映画ザビエル[15]拝啓
── カンクロー ──

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◎Love Letter

制作年度:1995年
制作国・地域:日本
上映時間:117分
監督:岩井俊二
出演:中山美穂、豊川悦司、柏原崇、酒井美紀

●だいたいこんな話(作品概要)

渡辺博子は亡くなった恋人の三回忌で彼の実家に立ち寄り、彼女の知らない少年時代の卒業アルバムを見せてもらう。その頃彼が過ごした北海道小樽の住所に、博子は思わず彼宛の手紙を出してしまう。

はなから返信など期待するはずもないのに、亡くなった恋人と同姓同名の女性、藤井樹から手紙の返事がきた事から不思議な交流がはじまる。TVやCMですでに活躍していた岩井俊二監督にとって、初めての長編劇場公開作品。




●わたくし的見解

かつて私はミポリンが苦手だった。全盛期のミポリンの演じていた女性像が苦手だったのだ。実はこの作品における、渡辺博子なる登場人物がその女性像にドンピシャ。

モテるのをいいことに(って本人は無自覚な気もするのだけれど)言い寄られるがままに交際を深めはするものの、過去の恋愛を忘れられなかったり色々あったりで、今ひとつ煮え切らず周囲を振り回す。

しかし(おそらく)無自覚なので、私ってヒドイ女だよね的な発言をしつつ罪の意識を表明したりするので、責めることも出来ない。すこぶる面倒くさい。

若い頃の私は、フィクションであってもこういうタイプがすこぶる苦手で、ミポリンのドラマを意識的に避けて生きて来た。

TVドラマが「トレンディー」だった時、この手のヒロインは他に安田成美さんあたりも演じていたが、やはり苦手だった。ちなみに安田成美さんそのものは好きだ。いい年して、むやみに可愛い女性は好きなのだ。むやみにカフェオレを作る原田知世さんとかも好み。

ところが「Love Letter」で、ミポリンはもう一人の女性を演じていて、これが良かった。もっと早くにこの作品を観ておけば、私のミポリンアレルギーはかなり軽減されていたに違いない。

もう一人の女性、藤井樹もサバサバしていると言ったところで、岩井俊二監督らしく見事なまでに男子フィルターのかかった、否、あるいは女子フィルターでもある少女漫画テイストばりばりの「おっちょこちょいだけど放っておけない可愛いアイツ」「(もはや死語だが)おきゃんな、あの娘」キャラなのだけれど、そんなものをここまで好演できるミポリンの底力には感銘を受けた。さすがは時のトップアイドルである。

そう、アイドル映画を舐めてはいけない。おそらく多くの映画ファンは「Love Letter」を、アイドル映画と認識していないはずだ。それは、私のようなミポリンアレルギーでも、いい映画を観たな、という気分にさせる作品の仕上がりが何よりの証拠。

きっとアイドル映画は、ターゲットが明確で予算を集めやすいだろうから製作段階での企画も通りやすく、邦画ブームが終わっても安定した数が世に送り出されるだろう。

アイドル映画を舐めていけないのは、鑑賞者ではなく制作者である。まがりなりにも映画を作りたくて作ってるのであれば、アイドル映画の全てを、これ位の水準で作って欲しいものだと、しみじみ思う。

話が逸れたが、映画の感想としては、自分のキャラクター的には終始、何だか恥ずかしくって仕方ない映画だった。(お前様のキャラクターなど知らぬわ、との声が空耳で聞こえる)けれども、恋人が亡くなる映画はブームですか? と思うほど数あれど、昨今のそれらとは一線を画していると思う。

それは、亡くなった「その後」の物語のせいでもあるが、確かにその人が、かつては存在していた。そして、今は居ないのだ。という当たり前のことを、これほど丁寧に、しかもこんなにもあたたかく描けている作品に、そうは出会えない。だから、私は恥ずかしいのを我慢して、これは素敵な映画だと伝えたいのです。

敬具


【カンクロー】info@eigaxavier.com
映画ザビエル http://www.eigaxavier.com/


映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。