[4175] プログラミング教育に関わるふたつの視点

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《段ボール村オリジナル! 段ボールハウスの作り方》

■羽化の作法[21]
 段ボール村と段ボールハウス建築
 武 盾一郎

■crossroads[24]
 プログラミング教育に関わるふたつの視点
 若林健一

■はぐれDEATH[05]
 「怖い」と「カワイイ」
 藤原ヨウコウ




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■羽化の作法[21]
段ボール村と段ボールハウス建築

武 盾一郎
https://bn.dgcr.com/archives/20160823140300.html

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●1996年2月15日

1月24日の強制撤去から一か月経たずに、僕らは段ボールハウス絵画制作を再開する。ヤマネが抜けたのでタケヲと二人だけになるが、段ボールハウス絵画の描き始めも二人だった。

一周して振り出しに戻ったようでもあるが、新宿西口地下道の様子は変わっていた。強制撤去でB通路が封鎖されたため、西口地下広場、当時の通称〈インフォメ前〉に路上生活者が溢れて出していたのだ。

壁面に沿って並んで建っていた段ボールハウスが、徐々に二重三重にせり出してきた。ちょうど広場のたまりの空間なので、地下道を塞がず、通行の妨げにはなってないのだ。段ボールハウスが幾重にも立ち並び、路地の入り組んだ下町のようになっていく。

普通「家」と言ったら自分の背丈より高い。ところが段ボールハウスは腰くらいの高さがほとんどで、ちょっとミニチュアの都市のようでもあった。ここに実際に人々が暮らしているのだ。

子どもの頃描く絵は、人間が家より大きかったりする。そんな普通のスケール感と違った絵の世界に居るような感じもあってか、ちょっとばかりウキウキする感触もあった。

強制撤去という悲劇で産まれた村ではあるのだが、強制撤去直後なので当分は撤去の心配はない。段ボールハウスはどんどん作られていくのだった。

●新宿西口地下道段ボール村の段ボールハウス建築様式

段ボールで作る家といったら、おおよそ同じようなものになると思うでしょう。けれどよく見ると形も大きさもバラバラ。回りを囲むだけの家から頑丈に建てる家まで。強制撤去前までの段ボールハウスは個人個人違っていた。

強制撤去後、路上に溢れる人々を受け入れていく地下道が「村」に成っていく過程で、段ボールハウスの建築様式が定まっていく。

最大の特徴は、新宿西口地下道段ボール村の段ボールハウスは「二人」で建てる。しかも面白いことに紐で編んで建てるのだ。

以前は一人で自分の分だけを作ってるのがほとんどな感じだったが、強制撤去後からは野宿者たちが協力し合って建てる段ボールハウスに変わってきたのだ。大きさはまちまちではあるが、家の形は直方体に統一されていく。建設の基礎手順が共有されていったのだ。

段ボールハウスは紙なので、雨ざらしの野外では建てられない。そしてコミュティが形成され得るに充分な広場、通行を塞がない空間が必要になる。

新宿西口地下道にはたまたま広場があった。また、この辺は土地所有者が複数入り組み、統一決定を出すのに手間取り放置されがちになるようで、そのことが「村」を育む時間を与えたようだ。

しかも、村が産まれる直接的原因は東京都による野宿者強制排除なのだから、なんとも複雑だ。こうやって様々な奇跡的な条件が重なり、「段ボール村」は産まれたのだ。

●新宿西口地下道段ボール村オリジナル! 段ボールハウスの作り方

ここで段ボール村オリジナルの段ボールハウスの作り方を紹介しよう。

〈準備するもの〉

・段ボール:いっぱい集める。カッターで切り開いて一枚に伸ばしておく。大きい方が望ましいがまちまちで良い。

・カッター:必需品。

・ビニール紐:段ボールを縫う建材。どんなタイプのでも良い。

・手元側に紐が通してある菜箸:ビニール紐で段ボールを縫うための道具。箸の先はカッターで尖らせて段ボールに突き刺して縫う。建築中に折れることがよくあるので複数あるとよい。

