[4177] テレビのテロップを観察してフォントに強くなる

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《東京の夏が嫌いなのだ》

■わが逃走[186]
 夏が嫌いだ。の巻
 齋藤 浩

■もじもじトーク[46]
 テレビのテロップを観察してフォントに強くなる
 関口浩之



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■わが逃走[186]
夏が嫌いだ。の巻

齋藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20160825140200.html

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こんなサブタイトルで書き始めたけど、夏にツラい思い出があるわけではない。夏は暑い。だから嫌いなのである。

いきなり結論から語り始めたが、本当にそうなんだからしかたがない。

とくに私は頭に汗をかく体質なので、寝てるときなんざ、夜ごと枕を濡らすのである。汗で。嫌ですよねえ。冷たくて目がさめるんですよ。

ちなみにウチの寝室にはエアコンがないのである。仕事部屋で寝ればよいのだが、今はモノだらけで床面積的にキツい。はやくおふとんをかけて寝たい。

涼しくなる日も近いとは思うのだが、年々秋の訪れが遠のいていくようにも感じる。3年くらい前だったか、10月に入っても真夏日ってのがあった気がする。

昔は飼っていたカブトムシも8月下旬になると死に、9月の8日くらいまでは暑いくせに5日になると急に涼しくなって、その冷えきった日に小学校の水泳大会があって、みんな唇を紫色にしながら震えていたものだ。

と、ついつい思い出モードに入ってしまったが、それにしても東京の暑さが異常なのか、私の体質が異常なのか、寝室にエアコンを設置しないのが悪いのか。

そういえば、お盆前のある日、栃木県の益子焼っぽいところまでロケハンに行ったのだが、当日はフェーン現象で昼間は地獄のような暑さだった。周囲は水田。天気は快晴。

ところが夕方になると、ヒグラシの声とともにさーっと空気の質が変わって、7時過ぎには昼間の暑さが嘘のように涼しくなった。遠くでカエルのゲコゲコ大合唱が聞こえる。

こうでなきゃ。これぞ夏。これなら、昼間暑くても許す。

しかし帰宅してみれば東京は暑い。人工的な不健康な暑さなのである。

ここでようやく気づいたのだが、私は夏が嫌いなのでなく、東京の夏が嫌いなのだ。あああ、早く秋が来ないかな。

私は秋が好きだ。

春も悪くはないが、春の次には夏が来ると法律で決まっているので、秋の方がイイ。

秋は色彩が美しい。空も山も彩度が上がる。おねいさんのファッションも色相に深みがでてくる。

鉄分多めの私としては、蒸気機関車の煙の出がよくなるという点も捨て難い(カマと外気との温度差が高いほど、黒く力強い煙が出るのだ)。

そして、おふとんをかけて寝られるのだ!

さらに言うなら私は冬も好きだ。

夏は脱いでも暑いが、冬は着込めば暖かい。この明快さがイイ。

そこで、冬の写真でも見ながら涼しさのイメトレでもしようと思い、昔(10〜15年前)の写真を眺めていると、この辺り(東京都世田谷区)もずいぶん変わったなあ、と思う。

https://bn.dgcr.com/archives/2016/08/25/images/001

東急世田谷線松陰神社前駅の踏切。車両は旧型車両の150形。独特のエンジン音がよかった。コート着てる女子高生も今ではover30ということになる。

https://bn.dgcr.com/archives/2016/08/25/images/002

豪徳寺の招き猫。青空との対比が冬だねー。晴れた日の彩度の高さがキリッとした空気を思い出させる。

https://bn.dgcr.com/archives/2016/08/25/images/003

お風呂場だった場所と思われる。住宅のほとんどがユニットバスとなってしまった現在、まさに遺跡だなあ、なんてことを思ってシャッターを切ったことを覚えている。たしか師走のことだった。

https://bn.dgcr.com/archives/2016/08/25/images/004

三軒茶屋のキャロットタワーから見下ろす東急世田谷線。この頃“新型車両”と呼ばれていた300形が雪の中を行く。雪の日は静かだ。そんなことを思い出すと、少しだけ涼しくなる。

