グラフィック薄氷大魔王[468]すごい人工知能アートが出てきた
── 吉井 宏 ──

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●人工知能アートの技術的特異点(シンギュラリティ)キター! かも

わっはっは。Deep Learningだか Deep Dreamの人工知能の何からしいけど、こんなの出されたら人間はかなわんわ。絵のタッチの特徴を人工知能が理解して、別の画像に適用してるらしい。アーティストの世界認識の仕方をシミュレーションというか。

http://www.boredpanda.com/inceptionism-neural-network-deep-dream-art/


Painterの作例でイヤというほどゴッホタッチ(自動ゴッホもあった)をやった僕的には「犬+ゴッホ」にはそれほど驚かないぞ。

しかし、「猫やフルーツやヴィーナス+カンディンスキー」とか、「花の絵+クレムリン」「水彩+帆船」とか、もう完全にちゃんと面白く見れる作品レベル。生成された一枚の画像がただちに面白いとは言えなくても、無限に作れるんだからどうやっても人間に勝ち目はない。




画像をアップして生成できるサービスも始まってる。500pixelサイズなら無料。2個やってみた。いつ出来るかはわからん……5400分待ちって書いてあるな。有料なら15分でできるらしい。

http://deepart.io/latest/


絵の作風って、(突然変異でなければ)過去のいろんなアーチストが作り出した技法やテイスト+モチーフの選択で出来てる。

「絵や作品=好みのアーティストから学んだ処理の方法を、モチーフを選んで適用したもの」だとしたら、人間にしかできないと思われていたそれが人工知能に置き換え可能ってことに。

昨年話題になったDeep Dreamでは歯止めのない連想で悪夢的画像を生成。あれもすごかったけど、こちらは汎用性がある。何にでも応用できそう。絵だけでなくファッションやプロダクト、「何々のテイストを入れたらどんなものができる?」がいくらでも試せそう。

●人類に残された領域

アーティストが作り出す驚きの主要部分が人工知能で作れるとなれば、これから何をやればいいんだろう? 「人工知能に奪われる仕事」にアーティストも入るのか? って心配する一方で、ぜんぜんへっちゃらとも思ってる。コンピュータ自動作曲だって、ずいぶん前からあるけど、主流になってるとは思えないし。

「犬の写真をゴッホタッチ」だって、ゴッホさんと犬の写真が必要。タッチのオリジナルは人が作るんだし、写真だって撮らなきゃならない。写真の代わりに元の絵を自分で描くことも可能。3DCGでもいいし。意図した作品を作り上げるのに、人の手は必要だ。

また、「この人が描いた絵だからイイ」や「アーティストの物語とセットの作品」はずっと終わらないだろうから、大丈夫だと思う。新しい表現を探る的な現代美術としての絵画は50年くらい前に終わっちゃってるのかもしれないけど、「絵」はまったく終わってなかったわけだし。

あと、僕がやってる3DCGのTDWキャラクターなんて、乱数表組み合わせやアルゴリズムで作れちゃうのはよくわかってる。キャラクタージェネレイター的なものもよく見かけた。

けど、たくさんのスケッチから僕がその時点でおもしろいと思ったものを選んで作るのは、乱数表組み合わせで生成されたものから選ぶのと、結果的には似たようなもの。

以前、「SPORE クリーチャークリエイター」という、モンスターを生成するゲームを試したとき思ったこと。

手足胴体、角や翼などのパーツを組み合わせてモンスターを作るんだけど、僕的にはそのパーツがいかにもモンスター然としていて、物足りなかった。プリミティブに近い形状が選びたかった。

で、気づいたのは、僕がやってるのは、モンスターやキャラクターのパーツになり得そうなプリミティブ形状や、新しい組み合わせを見つけることなんだなあ、と。

人工知能が作ったものから面白いものを選ぶのは人間にしかできないしね。……選ぶのもそのうち人工知能がやっちゃいそうだなあ。

●人工知能が描くアスカ

最近、もう一つ話題になってたものがある。人工知能にエヴァンゲリオンのキャラクター「アスカ」の名前を示して、これを描け、と。人工知能が「アスカ」をネットで調べ、特徴を学び、絵を描いた結果……!

