[4167] 書体の佇まいについて考える

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《死ぬほど食べたいと思い続けて数十年》

■わが逃走[185]
 水戸黄門と山吹色の菓子の巻
 齋藤 浩

■もじもじトーク[45]
 書体の佇まいについて考える
 関口浩之



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■わが逃走[185]
水戸黄門と山吹色の菓子の巻

齋藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20160721140200.html

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みんな、なんだかんだでテレビしか見てないんだなあ。

ネット上で盛り上がったことも、テレビが報道を自粛すれば大多数は知らないままだ。

ちょっと前にツイッターで話題になったことを、忘れた頃にわざわざテレビで紹介する番組があって、その企画自体が滑稽に思えていたが、これはアリだったのか! ってこともやっとわかった。

テレビといえば、水戸黄門がブラウン管を去って久しい。

ブラウン管って何? と若い世代には言われてしまいそうだが、確かに水戸黄門はあの4対3の画面ととも去っていった感がある。

黄門様とともに、悪代官も消えてしまった。

『私腹を肥やす悪い役人』というイメージを小学生に印象づけた、4時からの再放送、その道徳的役割は大きかった。

つまり、水戸黄門の放送がなくなったことで、現実に悪代官が現れても、それを悪代官と認識できない若者が増えてしまったのではあるまいか。



福砂屋のカステラと豊島屋の鳩サブレーを、死ぬほど食べたいと思い続けて数十年になるが、未だその夢は叶わない。

もちろん「少しずつ」なら食べたことがある。

いずれも、なかなか手に入らない貴重な品だ。

いや、手に入れようと思えば入れられなくもないが、あれはみやげの品として頂いたり、旅先で思い出として購入したりするもので、おいそれと買っていいものではないような気がするのだ。

気がするだけなのかもしれないが。

先日うっかり新宿伊勢丹の地下を歩いてしまったらその両方が目に入り、それ以来、脳内でハトとコウモリが楽しそうにくるくると回っていて困る。

もうすぐ50にもなろうというのに、ヒマなときはつい「ある日突然、ダンボールにぎっしり詰まったカステラと鳩サブレーが届いたらどうしよう!」などと考えてしまう。

これは子供の頃からの習慣というか癖みたいなもので未だ治らない。

よく母に「もし明日、どこからともなくカステラと鳩サブレーが届いたらどうしようかなあ」などと言ったものだが、母はたいてい「届かないから心配しなくても大丈夫よ」と答えるのだった。

そんなことはわかっている。わかってるんだけどね!!!

カステラと鳩サブレーは和の空間にも洋の空間にも似合うが、私としては和の空間でいただきたい。昭和なお茶の間が良い。

もう建て替えてしまったが、横浜にある母方の実家の日本家屋がなんとも渋くて良かった。

木造平屋建ての畳の部屋で、4時からの水戸黄門再放送を見ながら、緑茶とともにカステラと鳩サブレーを交互に食べつづけ、気づいたら印籠出してたりして、ということは約45分もの間食べ続けてしまったよ。

しかも、まだ明日の分も明後日の分も残っている。これから毎日、福砂屋のカステラと豊島屋の鳩サブレーが食べられるんだ!

こんなうれしいことはない……。

とまあ、こういう状況こそ夢のようなひとときと言えるのではあるまいか。



横浜で思い出したが、おやつの時間に冷蔵庫でちょっと冷やしたありあけのハーバーを食べる、という贅沢をしてみたい。

書いてて気づいたが、水戸黄門の再放送の前後でよくCMを見ていた、あの、ありあけのハーバー。サウンドロゴは覚えているのに、味を覚えていない。

たしか最後に食べたのは40年前だったと思う。子供心にとてもおいしかった印象がある。銘菓ひよことぽんぽこたぬきのおまんじゅうを、ちょっとハイカラにしてカステラっぽくしたような味だったか……。

そもそも、まだ存在するのか?

ものの本によればメーカー倒産により一度生産が中止され、その後復活している。いろいろあったらしい。こうなると俄然食べたくなる。

ありあけのハーバーは横浜みやげだが、みやげものというからには、誰かに差し上げねばならない。

それを自分で食べたいから買うとなると、妙なひっかかりというか罪悪感というか、そういったバイアスがかかる。

カステラと鳩サブレーにも言えることだが、みやげものとしてのアイデンティティが確立された商品というものは、基本的に差し上げるかもらうかの二者択一であり、自分のために買うというのはその商品のもつ意味を否定するようで妙な後ろめたさを感じるものである。

