から募り、さらにメーカーからの指摘も受け、発案者がさらなる改善を行ってメーカーによる最終審査が実施されます。

最終審査で選ばれたアイデアは正式に商品化が進められ、売上の数パーセントが発案者となったユーザーに継続的に支払われます。

文章にすると長くて少しわかりにくいのですが、まとめると次のとおりです。

1. メーカーがWemake上で製品のアイデアを募集
2. ユーザーがアイデアを提出
3. 一般投票(Facebook、Twitter)とメーカー推薦によりアイデアを絞る
4. 一般からの意見を受けてアイデアの発案者が改善提案
5. 絞りこまれたアイデアはメーカーにより試作
6. 試作に対してメーカーや一般からの意見を受けて発案者がさらに改善提案
7. メーカーにより最終審査が実施され、商品化されるアイデアが決定
8. 商品化が進められ、売上の一部は発案したユーザーに継続的に支払われる

●ダンボール家具のプロジェクトで最終審査へ

Wemake初のプロジェクトは、Wemake自体がメーカーとなってアイデアを募集するという、テスト的な意味合いを含むものでした。

第二弾となったプロジェクトでは、メーカーに王子産業資材マネジメントという王子製紙のグループ企業を迎え、「オープンデザインを活用した新しいダンボール家具」のアイデア募集が行われました。

親切な友人が「ダンボール家具のアイデアを募集している」と教えてくれて、そのときに初めてWemakeと、このプロジェクトについて知りました。

私はダンボールアーティストという肩書きで活動をしており、このようなプロジェクトにはとても興味があったため参加を即決しました。

プロジェクトについて知ったときはすでに締切直前でしたが、すぐにアイデアを考えて提出。

提出した二案のうち、一案が最終審査まで残りました。最後まで残ったアイデアは、通販などで蓄積されるダンボールの空き箱を収納するための用具です。

本記事執筆時点では未だ審査中で、10月初旬に結果発表となる予定です。

●うるしを使ったアイデアを幅広く募集する「鯖江うるしアワード2015」

参加したもう一つのコンペは、福井県鯖江市と越前漆器協同組合が主催の「鯖江うるしアワード2015」です。
http://sabae-urushi.com/


主管は慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科、メディアパートナーにはコロカル(株式会社マガジンハウス)、株式会社ロフトワークが名を連ね、審査員にも鯖江市市長をはじめ、株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング取締役など錚々たる顔ぶれが参加していました。

審査は一次審査(書類選考)、二次審査(最終審査)があり、審査部門にはプロダクト部門、アイデア部門、一般投票部門、協賛部門がありました。

未発表作品であれば、プロ・アマ、法人・個人を問わず参加でき、応募作品の中から大賞が一名、部門賞が各一名ずつ選ばれるという内容でした。

受賞作品(大賞および優秀作品)は大手クラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」の特設ページを通じた商品化支援が受けられます。
https://www.makuake.com/


今回は「うるしのある生活」をテーマに幅広く作品の募集が行われ、最終的に147作品の応募がありました。主催側が想定した応募数は50〜100点だったとのことで、予想を大きく上回る結果となりました。

私は紙やダンボールを素材とした製品を開発したいと考えており、漆器は直接関係のある分野ではありません。

しかし、漆器に使用される木地やうるしは天然素材という共通点があり、惹かれるものがありました。

うるしアワードのことは私がダンボールアート作品を掲載しているロフトワークのウェブサイトで知りました。
http://www.loftwork.com/


ロフトワークは、クリエイター達のためにウェブ上に無料でポートフォリオ掲載スペースを提供したり、様々な公募情報を掲載しています。

うるしアワードはロフトワークがメディアパートナーとして参画していたこともあり、比較的目立っていたように感じました。

ただ、紙やダンボールに直接関連するものではなかったので、Wemakeのときのように即決というわけではなく、良いアイデアを思い付いたら応募しようと考えていました。

そして、募集要項をチラチラと見ているうちに面白いアイデアが浮かび、提案をまとめて応募しました。

●「なつめタンブラー」がプロダクト部門で最優秀賞を受賞

アイデアを考えるときに、私が一番重視したのは「売れるかどうか」という点でした。

募集要項には書かれていませんでしたが、自治体と協同組合が主催する今回のコンペは、地域産業の振興が目的であることは明らかでした。

製品は売れることによって多くの人の手に届き、その良さを知ってもらうことにつながります。それが口コミになって更なる売上に貢献し、需要が増えて産業が活性化していくのです。

