装飾山イバラ道[164]ガラス瓶の中の世界「アンダー・ザ・ドーム」を見る
── 武田瑛夢 ──

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ガラス瓶に土を入れて、アリの巣ができるのを観察したことはあるだろうか。アリたちの生活を瓶の外からのぞき見る楽しみ。一生懸命エサを運んでいたり、ケンカしていたり。

私は大の虫嫌いなので自分ではやらなかったけれど、小さな者の世界を観察するのは子供たちには興味津々なことだと思う。しかし、大人になった今でも同じことをやっているのかもしれない。

私たちはけっこう「閉じ込められている人たちを見る」のが好きかもしれないのだ。このキーワードは海外ドラマ市場の鉄板なのだと言えば気づくかもしれない。

孤島に閉じ込められる「LOST」、巨大ドームに閉じ込められる「アンダー・ザ・ドーム」、街に閉じ込められる「ウェイワード・パインズ」などヒットしてもしなくても、何かと閉じ込められているネタなのがわかる。

そんなの、私がよく見てるだけだからそう思うのだ! と言われるかもしれないけれど、やたら目に付くテーマであることは間違いない。




それこそ、私は見ていないけれど牢獄の「プリズン・ブレイク」や、先日レビューに書いた「アメリカン・ホラー・ストーリー」の屋敷と病院など、舞台は違うけれど「閉じ込められ系」と言っていいと思う。どれも人間がどこかから出られない時に見せる抵抗や協力を見せる内容だ。※以下は各ドラマのネタバレがあります。

今回はhuluで見られる「アンダー・ザ・ドーム」の感想を中心に書いてみたい。これは2013年からCBSで放送されている海外ドラマだけれど、原作はスティーブン・キングの同名の小説だそうだ。現在はシーズン3まで進んでいて、huluでもシーズン3を公開中だ。

・アンダー・ザ・ドーム
http://www.hulu.jp/under-the-dome


ある時、突然、ストンと透明で巨大なドームに囲まれてしまう街の人々のドラマで、ドームはガラスのように透明なので最初は皆それに気づかない。

たまたまドームの境界の端っこに居合わせた人々は、縦にまっぷたつに切られる牛を目撃したり、ぶつかる車に驚いたりして、何かが起こっていることに気づいていく。

ドームは反射がないようなので何も映り込まず、普通に歩いているとガン! とぶつかってしまう。とっても危ないので、次第に軍が外側から周辺を警備&管理しだす。

立ち入り禁止のテープやコーン、スプレー文字などけっこうチープな感じの境界目印をつけていて、そんなに複雑なCGじゃなくても可能な表現であるのがわかる。

空気はとりあえずは確保されている。中と外では音が聞こえないので、紙に書いた文字でコミュニケーションしたり、地中まであらゆる線が分断されているので電話もダメ、電波もインターネットもダメだけれどストーリー上ちょっとだけ通じる時があるといった具合だ。

ドームの端から端までの距離は最初は明らかではないけれど、地面から上空まで数千メートルという軍の無線が一瞬聞こえるシーンがある(Wikipediaによると上空まで6000m)。

閉じ込められている中では、街の権力者が実権を強めて都合の悪い者を排除したり、限りある食料や資源を独り占めしだす。このような状況だと悪い者はさらに悪く、良い者はさらに良くなっていくのが通例みたいだ。閉じ込められちゃうと燃えちゃう男女の愛情や駆け引きもある。

なんだか「LOST」の記事でも同じようなことを書いた気がするので、まぁそういう流れはできているみたいだ。

●シーンの見せ場

「アンダー・ザ・ドーム」がこの閉じ込められ系ドラマの中で画期的なのは、「設定が壮大で絵が派手」な点ではないだろうか。

牛まっぷたつのグロい断面や、空中で飛行機がドームにぶつかって爆発するシーン、トラックが正面衝突して潰れて行く様が目の前で見えるなど。ドームが透明なので遮るものがなく、中で見ている者にはまったく衝撃がないのだ。

音も衝撃もないのに、見たこともないような壊れ方をする物がクリアに見えるのはとても不思議だ。物理的に見てどうなのー?と いう疑問もあるけれど、有り得ないようなことなので検証もできないし、なるほどと思ってしまう。