自分のために買うのであれば、旅の思い出として求めるしかない。

となれば、デパ地下などではなく、本店のある地へ赴かねばなるまい。

福砂屋は長崎(すごく遠い)、豊島屋は鎌倉(ちょっと遠い)。それに対して有明製菓のある横浜はわりと近い。

というわけで、近いうちにハーバーを買いに横浜まで行こうと思うのだった。


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■もじもじトーク[45]
書体の佇まいについて考える

関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20160721140100.html

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。

みなさん、このフォントの書体名、知ってますか? そして、どこのフォントメーカーの書体なのか知ってますか?
http://goo.gl/zKdsDZ


書体名は「ラグランパンチ」です。そして、この書体を制作したのは「フォントワークス」というフォントメーカーです。

見たことある書体ですよね。テレビのテロップやマンガのタイトルロゴでよく使われています。そうそう、この書体、「重版出来」のコミックの表紙(タイトルロゴ)で使われています。

この春、放映されていた「重版出来」(じゅうはんしゅったい)のテレビドラマ、あまり視聴率はよくなかったようですが、僕は大好きでした。コミックの原作も好きですが、テレビドラマも良かったです。デジクリの読者の中にも「重版出来」フォンの人、けっこう多いような気もします……。

また、ラグランパンチは「キルラキル」というアニメでも使われています。僕の知り合いが「キルラジェネレータ」という、Webフォントを活用したスペシャルコンテンツを作ったのでご紹介します。お楽しみください。
http://goo.gl/6nDDUK


ボックスの中に4行ぐらい(1行最大10文字)、適当なテキストを入力して[送信]ボタンを押してみてください。僕は「ナイスで なう〜い ヤングな おっさん」と4行入力して送信してみました。ねっ、楽しいでしょ!

サービスは予告なく停止する場合があります、と書いてあるのでラグランパンチが表示されない際はご容赦ください。

この書体、読みやすい書体とはいえないと思います。でも、キルラキル好きな人にとって、文字を表現するのに普通の明朝体やゴシック体ではなく、この書体で表現することに意味があるのです。

このラグランパンチというフォント、通常、パソコンにインストールされていませんよね。このスペシャルコンテンツ、日本語Webフォントサーバに「ラグランパンチという書体で○○○○というテキストをブラウザに表示してくださいね」のプログラムを書いているのです。

●書体のかもし出す雰囲気

先日、静岡の「Webフォント最新事情+ワークショップ」というセミナーでご一緒したコンセントのデザイナー佐々木未来也さんが、「書体の佇まい」を理解してデザインしましょう、という表現をしていました。

▽コマンドシフトシズオカ(シフシズ)
vol.1「Webフォント最新事情+ワークショップ」
http://shifshizu.net/vol01/


広告デザイン制作に限らず、Webデザイン制作においても「書体の佇まい」を理解することはとても大事なことだと思います。

佇まいとは「そのもののかもし出す雰囲気」ということですが、アートディレクターやグラフィックデザイナーは、たくさん存在する書体のそれぞれの佇まいを理解して、意図をもって書体を選んでいると思います。

最初に紹介した例は、特徴のあるデザイン書体でした。明朝体やゴシック体においても、それぞれの書体が持っている佇まいは微妙に異なっています。ちょっとづつデザインが異なる明朝体を三つ、Webフォントで表現してみました。
http://goo.gl/ojjBlU


実はこの三つの明朝体はフォントワークスの藤田重信さんが制作した書体です。
・筑紫明朝
・筑紫オールド明朝
・筑紫アンティーク明朝

同じ書体デザイナーが制作した明朝体でも、それぞれの書体が持つ佇まいは異なります。例えば、一番上は20代の佇まい、二番目は30代の佇まい、三番目は40代の佇まいという感じでしょうか…? この三つの明朝体に共通することは上品な艶やかさだと思います。

●書体選定のポイント

この一か月間で、文字をテーマにしたセミナーに五本登壇しました。そんな中、たくさんのデザイナーさんとお話する機会がありました。

そして、各セミナーの質問コーナーで、「書体選定のポイントを教えてください」という声が必ずありました。結構、回答に困りました。でも、その答えはひとつでないと思います。

僕が感じていること、また、ディスカッションの中で導き出されたことを列記してみました。

・クライアントへ書体提案するのであれば、まず、その企業が過去に制作したあらゆる媒体で使っている書体を徹底的に調査する。つまり、会社案内、製品パンフレット、Webサイト、看板などで使われている書体を分析するということです。

・その会社の創業からの歴史、会社の社是、業態、ビジネスモデルなどを徹底的に理解する。

・その会社の現在のブランドイメージを正確に把握する。

それらの分析結果をヒントにして、意図をもって書体を選択するのがいいので
はないか、という結論になりました。ただし、たくさんの書体の佇まいや特徴
を理解しているということが、前提条件になりますが。

でも、クライアントを理解することで正しい答えがでるのでしょうか? そう
とは限りません。ただし、クライアントを正しく理解することが、書体の選定
に限らず、すべてのビジネスにおいての基本であります。

