3Dプリンター奮闘記[71]3Dプリンターのデータ制作あれこれ
── 織田隆治 ──

投稿:  著者:



寒い! 朝、布団から出るのが嫌になる季節になりました。もうこのまま寝ててもいいんじゃないかと思いますね。

さて、ちょっとお仕事のお話。今年にちょっとだけお仕事をやらせて頂いた、「サクラ花」という映画です。

映画の紹介はコチラ↓
映画サクラ花 桜花最期の特攻 公式サイト
http://www.sakurabana-movie.jp/




今までは、映画とかドラマのお仕事と言えば、出て来る飛行機なんかのCGモデリング。そのデータを、ポスプロさんの方で動かしたり、実写に合成して映像を作るわけですね。

今回の「サクラ花」という映画では、「一式陸攻」という飛行機に装着されていた、回転式機銃を作らせて頂きました。

何が違うのか、ということですが、これまでの映像の仕事では、CG映像用として3DCGモデリングをする、ということでした。

今回は、僕の制作した3Dモデリングデータを、3Dプリンターにて出力して、実際の撮影に使う、ということらしかったです。

ミニチュアに使用されたかどうかは分からないのですが、そういう使い方をするデータを制作させて頂いたのは初めてでした。

映画は見に行きました! 劇中で出て来る回転式機銃は、結構映っていましたが、当たり前のように完成したものですので、実際どのようにプリントされて、どのように加工されたのかは分かりませんでした。

当時の資料も少なく、ネットで画像を探して解析することから始め、モデリン
グは結構大変でした。

一般的な3DCGモデリングと、3Dプリンターで出力するための3Dモデリングって、実は結構違うんですよね。

映像用の3Dデータは、パソコンの中のバーチャルな世界の中で完結するので、裏側がなかったり、厚みのないデータでも全然大丈夫。

それと違って、3Dプリンターで出力するデータは、ちゃんと体積を持ったオブジェクトである必要があります。

ペラペラの薄い紙でも、実際は0.01mmとか厚みがあります。基本的にすべての物には体積があって、それがないとこの世界に存在できないですね。従って、すべてのデータが閉じられた「ソリッド」形式である必要があります。

また、物と物が重なって存在することが出来ないように、3Dプリンターで出力するためのデータは、そのオブジェクト同士が重なっていては、うまく出力できないことが多いんです。

3DCGのオブジェクトデータには、法線というものがあります。これは、その面の表がどちらにあるか、ということを指し示すものです。

例えば、厚さのない一枚の四角(ポリゴン)があったとして、そのポリゴンのどちらが表になるか、ということですね。

同じ大きさの四角いポリゴンを、6面繋げると6面体になります。その6面のポリゴンの法線は、すべて外を向いていて、初めて体積を持つことが出来るようになります。中が詰まった状態ということですね。

その6面体が、二つ重なっていたとすると、重なった部分はどうなるでしょう?法線が外を向いているので、重なった部分は空洞と認識されます。

そのデータを3Dプリンターで出力してみると、重なった部分は何もないと認識されてしまい、そこが空洞になる場合がほとんどです。

ということは、重なった部分で切り離されてしまいます。それを避けるために、オブジェクトが重なった部分を作らないように作る必要があります。

重なったもの同士を一体化してしまうか、または、重なった部分を一方のオブジェクトで削り取ってしまうかしないと、そういう状態になることが考えられます。

そういうことを認識しながら、モデリングを進める必要がありますね。これ、案外知られていないことが多いように思います。

3DCGデータはどれでも、3Dプリンターで出力できるわけではないんです。

一部、石膏プリンターなんかは、そういう重なった部分も埋めてしまうようですので、あまり気にしなくてもいい場合もあります。

要は、どういう3Dプリンターを使うかによって、データの制作手法が変わって来るんですね。

使用するプリンターの特性を理解した上で、データを制作する必要がありますが、基本的には、すべての3Dプリンターでうまく出力するには、

1)すべてのデータが、ソリッド(体積を持ち、穴が空いていない)形式とすること。

2)オブジェクト同士が重なった部分がないこと。

これが基本となるかと思います。

他にも、プリンターによって再現できる最小精度のサイズがあります。これは、解像度や積層ピッチに依存します。

例えば、積層ピッチが0.2mmのプリンターの場合、当然、0.1mmの物は制作することが出来ませんね。そこで、使用する3Dプリンターの再現度に合わせて、厚みや幅を増やしたりする必要がある訳です。

これも、結構重要なポイントになります。

以上のようなことを注意して、きれいに出力できるデータの制作を行う必要があるんですね。……と、今回はけっこう真面目な内容となりました。

さて、もうすでに師走。僕も事務所の引っ越しや、溜まった仕事があり、無事に正月を迎えられるかは、これからが勝負です……。


【___FULL_DIMENSIONS_STUDIO_____ 織田隆治】
oda@f-d-studio.jp
http://www.f-d-studio.jp