映画ザビエル[11]DASH火星
── カンクロー ──

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◎オデッセイ

原題(英題):THE MARTIAN
制作年度:2015年
制作国・地域:アメリカ
上映時間:141分
監督:リドリー・スコット
出演:マット・デイモン、ジェシカ・チャステイン、ジェフ・ダニエルズ

●だいたいこんな話(作品概要)

アンディー・ウィアーのSF小説「火星の人」を原作にしている。火星探査チームの一員マーク・ワトニーは、悪天候によってチームが火星から撤退する際に事故に遭い負傷する。

チームはマークが死亡したと判断し、火星に彼を一人取り残して出発してしまう。火星への滞在予定をかなり早く切り上げたため残されている、クルー全員分の食料と植物学者である自らの知識を駆使し、マークは次の探査チームが火星に到着するまでの4年間を、何とか生き延びようとするのだが。



●わたくし的見解

芸能人という枠を取り払っても、なお十二分過ぎるほどのサバイバル能力に長けた国民的アイドル、TOKIO。

旨いラーメン作りに着手するにあたり、通常のテレビ番組ならばスープに最適でかつ、出汁に使うには贅沢過ぎるような高級食材選びに映像の大半を費やすところ、TOKIOにやらせたら、麺に使う小麦作りから始まった時のネット上のザワつきは、今でも記憶に新しいところです。

素材の品種改良も辞さない構え。昨今は島で、ほぼほぼインフラ工事と呼べる作業を行っており、生き抜く術についての経験値で見れば、霊長類史上最強の領域に足を突っ込んでいます。

人間が長きに渡って得た知恵を使って、過酷な環境を生き抜く様は見ていて実に爽快です。フィクションとは言え、火星で鉄腕!DASH! なのですから、面白いに決まっているのでした。

山口くんの代わりにマット・デイモンがサバイバルします。水も植物が生きられる土もない火星で、どのようにして水を作り畑となる土を作るのかを楽しむだけでも十分です。

ただ、この作品の良さは、全体的にあまり重苦しく作っていないところだと思います。

マット・デイモン演じる主人公が、自らの生きた証として撮り続けた記録映像で「絶望的だが必ずここで生き抜いてみせる」と言っている予告編を観たときは、近年の「ゼロ・グラビティ」「インターステラー」のようなシリアスなSF作品という印象を受けましたが、前述した作品と比べると、かなりポップで観やすい娯楽映画の仕上がりでした。

かと言って「アバター」や近々(まさかの)続編が公開される「インディペンデンス・デイ」あたりよりは、サイエンス要素がしっかりしていて、娯楽要素とのバランスが非常に優れた作品と言えるでしょう。

主人公が所属していた火星探査チームのコマンダー(指揮官,船長)の趣味で、劇中火星で流れる音楽のすべてがディスコミュージックであるのも、また主人公がそれについて辟易して皮肉ばかり言うのも、深刻になりがちな物語を明るく見せるテクニック。

物語の終盤は「そんな無茶な」の連続で、「そんな馬鹿な」の連続でもあるのですが、構成が上手いので気になりません。リドリー・スコットくらいの監督になると、肩の力の抜け加減が絶妙なのだと思います。

最後に、少し作品から外れた話になるのですが。先日、発表されたアカデミー賞でノミネートされた作品が多様性に欠けていると問題にされていました。要するに、白人ばっかりやないの、と批判された訳です。

実は、海外ドラマはこの多様性をかなり意識していて(マーケットの問題も勿論ありつつ)現代劇では意図的に黒人、ラテン系、アジア人をもれなくキャスティングしてきますが、とはいえ物語の時代設定や舞台となる地域によっては、有色人種がいることが極めて不自然になる場合も当然あるわけで、なんだかなぁーと阿藤快のように思わず独り言。残念ながら加藤愛とは大きくかけ離れていた私です。

ちなみに「オデッセイ」は、宇宙開発を取り上げた作品なので、アジア人がいて黒人がいて、というのがリアリティーもあり実に自然です。

とって付けたような中国の登場も(これも明らかにマーケットを意識してですが)今のアメリカと世界に不可欠な存在という点では現実味があり、そのあたりの要素も含めて、なかなか優等生的作品なのかも知れません。


【カンクロー】info@eigaxavier.com
映画ザビエル http://www.eigaxavier.com/


映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。