https://bn.dgcr.com/archives/2016/08/25/images/005

上町の車両基地で旧型車両にお別れをした日。床が“木”で、網棚が“網”の、風情のある車両。保存してほしかったな。

https://bn.dgcr.com/archives/2016/08/25/images/006

山下駅。15年前まで柱と屋根が木造だった。ホームも低く、ローカルな雰囲気がよかった。電車を待ってるときの寒さを思い出す。

https://bn.dgcr.com/archives/2016/08/25/images/007

枯れ枝の向こうに青空。昔からこの対比が好きなようで、同じような写真が大量にあった。ひんやりした風と枯れ草のにおいを想像。

https://bn.dgcr.com/archives/2016/08/25/images/008

雪の日。この江戸時代からの古民家も昨年取り壊され巨大マンションに。

https://bn.dgcr.com/archives/2016/08/25/images/009

この日、弊社デザイナーの日暮くんは仕事をサボって雪だるまを作った。


あ、冬をイメージしていたら、なんだか落ち着いてきたぞ。

そんなわけでこの猛暑もあとわずか、なんとか乗り切って良い季節を迎えましょう!!


【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■もじもじトーク[46]
テレビのテロップを観察してフォントに強くなる

関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20160825140100.html

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。

今回も文字当てクイズからスタートです。みなさん、このフォント、知ってますか? 二つ掲載します。じゃーん!
http://goo.gl/up5LKq


では、解説します。

●くろかね

この書体、テレビテロップで大人気です。『マツコの知らない世界』という番組を見ていると、あらゆる場面でこの書体が使われています。『パズドラ』のゲームでも使われています。

この書体の詳細説明をFONTPLUSサイトから引用します。

「太めのエレメントの端をスパッと落とし、鉄のように黒く力強い雰囲気の中に、どこか優しさをもっている書体です。金属のもつ“鈍い重み”を感じさせないよう、全体的に愛嬌のある骨格のデザインで今風な日本のポップな優しさ・強さ・明るさを醸し出します。タイトルやコピーなどの少し大きめな短文での使用が似合います。」

くろかね 書体の詳細
https://webfont.fontplus.jp/service/fontdetail/990Ng5dmTbQ%3D


この書体、ビジネス文書で使う機会は少ないですけど……。

でも僕は大好きです。『マツコの知らない世界』のアートディレクター、『パズドラ』のゲームディレクターが、この書体を選んだ理由がわかるような気がします。

「くろかね」は、書体デザイナー大崎善治さんが数年がかりで制作した書体です。この書体の弟にあたる「あおかね」も、最近、テレビテロップで見かけるようになりました。「あおかね」は昨年発表された大崎さんの新書体です。
http://goo.gl/PwCK7D


大崎さんにセミナーでお会いしたとき、「数年に一書体しか作れませんよ〜」と笑ってお話されていたのが印象的でした。次回(いつか)、発表される書体名は「しろかね」? それとも「あかかね」? 気になりますね。

書体デザイナー大崎善治さんのプロフィール
http://fontworks.co.jp/font/designer/yoshiharuosaki.html


●ベビポップ

この書体も大好きです。昨年、発表された最近の書体です。すっごく脱力感あるんだけど、品があります。

昨年リリースされたばかりの新書体ですが、テレビのテロップ以外に、「おそ松さん」のアニメ、旅のポスター、製品パッケージ等で使われはじめました。

この書体の説明をFONTPLUSサイトから引用します。

「版画調な中に幾何学的な丸みを加え、文字単体および文字組みをした場合にも幼く抜けた空気感をもつ書体です。文字を並べた際に、《幼さ》《無邪気》《脱力感》をイメージさせ、さらにリズミカルでコミカルな感じを表現することができます。」

ベビポップ 書体の詳細
https://webfont.fontplus.jp/service/fontdetail/eTsZax1cuKE%3D


ここのページの[試し書き]ボタンを押してみてください。自由な文字列を入力して[試し書きを適用]を押してください。スライダーバーまたは文字サイズ指定すると、文字の拡大縮小表示もできます。

これら二つの書体は、フォントワークスというフォントメーカーから発売されている書体です。

●テレビテロップにおける書体選択

テレビのテロップを観察していると、ひとつの法則がみえてきます。

まず、こちらをご覧くださ〜い。
http://goo.gl/eeB9lp


「ふわふわ」と「シャキシャキ」と「ジャキジャキ」を表現するにあたり、
・ふわふわは丸ゴシック
・シャキシャキは先の尖ったデザイン書体
・ジャキジャキは線が非常に太い書体
が使われています。