何が売れるかは簡単に予測できるものではありませんが、デザインを行うときに尺度となるのは自分自身です。

企業が製品を開発するときには市場調査を行うこともありますが、今回はコンペですし、私はうるしの業界に詳しいわけでもないため、自身で価値判断をする必要がありました。

少なくとも自分が欲しいと思わないものは、他の人も買ってくれるわけはないと考え、本心から「この製品なら購入して使ってみたい」と思えるデザインにしました。

「うるしのある生活」というテーマを聞いて私が思い付いたのは「コーヒー」でした。

うるしと言えば漆器ですが、食が多様化した現代の日本においては多用されなくなっています。

一方でコーヒーは国内外の多くの人達が親しんでいます。コーヒーの容器をデザインすれば、漆器を日常に呼び戻し、さらに世界中の人達に漆器を知ってもらうきっかけになるのではないかと考えたのです。

私自身もコーヒーが大好きなので思い入れをもってデザインに取り組むこともできました。

しかし、コーヒーカップでは平凡すぎるし、これまでにもそのような製品はありました。そこで私が考えたのが、「タンブラー」という飲み物を入れる容器です。

タンブラーにはコップ型と蓋付きのものとがあり、私がデザインしたのは後者でしたが、ネットで検索しても蓋付きのタンブラーを漆器で作っている事例は見つからず、新規性もあると考えました。

会社員時代、私は近所のコーヒーショップにタンブラーを持参して、足繁く通いました。毎日コーヒーショップに通うような人が、タンブラーを使うことは珍しくありません。

タンブラーはステンレスや樹脂でできたものがほとんどですが、それよりも漆器の方が温かいコーヒーがもっと美味しく飲めそうです。

タンブラーによってコーヒーがさらに美味しく飲めるのなら、少しぐらい高くても購入してもらえるのではないかとも考えました。

新規性、機能性、実用性などを備えているアイデアとして、自分自身がとても納得できました。

タンブラーのデザインは茶器である「棗(なつめ)」に着想を得ました。棗は茶道用具の一つで、抹茶を保存するための小さな容器です。

棗のことを初めて知ったのは知人宅でした。茶道愛好家だった知人の父親が棗を見せてくれたのです。

漆黒の棗は手の平に収まるぐらいの大きさで、美しく黒光りしていました。触れるのを遠慮していると「棗は触るほどに手の脂で光沢が増して美しくなる」と触れさせてくてました。

そのときに初めて、使い込むほどに美しくなるという漆器の素晴らしさを知り、とても感銘を受けました。

この棗の魅力をデザインに取り込みたいと考え、タンブラーは棗を縦に長くしたような形とし、上蓋をひっくり返してカップとしても使えるようにしました。内蓋にはゴムパッキンをつけて、中のコーヒーがこぼれにくくしています。

作品は「なつめタンブラー」と命名しました。実際のデザインは私のブログでご覧いただけます。
http://iwaimotors.com/blog/2015/09/sabae_urushi_win/


本当に自分が欲しいと思える形にできて良かったと感じつつ、8月のはじめに作品を提出。

そして、9月にはうるしアワード事務局からプロダクト部門で最優秀賞に決定したとの連絡が入り、9月20日に福井県鯖江市で行われた授賞式に参加してきました。

大賞は逃しましたが、自分自身でアイデアを考えてデザインした作品がプロダクト部門最優秀賞という素晴らしい結果につながったことは大きな自信になりました。

授賞式でうるしアワードの主管になっている慶応義塾大学大学院教授の岸さんが「このアワードは受賞して終わりではなく、受賞してからが始まり」とおっしゃっていました。

なぜなら、これから鯖江市や越前漆器協同組合をはじめとする、関係者の皆さん達との商品化に向けた取り組みが始まるからです。

重責に身の引き締まる思いを持つと同時に、これから始まる新しい取り組みへの期待でワクワクしています。

次回は、ディズニーからいただいた依頼の件の続きをお伝えします。

【いわい ともひさ/ダンボールアーティスト】
Blog http://iwaimotors.com/blog/

Twitter https://twitter.com/iwai

Behance https://www.behance.net/iwai


今週の一言:うるしアワード受賞はとても嬉しかったんですが、授賞式参加に際しては交通費の支給はありませんでした。商品化して取り戻したいです(笑)