・ヘアピン:上記の菜箸がない場合、ビニール紐で段ボールを縫うための道具。

・割り箸:同じく菜箸がない場合、先をカッターで尖らせて段ボールに突き刺して穴を開ける用。建築中に折れることがよくあるので複数あるとよい。ヘアピンを使わなくても、割り箸の手元側に紐を引っ掛けて縫うことも可能。

普通、段ボールときたらガムテープ・クラフトテープが付きものだと思うでしょう。しかし、テープは使わない。ここが最大のポイント。

〈手順〉

1)段ボールハウスの床の広さを決めて一段目の囲い壁を作る

自分が寝られる大きさの長方形に沿って段ボールを配置する。その際に、家の角がちょうど段ボールの折れ目になるようにする。段ボールと段ボールは縫うので重ねて良い。割としっかりと長方形を作れるはずである。

2)重なっている段ボールをビニール紐で縫う

段ボール壁の内側から箸紐を刺し、5センチ位離して外側から内側に刺し戻して、紐を縛る。紐を縫って縛る箇所を最小数にして、最大限の強度を保たせるように場所を選ぶ。

最初は非効率に何箇所も縫うので時間がかかるが、慣れてくると縫うポイントが少なくなってくる、はず。囲いが出来たら床の段ボールを敷く。

3)二段目以降は、二人は家の内外に別れて段ボールを重ねて縫って行く。内側が家主。二段目以降は外側から刺して、内側から外側に刺し返し外側で紐を縛る。内側の人が徐々に壁に覆われて行くので、まず刺す場所を内側の人に段ボールを叩いて伝える。

「(トントン)ここらへんに刺すよ〜」「はいよ〜」内側の人が箸・紐を受け取ったら今度は外側の人に伝える。「5センチ位上に戻すよ〜」「はいよ〜」受け取った外側の人が紐を縛る。

4)段ボールハウスの高さが決まり、天井を作って内側の人が閉じ込められる。家主がなぜ内側なのかというと、家主の座高に合わせて天井の高さが決められるからである。ここで重要なポイントは「3」の手順段階で家の高さを決めておくことである。

四隅の角から高さを決めて段ボールを縫って行く。内側の人は段ボールで覆われて暗くなるので、手順「3」で縫う箇所のやり取りがスムーズに行えるようにしておくのである。

内側の人は最終的に真っ暗になる。段ボールハウスの中は縫い目の穴の隙間から光が見えて夜空の星のようになる。洞窟のプラネタリウムみたいなのだ。

5)外側の人が出入り口をカッターで四角く切り開く。中から家主が出てきて祝福。出入り口は通常、直方体の狭い面積の方に作る。その方が強度が保てるからだ。その時に出入り口は床から少し上げて四角く切る。砂埃などが入りにくい。

6)玄関ドアを取り付けて完成!

段ボール村では家作りの専門家が出てきて、次々に段ボールハウスを建設していきました。当時、実際に段ボールハウスを作っていた方による段ボールハウス再現が「新宿区段ボール絵画研究会」のブログでご覧になれます。

2005年10月20日 「段ボールハウス再現」
http://kenkyukai.cardboard-house-painting.jp?eid=363620

(つづく)


【武盾一郎(たけじゅんいちろう)/更なる美へ!】

装画を担当させて頂きました「星野智幸コレクション全四巻(人文書院)」、いよいよI・II巻予約開始です!