別の例として、「おだかやな人」「怒りっぽい人」「頼れる人」の文字を表現する場合、同じような書体選択で表現できるのではないでしょうか。

ポスターや案内板を見るとき、人間は単語や文章を読んで意味を理解すると思うのですが、とっさに判断するときは文字の形や雰囲気によることもあります。

では、先ほどの例題の単語、「おだかやな人」「怒りっぽい人」「頼れる人」を、それらの意味にそぐわない書体で表現してみましょう。
http://goo.gl/AHyvd5


なんか混乱しませんか…? おだやかでない書体で、おだやかな人を表現しました。

どのシーンでどんな書体を使用するかは、とても重要なことだと思います。今の時代、パソコンがあれば誰でも案内状やビジネス文章が作れますし、年賀状を作る人もまだ多くいると思います。

つまり、誰もがクリエイティブな作業に関わっているのです。みなさんも日頃から書体選択に気にしてみてはどうでしょうか? 同じ文章でも印象が変わりますよ。

●放送業界ではフォントワークス書体が人気?

仕事柄、フォントメーカー各社の書体見本帳を眺める機会が増えました。

そこで、この数日間、「テレビで使われている書体はどこのフォントメーカーが多いのか」を真剣に観察してみました。感覚的にはフォントワークス書体が8割ぐらいと感じました。

フォントメーカーって、鋳造活字(活版印刷の活字)や写植機(写真植字機)を作っていた企業というイメージが僕にはありました。

でもフォントワークスという会社は、デジタル黎明期の1993年に創業したフォントメーカーなのです。日本国内で、QuarkXPressやPageMakerがDTPソフトとして流行り出した時代に誕生したことになります。

パソコンで作業する際、液晶ディスプレイを介して文字を見るわけですが、テレビも液晶ディスプレイを介して映像や文字を見ている点では同じと言えます。

ディスプレイ越しに、可読性や視認性が高くて、感性が正しく伝わるフォントを多く使えることは、コンテンツ制作会社やテレビ局にとって重要なことです。

フォントワークスの書体は、テレビコンテンツに合うフォントのラインアップの幅がとても広いように感じました。

●日本のフォントメーカー

フォントワークスのことを少し書いたので、日本のフォントメーカーって何社ぐらいあるのか考えてみました。

現在、デジタルフォントを有料で発売している国内フォントメーカーを順不同で列記してみました。僕の頭に思い浮かんだメーカーの一覧表なので、すべてを網羅しているわけではありません。

また、個人でデジタルフォントを制作している方もたくさんいらっしゃいますが、そちらは記載できません。ご了承ください。

・モリサワ
・フォントワークス
・砧書体制作所
・大日本印刷
・凸版印刷
・イワタ
・モトヤ
・SCREENグラフィックアンドプレシジョンソリューションズ
・白舟書体
・タイププロジェクト
・字游工房
・タイプバンク
・アドビ
・ダイナコムウェア
・欣喜堂
・視覚デザイン研究所
・デザインシグナル

まだまだ、ありそうですね。今、デジクリを読んでいる方で「私の会社がないぞ」という方がいらっしゃいましたら、ごめんなさい………。

いつか、それぞれのフォントメーカーに訪問インタビューして、各社の歴史や書体の誕生秘話などを、デジクリに寄稿できたらいいなぁと妄想しております。いつか実現したいですね。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
Webフォント エバンジェリスト
http://fontplus.jp/


1960年生まれ。群馬県桐生市出身。電子機器メーカーにて日本語DTPシステムやプリンタ、プロッタの仕事に10年間従事した後、1995年にインターネット関連企業へ転じる。1996年、大手インターネット検索サービスの立ち上げプロジェクトのコンテンツプロデューサを担当。

その後、ECサイトのシステム構築やコンサルタント、インターネット決済事業の立ち上げプロジェクトなどに従事。現在は、日本語Webフォントサービス「FONTPLUS(フォントプラス)」の普及のため、日本全国を飛び回っている。

小さい頃から電子機器やオーディオの組み立て(真空管やトランジスタの時代から)や天体観測などが大好き。パソコンは漢字トークやMS-DOS、パソコン通信の時代から勤しむ。家電オタク。テニスフリーク。


