「ASIAGRAPH CGアートギャラリー」が目指すもの
── 喜多見 康(ASIAGRAPH CGアートギャラリー代表) ──

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「ASIAGRAPH CGアートギャラリー」は、今年で13回目の開催となります。我ながらずいぶん長いこと、よく頑張って来たものだ……と思いますが、そんな感慨にふけってる場合ではないのです。

5月20日から今年度「ASIAGRAPH CGアートギャラリー」公募部門の作品募集が始まったので、私はこれから4か月間、その募集作業に奔走せねばならないのです。

今更ぼやいても仕方ありません。誰かに言われて始めたわけでもなく、自分で始めたことですし、他人のせいにもできません。

これから4か月ほど作品募集に全力を尽くし、あと2か月はギャラリー開催準備に明け暮れ、最後に4日間のギャラリー開催期間中に完全燃焼し、残りの半年は抜け殻というか、燃えかすのようになって過ごす(笑)。

この12年間はずっとそういうサイクルで暮らして来ました。そんな大変なものなのか? そもそ「ASIAGRAPHって何?」という方が大多数と思いますので、簡単にご説明させていただきます。




ASIAGRAPH
http://www.asiagraph.jp/about/index.html


ASIAGRAPH 2016年度 CGアートギャラリー公募展示部門 募集要項
http://www.asiagraph.jp/invite/index.html


「ASIAGRAPH」とは、アジアのCG分野の研究者やアーティスト、クリエイターが優れた研究や作品を持ち寄り、論文発表と作品展示を一体として行なう活動です。

活動全体と学会部分の代表を、東京大学大学院教授で、2013年には紫綬褒章を受章したCGアーティスト河口洋一郎氏が務め、作品展示のCGアートギャラリーを私、喜多見康が担当しています。

「ASIAGRAPH」は、毎年10月に東京お台場の日本科学未来館で開催される、「デジタルコンテンツEXPO」という先端技術の見本市イベントの中で展示を行います。

その際、日本のデジタルコンテンツ制作や、そのテクノロジーの発展に大きく貢献した人物に、創(つむぎ)賞、匠(たくみ)賞を贈っていて、過去には女性宇宙飛行士の山崎直子氏、映画監督の樋口真嗣氏、建築家の隈研吾氏、作詞家の秋元康氏などが受賞しています。

ASIAGRAPH CGアートギャラリー
http://www.asiagraph.jp/2015/program/index.html


CGアートギャラリーは、アジア各国を代表する優れた作家の作品を招き、展示をする招待展示部門と、アジア全域から作品を募集する公募展示部門の二部門から構成されています。

公募の部門は、CG静止画の第一部門、14名の国際審査委員がアニメーション作品の選考を行う第二部門、日本国内の学生からアニメーション作品を募集する第三部門、小中学生を対象にしたこどもCG第四部門の四つがあります。

四つの部門全体で、昨年は16の国と地域から約700点もの応募がありました。こう書くと簡単そうですが、700点ものCG作品を集めるというのは、なかなか容易なことではありません。

私の力不足で、まだまだ「ASIAGRAPH」の認知度はさほど高いものでなく、毎年作品を募集するのに四苦八苦しています。最も苦労する原因のひとつは、CGアートギャラリーの公募部門に賞金が一切ないことです。

いずれの部門も最優秀賞(グランプリ)を獲得しても、1円も賞金はもらえません。こどものCGコンテスト部門以外は、賞品すらありません。

今どき、どんな小さなコンペでも金額の多寡は別として、ほとんどに賞金や賞品が用意されています。にも拘らず、「ASIAGRAPH」にはそれがないのです!(威張ることではありませんが)原因は端的に言って予算がないからなのですが、これはかなり厳しいです。

いろいろな学校や関係団体に応募の告知をお願いすると、必ずと言ってよいほど「賞金や賞品はありますか?」と聞かれます。その都度肩身の狭い思いをするわけですが、今ではそれも慣れました。最近では胸を張ってこう答えるようにしています。

「ASIAGRAPHには、賞金も賞品も一切ありません。でもその代わり入選すれば、他所のコンペでは絶対にお目にかかれないような、アジア各国を代表するすごいクリエイターの作品と、一緒の壁面に展示してもらうことができます!」と。

いかがでしょう? コレは昨年の公募部門の入賞作品一覧です。

http://www.asiagraph.jp/2015/public/index.html


どの部門の作品も、他所のコンペとはひと味もふた味も違うと思いませんか? クドイというか「濃い」というか。私はこれがアジアだ! と思っています。

テーマやモチーフがアジア的なのではなく、作り手が極めて主観的で、自分の興味を持つ対象に前のめりになって描き込んでいく。

自分が表現したいもののために貪欲というか単純。応募作品は、それぞれ異なる様々な表現手法で作られているのだけれど、結果的に入選作品を並べて見ると、全体的にクドくて濃い(笑)。

描きたいもの、作りたいものへの愛と執着心が一目瞭然というか、裏表がないというか、伏線も比喩もない、分かりやす過ぎる筋書きのドラマを見ているようです。

でも、とても美しい。感性は子供なのに、制作テクニックだけはプロみたいな感じでしょうか? イラストレーションでも3DCGでも、アニメでも、私にとって全部印象は同じです。

そうした作品がもっと、もっとたくさん集まれば、巨大なジグソーパズルが出来上がり、何が描かれているか徐々に分かって来るように、「ASIAGRAPH」の全体像が見えてくるのでは? と期待しているのです。

中でも特に私が期待しているのが、こどもCGコンテスト部門です。アジア地域の小中学生がどれだけの能力を秘めているのか? ぜひご自身の目で、過去二年間の入選作品をご覧ください。

第四部門 こどもCGコンテスト部門
http://www.asiagraph.jp/2015/public/index.html#04

http://www.asiagraph.jp/2014/public/index.html#04


いかがでしょう? 彼らの作品は、よくも悪くも見る人に大きなインパクトを与えるようです。現代の小中学生は、こんなスゴい作品を描く! という事実が、ギャラリー開催中から各方面で話題になりました。

http://blog.esuteru.com/archives/8384669.html

http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1510/26/news105.html

http://jin115.com/archives/52103777.html


昨年の初音ミクと描く未来部門で、クリプトン・フューチャー・メディア賞を受賞した香港の雪櫻さん(14歳)は、これらの書き込みを読み、批判や悪意を持ったコメントの量の多さにショックを受け、以下のメールをくれました。

「この報道を見ました、コメントも全部見ました。私本当にココロか痛いです。私の絵本当にそんなに下手ですか……」。彼女は独学で日本語を勉強し、中一の時から応募してくれて、一昨年も入選した実績を持つ作家です。

このメールを読み、私の方が心が痛くなり、暗澹たる気持ちになりました。しかし彼女はすぐに立ち直りました。批判する人がいる一方で、彼女のSNSには、支持と応援のメッセージがたくさん寄せられたのです。

こうして社会の批判と賞賛に揉まれながら、彼女のような中学生クリエイターがアジア中でたくさん育っています。

彼ら、彼女らの中から次のスターが生まれる日は近いと感じ、その日を夢見て、今年も作品募集に精を出します。どうぞ皆さんも、ぜひ自信作を「ASIAGRAPH」にご応募下さい。お待ちしております。


【喜多見 康】
ASIAGRAPH CGアートギャラリー代表/文京学院大学大学院経営学研究科教授
〒113-8668 東京都文京区向丘1-19-1 B館311 文京学院大学 コンテンツ多言語知財化センター内
ASIAGRAPH CGアートギャラリー事務局
asiagraph@ba.u-bunkyo.ac.jp