もじもじトーク[44]映画の字幕文字と字幕翻訳と
── 関口浩之 ──

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。

みなさん、このフォント、知ってますか? 一度は見たことのあるフォントですよー。ジャーン!
http://goo.gl/SF5g2W


シネマフォントという書体です。ちなみに、Webフォントで表現しているので、文字がコピペできます。

正式な書体名はフォントワークスの「ニューシネマA-D」と「ニューシネマB-D」です。

このシネマフォント、映画の字幕文字として有名ですが、テレビのテロップや電車のサイネージ広告でも頻繁に使われています。今度、テレビのテロップを観察してみてください。

たまたま、電車の中のサイネージディスプレイ、自宅のテレビを眺めていたら、シネマフォントが続々と出てきたので、iPhoneで撮影してたものをアップしますね。
http://goo.gl/1zVNnh


この書体、大好きです。ちなみにプレゼンテーション資料やビジネス文書で、この書体を無理やり全文で使ってみました。うーん、なんかビジネスドキュメントでは使いどころが難しい書体です。

やはり、シネマフォントは、映画の字幕や動画や写真の説明文で使用するのに適しているようです。

なぜなら、映画の字幕文字は目立ってはいけないのです。あくまでも映画コンテンツが主役であって、字幕は映画を邪魔してはいけないのです。でも、読みやすい字形であることも重要なので、その絶妙なバランスの中から生まれた書体といえます。

そのことが、フォントワークスのWebサイトで書かれていたので引用します。




●ニューシネマA-D

映画の字幕を目的として、極力《クセのない》ことを意識してデザインされた手書き風の字幕書体です。多くの映画の字幕文字の実績をもつ、佐藤英夫氏の「シネマフォント」がベースとなっています。

映画やDVDの字幕はもちろん、TVコマーシャルとして、またチラシやポスターなどの紙媒体にも適しています。

字幕文字に必要な条件は、読むことを意識しないでも頭に入る、ということ。パッと目に入って、スッと文字を追いやすく、画面の雰囲気に自然に溶け込んで、観る人に“字幕の存在”や“書体デザイン”を意識させないことが重要です。つまり空気のようでいて、クセやアクのない、嫌みな自己主張をしない、自然な雰囲気の書体です。

文字の横幅は均等ではなく、漢字と仮名のバランスを調整しています。 また、濁点と半濁点が大きくて明快な点も特徴です。古さや新しさを感じさせない、温もりと優しさを併せ持つ独特のデザインです。

●ニューシネマB-D

正字体のニューシネマAに対して、ニューシネマBは略字体を採用し、さらに『空気穴あき』という映画字幕特有のデザインが施されています。また、独特な個性をもつBは古い映画のイメージや手書きの雰囲気を表現するのに最適な書体です。

かつての字幕制作は、映画フィルムに薬品を塗布して直接文字の形の凸版を押しつけ、画像に穴を空ける方式(タイプ方式)でした。この方式だと、例えば「口」「田」などの文字の線で囲まれた内側部分が抜け落ちて「■」のような状態になってしまいます。

この問題を解消するために、文字の一部分に『空気穴』と呼ばれる切れ目が入れられるようになりました。また、実際の凸版は一文字の大きさが1mm以下と非常に小さく、文字が潰れてしまうのを防ぐために独特の略字も用いられるようになりました。

現在では技術の進歩でレーザー方式が主流となり『空気穴』をあける必要がなくなりましたが、フォントワークスではこの字幕特有の懐かしい味のある“空気穴”がある書体(ニューシネマB-D)と、ない書体(ニューシネマA-D)の二種類を、リリースすることにしました。

ずいぶんと長い引用になりましたが、シネマフォントの誕生の歴史を知ることができ、嬉しくなってしまい、ご紹介しました。

●映画字幕翻訳家の戸田奈津子さん

今日は風邪をひいて会社を休んでました。ランチを食べようと思って布団から出てテレビをつけたら、戸田奈津子さんのインタビュー番組をやっていました。

戸田奈津子さん、みなさんもご存知ですよねー。現在80才とのことですが、まだ現役で映画字幕翻訳や通訳の仕事をバリバリやっているようです。

戸田さんが字幕翻訳で携わった映画本数、何本だと思いますか。なんと1,500本以上だそうです。すごいですよね!

僕の大好きな「ターミネーター2」の名ゼリフのエピソードをご紹介します。

アートルド・シュワルツェネッガーが『地獄で会おうぜ、ベイビー』の名ゼリフを吐いて相手を倒すシーンですが「Hasta la vista, baby」と言ってます。これスペイン語なんです。

英語で表現すると「See you again」ですが、あのシーンで字幕に「明日に会
おうぜ」の直訳はそぐわないと思ったそうです。なので、『地獄で会おうぜ、
ベイビー』にしたそうです。

もう一つ、例をあげると、「タイタニック」でレオナルド・ディカプリオが、船の先端で「I am the King of the world」と叫ぶシーンがあります。「俺は世界の王だ」と翻訳のすべきところ、「世界はおれのものだ」にして、そのシーンの世界観に合わせた日本語表現したそうです。

インタビューの最後の質問で「理想とする字幕は?」と聞かれ、以下のように答えていたのが印象的でした。

『あたかも俳優たちが全部日本語でしゃべっていたかのような錯覚に起こさせるような日本語にしたい。文字を読んだことを意識させない。』

おぉ、カッコいいです!

字幕翻訳は、すごい制約があります。早口な英語で3秒しゃべると、1センテンスで10単語ぐらいになることは当たり前なんです。

でも、それを日本語に直訳すると膨大な文字数になってしまいます。スクリーンで字幕が使える文字数は限られてます。1シーン3秒の時間的制限もあるので、冗長な日本語を字幕にできないですさし、意訳しすぎてもいけないという事情もあります。

なので、『字幕翻訳とは英語ができるのは当たり前。その先は全部 "日本語" が勝負なんです。』と力説してました。

日本語表現力が豊富であること、映画の素晴らしいシーンの雰囲気を壊さずに、調和のとれた日本語を駆使することなんですね。

ところで、海外映画の興行収入TOP10のうち、9作品が戸田奈津子さんの翻訳のなのです。2位の「アナと雪の女王」は松浦美奈さんが翻訳していますが、それ以外は戸田奈津子さんです。

1. タイタニック
2. アナと雪の女王
3. ハリー・ポッターと賢者の石
4. ハリー・ポッターと秘密の部屋
5. アバター
6. ラスト・サムライ
7. E.T.
8. アルマゲドン
9. ハリー・ポッターとアズカバンの囚人
10. ジュラシック・パーク

映画監督や俳優からのゆるぎない信頼があるからこそ、これだけの実績につながったんだと思います。

実は僕も30年前、学生の頃、英語を使った翻訳とかの仕事をしたいなぁと思った時期もありましたが、英語も日本語もたいした実力がなかったので、その夢は実現しませんでした。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/


1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステム
やプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。

小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。