ねとらぼ
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1603/06/news033.html


小さい子供が記憶を頼りに描いた絵くらいのレベルには来てる! 本気で仕込めばプロ級の絵にまですぐに進化しそうだ。そのうち言葉で細かく指定すれば絵が出来ちゃうようになるぞ。

●制作の大変さを強調する傾向について

ほんのちょっと関連で。

自分の作品を説明するとき、「こんなに苦労して作りました」って言うのって、サイテーじゃなかったっけ?

ゴッホのアニメーション映画を全コマ油絵で制作
http://www.gizmodo.jp/2016/03/post_664226.html


「凝った画像処理」かと思ったら、本当に油絵でアニメーションやってるんだ! この話を知った時点では、「マジに中国の絵画村に発注するといいんじゃないか」と思ったけど、もう人工知能でイケそう。

油絵が1秒に12枚必要で、100人以上のアーチストが参加。っても、フル画面で動くのはごく一部で、静止画や一部だけ動かすのも多そう。

仮に、100人が一人1000枚をフルに描いたら138分のアニメーションになるけど、そこまで動かす必要まったくないから、一人せいぜい200〜300枚とかレベル? そんな非現実的じゃなさそう。

昨年秋に話題になった、カロリーメイトCMの黒板アートアニメーションも同様。総数6328枚とか説明されてるけど、絵の枚数じゃなく、消す動作のコマ撮りも含めた撮影枚数だよね?
https://www.otsuka.co.jp/adv/cmt/


ちょっとちがうけど、最近のストップモーションアニメ映画で、3DCGでアニメーションを作り、動きや表情違いの人形やパーツをすべて3Dプリントし、それを組み合わせて一コマずつ実写撮影するものがある。あれも、「こんなに手が込んだ大変な作業」って宣伝するよね。

一般の人を「とんでもなく大変だった制作」って思わせるように宣伝する。「苦労して作られたものはいいものに違いない」ってバイアスフィルタがかかる。「長時間行列して食べたんだからおいしいはず」と同じでいいのか?

……ここまで書いてハッと気がついた。僕だって立体制作がどんだけ大変かってこと、面白いから書きまくってたわ。完全に自爆だわ。

人間が四苦八苦しながら作り上げるものって、制作にまつわる物語とセットなんだよなあ。苦労話がウケるのは間違いない。人工知能アートにはそれがない。そこが突破口か? アートはこれから浪花節の世界へ?


【吉井 宏/イラストレーター】
HP http://www.yoshii.com

Blog http://yoshii-blog.blogspot.com/


こんな面白い絵を人工知能が作っちゃうのか! って実はけっこうショックで混乱気味。囲碁チャンピオンに人工知能が勝ったニュースの数日後にこんなものが出てくるとは。急遽、予定してた原稿を次に回したので、来週がラクw

あと、「小ネタ集」ってタイトルを全部につけるのやめます。本当に寄せ集めの小ネタ集のときだけにします。

・パリの老舗百貨店Printemps 150周年記念マスコット「ROSEちゃん」
http://departmentstoreparis.printemps.com/news/w/150ans-41500


・rinkakの3Dプリント作品ショップ
https://www.rinkak.com/jp/shop/hiroshiyoshii


・rinkakインタビュー記事
『キャラクターは、ギリギリの要素で見せたい』吉井宏さん
https://www.rinkak.com/creatorsvoice/hiroshiyoshii


・ハイウェイ島の大冒険
http://kids.e-nexco.co.jp


・App Store「REAL STEELPAN」
https://itunes.apple.com/jp/app/real-steelpan/id398902899?mt=8