装飾山イバラ道[176]蝶を見たら姿勢を正す
── 武田瑛夢 ──

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パソコン環境が変わって、椅子は従来のままで足置きを追加して高さを調整した。姿勢のことを考えていて、Webで「立腰 りつよう」という言葉を見て気になったので検索し、腰骨を立てて姿勢を正すのはとても大切という森信三氏のWebの記事を読んだ。

そして、あの今でしょの林先生も「躾で一番大切なのは『姿勢』」と伝えていた動画があったので見てみた。

簡単に言うと「6歳〜10歳の脳の大きさが決まる時期に姿勢よく過ごすことの大切さは、その後の人生を変える」というようなことだった。

その中で、人類の進化と子供が大人になるまでの成長過程は、同じような道筋を辿るというような話があった。

赤ちゃんはハイハイする時期を経て、立ち上がって大人になる。人類は原人の頃は腰を曲げて歩いていたけれど、姿勢が伸びて頭を背骨の真上に置いて歩くことによって脳の大きさを獲得した。

この姿勢が脳に与える影響は多大なものだという。ある意味あたりまえのようだけれど、姿勢を正すことが一生を決めるとまで熱弁されると、もっと大事に姿勢について考えてくれば良かったという気持ちになった。




●その時しかないこと

幼少期はまだ脳を作っている途中なのだから、血流や神経の伝達が良い状態にすることが自分の基礎を作るということだ。想像してみると、もし植物の茎に値札がぶら下がって曲がっているままだったら、まっすぐ伸びた茎よりも大きな花はつけないだろうと思える。

成長期というのは取り返しがつかないのだから、出来上がった後ではなく、作っている時の大切さを肝に銘じないといけないのだ。

私は以前、サナギから育てていた蝶の羽が広がらないことを相談していた、掲示板の質問を読んだことを思い出した。蝶がサナギから羽化する時に、シワシワの羽を伸ばすのに時間がかかりすぎると、その羽はもうその後も広がらないという話だ。

蝶がサナギの殻を破って出てくるのは、小学校時代にテレビで何回も見た。体の形を大幅に変える生き物の不思議さは強く印象に残っている。

Wikipediaで「羽化」の記事を読むと「蛹から出た直後は翅はしわくちゃで、体液を送り込むことによって翅を伸ばす。そのため、翅が伸びるための十分な空間がない場合、翅が充分に伸びず、その後の活動が出来なくなる。」とある。

さらっと書いてあるけど最後の言葉、怖いですね。その時点で成長においてその時しかない、本当に大事な時間なのだ。

掲示板では、その蝶は羽化に失敗したんですね、というような質問の答えが書いてあったけれど何と切ないことだろう。その蝶は飛んだことがなく、もう飛ぶこともできないのだ。

●まだ間に合うこと

しかし、人間の場合は、脳が大きくなるまでにそこそこ時間がある。これを読んでいる人はもはや大人に違いないので、今までの自分のことは反省するなりしかない。

でも、何とか周りの小さい子や、まだ間に合う人に目を向けてアドバイスして欲しい。昔はおじいさんおばあさんに姿勢を正せ! と口がすっぱくなるまで言われた時代があった。今は核家族で親世代でも姿勢についてそこまで言わなくなった。

姿勢を正しなさい、の具体的理由が広まっていないことにも原因があると思う。「脳の成長を良くしたいでしょ!」と言えばいいのだ。

ただ、成人だって姿勢が大事だということは、高齢の母を見て私が思うことでもある。人間は幼少期に立ち上がって脳を大きくするけれど、長いこと生きて高齢になると今度は背中が丸くなっていく人が多い。

骨や関節が弱くなるので仕方ない部分もあるけれど、なるべくなら姿勢はまっすぐを保つことが、老化を緩やかにするのは間違いないのではないかと思う。

私たちは脳の大きさや質はもう既に決まってしまったかもしれないけれど、脳細胞は日々入れ替わっているだろうし、姿勢を正して血流の状態を良く保つ覚悟をすることは可能だ。

習慣づけるということだけれど、既に大人な私達の場合はもう「覚悟」や「肝に銘じて」、「天に誓って」などの類で気合いを入れないと、骨に染み込んだものを変えることはできない。それが姿勢の恐いところだと思う。

義理の母の場合は、立って普通に歩ける状態から車椅子になり、その後寝ている時間が多くなっていった。

一日のうちでも、寝姿勢の時よりは車椅子で姿勢を保っている時の方が、意識が明瞭で会話の質が全然違っていた。とてもしっかりして、いくらでも昔のことを思い出して話をしてくれることもあった。

できるだけ座る時間を取ることが、日々の目標でもあった。首が脳を支えているだけで、これだけ意識が変わるのかと驚くことが多かったのだ。

私自身も脳を存分に育てられたかは自信がないけれど、これから良い姿勢で生きて行く覚悟を持つことはできる。

手頃な方法としては、荷物はリュックだと姿勢が自然と良くなる。椅子に置くだけで姿勢を意識できるクッションも多く出回っている。大リーグボール養成ギブスのような姿勢矯正ベルトを買うもよし、椅子の背部分に寄りかかったら痛いものをつけてもいいかもしれない(笑)。

バランスボールを椅子代わりにするのも良さそうだ。どんなことをしてでも姿勢を意識できればいいのだ。ちょっと強烈すぎるような意識改革でもない限り、つい元の姿勢に戻ってしまいそうだから。

私の場合は、関連付けて思い出せるように、蝶のシールを机に貼っておくのもいいかもしれない。

まだ高齢でない人も、寝ているよりは座り、座るよりは立ち、立つよりは歩く。「出来ているうちは」という枕詞がつくけれど、出来るなら頭をより高くして過ごすことが、バリ3の状態で脳にフルパワーをみなぎらせてくれるのだ。

お義母さんが教えてくれた、これらのことを肝に銘じてやっていきたい。


【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
http://www.eimu.com/


初めて胃カメラを飲んだ。苦手なものに加わった。もう二度としたくないけれど、した方がいいということはわかる。体験談をいくら読んでも、自分の場合というのはやってみないとわからないものだ。