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■crossroads[24]
プログラミング教育に関わるふたつの視点

若林健一
https://bn.dgcr.com/archives/20160823140200.html

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こんにちは、若林です。日曜日、原因不明の発熱にみまわれ一日寝込む事態に陥ってました。私の周辺でも高熱が出たとか、体調不良を訴える方が多く、何かが流行っているのもしれません。

病に倒れてわかる、何事もない日常の有難さ。みなさまもどうぞお気をつけて。

さて、私事ではありますが、8月1日に転職いたしました。新しい勤め先は、学習教材の製作と販売をしている会社で、私は主にプログラミング教育関係の開発に携わることになりました。

これまでは、プライベートでそしてボランティアで、子どもたちにプログラミングを学ぶ場を作っていました。この活動はこれからも続けるのですが、それとは別に本業として教育に関われるのは嬉しい限りです。

まだ始まったばかりで、どういう関わり方ができるかはわからないのですが、せっかくのチャンスを活かしたいと思います。

●「教育」と「学び」

プライベートの方の話になりますが、私が関わっているCoderDojoでは、自分たちの活動を「子どもたちにプログラミングを学ぶ場を提供する活動」として紹介しています。

場合によっては、なかなか理解されにくいこともありますので、便宜上「子どもたちにプログラミングを教える」という表現を使うこともありますが、本質的にCoderDojoは「教える場」ではない、というのが活動に関わる人たちの共通認識です。

これは、CoderDojoというのが忍者(高校生以下の子どもたち)が自主的に参加し、自分の作りたいものを作る活動であり、メンター(大人や学生)はそれをサポートするという役割を担っているからです。

学校のようにあらかじめ用意された教科書やカリキュラムを持っているわけでも、何かを一方的に教えるわけでもないのでいわゆる「教える」=「教育」とは違うと考えています。

また、私たちは教育のプロではないので、教育現場の大変さはわかりません。

自分たちがエンジニアとしてソフトウェアのプロであり、ソフトウェアのプロにしかわからない大変さを抱えているように、教育のプロにも当事者にしかわからない大変さがあると考えているはず。

それを分からずして「教育」を名乗るのは違うのではないか、という思いもあります。私たちにはノルマはありませんし、子供たちに成績をつける責務もありません。

私たちは、あくまでも子どもたちの自主的な「学び」をサポートしているのであって「教育」しているのではない、というところにこだわる理由はそういったところにあります。

●教育者の視点とエンジニアの視点

「プログラミング教育」を議論する時「教育者」の視点と「エンジニア」の視点の両方が存在しますが、それぞれは別々に議論されていることが多く、教育者とエンジニアが一緒に議論する場はあまり見かけないように思います。

それは、単に機会がないということよりも、立場が違いすぎてそれぞれがお互いの領域に踏み込まないようにしているからだと思います。

でも、きっとそれぞれの強みがそれぞれの弱みを補うことはできるはずなので、もっと踏み込んだ議論があってもいいのにな、というのが率直な思いです。

自分はまだまだエンジニアの立場でしか「プログラミング教育」に関われないでいますが、少しでも「教育」の視点に近づいて、「教育者」と「エンジニア」の橋渡しができるようになりたいと考えています。


【若林健一 / kwaka1208】
Web: http://kwaka1208.net/

Twitter: https://twitter.com/kwaka1208


CoderDojo奈良&生駒の開催予定
http://coderdojo-nara.org/

奈良:9月10日(土)午後


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■はぐれDEATH[05]
「怖い」と「カワイイ」

藤原ヨウコウ
https://bn.dgcr.com/archives/20160823140100.html

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何年も前から折に触れては告白しているのだが、ボクは「怖い」がめちゃめちゃ苦手である。ホラー、スプラッタなんて間違っても見れないし、幼少期ボク世代ならば誰もが見たであろう「妖怪人間ベム」「仮面ライダー」などもまともに見れなかったし「ゲゲゲの鬼太郎」にいたっては未だにダメである。

小学校高学年の時に横溝正史ブームで「犬神家の一族」などがドラマ化、映画化されたが、これも怖くてとてもじゃなけれど見れなかった。当然、クラスメイトの会話にはついていけなかったが、それで特に不便は感じなかったなぁ。