とにかく、ものすごく丈夫な素材でできている謎のドームなのだ。しかし、閉じ込められていると家族が離ればなれになったりいろいろと困るので、人間たちはあらゆる手段でドームの破壊を試みる。

ネタバレですが、途中で核爆弾もぶつけるけれどちっとも壊れないくらい丈夫なので、皆絶望する。人間の考える最終手段の安易さにも絶望。破壊できたとしても何が残ると思っているんだろう。

物語はシーズンを進んで徐々に謎が解けていく。解けていくかのように見えて、もっと謎が深まると言った方がいいのかもしれない。こんなの作れるの絶対人間じゃないし、だったらどうしていいのかもわからないよね。

テレビドラマとしては1シーズンで10数回分あるので、毎回何らかの目を引くシーンが必要だ。この点ではかなり設定の奇抜さを使えていると思う。

ただ最初のシーズンでそれも使い果たしてしまうので、後半は中にいなかった人間が現れたり、あり得ないことが起こってすごくSFっぽくなっていく。

夫婦で毎週ドラマを見ていて、けっこう夫も気に入っているようだ。後半からお互い困っていたのが、登場人物の名前をなかなか覚えられないことだ。今でこそジム、バービー、ジュリア、ジュニアの主要メンバーは覚えた。

しかし、途中だけ出て来た人たちの名前はなかなか入らない。セリフで突然人名が出て来ても「これって誰だっけ?」ということがよくあった。

たぶん私たちは見始めが遅かったので、前半のシーズンはまとめて見る「イッキ見」をしたけれど、シーズン3は毎週追加公開されるものを一話づつ見るしかなかったのが原因だ。続けて見ないと流れを忘れてしまうのだ。

だから、これからこのドラマを見る人には「イッキ見」の特権があるとお伝えしたい。

●逃げ出せる可能性という「希望」

閉じ込められ系のドラマで、見ている人が持つのが「希望」だと思うけれど、「アンダー・ザ・ドーム」では外の世界は最初普通に存在している。その時は外に出られさえすれば生きる希望がある。

しかし、途中のシーズンで星もしくは隕石の落下により外の世界が地獄絵図になっているのを見る。外の人々がドームの中に避難するために入ってこようとするのだ。安全地帯が逆転するようなシーンだ。

そうなると中の人には希望がなくなる。中が最悪だから外に出たかったのに、外はもっと最悪なのだ。

しかしこのドームを誰が作ったかということを考えると、結局どうにでもなることがわかる。人間の心をもて遊ぶような設定で、ドラマの起伏を作っているのだと思う。

今年の夏に見ていた海外ドラマの「ウェイワード・パインズ」でも、壁で囲まれた外がどうなっているかの興味が、前半の見せ所だった。

中盤で、外に戻りたいという希望を打ち砕くような事実を告げられるのが山場になっていて、この事実はあまりに重たくて、本当なら放心状態になってしまうだろう。私は見てるだけでも途方に暮れてしまった。これはぜひ見て欲しいのでここでは書かないことにする。

「アンダー・ザ・ドーム」では、まだ最後どうなるのかわからないけれど、敵と味方がこれからどうなるのか楽しみだ。

設定というガラス瓶の種類を変えて、まだまだこれからもこの手のドラマは作られるだろう。

ただこれを楽しめるのも、自分たちのいる世界が自由だと思えているからかもしれない。案外いろいろなものに縛られて自由がない人もいるかもしれないし、実は既に外側から、何らかの存在にのぞかれているのかもしれない。

ガラス瓶の中の世界からは外の世界の実体は捉えられない、というのがこの世界の仕組みなんじゃないかと思うのだ。

地球人たちはまたこんなドラマを作っているよ、そろそろ自分たちのことにも気づくかな、まだまだだね、というように。自分で気づけない世界はあったとしてもないのと同じだろうか、誰かに教えてもらいたいのである。


【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
http://www.eimu.com/


アメリカからの通販の小包がやっと届いたので良かった。これからは保険付きにするかどうかは、やはりトータルの値段との相談かな。いつのまにか日本の代理店ができているお店だったのに、まだ日本に送ってくれるだけでも有り難いのだ。普通は日本の代理店ができるとストップをかけて、安く買えなくされてしまうので残念な思いも多かったのだ。