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編集後記(08/25)

●夏休み中はほぼ毎晩、旧作映画DVDを見ていた。名作ではない。迷作ばかり。なかでもダントツのバカ映画が「リアル鬼ごっこ」2015劇場版であった。「リアル鬼ごっこ」は2008年に最初の映画化があり、みんな芝居はヘタな上、ヘタなこじつけに終始したC級作品だったが、その分野のマニアであるわたしにはそこそこ楽しめた。その後も何作か映画になっているようだが見ていない。たまたまGEOの日本映画の棚にあったので借りたのが5作目らしい。全国の“佐藤さん”が謎の存在・鬼に追われる「不条理な鬼ごっこ」を描いた山田悠介の小説を映画化したはずだが、その設定を完全に無視した園子温監督であった。

ストーリーは不条理、理解不可能の展開である。それはいい(いやよくない)。全然「鬼ごっこ」ではないのが問題なのだ。あとから知ったが、監督は原作をまったく読んでおらず、タイトルだけを借用し自分の好き勝手に作った、と公言し炎上していた。予告編もたまたまネットで見た。女子高生の数が増えすぎたから減らしますという話のようで、女子高生たちが血まみれで逃げ惑うのなら絵になるなあ、けっこう面白そうである。ところが本編はまったく別物のシュール、ほとんどのシーンが意味不明、最初から最後まで一瞬も面白くないのだ。予告編詐欺か。こんなつまらない映画も珍しい。出演3女優が不憫だった。

香港のおバカ映画も腹立たしい。ちょうどオリンピック開催中で、高松ペアの金メダルの余韻もさめやらぬタイミングで見た「全力スマッシュ」である。バドミントン版「少林サッカー」とのふれこみで、香港では「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を上回る興行成績を収めたヒット作だという。奇想天外なスーパープレー(CGバリバリ使い放題)で、良き弱者が悪き強者を徹底的に叩き伏せる、笑いと感動の痛快スポーツ巨編、なんてガッツリ想像して見たものだから、CG活用の超絶シーンなし、チープでゆるいビジュアルに、ベタなキャラのベタなギャグばっかりの、ナントモ平凡な作品だったのにはガッカリ。

元バトミントン世界女王だった「負け犬」女、迷い込んだ所が元悪党たちのアジト兼バトミントン教室。アル中コーチのもと特訓し、彼女とばあちゃんと男3人のチームは、ビッグなバトミントン大会で嫌みな金持ちチームと優勝をかけて戦う、っていうひねりもなんにもないお話。ギャグも面白くないし、普通に行くかお笑いでいくか中途半端なまま進み、意外に真面目な終わり方をする。肝心のバドミントン試合も殆ど迫力がない。元バトミントン世界女王らしい超絶プレーはどこに? 素人にはわからない。クライマックスらしい見せ場には全然なっていない。主演女優は若作りしても41歳。だめだこりゃ〜。 (柴田)

「リアル鬼ごっこ」2015劇場版
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00ZZFL3VK/dgcrcom-22/


「全力スマッシュ」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B018QOPFSI/dgcrcom-22/



●2020年東京オリンピックまでに「しろかね」「あかかね」をっ(笑)!

保険相談続き。自転車保険を調べていたら、スポーツ時の怪我を含めてくれるものがあったり、日常の怪我や物損までカバーするものがあった。熱中症まで。どこも同じようなものだろうと想像していたから頭パンパン。

医療に関しては保険での支払い上限があると知ってはいて、さほど心配する必要はないだろうという気持ちと、お隣のお姉さんのことが頭にちらつき、いつどんなことがあるかわからないという不安が交差する。

お姉さんの旦那さんが脳疾患によって、寝たきりとなってしまった。小学生の娘さんが二人。お姉さんは旦那さんにつきっきり。実家であるお隣は家を売って引っ越した。お姉さん一家のサポートをするのだろう。

親の介護のために仕事をやめ、収入が減ってしまった人もいると聞いた。

超健康だと思っていたうちの父はがんになった。父方の祖父はがんで亡くなったと聞き、がん家系なのかなぁとぼんやり考えるようにもなった。母方は長寿なのだが、どちらにも共通するのが耳で、高齢になったら耳が遠くなるのはわかっているっ(たぶん)。続く。 (hammer.mule)