江戸川乱歩は「少年探偵団シリーズ」で多少免疫があったので、中学一年の時にほぼ全作を読了できたが、やっぱり怖い思いはした。

ちなみに怪奇小説の名作「吸血鬼ドラキュラ」の初読は25歳の時で(会社員時代だ)読了後は三日三晩夜が来るのが怖かった、というアホな逸話の持ち主でもある。

そんなボクが描く絵がなぜ怖くなるのかは、ボクにもさっぱり分からない。来るお仕事も、たいていそれ系である。

●ジャンルとかカテゴリーとかいう厄介なヤツ

本題。この作文のタイトルである「ハグレDEATH」は、BABYMETALというユニットのメンバー紹介からパクッた。もうご存じの方も少なくないと思うが、このユニット、2014年から欧米のかなり偏った賞ではあるが、受賞しまくっている。

もう手垢のつくほどアホらしい「メタルかメタルではないか」論争も向こうでは根強く残っているようだが(イチローのヒット数論争みたいなもんか? それとも「SFかそうではないか」論争?)、ボク個人としてはどうでもイイ。

そもそもジャンルとかカテゴリーそのものに関心がなく、単純に好き嫌いでしか評価しない。もちろん主観全開だ。ちなみに流行モノは自動的にそっぽを向いてしまう習性があるので、さっぱり分からん。とにかく世間様の価値基準はまず参考にしない。

BABYMETALのユニークさは本来メタルが持つ攻撃性とか死、地獄と言ったネガティブなイメージやテーマを重厚なサウンドと超絶テク(特にギタリストは多い)をキープしながら、可愛いガールズが素直に加わることで生みだした新しいスタイルだろう。

女性ボーカリストがつとめるメタル系バンドは結構あるが、BABYMETALのようなアプローチをしたボーカリストをボクは知らない。もしかしたらいるのかもしれないけど。特に造詣が深いわけでも何でもないのでご容赦願いたい。とにかくボクは知らんのだ。

何をきっかけにBABYMETALを知ったのかは、もう憶えていないのだが、たぶんDEATH DEVILにはまっていた頃よりは後だろう。

ちなみにこのDEATH DEVILというバンドは、アニメ『けいおん!』に登場する軽音部顧問の先生が、高校生時代に活動していたメタル系バンド。主人公達のバンド放課後ティータイムというゆるふわ全開のバンドと対極をなすような設定である。

で、もともとボクは『けいおん!』のファンで、カワイイけどどこかアホな登場人物達で娘と一緒に盛り上がりまくっていたのだ。カワイイは大好物なのだ。それでも、実際ボクが描く絵とのギャップがあることは素直に認めよう。

ちょっと脇道に逸れたが、本論はジャンルとかカテゴリーとかいう厄介なヤツである。何度もいうが、ボクはこの手の縛りが大嫌いなのだが、結局こうした縛りというのは他者が決めるモノでボク個人がどうこう言ってどうにかなる話ではないのだ。

ボクは嫌いだが、こうした縛りは長所もあれば短所も当然ある。良いとこばかりとか、不利なことばかりでないのは事実である。ただ、個人的には窮屈に感じるのは確かだ。

実際、ボクのところに来るお仕事の大半は怖い系だし、それで口に糊させていただいているのである。本来なら文句を言う筋合いではない。というか、むしろ感謝すべきだろう。

ただ、ボクが「怖い」をめっぽう苦手にしているのも事実で、ゲラを読むときは大概ビビっているのである。で、イメージを作る段階になると更にビビる。これだけはどうしても慣れない。

●「ビビり」のルーツと「カワイイに目がない」のルーツ

ボクのビビりは性格的なものも当然あるのだが、幼少期のある強烈な体験が背景にある。

ある夏、母方の実家に遊びに行った時の話である。ここは今でも十分ド田舎なのだが、ボクの幼少期の頃は街灯すらまともにないような超ド田舎であった。

本家(一族の家が密集しているのだ)に遊びに行き、晩御飯を食べさせてもらって祖父の家に帰る道すがら、ひょいと夜空を見上げるとすさまじい満月が浮いていた(月明かりで夜歩くのは当然だった頃だし)。