それから、以下のようなことも留意したほうがいいと思います。

・同じページでは、1書体で太さ(ウエイト)や文字サイズを変えることできれいなアウトプットになる。

・異なる書体を選択するのであれば、同じフォントメーカーの書体を使う、似ている仲間の書体ファミリから複数選択する。三書体までと考えるのが良いでしょう。

更に、その書体を使ってテキスト配置する際は、文字詰め、文章の折り返し位置や行送り量、テキストレイアウト、空間などによって、デザイン全体の佇まいが変わってくると思います。

実は、昨晩、僕が主催した FONTPLUS DAYセミナー vol.4[グラフィックデザインから見るWebデザイン]のセミナーでも同様の質問がありました。

僕は、デザイナーではないので、表現が正確でないかもしれませんが、心地よい広告ポスターには、先ほど書いた要素がバランス良く考慮されていると思います。

僕はデザインに関してまだまだ修行の身であります。これからも、文字とデザインについて勉強し、分かりやすい記事を書いていきたいと思ってります。

▽FONTPLUS DAYセミナー Vol.4 togetter まとめ
http://togetter.com/li/1002491


▽FONTPLUS DAYセミナー Vol.4[グラフィックデザインから見るWebデザイン]
http://fontplus.connpass.com/event/35272/



【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/


1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。

小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。


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編集後記(07/21)

●昨日の原田マハ「生きるぼくら」の表紙問題。「表紙で描かれた田んぼが自然農法ではない、ということなのでしょうか? きれいに植えられている=機械植え、ということなんでしょうか? 本は読んでないのですが、表紙のどこが不自然なのかわかりません」と、兼業農家の筆者さんからご指摘があった。確かに説明不足だった。この物語に出てくるのは特殊な自然農法だ。田んぼを耕さない、肥料を施さない、農薬をまかない、という非常識な稲作なのだ。たんに機械植えしないというだけでなく、とんでもない田植えなのだ。だから、表紙のような美しい田んぼは、絶対に間違いである。本文にこうある。

《ばあちゃんの田んぼは、一見すると、田んぼに見えない。というのも、刈り倒された夏草と、春になって枯れ、そのまま放置されているハコベなどの雑草とが、いちめんに敷きつめられているからだ。それ以外にも、ヨモギやハルジョオン、アザミなど、水を入れれば枯れる陸生の夏草が生えたままだ。

ごく浅く水を入れられた田んぼは、どちらかというと「野っぱら」と呼んだ方がしっくりくるような様相だ。しっかりと水が張られ、きれいに除草された一般的な田んぼとはまったく違う。

田植えはすべて手作業だ。代かきをしていない地面、ごく浅く水を入れて湿った土に、カマの先を使って穴を開け、ひとつひとつ、土をつけたままの苗を植えていく。土を寄せて、軽く押さえる。田植えというより、園芸に近いかんじだ。しかも、地面は肥料となる枯れ草に覆われている。この枯れ草をどけて、直径7、8センチくらい地面を露出させ、そこに苗を埋め込むのだ。(略)条間は40センチ、株間は20センチにする》

というのが、「生きるぼくら」の田植えなのだ。こういう具体的な、目に浮かぶような描写がありながら、どうして表紙で普通に田植えした、普通の田んぼを出すのだ。もっとも、ばあちゃん式は絵にならない。「野っぱら」だもの。というわけで、兼業農家の筆者さんも「100%ありえない表紙ですね〜」。まんま唱歌「故郷」だった生家付近は、とっくに田んぼは消えた。今住む戸田市内に数枚の田んぼを発見したのはだいぶ前、もう消えているかも。 (柴田)

原田マハ「生きるぼくら」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4198634718/dgcrcom-22/



●個性バリバリのフォントを使うのは難しい。/筑紫系大好き。ほんと上品だと思う。/「書体選定のポイント」なるほど。たまに過去のとまったく違うのを使ってみたりもする。似たファミリから選んではいるなぁ。ひらがなだけ別のを組み合わせたりはする。

iPhoneトラブル続き。出荷時状態に戻し、必要なアプリだけを入れ、設定はバックアップ時のものを利用した。なので問題ないはずだった。

睡眠用アプリ「Sleep Cycle alarm clock」を利用している。睡眠の深さを測定し、セットした時間の30分前あたりから睡眠の浅い時に起こしてくれるアラームだ。

睡眠導入音があったり、脈拍を測ったり。「ヘルスケア」との連動でセットしてから解除するまでの時間とともに、実際に寝ていた時間が登録されるし、グラフや統計まで見られる。

毎日そのグラフをEvernoteにアップロードしている。直接はできないので、のついたTwitterアカウントを経由して。ここにtweetするとIFTTTがEvernoteの投稿用メールに送信してくれる。続く。 (hammer.mule)

Sleep Cycle alarm clock - 睡眠アプリ
https://itunes.apple.com/jp/app/sleep-cycle-alarm-clock-shui/id320606217?mt=8


IFTTT
https://ifttt.com/


myThingsも使ってるよ〜
http://mythings.yahoo.co.jp/