月光は山に深い闇を作っていた。その闇がボクにはなにか強烈な生命力を感じさせたのだ。ちなみにイイ方ではない。悪い方だ。禍々しく蠢く有象無象はもちろん見えるはずもない。ただ感じただけである。

一方で満月。戦慄し魅入られた。美しさと恐ろしさがそこには同居していた。本来なら目を逸らすべきはずなのだが、ボクは目を離せなくなりその場に立ちつくした。

もちろん完全にビビっているのだが、同時に感動もしてしまったのだ。トラウマレベルのキョーレツな体験である。そうそう簡単に忘れられるはずはない。というより、しっかりと根を下ろしてしまった。

歳を重ねれば多少はマシになりそうなもんだが、50を越してもマシになるどころか、むしろ深まっている。とことん厄介な人である。

一方でカワイイに目がないのも事実でこれまた根は母方の一族にある。

昔の富農一族なのだが(戦後の農地改革で割を食った祖父が、GHQとマッカーサーを罵倒していたのは内緒だっ!)基本女系である。男の出生率は極めて低い。そんな中ボクが生まれたので一族全体、特に本家のお姉さん達がやたらと可愛がってくれ、構ってくれたのは想像しやすいだろう。

もっともボクは自分だけは、「ボクだけナゼ男???」という極めて素朴な疑問を抱きつつ、周囲の反応に戸惑っていた。ただ周囲が優しくしてくれたので、妹が生まれたときは素直にボクが体験したことを再現しようと、可愛がりまくった。

娘の時は更にエスカレートし、ももち(飼い猫だ)が来て頂点を極めたのは言うまでもなかろう。とにかく可愛がり甲斐、というヤツがボクを突き動かすのだ。こんなアホな習性はボクだけかと思っていたのだが、つい最近祖父がそうだったコトを知り、がっくりしたのは記憶に新しい。

ちなみに、祖父の可愛がりはボクの比ではなく、もう常軌を逸しているとしか思えないほどだったようだ。本家に入り浸っていたボクのことを「本家にとられた」と無茶にも程があることも周囲に漏らしては失笑を買っていたらしい。

本家に入り浸っていたのには、上記したようにお姉さん達の存在も大きいのだが、当時の祖父の家は買い漁った本の重さで、文字通り家が傾いていた上に年季が入りまくりだったので、ボクの目には化け物屋敷にしか見えなかったのだ。

余談だが家の傾きはその後も続き(祖父が本を買い続けた、と言う実に分かりやすい理由だ)、結局建て替えを余儀なくされ、さすがに懲りたのか書庫を新たに設けてそこの基礎だけ無茶苦茶頑強にしたようだ。

建て替え前の家は、書棚に収まらない本が場所を選ばず、あちらこちらにうずたかく山を作っていた。というか、本の隙間で生活しているような有様だったのだ。

この辺のところで、祖父に突っ込みを入れる資格などボクには当然ないワケで、この厄介な遺伝はきっちり娘にまで受け継がれてしまった。あの子の部屋も大概本で埋まっているのだ。

この習性にボクの責任があるのは事実だと、素直に告白する。祖父の代から「本を買うことだけは寛容」という、世間様から見れば得体がしれない慣習があるのだ。

●カワイイの成果品

前置きが長くなった上に脇に逸れたが、「怖い」と「カワイイ」は絵にしてしまうと、その差が歴然とする。だがボク自身の中では矛盾しない。だってそういう人だもん。

だが、他者から見ればどうもボクの「カワイイ」は、イマイチ信用に足らないようだ。実績は圧倒的に「怖い」の方が上だしね。30代の頃は「もっと色々描けるのに」と思いっきりふてくされていた。

娘が生まれてからは、せっせと「カワイイ」ネタを描いては、ポートフォリオに入れて色々持ち込みもした。が、最近は「まぁ、ええか」になってきている。それでもやっぱり、お仕事で「カワイイ」を描きたい欲求はある。要は使ってくれるかどうかという単純な話なのだ。

ほぼ15年越しで、やっとその願いは叶った。今年2月刊行の柄刀一著『猫の時間』(光文社文庫)がそれである。文庫にもかかわらず、章扉に挿絵を入れていくスタイルを取ったので、ボクは猫を描きまくりである。実に楽しかった。

柄刀一「猫の時間」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334772404/dgcrcom-22/


更に7月刊行の今井絵美子著『いつもお前が傍(そば)にいた』(祥伝社)のきっかけを作ってもくれたのだ。こちらは二葉だけだったが、本来目次ページ用の挿絵をデザイナーさんが色々な場所に使いまくってくださり、結構な量になった。

こういう風に応用していただけると、挿絵画家冥利に尽きる。あ、ちなみにこの本も猫です。

今井絵美子「いつもおまえが傍(そば)にいた」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4396635036/dgcrcom-22/


引き出しの多さにはそれなりに努力はしているので、大概のことには対応できるが、やはり人目につく成果品が一番キモなのだ。ポートフォリオで如何に多様性を出しても、成果品が伴わなければ効果は薄い。

そもそも「怖い」のマーケットは実に狭く、その中でエカキがお仕事の取り合いをしているのだ。その狭いマーケットすら狭まってきている。

他のジャンルの開拓をしようというのは極めて普通の発想だと思うのだが、とにかく「怖い」フジワラのは、本人が思っている以上に編集担当さんや読者の皆様には印象が強いらしい。

これもまた積み重ねというヤツである。おかげで苦しいながらも挿絵で口に糊することができるようになったのも「怖い」のおかげなので、無下に否定するのはあまりに浅はかであろう。

というか、自己否定になっちゃうし。どのような形であれ、機会を与えてくださったのだ。「カワイイ」もまた然り。そういう意味では編集担当の皆様には感謝してもしたりない。

が、ここは猫というモチーフが実戦の場に出たので、営業的にはプッシュすべきだろう。いや、猫だけでなくうさぎさんやらなんやらも描けますよ。当たり前ですが。突破口が開けただけの話で、この先広がるかどうかはやはり編集担当さん次第なのである。


【フジワラヨウコウ/森山由海/藤原ヨウコウ】
YowKow Fujiwara/yoShimi moriyama
http://yowkow-yoshimi.tumblr.com/

http://blog.livedoor.jp/yowkow_yoshimi/


装画・挿絵で口に糊するエカキ。お仕事常時募集中。というか、くれっ!


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編集後記(08/23)

●夏休みは書棚の整理に励む。妻はダンシャリダンシャリと呪文のように唱えるのだが、愛書家にとっては、本を手当たり次第に処分するわけにはいかない。廃棄するか、とりあえず取り置くか、迷いながら整理していると、つい読みふけってしまうのでした。20世紀最後の年に発行された好企画「私の死亡記事」(文芸春秋、2000)が出てきた。そのときは、期待ハズレだったと後記に書いていたが、あらためて読んだら結構おもしろかった。年齢のせいだろう。この企画は、かつて類をみないネクロロジー(死亡記事、物故者略伝)集である。つまり、物故者の解説を当の本人が執筆するという点においてである。

存命中ながら、自身をすでに一生を終えた人物として扱い、その業績、あるいは辞世の言葉、墓碑銘などを解説する。しゃれた企画だと思うが、こういう原稿依頼を不謹慎だとかいって断った人もいただろう。結局102名の有名人が参加している。いまから16年前の企画だから、現在は本当に死んでいる人もいる。自分の評価を自分でする、その内容は一切お任せ、というかなりきわどい企画である。しゃれのわからぬ筆者が、大マジメに自分の業績を語ると目も当てられない。原稿をもらったものの、コレつまらないから没とは言えないお相手ばかりである。64歳で病死(笑)の怪人・荒俣宏の自己評価はさすがであった。

人はどんな死に方を望むのか。長生きはそれほどいいものではない。かつて人は適当に死んでいたから、死んだ人も残った人もそれほど悔いはなかったはずだ。ところが今は違う。どんなつらくても、延々と生きなければならない。死が迫ってきても、なかなかすんなりと死なせてもらえない。医学の進歩のもたらす不幸だ。16年前でも、そんな危機感を抱いた人が多くいた。せめて自分で死に方を選ばせて欲しい。でも、病気や老衰による死、事故死以外には、安楽死か、自殺しかない。塩田丸男は20xx年に施行された安楽死法で逝った第一号。70歳を超えた者は人生を全うしたものして、どんなかたちの自死も認められた。

では、お前の死に様はどんな希望かと言われると、「俺は『野垂れ死に』願望でね」と言って「ちょっとトルコまで行って来る」とモンゴルから一人で馬に乗って出て行って、それきりだった高野孟(現在72歳w)に共感を覚える。失踪して野垂れ死にしたいが、死体は発見されないと困る。残った家族がいろいろ手続きするのには、死んだ証拠が必要だからだ。見苦しい死体は本人も関係者も迷惑である。一番いいのは、たぶん、真冬の東北、北海道の屋外で一杯飲んで眠ってオシマイ、というのではないだろうか。これ、マジで考えました。でもコレ、人から笑われたい、うけたいという死に方ではないな。 (柴田)

「私の死亡記事」文春文庫 2004
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4167217805/dgcrcom-22/



●若林さん、転職おめでとうございます! さすがや。/私も怖いの苦手だ。ゾンビシーンを見かけた時は、「あれは人間、あれは人間」とつぶやくことにしている。/BABYMETALは私も好き! 同じく、ジャンルでの縛りはどうも苦手。個々のジャンルの王道・ど真ん中に魅力を感じにくいからかもしれない。

閉会式での東京オリンピック2016の映像を見た。リオ、マリオで安倍マリオ。地球の裏側という偶然に土管。クリア音と花火。海外での認知度の高いキャプテン翼、パックマン、キティちゃんにドラえもん、渋谷のスクランブル交差点。MIKIKOさんの振付も嬉しい。BABYMETALやPerfumeの踊りが好きなのだ。ありきたりの「和」だけで攻めなかったのも素晴らしい。ワクワクしたよ〜。

ところで、ずーっと「ブラジルの皆さん、聞こえますか〜?」と地面に向かって叫ぶネタをしていたサバンナ八木を、オリンピック関連番組で見かけなかったのが残念である。出てたのかな。土管は彼の長年の前振りがあったからじゃないかと勝手に思っているのだが……。

東京オリンピックの最終ランナーはiPS細胞の山中教授がいいな。ノーベル賞の受賞者で、マラソンではサブ4。iPS細胞の特許を広く開放してくれて、医学界いや世界の人々の将来を作ってくれたんだし。 (hammer.mule)

【ハイライト】2020へ期待高まる!トーキョーショー
http://sports.nhk.or.jp/video/element/video=30468.html


初代内核通り大臣「安倍マリオ」
http://dic.nicovideo.jp/a/%E5%AE%89%E5%80%8D%E3%83%9E%E3%83%AA%E3%82%AA


MIKIKOさん。「リオ2016閉会式東京2020旗引き継ぎ式芸術パート」というのか
http://www.mikiko0811.net/


ブラジルの人、聞こえますか〜?


2年前にCDを出していたのか!


フルバージョンがあった。撮影は大阪だわ


山中伸弥教授が語るiPS細胞特許をめぐる「仁義なき戦い」
http://dot.asahi.com/wa/2014102900078.html


「iPS細胞をシート状にして心臓に貼り付ける」心不全治療の最前線と未来
http://netallica.yahoo.co.jp/news/20160726-14984783-lifehac


筋肉芽細胞やiPS細胞を利用した細胞シート研究が活発化しています
http://www.shabondama-factory.com/%E6%9C%80%E6%96%B0%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9/%E5%86%8D%E7%94%9F%E5%8C%BB%E7%99%82/